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Kバレエ 白鳥の湖(2015/11/03)
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オデット/オディール:白石あゆ美 ジークフリード:宮尾俊太郎 ロットバルト:杉野慧
オーチャードホール ★★★★★
4幕の最後の音が消えて、音の余韻も消えて、会場は拍手に切り替わってるのにどうしてもその音が消える余韻を味わって、心を落ち着ける時間が欲しかった。それからようやく拍手をする。そんな気分になる公演でした。楽しかったです。
白石さんと宮尾さんの公演はくるみ割り人形、海賊に続いて3度目。不思議と雰囲気の合う二人だと思っています。一人で踊るときでなく、二人で踊るときに一番輝く。その片鱗は先日の「カルメン」でも感じていたので、とても楽しみにしていた公演でした。予想通り、予想以上のものを見せてくれました。 まず驚いたのが宮尾さんの王子ぶり。前回の白鳥の湖は見に行けなかった(これは純粋に国外遠征の予定が先に入っていたため)こともあり、本当に久しぶり。若干ソロで落としたところがあると思うのですが、そんなことが気にならない「王子」としてのたたずまい。表情とか所作とかそういうところでなく、舞台の中心でにこやかに立ってる姿がそもそも「王子」。白いタイツのに合うすらりとした長い足も美しく、細かい失敗なんて目に入らないほど。本当に不思議なことなんですが、彼が舞台の中心にいるということにものすごい安心感がありました。宮尾さんの王子は長いことあれこれ文句をいいながら見ていますが、花開いたなあと思いながら見ておりました、ソロはやっぱり若干怪しいけど(しつこい)。 対する白石さん、オデットは今回が初。オディールは確か前回の2013年に演じていたと思います。登場したときはなんとなくオデットっぽくないというか、ああ、オディールはやったことあるだろうなという感じ。雰囲気が艶っぽいこともありますが、腕の動きがオデットとしてはちょっと物足りないところがありました。 この二人のおもしろいところは、二人で踊ると一気に魅力が増すこと。ジークフリートがオデットに一目惚れして、物語は始まる。逃れるようなオデットに必死でジークフリートが追いすがることで物語は進む。そして二人の目が合ったとき、オデットの心も変わる。オデットになにかをしてあげたいというジークフリートの思いは彼女を救いたいという思いになり、心を閉ざしていたオデットも彼なら心を許しても大丈夫かもしれないと思う。 白石さんのソロはやはりまだ物足りないところがありました。踊りも小さいし、安定感にも欠けている。それが、物語が進んで行くに従ってどんどんよくなる。まるでジークフリートがオデットをオデットにしているみたいに物語が進むほどにオデットが白く美しくなっていく。アダージョの部分の終わり…でいいのかな、最後のゆったりとしたピルエットの連続が美しいこと美しいこと。二人の心の震えが伝わるみたいに、音楽と細やかな動きが胸の底にしみこんでくる。自然に涙がこぼれるような、不思議な透明感のある美しさでした。 杉野さんのロットバルトも堅調。この人鳥類飼ってたっけと思うほど、見事な鳥ぶりでした。
という感じで大変おもしろく終わった1幕と2幕。きっとおもしろいと思っていた3幕は予想外に、とんでもなく爆発力のあるおもしろさでした。明らかに見ていて体温が上がる公演ってあると思うのですが、まさにそれでした。 素晴らしかったのがなんといっても白石さんのオディール!まさに水を得た魚、妖艶に、愛らしく、生き生きと、軽やかに飛び回る。登場した瞬間から、その美しさと勢いですべてを飲み込んでいく。そして宮尾さんのジークフリートは「僕に会いに来てくれたんだね、うれしいよ!」と全身で喜びを表現しておりました。オデットの面影を持つ女性、もう細かいところなんてどうでもよくって、彼女が妖艶に笑っても今の彼は喜びすぎて、些末なことはどうでもよくなる盲目状態。喜びの勢いに押され、去っていくオディールを追います。その後に残ったスペイン軍団と、その中央でまるで彼らを操るようにたたずむロットバルト。勝利を確信するようなその姿は、彼がすべての黒幕だと語っているように思えました。 そんな感じでとにかく三人のバランスが素晴らしかった!オディールの勢いのある美しさとなんかもう細かいところどうでもよくなってる幸せ一色のジークフリート、それに存在感はあるけれど出すぎることのないロットバルト。白石さんの踊りは、バランスもグランフェッテもそれだけで威圧できるような圧倒的なものではなかったと思います、バランス長かったけどぐらついていたし。でもそれまでのシーンがとにかく面白かったので、さらに見事なものを見せてもらえたと思えて、見ている側としても大変テンションが上がりました。オディールはまるでロットバルトがジークフリートを惑わすために作った幻のよう。オデットに姿かたちは似ているのに、雰囲気はロットバルトに近いように思えました。杉野ロットバルトはそんなに大柄ではないもののマントのひるがえし方の素晴らしさもあり、場を支配するに十分な存在感がありました。 とても真っ直ぐなジークフリートで、ロットバルト、そしてオディールの策略にはまってしまったのも納得。なぜジークフリートはオデットとオディールを見誤ったかという疑問が浮かばないほど、最初からその場の支配者はオディールとロットバルトでしたし、ジークフリートは幸福に目がくらんでいた、だから迷いもせず真っ直ぐに誓うのもわかる。そしてそれがすべてをひっくり返し、彼を不幸のどん底に叩き落とす。この時のロットバルトの勢いも大変見事で、その流れに飲まれるように、ただひたすらオデットの元へ行かなければと駆け出すジークフリートに心打たれました。
4幕は3幕の流れもあって、白石さんが大変好調。面白いのがオディールを経たことによってさらに彼女がオデットらしく見えたことです。ちゃんと白が似合う、儚い雰囲気でした。もうちょっと存在感があるといいなあと思っていたのですが、ジークフリートが出てくるとちゃんと「主演」としての輝きを感じられたのがこの二人らしいと思います。 「呪い」というものがオデットを縛り付けているように思いました。実際にそれがどのようなものでどれくらいの強さを持っているかは分かりませんが、それに勝つ手段を失ったことを、オデットは嘆いているように思いました。ジークフリートの謝罪を受けても、オデットは彼を許したように思えませんでした。寄り添ってはいたけれど、彼の言葉を聞いてはいたけれど、ずっとそばにいたいと思っていたけれど、彼の行いによってそれがかなわなくなったことが頭から振り払えていないように思えました。怒っているというわけではもちろんないけれど、もう自分たちは引き離されてしまうのだと分かったうえで、それでもそばにいたくてジークフリートに寄り添っているような、悲しげな姿でした。