観劇+αの日々
■Kバレエ 海賊(2015/06/14)
メドーラ:ニーナ・アナニアシヴィリ
コンラッド:遅沢佑介
アリ:井澤諒
グルナーラ:小林美奈
ランケデム:石橋奨也
ビルバント:ニコライ・ヴィユウジャーニン
サイードパシャ:スチュアート・キャシディ
オーチャードホール
★★★★☆
大変楽しい公演でした。
なんというか、舞台もいい感じにまとまったのもありますし、私自身、どこをどう見れば楽しめるか…というのが分かったからかもしれません。ストーリーがきれいにまとまっていると昨日書きましたが、なぜまとまっていると感じたのか答え合わせのように見ていた公演でした。そういう意味で楽しかったこともあり、また、私のこだわりの部分がきれいにまとまっていたというのもあり、大変楽しかったです。見ているときは部分部分を見ていたつもりなのに、思い返してみると作品全体が浮かび上がる。そんなわけで2回目らしい感想にはなっているとは思います。そういうまとめ方をしている…という前提のうえ、お読みください。
昨日の時点でちょっと納得いっていなかったのが「メドーラはニーナさんでなくてはいけなかったのか」ということ。彼女以外でもよかったのではと思う部分があったのですが、見返してみるとやはり彼女であることを前提に物語が組み立てられていると感じました。もちろん年齢や踊りの質の違いは感じるのですが、それでも彼女の性質、太陽のように光を放つ大輪の花…という雰囲気を生かして物語を組み立てているように思えました。
メドーラが妹にグルナーラが姉に見えた理由ですが、やはりメドーラは守られる側でグルナーラは守る側だとふたりとも自然に思っているからかもしれません。アリが最初にメドーラたちの前に姿を現した時、グルナーラは自然に皆より一歩前に出て、メドーラは彼女の後ろに隠れます。その流れがとても自然だったので、メドーラは妹でグルナーラは姉だと感じたのだと思います。
井澤さんのアリは相変わらず堅調。船が難破したあと起きあがるとき、まずは指が動いて起きあがり、そしてここはどこだろうとあたりを眺め、足を怪我していることに気づく。そのひとつひとつの表現がとても的確で、しかも音楽にぴたりと当てはまっている。コンラッドが目覚めたあと、嘆くコンラッドに対して「それでも自分は生きている」というところも好きです。全体的な話になってしまいますが、ソロの迫力は池本アリの方が上でしたが、音楽を使って丁寧に物語る部分については井澤アリの方が魅力的でした。
遅沢コンラッドはやはりどことなくよいところの出身の気配を感じます。助けてくれたメドーラグルナーラにお礼を言うあたりでそれを強く感じます。壊れた船を見つめるときの嘆きは相当のもでした。それがあったせいかはわかりませんが、メドーラの手に触れたとき、その温もりを特別に思ったのがしっくりきました。理由はよくわかりませんが、このときのコンラッドの気持ちがすごく納得がいったので、この物語をメドーラとコンラッドの物語としてみることができたのかもしれません。
奴隷市場については、兼城さんが物乞いにいたのでもうなにがなんだか…。意外と舞台にいる時間が少なかったのだけが救いです。荒薪さんとあわせて、とてもかわいい物乞いペアでした。すぐに二人は兄妹だと感じました。なんとなくしっくりくる組み合わせでしたし、とにかくかわいかったので、大変楽しかったです。
石橋ランケデムは相変わらず絶好調。腰で立っている…と例えたらいいのでしょうか、ちょっとバレエとしては正道ではない立ち方をしているのですが、この立ち方でいつもなにかを見下ろす感じとにやけ笑いがまあランケデムとしてはまるはまる。不思議と金に対するがめつさはあまり感じませんでいたが、それでも仕事はしっかりとやるタイプのように思えました。
美奈さんのグルナーラは相変わらず美しい。パドドゥを踊り終える直前、その悲しげな顔に「踊り終える恐怖」を感じました。確かにいやいやながら踊らされ踊っているわけですが、踊り終わってしまったらまた事態が取り返しのつかないところにさらに転がっていく。そんなことに気付かされましたし、また、そんな風に恐怖に震えながらも踊るグルナーラが大変色っぽく美しく、素晴らしかったです。
これは見終わってなんとなく思い出していて思いついたレベルの話ですが、なんとなくグルナーラはもう誰も助けにきてくれないと思っていた気がしますし、メドーラは誰か助けにきてくれる…とまでは思っていなくとも、誰も守ってくれる人がいない現状に恐怖を抱いているように思えました。
お金持ちさんたちは相変わらず楽しいことをやってくれているのはわかりつつもなかなか目が行かず。篠宮さんの場慣れして落ち着いた雰囲気と、池本さんのなんかこの場にそぐわない雰囲気がおもしろかったです。
おもしろかったことふたつ。海岸のシーンでコンラッドはすでにメドーラに惹かれているようでしたが、メドーラにはどちらかと言えばためらいがあるように思えました。ここでの再会があったからこそなのかなと。逆にコンラッドはもう一度恋に落ちたようで、若干心ここにあらずといった感じでした。ちょっとぼんやりし過ぎという感じだったので、アリがひっかき回してくれてよかったと思えました。
石橋さんのランケデムは伊坂さんに比べると若干肝が据わってないかと感じました。その分、コンラッドが正体を現したあとはうろたえが感じられ、形成が一気に逆転したのが感じられておもしろかったです。
洞窟の場面で気になったのがビルバントの存在感。今まで「部下その1」位にしか思っていなかったのですが、もっと、なにか、違う。2幕冒頭のシーンではコンラッドと対等…とは言わずとも「部下その1」の存在感ではありませんでした。その理由はあとではっきりします。書くところがないのでこのタイミングで書きますが、石橋ランケデムは伊坂ランケデムと比べると肝の据わっていないランケデムで、本心を隠すようなにやけ笑いが大変むかつきました(ほめてる)。
