観劇+αの日々
Kバレエ カルメン(2015/10/11)
カルメン:荒井祐子
ドン・ホセ:遅沢佑介
エスカミーリョ:杉野慧
ミカエラ:佐々部佳代
モラレス:石橋奨也
ス二ガ:スチュアート・キャシディ
★★★★☆

 久しぶりの荒井さんの舞台でした。カルメンは明らかに彼女にぴったりだったので、昨年から見たいと思ってました。

 彼女のカルメンは「愛して欲しいなら愛してあげる、私の気が向いたら」という感じ。いつも全ての選択権は彼女にあって、彼女は選ぶ立場。コケティッシュで軽やか。白石さんに比べると確かに悪女だけど、悪女であるのにかわいらしい。すれた感じがするのさえ魅力的。
 遅沢さんのホセはまじめな男。踊りについては序盤であり得ないミスの連発で目を疑いましたが、途中から持ち直しましたし、酒場あたりからはすばらしかったですというか、序盤のあのミスは何だったんだろう…。雰囲気を語るより全体を語った方が楽なのでそうします。「理性」で押さえられた世界にいたホセ。ハメを外して遊ぶこともなく、慕ってくれるミカエラはあくまで「かわいい妹」。理性の内側で生きてきたホセがその外側に足を踏み出したとき、そこにはなにが待っているか…ホセの目線からみたとき、そんな物語があったように思います。
 ロープのパドドゥの前にカルメンがホセにキスしますが、それが初演の頬から唇に、明確に変わりました。それも手伝ってか、カルメンとホセとの関係は愛とか恋とかそういうものより、もっと俗っぽいものになっていたと思います。そしてそんな振り付けの変更にふさわしいふたりの関係だったと思います。このパドドゥ大好きなのですが、今回は完全にホセが翻弄されるパターン。明らかに長身なホセが小柄なカルメンの手のひらの上でころころ転がされている感じが大変おもしろかった。そして酒場で再会しても、ある意味ふたりの関係性は変わらない。ホセにとってカルメンは彼自身が理性で封じてきた世界に足を踏み出させる存在でしかないし、カルメンにとってホセは気が向いたからたぶらかした相手の一人。
 山中のミカエラをかばうホセを見ているときのカルメンを見たときになんか引っかかるものがあったのですが、そこではホセが今までで一番真剣に、なにかを省みることなく誰かをかばっている。カルメンを手に入れようとしたとき以上に必死で、ミカエラをかばっている。それは家族の愛情みたいなもので、カルメンに向けられるものと全く違ったのだけど、カルメンはそれに憧れたというか、結局自分はホセを手に入れたと思っていたけどそんなことはなかったとか、そんなことを悟ったのかなと思いました。自分はホセの心を手に入れ、ある程度言いなりにできていると思っていたのに、そんなことはなかったし、結局ホセにとって一番大切なものはカルメンの他にあった(ようにカルメンには思えた)。そして自分ではホセの心を手に入れることはできないと悟った…ホセの上着がカルメンの腕をすり抜けていったとき、彼女はそんなことを思っているように見えました。
 最後の闘牛場の前で、ホセから逃れるためにカルメンは闘牛場に入ろうとする。このとき、ホセがなにかを叫び、カルメンは足を止める。ホセはなにを叫んだのか、カルメンはなぜ足を止めたのか。その問いに答えはありませんし、それがたぶんこの作品のおもしろさなのだと思います。その疑問に対する一つの答えとして、カルメンはホセになんらかの未練があったのではないかと感じました。カルメンはホセの持っているもの、彼がミカエラに与えられたものに未練があったとしても、それをカルメンに与えることはない。けれど未練があったからカルメンは足を一瞬止め、それが結局運命を分けることになった。何とも苦い後味の残る終幕でした。
 ホセの目線で見たとき、「理性」の一線を越えた外の世界になにがあるか…という物語だったと思うのですが、その外の世界に待っていたのは、彼を導いた女の亡骸だった、という物語に思えました(彼が「理性」の外の世界で自分をコントロールできないことは山中のシーンでも示されている)。自分をコントロールできず、その現実を突きつけられて、ようやくなにが起こったのか、自分がどこにいるかを理解したように思えました。
 お互いが持っていたものと与えられるものと求めるもの、それが食い違って最後まで行き着いたように思いました。