そしてロットバルトが襲い掛かる。彼から感じたのはオデットへの執着、そしてジークフリートへの憎しみ…とは違うけれど、彼を滅ぼそうとする力。ジークフリートでは彼に勝つことはできない、そう感じる迫力がありました。なぜオデットは身を投げたのか。ロットバルトに、彼の「呪い」に勝つことができない無力な自分にできることはただ一つ、ジークフリートとロットバルトを結ぶ接点である自分を消すこと。そう思ったように思えました。ある意味直前のシーンですべてを分かり合えてなかったからこそ、オデットは自分が彼に対してなにができるかを考え、一人で決心して身を投げたと思えました。そして真っ直ぐなジークフリートがそのあとを追ったのは納得、だってそういうことに迷いそうなタイプではないですもの。「二人の愛の力で」ロットバルトは弱ったかもしれない。でも白鳥の群れの中であがくロットバルトの姿が見えたので、白鳥たちがロットバルトに勝利したのは最終的には彼女たちの意地のようにも思えました。 そして光の中で再会する二人。オデットを見つけた時、ジークフリートがまた全身で喜びを表現するんです。ああ、大丈夫だ、この二人は幸せになれる、そう思うラストでした。悪魔の「呪い」もない、すべてのしがらみも過去もない世界で光に包まれる。なにもかも消えた、ただお互いがそこにいるという幸せの中にいることがふさわしい二人だと思いました。 この公演がどういう物語だったのか…とまとめると、「オデットとジークフリートの物語」、それ以外にありません。二人が出会って、光に包まれるまでの物語。なんのわだかまりもなくジークフリートに寄り添うオデットと、光を受けながらさらに天を仰ぎ見るジークフリートを見ながら、ここに来るための物語だと、しみじみ思っていました。ずっとずっとその世界に浸っていたくって、なかなか拍手をすることができませんでした。
大変素晴らしい公演でした。白石さんと宮尾さんは本当に面白いペアで、お互いに高めあって作品を作ってくるように思います。宮尾さんは個性としてとても優しく暖かく、けれどすごく人に流されやすい性格をしていると思います。さらに踊りまで相手に引っ張られると全体的に引っ張られるだけになるのですが、白石さんとだとサポートでリードしつつ、踊りは白石さん自身が安定しており、演技的には彼女は相手を引っ張るだけの力を持ってる…という感じで、すごく合っているんだと思います。長年宮尾さんを見続けていますが、彼がこうしてパートナーをさらに上へ引き上げることができるようになったと思うと大変感慨深いです。相変わらず踊りはうまくなりつつも相変わらずですし(しつこい)、白石さんもオディールはともかくオデットはまだもう一頑張りしてほしいところはあります。でも、こういう「見たことのない別世界に連れて行ってくれる」という公演ってなかなかないもので、細かいあれこれがありつつも本当に面白い公演でしたし、この公演自体満足しつつ、また見てみたいと思う組み合わせでした。 ちょっとだけカーテンコールのことを。いい公演だと思ったのは私だけではないようで、1階席通路前席の真ん中あたりにいた私の視界の限りではほぼスタンディングしていました。何度目か幕が開いたとき、熊川さんが出てきました。普段はここで立つ方も多いのですが、もうほとんどの方が立っていたので客席の雰囲気もあまり変わりませんでした。「白鳥の湖」の主演という大役を終えた若いプリンシパルの労をねぎらう芸術監督…という姿が大変美しく、また、涙をこぼしているように見えた白石さんの姿も美しく、本当に最後の最後まで幸せな公演でした。
とにかく物語全体の流れが大変楽しかったので一息にメインストーリーを追いましたが、見ている間はいつも通りあっちこっち見て楽しんでいました。 ベンノの益子さんは井澤さんとの品のいい弟分とは全く異なるやんちゃな弟分。井澤さんがどちらかというと王子を憧れの目で見ていたのに対し、益子さんは王子の弟分であることがうれしくって仕方ないと言ったらいいのかなあ。ちょっと幼くはしゃいだ感じがするところが彼の個性にピタリと合っていて、大変かわいらしかったです。ムードメーカーという雰囲気ですし、物腰柔らかな宮尾王子との相性も大変良かった。踊り方もずいぶん丁寧になったと思います。井澤さんのようにさすが見事という感じではないですが、一瞬目を奪われる勢いを持ってる。 パドトロワはどうしてもファーストキャストより一回り小さな踊りになりますし、なにより春奈さんがいきなりお怪我で降板のため、見る側の気持ちとしても大変さみしいものになっていました。石橋さんは相変わらず年齢不詳で、宮尾王子とそんなに年が変わらないように見えます。踊りについては特に書くべきことはなく、相変わらず丁寧でサポートもそつなくこなしてるけど、池本さんと比べちゃうとやっぱりさみしいものがあるよねと(当たり前)。しかし、マネージュで明らかに体力がつきかけていたのに何事もなかったように最後をまとめるあたり、彼も宮尾さんのように動じないなあと思ったのでした。浅野さんはやはり美しいけどもうちょっとインパクトが欲しい。大井田さんは軽やかでかわいらしかったです。 王子の友人たちは福田さん、篠宮さん、堀内さん、栗山さん、山本さん。福田さんがちょっと個性のある役で、彼の持つ穏やかな物腰もあり、ジークフリートの気の置けない友人という雰囲気でした。 二羽の白鳥の蘭さんと美奈さんはもうちょっとアームスの優雅さが欲しいと思うのですが、さすが大柄な二人、見ごたえがありました。 各国の踊りはなんというか蛇足というかなんというか、ただ賑やかしだとは思ってしまうのですが、なんだかんだ言いつつ楽しんでおります。 ナポリは念願かなって兼城さん!細かな動きは相変わらずお手の物。あわただしい音楽と動きだと思うのですが、彼だとゆとりが見えるのが不思議です。リズムの取り方が大変好みなのか、タンバリンの音さえ心地よく聞いていました。あの笑顔と衣装がまた似合うのですよね。 チャルダッシュ、中心で踊っていた岩淵さんと福田さんの雰囲気が合っていて、なんかしゃれた感じで明るく、大変魅力的でした。特に岩淵さんのどこかしっとりしてるけど朗らかという雰囲気が気に入りました。 石橋さんのスペインが大変好きなのですが、見る暇がなくて大変残念でした…。 上の方で書き忘れてますが、杉野さんのロットバルトはさすがのはまり役。彼はキャシディさんにも物怖じしないので、宮尾王子に牙をむくあたりの迫力はさすがの一言でした。
とにもかくにも、幸せな公演でした。ちなみに、見終わった当日はあれこれ不満もあったのですが、翌日になったら悪いことすっかり忘れて、ただ美しかった、良かったという余韻だけが残っていました。頭の中で音楽がこだまして、意味なく涙がこぼれそうになるというレベルですので、お星さま半分上げてます。素晴らしかったです。