さて、楽しい楽しい洞窟のシーン。メインの踊りも楽しい、脇であれこれやってるのも楽しい…と目が泳ぎまくってなにを見たのかよく覚えてません。伊坂ビルバント手下が最初っから酒飲んでくつろいでるのを見たり、杉本海賊がさっさとつぶされるのを見たり、池本海賊が男らしくなったりたまに王子っぽくなってるのを見ていました。さらに細かいところにはなりますが、ヴァリエーションで完全に座っているだけのシーンは酒匂さん、杉野さん、和田さんあたりがなんとなくだらっとしていて「くつろぐ海賊」という雰囲気にぴったりだと思っています。
グランパドトロワ(ということにする)は突き抜けた派手さはなくともきれいにまとまっていました。井澤さんの踊りは昨日は若干乱れて驚きましたが、安定していて安心しました。遅沢さんもとても丁寧に踊っている。ニーナさんはアームスが、なんというか、若干勢い任せで気になるのですが、グランフェッテが「延々回り続けてる中でその一場面を切り取った」ような安定感で、クセになるものがあります。
ちょっと今までと違う雰囲気を感じたのはこの後でした。ビルバントの連れてきた女奴隷たちをコンラッドが解放して諍いになるシーン。今まではコンラッド対ビルバントとか海賊団の中でビルバントとその仲間たちが反乱を起こしたとかそういう風に感じたのですが、コンラッド率いる海賊団の中で一部が反乱を起こした…と感じました。もちろん人数としてはビルバント他2名という構成に変わりはないのですが、ビルバントの考えに従う存在が海賊団の中にいる、そう思えました。だからビルバントが刃物で手下を脅してランケデムを解放させた時も若干ニュアンスが違って思え、刃物で脅されたから従ったというより、冗談を言ってるのでなく本気だと分かったから従った…というように思えました。
ビルバントたちの反乱を力で押さえつけたコンラッドですが、そんな風に反乱を起こされるとは想定していなかったようで、どこか神経質になっているような気がしました。ただの陽気な酔っ払い杉野海賊が酒を取りに来ただけでひどく取り乱すことに、彼自身驚いている、戸惑っているように見えました。内部分裂を起こしかけている原因がメドーラにあることはわかっている、それでもメドーラの手を放すことはできない。そんなコンラッドの気持ちを感じるパドドゥでした。
さて、上記のように神経質になっている自分の気持ちを押さえようとしているので、ビルバントの手下たちの動きに気が付かなかったのはメドーラに気を取られていたからでなく、ビルバントの手下たちの動きが怪しく思えるのは自分の思い込みだとコンラッドが考えていたからのように思えました。だからギリギリまで二人の動きに気付かなかったのにも納得がいきました。そしてそのあとメドーラが連れ去られ、気を失うコンラッドを見たアリの「こうなる可能性に気付いていた」上での驚きと嘆きが、コンラッドを守ることをなにより優先する彼の本質を表していたと思います。
薄幸な姿の相変わらず似合うグルナーラ、美しい女はちゃんとそろえたのになぜ夢の世界と同じにならないかとちょっと妄執しているように見えるパシャ、グルナーラを見かけてなんとなくにやりと笑うランケデムなんかがこのあたりで印象に残っています。あと、グルナーラとメドーラが再会したとき、グルナーラは守るべき相手を取り戻し、メドーラは守ってくれる相手に再会したように見えました。手をつなぐ姿が本当に姉妹に見えるのです。
終盤の流れは最高でした。足を切られたランケデムを笑いながらなだめるように首を掻っ切るビルバント。先ほどは醜態をさらしましたが、ランケデムとの器の違いを感じさせる冷徹さです。グルナーラを守るアリ、メドーラを守るコンラッド、アリはグルナーラを気にかけていたけどビルバントの動きを見て飛び出す。自分の受けた傷の深さに死を予感しながらも、それでも自分の手でけりをつけるべく足を進めるアリ。コンラッドは自分の判断ミスで失われた命を嘆き、仲間殺し…多分これをコンラッドは決してやりたくなかったし、そのことをアリも知っていたから自分の手でビルバントを殺そうとした…になると分かったうえで自分で決着をつけるためにビルバントを殺す。とにかく限られた音楽の中でめまぐるしくドラマが展開するシーンなのですが、驚くほど滑らかに、音楽と一体化して心に飛び込んできました。特に井澤アリは音にタイミングを合わせるという気負いが全くないのに、ドラマティックでありながら本当に音と全くずれのない演技で見事でした。
何度も見ているエピローグですが、コンラッドがアリと別れ弔うとき、メドーラが一人別方向を見ているというこの場面そのものの美しさに息をのみました。コンラッドはアリの羽根を海に返し、甲板に海賊の証である帽子を捨てる。何度も見た場面なのですが、アリに対する敬意とそれから自分自身への非難を感じました。そんな風に傷ついた状態のコンラッドだからこそ、この人ならきっと彼を導いてくれると思えるメドーラはぴったりでしたし、本当にそれが救いだと感じました。
海賊アリの人生と海賊コンラッドの人生が終わり、新しい人生が始まる。すごくすっきりまとまったラストシーンでした。
もっといろいろ書きたいことがあるのですが、時間切れ。いろいろ楽しく、見ていたところも散漫でまとまりがないのですが、あちこち脇を見ていたはずなのに最後はメインのストーリーで納得させられるいい公演でした。
ゆず
2015/06/20(Sat) 02:24:06
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