 ミカエラとエスカミーリョは明確にカルメン、ホセより年下。それがうまく物語になじんでいた気がします。ミカエラは純真無垢な妹。とてもかわいく、愛らしく、子供っぽく、庇護対象ではあれど決して恋愛の対象ではないし、結婚なんてもってのほか。親としてはなじみの相手とそろそろ落ち着いてもいいんじゃないかと思ったとしても、当事者としてはちょっとさすがに無理だと感じました。大事だし幸せになってほしいけど、その相手は自分じゃない。そういう意味でホセより若干年上であり色艶のあるカルメンと対照的に感じました。神戸さんの場合は狭い世界しか知らなくてもいろいろわかってる感じがしましたが、わかってない子供っぽさを感じるミカエラ。山中の密輸業者のアジトまで行ってしまったのも、覚悟を決めてというよりは子供の無鉄砲さという感じがありました。だから密輸業者たちに取り囲まれて、途方に暮れて、結局最後は泣き出してしまったのも納得。そこまでの覚悟がなく、行動しているように思えました。でも、そんな子供だからこそホセも必死で守るべき相手と思っていたという側面もあると思います。
 エスカミーリョは出てきた瞬間驚くほど、目もくらむほどの輝かしい若々しさがありました。昨日の薄暗い面影を持つ年齢不詳の悪党と全くの別人です。とにかく若くって勢いがあって怖いもの知らず。これが「選ぶ」カルメンとぴたりとはまる。自分が彼女に選ばれるだけの男か試すかのように彼女の前にひざまずく。駆け引きというかゲームのような感じで、ふたりどちらもマヌエリータなんて相手にしていないと感じました。本当に若々しい闘牛士だったのですが、終盤で再登場したときはちゃんと部下4人を引き連れていることに疑問のない貫禄を持っていたのが不思議でした。また、彼とキスするカルメンは自分の相手が彼であることに納得はしつつも物足りなさを感じていた…結局彼との関係はゲームのようなもので、ホセがミカエラに見せたような命がけのなにかを与えてくれる人間ではないと理解しているように思いました。そういうところもバランスのいいエスカミーリョでした。

 モラレスの石橋さんは相変わらずの年齢不詳ぶり。遅沢ホセと同僚といっても全く違和感がありません。たばこを手に取る仕草や足を机に乗っけるところまで妙な色気があります。ホセと違って遊ぶときは遊ぶけど、ちゃんと芯はしっかりしていると感じるタイプ。酒場でホセが密輸業者に加わろうとするやりとりを見て一気に酔いが覚めるところとか、山中での密輸業者に対する抵抗を見ているとそんな風に感じます。今回はモラレス含む衛兵たちが密輸業者たちに殺されるのが確定したせいか、なんとなく衛兵三人が弱々しく感じられ、最後まであきらめない…自分たちのこともホセのことも…モラレスのあがきが印象に残りました。
 荒薪さんの娼婦はとてもかわいらしいけど、どこか影を感じさせて、でもかわいい。酒場でダンカイロと親しくしている雰囲気があったので、そういうあたりから影を感じさせたのかと思いました。
 石橋モラレスと荒薪娼婦の関係が、かわいらしくじゃれる娼婦がかわいらしく、モラレスに妙に色気があるし、でも完全に娼婦の方が上手な雰囲気もあり、そんな関係性が楽しくって気に入っております。