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(2015/11/04(Wed) 22:50:51)
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Kバレエ カルメン(2015/10/11)
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カルメン:荒井祐子 ドン・ホセ:遅沢佑介 エスカミーリョ:杉野慧 ミカエラ:佐々部佳代 モラレス:石橋奨也 ス二ガ:スチュアート・キャシディ ★★★★☆
久しぶりの荒井さんの舞台でした。カルメンは明らかに彼女にぴったりだったので、昨年から見たいと思ってました。
彼女のカルメンは「愛して欲しいなら愛してあげる、私の気が向いたら」という感じ。いつも全ての選択権は彼女にあって、彼女は選ぶ立場。コケティッシュで軽やか。白石さんに比べると確かに悪女だけど、悪女であるのにかわいらしい。すれた感じがするのさえ魅力的。 遅沢さんのホセはまじめな男。踊りについては序盤であり得ないミスの連発で目を疑いましたが、途中から持ち直しましたし、酒場あたりからはすばらしかったですというか、序盤のあのミスは何だったんだろう…。雰囲気を語るより全体を語った方が楽なのでそうします。「理性」で押さえられた世界にいたホセ。ハメを外して遊ぶこともなく、慕ってくれるミカエラはあくまで「かわいい妹」。理性の内側で生きてきたホセがその外側に足を踏み出したとき、そこにはなにが待っているか…ホセの目線からみたとき、そんな物語があったように思います。 ロープのパドドゥの前にカルメンがホセにキスしますが、それが初演の頬から唇に、明確に変わりました。それも手伝ってか、カルメンとホセとの関係は愛とか恋とかそういうものより、もっと俗っぽいものになっていたと思います。そしてそんな振り付けの変更にふさわしいふたりの関係だったと思います。このパドドゥ大好きなのですが、今回は完全にホセが翻弄されるパターン。明らかに長身なホセが小柄なカルメンの手のひらの上でころころ転がされている感じが大変おもしろかった。そして酒場で再会しても、ある意味ふたりの関係性は変わらない。ホセにとってカルメンは彼自身が理性で封じてきた世界に足を踏み出させる存在でしかないし、カルメンにとってホセは気が向いたからたぶらかした相手の一人。 山中のミカエラをかばうホセを見ているときのカルメンを見たときになんか引っかかるものがあったのですが、そこではホセが今までで一番真剣に、なにかを省みることなく誰かをかばっている。カルメンを手に入れようとしたとき以上に必死で、ミカエラをかばっている。それは家族の愛情みたいなもので、カルメンに向けられるものと全く違ったのだけど、カルメンはそれに憧れたというか、結局自分はホセを手に入れたと思っていたけどそんなことはなかったとか、そんなことを悟ったのかなと思いました。自分はホセの心を手に入れ、ある程度言いなりにできていると思っていたのに、そんなことはなかったし、結局ホセにとって一番大切なものはカルメンの他にあった(ようにカルメンには思えた)。そして自分ではホセの心を手に入れることはできないと悟った…ホセの上着がカルメンの腕をすり抜けていったとき、彼女はそんなことを思っているように見えました。 最後の闘牛場の前で、ホセから逃れるためにカルメンは闘牛場に入ろうとする。このとき、ホセがなにかを叫び、カルメンは足を止める。ホセはなにを叫んだのか、カルメンはなぜ足を止めたのか。その問いに答えはありませんし、それがたぶんこの作品のおもしろさなのだと思います。その疑問に対する一つの答えとして、カルメンはホセになんらかの未練があったのではないかと感じました。カルメンはホセの持っているもの、彼がミカエラに与えられたものに未練があったとしても、それをカルメンに与えることはない。けれど未練があったからカルメンは足を一瞬止め、それが結局運命を分けることになった。何とも苦い後味の残る終幕でした。 ホセの目線で見たとき、「理性」の一線を越えた外の世界になにがあるか…という物語だったと思うのですが、その外の世界に待っていたのは、彼を導いた女の亡骸だった、という物語に思えました(彼が「理性」の外の世界で自分をコントロールできないことは山中のシーンでも示されている)。自分をコントロールできず、その現実を突きつけられて、ようやくなにが起こったのか、自分がどこにいるかを理解したように思えました。 お互いが持っていたものと与えられるものと求めるもの、それが食い違って最後まで行き着いたように思いました。
ミカエラとエスカミーリョは明確にカルメン、ホセより年下。それがうまく物語になじんでいた気がします。ミカエラは純真無垢な妹。とてもかわいく、愛らしく、子供っぽく、庇護対象ではあれど決して恋愛の対象ではないし、結婚なんてもってのほか。親としてはなじみの相手とそろそろ落ち着いてもいいんじゃないかと思ったとしても、当事者としてはちょっとさすがに無理だと感じました。大事だし幸せになってほしいけど、その相手は自分じゃない。そういう意味でホセより若干年上であり色艶のあるカルメンと対照的に感じました。神戸さんの場合は狭い世界しか知らなくてもいろいろわかってる感じがしましたが、わかってない子供っぽさを感じるミカエラ。山中の密輸業者のアジトまで行ってしまったのも、覚悟を決めてというよりは子供の無鉄砲さという感じがありました。だから密輸業者たちに取り囲まれて、途方に暮れて、結局最後は泣き出してしまったのも納得。そこまでの覚悟がなく、行動しているように思えました。でも、そんな子供だからこそホセも必死で守るべき相手と思っていたという側面もあると思います。 エスカミーリョは出てきた瞬間驚くほど、目もくらむほどの輝かしい若々しさがありました。昨日の薄暗い面影を持つ年齢不詳の悪党と全くの別人です。とにかく若くって勢いがあって怖いもの知らず。これが「選ぶ」カルメンとぴたりとはまる。自分が彼女に選ばれるだけの男か試すかのように彼女の前にひざまずく。駆け引きというかゲームのような感じで、ふたりどちらもマヌエリータなんて相手にしていないと感じました。本当に若々しい闘牛士だったのですが、終盤で再登場したときはちゃんと部下4人を引き連れていることに疑問のない貫禄を持っていたのが不思議でした。また、彼とキスするカルメンは自分の相手が彼であることに納得はしつつも物足りなさを感じていた…結局彼との関係はゲームのようなもので、ホセがミカエラに見せたような命がけのなにかを与えてくれる人間ではないと理解しているように思いました。そういうところもバランスのいいエスカミーリョでした。
モラレスの石橋さんは相変わらずの年齢不詳ぶり。遅沢ホセと同僚といっても全く違和感がありません。たばこを手に取る仕草や足を机に乗っけるところまで妙な色気があります。ホセと違って遊ぶときは遊ぶけど、ちゃんと芯はしっかりしていると感じるタイプ。酒場でホセが密輸業者に加わろうとするやりとりを見て一気に酔いが覚めるところとか、山中での密輸業者に対する抵抗を見ているとそんな風に感じます。今回はモラレス含む衛兵たちが密輸業者たちに殺されるのが確定したせいか、なんとなく衛兵三人が弱々しく感じられ、最後まであきらめない…自分たちのこともホセのことも…モラレスのあがきが印象に残りました。 荒薪さんの娼婦はとてもかわいらしいけど、どこか影を感じさせて、でもかわいい。酒場でダンカイロと親しくしている雰囲気があったので、そういうあたりから影を感じさせたのかと思いました。 石橋モラレスと荒薪娼婦の関係が、かわいらしくじゃれる娼婦がかわいらしく、モラレスに妙に色気があるし、でも完全に娼婦の方が上手な雰囲気もあり、そんな関係性が楽しくって気に入っております。
ダンカイロとレメンダードは篠宮さんと兼城さん。兄貴分と弟分というか、実の兄弟では絶対ないけど、同じくらい長い時間を一緒に過ごし、簡単に切ることができない関係を築いているように思いました。篠宮さんのダンカイロはとても頭がよさそう…「密輸業者」というのが「悪事」ではなく「一儲けできる仕事」としっかり計算してその結論を導き出しているように思えました。兼城さんのレメンダードは去年(といっても初日一回きり見ただけですが)はもう少し子供っぽく感じましたが、年齢を上げてきたのか、レメンダードより年下ではあれど、子供に見えることはありませんでした。どこかうらぶれた感じもあって、確かにダンカイロと一緒に生きてきた感じがありました。でもかなり抜けたところがあって、手の掛かる弟分といった感じで、計算高そうなダンカイロがそんなレメンダードと一緒に商売しているというのがなんとなくほほえましく思えるような関係でした。エスカミーリョがやってきてカルメンにあわせて杯を掲げるあたりでレメンダードが手ぶらだったのでお酒の取り合いしてたり、カルメンに武器を見せたあたりで勝手にレメンダードが銃を持ち出して喜んで踊っているところをしかりつけて銃を取り上げるあたりなんて、ふたりの関係の象徴に思えました。 ダンカイロとレメンダードは杉野&酒匂、篠宮&兼城でちょうどいいバランスだったと思います。踊りや演技の雰囲気がしっくりくる。酒匂さんと兼城さんは去年と今年でファーストレメンダードと大道芸人が逆転した形ですが、演技を含めた全体的なまとまりは酒匂さんのレメンダードがよかったと思いつつ、大道芸人は兼城さんの方が軽やかでよかったと思います。そのあたりがなんとなくおもしろいなと。
細々としたこと。 衛兵の中にやったら若い人が混じってるけど山本さんじゃないしなあと思って眺めておりましたが、福田さんでした、実年齢どこいった。すごく若々しくかわいらしかったのですが、密輸業者は一転影のある雰囲気。こういうところが彼の魅力だと思うので、名前のある役で見たいなあと思ったのでした(脇にいると、眠ってる石橋モラレスの足いじって遊んでるとかそういうところに目がいくからよくない)。 衛兵3人組は当初の予想通り池本、伊沢、益子の固定。池本さんと益子さんは相変わらずの雰囲気。衛兵だけどなんとなく紳士の雰囲気が漂う池本さん、こういう小さな役ではもったいないほど生き生き踊ってました。益子さんもどこか小生意気な感じで、相変わらず元気。井澤さんはちょっと雰囲気が変わっていました。3人の中で弟分であることに変わりはないのですが、弱々しさはあまり感じられず、普通の青年という雰囲気になっていました。 メルセデスとフラスキータは魅力的ではありつつも個性がどちらかというと役者の個性に寄っており、ダンカイロとレメンダードのように物語に絡んでないのが相変わらず残念です。 居眠り衛兵は栗山さんでした。 マヌエリータはどちらかというとエスカミーリョにめろめろという印象が強かったです。だからエスカミーリョはあっさり彼女を捨ててカルメンにアピールし始めたんだろうなあと思える雰囲気。 酒場のシーンは見所が多くってな…目が足りない。いろいろ小ネタが仕込まれていて楽しいし、踊り自身も楽しい。最後の方で縛り上げたスニガにたばこくわえさせて火をつけようとする黒い感じのところとか、いろいろ仕込まれていておもしろい。 山中でのレメンダードがやたら寒がり。マフラー巻いて厚着してやたら寒がってたのだけど、2幕の彼はあまり踊らないからその場が「寒い」ことをきているもので表現できる数少ない存在だったのかなとなんとなく。 銃声が4回鳴り響いた後、すなわち衛兵たちが殺された(と思われる)あと、登場したホセは「寒い」→「上着がない」という感じで気持ちが移っていくのですが、どこか錯乱した感じがある上で上記の気持ちが乗っているのが興味深かったです、うまく表現できないのですが。 初演も同じでしたが、遅沢ホセと杉野エスカミーリョの組み合わせは好きです。年齢的にエスカミーリョの方が年下なのはわかるのですが、「なんだこのよれよれのおっさん」と軽んじている雰囲気がとても良い。
前日はエスカミーリョが山中のアジトに来るときに髪飾りを忘れるというとんでもないポカがありましたが、それはそれで演出の違いでよかったかなと思ってしまいました。宮尾エスカミーリョの「ただ会いたかったから」という雰囲気はある意味白石カルメンと対等であるエスカミーリョにふさわしかったですし、荒井カルメンに「選ばれる」ことを望んでいた杉野エスカミーリョはすてきな贈り物を持ってきた…という流れはなんとなくしっくりきます。
スタンダードな「カルメン」だったと思います、面白かったです。
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(2015/11/01(Sun) 18:59:48)
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Kバレエ カルメン(2015/10/10 マチネ)
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カルメン:白石あゆ美 ドン・ホセ:熊川哲也 エスカミーリョ:宮尾俊太郎 ミカエラ:神戸里奈 モラレス:伊坂文月 ス二ガ:スチュアート・キャシディ ★★★★
新シーズン開幕しました。カルメン、好きなので上演はうれしいのですが、DVDを待っていたら再演になったという寂しさはあります。好きな作品の再演&熊川さんの復帰公演。楽しんでまいりました。