 ダンカイロとレメンダードは篠宮さんと兼城さん。兄貴分と弟分というか、実の兄弟では絶対ないけど、同じくらい長い時間を一緒に過ごし、簡単に切ることができない関係を築いているように思いました。篠宮さんのダンカイロはとても頭がよさそう…「密輸業者」というのが「悪事」ではなく「一儲けできる仕事」としっかり計算してその結論を導き出しているように思えました。兼城さんのレメンダードは去年(といっても初日一回きり見ただけですが)はもう少し子供っぽく感じましたが、年齢を上げてきたのか、レメンダードより年下ではあれど、子供に見えることはありませんでした。どこかうらぶれた感じもあって、確かにダンカイロと一緒に生きてきた感じがありました。でもかなり抜けたところがあって、手の掛かる弟分といった感じで、計算高そうなダンカイロがそんなレメンダードと一緒に商売しているというのがなんとなくほほえましく思えるような関係でした。エスカミーリョがやってきてカルメンにあわせて杯を掲げるあたりでレメンダードが手ぶらだったのでお酒の取り合いしてたり、カルメンに武器を見せたあたりで勝手にレメンダードが銃を持ち出して喜んで踊っているところをしかりつけて銃を取り上げるあたりなんて、ふたりの関係の象徴に思えました。
 ダンカイロとレメンダードは杉野&酒匂、篠宮&兼城でちょうどいいバランスだったと思います。踊りや演技の雰囲気がしっくりくる。酒匂さんと兼城さんは去年と今年でファーストレメンダードと大道芸人が逆転した形ですが、演技を含めた全体的なまとまりは酒匂さんのレメンダードがよかったと思いつつ、大道芸人は兼城さんの方が軽やかでよかったと思います。そのあたりがなんとなくおもしろいなと。

 細々としたこと。
 衛兵の中にやったら若い人が混じってるけど山本さんじゃないしなあと思って眺めておりましたが、福田さんでした、実年齢どこいった。すごく若々しくかわいらしかったのですが、密輸業者は一転影のある雰囲気。こういうところが彼の魅力だと思うので、名前のある役で見たいなあと思ったのでした(脇にいると、眠ってる石橋モラレスの足いじって遊んでるとかそういうところに目がいくからよくない)。
 衛兵3人組は当初の予想通り池本、伊沢、益子の固定。池本さんと益子さんは相変わらずの雰囲気。衛兵だけどなんとなく紳士の雰囲気が漂う池本さん、こういう小さな役ではもったいないほど生き生き踊ってました。益子さんもどこか小生意気な感じで、相変わらず元気。井澤さんはちょっと雰囲気が変わっていました。3人の中で弟分であることに変わりはないのですが、弱々しさはあまり感じられず、普通の青年という雰囲気になっていました。
 メルセデスとフラスキータは魅力的ではありつつも個性がどちらかというと役者の個性に寄っており、ダンカイロとレメンダードのように物語に絡んでないのが相変わらず残念です。
 居眠り衛兵は栗山さんでした。
 マヌエリータはどちらかというとエスカミーリョにめろめろという印象が強かったです。だからエスカミーリョはあっさり彼女を捨ててカルメンにアピールし始めたんだろうなあと思える雰囲気。
 酒場のシーンは見所が多くってな…目が足りない。いろいろ小ネタが仕込まれていて楽しいし、踊り自身も楽しい。最後の方で縛り上げたスニガにたばこくわえさせて火をつけようとする黒い感じのところとか、いろいろ仕込まれていておもしろい。
 山中でのレメンダードがやたら寒がり。マフラー巻いて厚着してやたら寒がってたのだけど、2幕の彼はあまり踊らないからその場が「寒い」ことをきているもので表現できる数少ない存在だったのかなとなんとなく。
 銃声が4回鳴り響いた後、すなわち衛兵たちが殺された(と思われる)あと、登場したホセは「寒い」→「上着がない」という感じで気持ちが移っていくのですが、どこか錯乱した感じがある上で上記の気持ちが乗っているのが興味深かったです、うまく表現できないのですが。
 初演も同じでしたが、遅沢ホセと杉野エスカミーリョの組み合わせは好きです。年齢的にエスカミーリョの方が年下なのはわかるのですが、「なんだこのよれよれのおっさん」と軽んじている雰囲気がとても良い。

 前日はエスカミーリョが山中のアジトに来るときに髪飾りを忘れるというとんでもないポカがありましたが、それはそれで演出の違いでよかったかなと思ってしまいました。宮尾エスカミーリョの「ただ会いたかったから」という雰囲気はある意味白石カルメンと対等であるエスカミーリョにふさわしかったですし、荒井カルメンに「選ばれる」ことを望んでいた杉野エスカミーリョはすてきな贈り物を持ってきた…という流れはなんとなくしっくりきます。

 スタンダードな「カルメン」だったと思います、面白かったです。
ゆず
2015/11/01(Sun) 18:59:48

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