白石カルメンは自分が何者かを知っていた、奔放で縛られない女に思えました。自分の魅力を分かっていて、分かったうえで「みんなのカルメン」であろうとする。ホセに対しても同じ。「みんなのカルメン」として誘惑して、からかうようにして彼を魅了して、そして仲間に引き込んだ、それだけのこと。ホセがどういう人間なのか知らずに。結局、カルメンとホセは最初から最後まで別の世界に生きているように見えました。絶対交わらない別世界に生きている。そのことを、カルメンは山中でのホセとミカエラとのやりとりを見てようやく学んだように思えました。自分の生きている世界のほかにも、世界があるということ。カルメンがホセを通じて学んだのって、そういうことだと思います。 でもホセはそれを理解できなかった。多分、ミカエラは広い世界なんて知らないけれど、自分が何者であるかは悟っていたと思います。自分にふさわしい世界で生きていくことを知っていたミカエラは、けれどホセを引き戻すことはできなかったし、ホセは最後までカルメンが何者かも、自分が何者かも、気付くことなく終わったように思えます。だから最後の悲劇につながったのかなあと思いました。 この公演のキャスティングでひそかに楽しみにしていたのがエスカミーリョ。宮尾エスカミーリョなら、白石カルメンの「運命の相手」になれるかと思ったのです。その予想は大当たり。カルメンにとってエスカミーリョは特別な存在になるだろうなと思える雰囲気でした。もちろんこの二人ですから、一生あなただけ思い続けて添い遂げますという雰囲気ではない。でも、いたずらに心を動かして遊んでいるのとも違う。昨年の白石カルメン&遅沢エスカミーリョのように「どちらかが飽きたらそれですっきり別れましょう」という関係ともまた違う。お互い浮気性でいろんな浮名を流しながら、それでもなんだかんだとつかず離れず不思議な距離感でお互いの関係が続くんじゃないかと思えました。私がこの二人の踊りが好きだからかもしれませんが…なんというか、二人が踊ってるとかちりと何かがはまったかのように空気が変わる様子を見ていると、どうしてもカルメンとエスカミーリョはお互いにとって相手が特別な存在だと思えてならないのです。だからなんであのタイミングでホセに会っちゃったのかなあとちょっと思わなくもなかったのでした。
踊りについては再演のせいか全体的にまとまりと勢いがあって魅力的でした。白石さんも昨年の不慣れな主演とは違い、抜群の安定感と魅力でした。出てきた瞬間から、周りの視線を一身に集めるのが当然という自信が感じられるし、それにふさわしい魅力がある。コケティッシュで、頭が悪いということはないでしょうが、考えてやっているというより本能でそれをやっているような雰囲気。とても色っぽいのに、かわいさを感じました。 熊川ホセはブランクを感じさせないあたりがさすが。もちろん、30代の若々しい踊りとは全く違いますが、きれいにまとまっていました。終盤に向けて焦燥していく様子も、相変わらず見事でした。 神戸ミカエラはほんっとうにかわいい!天使と例える方がいらっしゃるの、分かります。かわいらしい!軽やかで愛らしく、踊りは軸がしっかりしてるのに羽が生えてるみたいに軽い。本当に本当に素晴らしいんですが、去年のカルメン見てると物足りない部分があるのも事実なんですよね…。彼女ならこれくらいできるの、分かってますから。 伊坂モラレス、エロオヤジの面も感じさせつつも、いい男だと思えるのが彼らしくって好きです。ひょうひょうとしてて不真面目そうで、でも真面目と言えるほどじゃないけどちゃんの芯の通った部分があるところとか、とても魅力的。軽い感じの踊りにもうまくまとまっていて、初演と同じ振付けだと思うのに、今回のほうが好きです。 ダンカイロはびっくり杉野さん。FBの動画で見ていたので予想はしていましたが、なんとなくイメージと違ったので。ニコライさんの時はもっと黒幕的な存在感を感じましたが、やはりまったく別のタイプ。もっとギラギラした感じの悪人でした。それが彼自身の若さと相まって、これはこれでありなんだと思える説得力がありました。レメンダートの酒匂さんはなんとなく前回より演技も踊りも一回り大きくなった気がします。杉野ダンカイロの弟分という感じがしました。 メルセデスとフラスキータは、相変わらずダンカイロレメンダードよりも個性わけがされていないのが残念。メルセデスのほうが姉御肌を感じたのですが、なんとなく井上さんの個性のような気がしますし。ふたりとも存在感のある踊りだっただけに残念です。 湊さんの娼婦はさすが彼女の役、かわいい。酒場のシーンでのおしりふりふりにモラレスと一緒につられます、かわいい。蘭さんのマヌエリータは相変わらずの迫力。演出のせいもあるのかもしれませんが、エスカミーリョの恋人だというのが分かりやすくなってました。こんな素敵な男性が自分のものだとひけらかすかのように思えました。まあ、最後はカルメンとエスカミーリョが意気投合するし、カルメンはマヌエリータなんて目に入ってないわけですが。 再演なのでちょこちょこ演出が変わったとは思うのですが、DVDがないので詳細は不明です。思い出したことだけ箇条書き。 ・ロープのパドドゥの前にカルメンがホセの唇にキスする(前回は頬だったはず)。 ・カルメンとホセが酒場で再会した時の振り付けが多分違う。 ・山中で衛兵たちを殺すことをダンカイロが明言(前回は連れていかれるだけだった)。 ・ミカエラがやってきたあたりも若干違和感がありましたが、詳細不明。ただ、ミカエラは泣き出さずに恐怖に震えて声も出ない感じになっていた。 ・カルメンを殺した後、音楽が長かったのか、ホセはカルメンにすぐに駆け寄らす、しばらく途方に暮れて震えてた。
細々としたこと。 池本、井澤、益子の衛兵の役割は同じ。益子さんは相変わらず小生意気な感じ、池本さんは相変わらず…というかより一層気品のある雰囲気。井澤さんは3人の中ではやはり一番おっとりした感じですが、普通の青年に近づいた気がします。居眠り衛兵は石橋さん、なんかえらく早い段階で眠りこけていたので逆にびっくりです。労働者の本田さんは随分生き生きとしてきたなあと思いつつ、一番闊達だったのは相変わらず和田さんでした。大道芸人の3人は…兼城さんと和田さんが一発で分かりました。あのメイクをものともしない個性ってすごい…。兼城さんの見事なばねと柔軟性を堪能できて楽しかったです。相変わらずほっそくて、それでも飛ぶときは柔軟性が高いから足がとんでもない位置にある。軽やかでひとり重力が違う世界にいる感じ。踊り終わっての賑やかしも大変楽しかったです。
あ、最後に今回の大きなミス。山中のシーンでエスカミーリョはカルメンに髪飾りをプレゼントしに来るのですが、かばんを見たらそれがなかったという恐ろしいトラブル。宮尾エスカミーリョはうろたえず、カルメンの手を取ってキスをしていました。「ただお礼が言いたかった」とか「一目だけあなたに会いたかった」とでもいうかのように。これが、「たったそれだけのためにここまで来てくれた」という気障な感じがして、それはそれで魅力的でした。そのあと、本来ならカルメンは髪飾りを見せびらかす感じで踊るのですが、そこまで自分のためにしてくれる男に酔いしれている感じがしましたし、周りもそんな気障な男を羨んでいるようでした。正直、エスカミーリョがカバンの中を確認しさえしなければ演出が変わったかと思うくらいには自然な流れでした。
というわけで、短い公演期間ですが、大変楽しい1回目でした。
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(2015/10/11(Sun) 01:57:11)
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Kバレエ 海賊(2015/06/20)
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メドーラ:ニーナ・アナニアシヴィリ コンラッド:遅沢佑介 アリ:井澤諒 グルナーラ:小林美奈 ランケデム:石橋奨也 ビルバント:ニコライ・ヴィユウジャーニン サイードパシャ:スチュアート・キャシディ 神奈川県民ホール ★★★★☆
一度やってみたかった、「Kバレエ全公演観劇」をやってみました。前回の「海賊」は7回見てるので6回なら問題ないだろうと思ってのことでした。結果的には、これだけ見てもまだ映画が楽しみなくらいには楽しめました。
最後となったこの回は最後だから全体を見る・・・という目標を立てたもののそれが実践されていないのはいつものこと。兼城さんが物乞いと海賊にいるのに、いったいほかのどこを見ろと・・・。 そんな感じだったにも係わらず、全体的におもしろいと感じたのでやはりよい公演だったのだと思います。部分部分見ていくとちょっとした取りこぼしのようなものもあり、「今までの集大成」と言うほどまとまりのあるものではなくとも、確かに楽しい公演でした。
ニーナさんについては今回が一番よかったと思います。登場シーンあたりがどうもちぐはぐだったのがきれいにまとまっており、力任せという感じをあまり受けませんでした。そのほかKバレエ特有の振り付け部分の音の取り方もスムーズになってました。美奈さんのお姉さんぶりも相変わらず。彼女も踊りがどんどん安定してきた気がします。 そしてやはりこの二人は陽と陰、太陽と月のように思えます。そんな二人の性質の違いがこの物語にぴったりで、明らかな「年齢の壁」があるにも係わらず、この二人の姉妹というのは悪くないと思ってしまうのです。 遅沢さんのコンラッドは相変わらず堅実な踊り。ソロもびっくりするほど軽やかでした。助けてくれたメドーラの手の温もりにふれて・・・というところも、手の中からすり抜けていくメドーラの手の温もりが感じられるかのよう。まっすぐに一目惚れして幸せです、ではなくてどこか切なさを残しているのが遅沢さんらしいコンラッドでした。メドーラとの踊りもまとまってきて、特に洞窟でのパドドゥがなんか付け焼き刃だったのがちゃんと暖かみのあるものになっていて安心しました。 井澤さんのアリ、見た目がたまに橋本アリを思い出させますが、彼よりもっとコンラッドの後ろに控えている感じ。コンラッドの忠臣という雰囲気がとても強く、本当にあらすじ通りのアリです。演技がとても細やかで、たとえば漂着してから目覚めるまでの時間の、途切れ途切れの意識をなんとかつかもうとしているかのような指の動きや、意気消沈しているコンラッドをなんとか励まそうとしているところ、そしてメドーラとの出会いを見守っているところなど、大変印象的でした。踊りはソロもよかったのですが、2幕の冒頭の海賊たちと踊るところが迫力はあるけど軽やかで気に入りました。 ニコライさんのビルバントも相変わらず好調。踊りはそんなに細やかでもないのに、決して力押しでもないバランスはさすが。鉄砲の踊りで女奴隷をどちらかというと侍らせる雰囲気でしたがちょっとしたやりとりが楽しかったです(蘭さんとだと踊りながらなんとなく駆け引きを楽しんでいる感じでした)。一歩先が見えているようなビルバントで、冒頭の漂着シーンで「戦えない」と判断するのが早い(これはアリも同じ)。コンラッドほどでなくともある程度部下たちから信頼を得ているのは確実で、その存在感が彼の手下として見えているのは二人でも、もっと大きな組織立ったなにかを感じることができました。女奴隷たちやメドーラのことをどちらかと言えば宝石のように「戦利品」ととらえていることが伺え、コンラッドとの間にある埋めきれない溝を感じました。 頭がいいのは石橋さんのランケデムも同じ。「ビジネス」と言いたくなるくらいしっかり働いていました。最後にメドーラをパシャに届けに行くシーンも「お買い上げいただいたから納品まできっちり」とでも考えているかのよう。パシャを上客だと理解してるけど、金を出すまでは特別ひいきにすることもなく、ちゃんと守らせるルールは守らせている。「商品」と「客」に使い分ける顔もはっきりしている。鞭の音でグルナーラたちを踊らせるシーンが印象的でした。伊坂さんのお金持ちとのやりとりから、「客」からのリクエストに応えて場を盛り上げているのがはっきりわかりました。それにしても美奈さんと石橋さんの組み合わせはいいですね!松岡さんと輪島さん以来、グルナーラとランケデムが踊ってるのは「パドドゥ」だと感じさせる組み合わせでした。
兼城さんは物乞いか海賊のどちらかと思ったらまさかの両方。大変うれしかったのですがおかげさまで目が全く足りませんでした。物乞いは女物乞いをかわいがっている感じが、すごく兄妹っぽくて好きです。背中が大変柔らかい方ですので、見慣れたはずの物乞いおきまりの踊りも足がとんでもない角度であがっておりました。パシャが登場するあたりのちょっとしたソロはまるで空中で止まっているかのよう。ぴょこぴょこ飛び回る姿が大変かわいく、また、女物乞いとふたり強かに生きてきたんだろうと思える雰囲気が好きです。海賊の男たち、前回は若干当てはまってない感じもしましたが、今回はきれいにはまっていた気がします。ぴったりきっちり踊ってるけど上品になりすぎないところが素敵。舞台にいるときはちょこちょこ見ていたのですが、鉄砲の踊りで同じくビルバントだった杉野さんがビルバントの踊りをまねしているところに女奴隷よろしく寄り添って気持ち悪がられていたのがおかしかったです(こういうところまで見ているから目が足りない)。 お金持ち→海賊の伊坂さんは自由そのもの。奴隷市場でも楽しかったですし、洞窟のシーンも楽しかった。舞台の端の方にいても愉快そうに踊るように歩いているその姿だけで楽しい。ビルバントとの手下としてのふてぶてしさ、鉄砲の踊りの色気と、どのシーンも外れのないおもしろさでした。役固定だった篠宮さんも楽しかったです。奴隷市場でのあの場慣れした落ち着いた雰囲気はいったいなんなんだろう・・・。石橋さんと一緒の時はビルバントと部下としてふたりは対等という感じでしたが、伊坂さんとだと伊坂さんの方が若干格上という感じです。伊坂さんほどのふてぶてしさはなくとも、なんとなく底知れない感じのする存在感が好きです。コンラッドに襲いかかるあたりの踊りはふたりとも軽やかで無駄に見応えがあります。 杉野さんの酔っぱらいぶりがいろいろでおもしろかったとか、池本さんは海賊なんだか王子なんだかたまにわからなくなるけどシェネが美しくて見ほれたとか・・・そんな風にあちこち見てるので目が足りません。 オダリスクはファーストキャストでなかったのがちょっと残念でした。きれいにまとまってるけど、やはり千秋楽はファーストキャストを見たかったなというのと、蘭さんはやはり鉄砲の踊りが見たかったなというのがあります。
さて、終盤で印象的だったのはメドーラでした。海賊たちの諍いにおびえていたメドーラでしたが、コンラッドがビルバントを殺すときその姿をずっと見ていました。アリが殺されたせいか悲しみに暮れているグルナーラはその様子を見ていないのに、メドーラはずっと見ていました。その姿がとても心に残りました。 アリの弔いをするとき、メドーラはコンラッドを見ていません。一人海を眺めている。コンラッドはアリの羽根を海に返し、自分の海賊帽は甲板に捨てる。何度見てもそう感じました。ビルバントを殺したことを見ていたこと、アリを弔うところを見ていなかったこと、そのふたつが私の中でとても印象的で、彼女にならコンラッドを任せられると感じました。コンラッドと出会ったときの彼女でなく、今の彼女なら。メドーラがなにか劇的に変わったわけではないのですが、でもやはりこの物語の中で彼女は変わっていて、なんの憂いもなく旅立っていく二人を見ることができました。
決して全体が見れていたわけではないのに、終わってみるとメインストーリーがおもしろいという大変不思議な公演でした。細かいところも大変おもしろい作品ですので見ることができるならまだまだ見たいと思えました。 振り返ってみると3キャストとも雰囲気が違い、なにがどうなるかと思っていたキャスティングがうまくはまっていた気がします。メインキャストも脇もおもしろく、ああ、Kバレエの「海賊」はおもしろいなあとずっと思っていました。引き続き映画館での上映が楽しみです。
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(2015/06/28(Sun) 02:20:23)
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Kバレエ 海賊(2015/06/14)
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メドーラ:ニーナ・アナニアシヴィリ コンラッド:遅沢佑介 アリ:井澤諒 グルナーラ:小林美奈 ランケデム:石橋奨也 ビルバント:ニコライ・ヴィユウジャーニン サイードパシャ:スチュアート・キャシディ オーチャードホール ★★★★☆
大変楽しい公演でした。 なんというか、舞台もいい感じにまとまったのもありますし、私自身、どこをどう見れば楽しめるか…というのが分かったからかもしれません。ストーリーがきれいにまとまっていると昨日書きましたが、なぜまとまっていると感じたのか答え合わせのように見ていた公演でした。そういう意味で楽しかったこともあり、また、私のこだわりの部分がきれいにまとまっていたというのもあり、大変楽しかったです。見ているときは部分部分を見ていたつもりなのに、思い返してみると作品全体が浮かび上がる。そんなわけで2回目らしい感想にはなっているとは思います。そういうまとめ方をしている…という前提のうえ、お読みください。
昨日の時点でちょっと納得いっていなかったのが「メドーラはニーナさんでなくてはいけなかったのか」ということ。彼女以外でもよかったのではと思う部分があったのですが、見返してみるとやはり彼女であることを前提に物語が組み立てられていると感じました。もちろん年齢や踊りの質の違いは感じるのですが、それでも彼女の性質、太陽のように光を放つ大輪の花…という雰囲気を生かして物語を組み立てているように思えました。 メドーラが妹にグルナーラが姉に見えた理由ですが、やはりメドーラは守られる側でグルナーラは守る側だとふたりとも自然に思っているからかもしれません。アリが最初にメドーラたちの前に姿を現した時、グルナーラは自然に皆より一歩前に出て、メドーラは彼女の後ろに隠れます。その流れがとても自然だったので、メドーラは妹でグルナーラは姉だと感じたのだと思います。 井澤さんのアリは相変わらず堅調。船が難破したあと起きあがるとき、まずは指が動いて起きあがり、そしてここはどこだろうとあたりを眺め、足を怪我していることに気づく。そのひとつひとつの表現がとても的確で、しかも音楽にぴたりと当てはまっている。コンラッドが目覚めたあと、嘆くコンラッドに対して「それでも自分は生きている」というところも好きです。全体的な話になってしまいますが、ソロの迫力は池本アリの方が上でしたが、音楽を使って丁寧に物語る部分については井澤アリの方が魅力的でした。 遅沢コンラッドはやはりどことなくよいところの出身の気配を感じます。助けてくれたメドーラグルナーラにお礼を言うあたりでそれを強く感じます。壊れた船を見つめるときの嘆きは相当のもでした。それがあったせいかはわかりませんが、メドーラの手に触れたとき、その温もりを特別に思ったのがしっくりきました。理由はよくわかりませんが、このときのコンラッドの気持ちがすごく納得がいったので、この物語をメドーラとコンラッドの物語としてみることができたのかもしれません。
奴隷市場については、兼城さんが物乞いにいたのでもうなにがなんだか…。意外と舞台にいる時間が少なかったのだけが救いです。荒薪さんとあわせて、とてもかわいい物乞いペアでした。すぐに二人は兄妹だと感じました。なんとなくしっくりくる組み合わせでしたし、とにかくかわいかったので、大変楽しかったです。 石橋ランケデムは相変わらず絶好調。腰で立っている…と例えたらいいのでしょうか、ちょっとバレエとしては正道ではない立ち方をしているのですが、この立ち方でいつもなにかを見下ろす感じとにやけ笑いがまあランケデムとしてはまるはまる。不思議と金に対するがめつさはあまり感じませんでいたが、それでも仕事はしっかりとやるタイプのように思えました。 美奈さんのグルナーラは相変わらず美しい。パドドゥを踊り終える直前、その悲しげな顔に「踊り終える恐怖」を感じました。確かにいやいやながら踊らされ踊っているわけですが、踊り終わってしまったらまた事態が取り返しのつかないところにさらに転がっていく。そんなことに気付かされましたし、また、そんな風に恐怖に震えながらも踊るグルナーラが大変色っぽく美しく、素晴らしかったです。 これは見終わってなんとなく思い出していて思いついたレベルの話ですが、なんとなくグルナーラはもう誰も助けにきてくれないと思っていた気がしますし、メドーラは誰か助けにきてくれる…とまでは思っていなくとも、誰も守ってくれる人がいない現状に恐怖を抱いているように思えました。 お金持ちさんたちは相変わらず楽しいことをやってくれているのはわかりつつもなかなか目が行かず。篠宮さんの場慣れして落ち着いた雰囲気と、池本さんのなんかこの場にそぐわない雰囲気がおもしろかったです。 おもしろかったことふたつ。海岸のシーンでコンラッドはすでにメドーラに惹かれているようでしたが、メドーラにはどちらかと言えばためらいがあるように思えました。ここでの再会があったからこそなのかなと。逆にコンラッドはもう一度恋に落ちたようで、若干心ここにあらずといった感じでした。ちょっとぼんやりし過ぎという感じだったので、アリがひっかき回してくれてよかったと思えました。 石橋さんのランケデムは伊坂さんに比べると若干肝が据わってないかと感じました。その分、コンラッドが正体を現したあとはうろたえが感じられ、形成が一気に逆転したのが感じられておもしろかったです。
洞窟の場面で気になったのがビルバントの存在感。今まで「部下その1」位にしか思っていなかったのですが、もっと、なにか、違う。2幕冒頭のシーンではコンラッドと対等…とは言わずとも「部下その1」の存在感ではありませんでした。その理由はあとではっきりします。書くところがないのでこのタイミングで書きますが、石橋ランケデムは伊坂ランケデムと比べると肝の据わっていないランケデムで、本心を隠すようなにやけ笑いが大変むかつきました(ほめてる)。 さて、楽しい楽しい洞窟のシーン。メインの踊りも楽しい、脇であれこれやってるのも楽しい…と目が泳ぎまくってなにを見たのかよく覚えてません。伊坂ビルバント手下が最初っから酒飲んでくつろいでるのを見たり、杉本海賊がさっさとつぶされるのを見たり、池本海賊が男らしくなったりたまに王子っぽくなってるのを見ていました。さらに細かいところにはなりますが、ヴァリエーションで完全に座っているだけのシーンは酒匂さん、杉野さん、和田さんあたりがなんとなくだらっとしていて「くつろぐ海賊」という雰囲気にぴったりだと思っています。 グランパドトロワ(ということにする)は突き抜けた派手さはなくともきれいにまとまっていました。井澤さんの踊りは昨日は若干乱れて驚きましたが、安定していて安心しました。遅沢さんもとても丁寧に踊っている。ニーナさんはアームスが、なんというか、若干勢い任せで気になるのですが、グランフェッテが「延々回り続けてる中でその一場面を切り取った」ような安定感で、クセになるものがあります。
ちょっと今までと違う雰囲気を感じたのはこの後でした。ビルバントの連れてきた女奴隷たちをコンラッドが解放して諍いになるシーン。今まではコンラッド対ビルバントとか海賊団の中でビルバントとその仲間たちが反乱を起こしたとかそういう風に感じたのですが、コンラッド率いる海賊団の中で一部が反乱を起こした…と感じました。もちろん人数としてはビルバント他2名という構成に変わりはないのですが、ビルバントの考えに従う存在が海賊団の中にいる、そう思えました。だからビルバントが刃物で手下を脅してランケデムを解放させた時も若干ニュアンスが違って思え、刃物で脅されたから従ったというより、冗談を言ってるのでなく本気だと分かったから従った…というように思えました。 ビルバントたちの反乱を力で押さえつけたコンラッドですが、そんな風に反乱を起こされるとは想定していなかったようで、どこか神経質になっているような気がしました。ただの陽気な酔っ払い杉野海賊が酒を取りに来ただけでひどく取り乱すことに、彼自身驚いている、戸惑っているように見えました。内部分裂を起こしかけている原因がメドーラにあることはわかっている、それでもメドーラの手を放すことはできない。そんなコンラッドの気持ちを感じるパドドゥでした。 さて、上記のように神経質になっている自分の気持ちを押さえようとしているので、ビルバントの手下たちの動きに気が付かなかったのはメドーラに気を取られていたからでなく、ビルバントの手下たちの動きが怪しく思えるのは自分の思い込みだとコンラッドが考えていたからのように思えました。だからギリギリまで二人の動きに気付かなかったのにも納得がいきました。そしてそのあとメドーラが連れ去られ、気を失うコンラッドを見たアリの「こうなる可能性に気付いていた」上での驚きと嘆きが、コンラッドを守ることをなにより優先する彼の本質を表していたと思います。 薄幸な姿の相変わらず似合うグルナーラ、美しい女はちゃんとそろえたのになぜ夢の世界と同じにならないかとちょっと妄執しているように見えるパシャ、グルナーラを見かけてなんとなくにやりと笑うランケデムなんかがこのあたりで印象に残っています。あと、グルナーラとメドーラが再会したとき、グルナーラは守るべき相手を取り戻し、メドーラは守ってくれる相手に再会したように見えました。手をつなぐ姿が本当に姉妹に見えるのです。 終盤の流れは最高でした。足を切られたランケデムを笑いながらなだめるように首を掻っ切るビルバント。先ほどは醜態をさらしましたが、ランケデムとの器の違いを感じさせる冷徹さです。グルナーラを守るアリ、メドーラを守るコンラッド、アリはグルナーラを気にかけていたけどビルバントの動きを見て飛び出す。自分の受けた傷の深さに死を予感しながらも、それでも自分の手でけりをつけるべく足を進めるアリ。コンラッドは自分の判断ミスで失われた命を嘆き、仲間殺し…多分これをコンラッドは決してやりたくなかったし、そのことをアリも知っていたから自分の手でビルバントを殺そうとした…になると分かったうえで自分で決着をつけるためにビルバントを殺す。とにかく限られた音楽の中でめまぐるしくドラマが展開するシーンなのですが、驚くほど滑らかに、音楽と一体化して心に飛び込んできました。特に井澤アリは音にタイミングを合わせるという気負いが全くないのに、ドラマティックでありながら本当に音と全くずれのない演技で見事でした。 何度も見ているエピローグですが、コンラッドがアリと別れ弔うとき、メドーラが一人別方向を見ているというこの場面そのものの美しさに息をのみました。コンラッドはアリの羽根を海に返し、甲板に海賊の証である帽子を捨てる。何度も見た場面なのですが、アリに対する敬意とそれから自分自身への非難を感じました。そんな風に傷ついた状態のコンラッドだからこそ、この人ならきっと彼を導いてくれると思えるメドーラはぴったりでしたし、本当にそれが救いだと感じました。 海賊アリの人生と海賊コンラッドの人生が終わり、新しい人生が始まる。すごくすっきりまとまったラストシーンでした。
もっといろいろ書きたいことがあるのですが、時間切れ。いろいろ楽しく、見ていたところも散漫でまとまりがないのですが、あちこち脇を見ていたはずなのに最後はメインのストーリーで納得させられるいい公演でした。
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(2015/06/20(Sat) 02:24:06)
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