観劇+αの日々
■Kバレエ 海賊(2015/05/31)
メドーラ:中村祥子
コンラッド:スチュワート・キャシディ
アリ:池本祥真
グルナーラ:浅川紫織
ランケデム:伊坂文月
ビルバント:杉野慧
サイードパシャ:ニコライ・ヴィユウジャーニン
オーチャードホール
★★★★★
前日ソワレとほぼ同じキャストの公演、基本的にこの公演が上映されるのはうれしいと思えるよい仕上がりでした。前日の公演より細々いいと感じました。(ちなみに感想細々書いておりますが、映像で見たら実は違ったというところがあってももうそれはご愛敬でいいかと思いつつ書きました)
細かいところですが熊川版で重要なところ、グルナーラとメドーラが姉妹に見えるかということ。この公演のパシャの屋敷の二人は明らかに姉妹でした。心が弱ってはいるけど妹を案じる姉と、恐怖の中で姉と再会してほっとして甘える妹。しっかり者だけどどこかやつれた感じのする浅川グルナーラと、彼女より背は高いのにおもいっきり姉に甘えるかわいらしい祥子さんのメドーラの関係が大変美しく、できればこれだけ姉妹を感じる感じでもう一度1幕から初めてほしいなあと感じました。
踊りの面では相変わらずの華やかさでした。祥子さんはグランフェッテの最後で若干着地が乱れたものの、後半のダブル連続は何度見ても息をのみます。池本アリは特別難しい振り付けでは踊ってないのですが、ひとつひとつの動きがとにかく素晴らしい!飛んだときのその高さ、空中での姿勢、足の動きの鮮やかさ。ひとつひとつ見ほれていました。キャスティング当初から心配だった祥子さんのメドーラのリフトはキャシディさんのコンラッドの代打ということでうまくまとまりました。若干アリが暇そうに見えるのはご愛敬かなと(苦笑)。とにかくこのパドトロワのシーンだけでも見る価値があると思えました。
祥子さんとキャシディさんは結構見た目も雰囲気も踊りも相性がよいように見えて、もう少しキャシディさんが踊れたらもっといろんな作品で見られるのにと若干残念に思いました。2幕後半のパドドゥ、しっとりとした雰囲気の中で見える二人のちょっとした足の角度や動かし方がぴったりで、とても気に入りました。
アリに見えるんだか見えないんだか分からない池本アリですが、物語が進むにつれて忠実な臣下に見えてきました。2幕のメドーラがランケデムに連れ去られたあと、海賊たちを集める動きとかとても好きでした。ただパシャのハーレムでグルナーラと再会したときは明らかに姫と再会した王子で、やっぱりこの方王子以外できないんじゃないかと思ってしまいました…とても無理なく自然で素敵な笑顔だったんです。
浅川さんのグルナーラも相変わらず堅調。長いことファンをしていますので、昔は回転が怪しかったのにいつの間にかこんなに軸がしっかりして…という目線で見てしまうところはありますが。奴隷市場で印象的だったのはその強い目線。売られる側になってもその持ち前の気の強さは失われていないようで、最後まで「こんなこと許されるはずがない」とランケデムをにらみつけていました。その強さがとても魅力的だったから、パシャのハーレムでは心が折れてしまったように弱々しく見えたのがとても悲しかった。この弱さがメドーラと対照的で、姉妹の再会シーンももの悲しく思えました。
伊坂ランケデムは奴隷商人が天職だと思いました。益子ランケデムは他に金儲けの手段があったらそちらでもいいんじゃないかという金にがめつい男に思えたのですが、伊坂ランケデムは奴隷商人として行うこと全てが楽しいように見えました。商品の仕入れから披露することも、「商品」がおとなしく鞭に従うことも逆らうところを無理やり従わせることも、奴隷市場を仕切ることも「商品」の価格をつり上げることも、それらが評価されて報酬を得ることも、そして売られていった女たちがおそらく不幸になることさえも彼にとっては最高の娯楽。常にきつい顔をしてるわけではなく結構笑ってる印象があるのですが、それがさらにランケデムという男の腹黒さを表してるように思えました。
よく笑ったのは杉野ビルバントも同じ。あまり見ることのない、よく笑うビルバントでした。洞窟のシーンでメドーラにちょっかいを出そうとしてコンラッドに厳しく咎められるシーンでも笑ってる、まるでコンラッドを試すように。奴隷市場の女奴隷たちを連れてきて非難されてるところでもぎりぎりまで笑ってる。絶対近いうちになにかやらかすと思えるビルバントです。女奴隷たちが「帰りたい」と言って宝を手に去っていこうとしたときも最初は「やあ、どうしたんだい?」とでも言うように笑ってる。なにがあったかは分かってるのに笑ってるし、もちろんその直後にぶち切れる。このメリハリが心底恐ろしいビルバントでした。コンラッドに逆らうのもなにか一時の腹立ちから来たという感じでなく、もっと根の深いものに思えました。その後ランケデムと手を組んで裏切られて…となるのですが、コンラッドがメドーラを救いに行くと駆け出して行った後のビルバントを見ていると、今まではここでひとまず物語に区切りがついたと思えることが多かったのですが、それを感じませんでいた。良い悪いの話でなく、物語が続いていくように感じられたのが純粋に不思議でした。そして最後の話になりますが、アリを殺したときに笑ってるビルバントってあまり見た記憶がありません。杉野ビルバントはアリの忠誠を笑っているように見えました。その後がいまいち記憶が曖昧なのですが、弾を込めなおしたか別の銃を手にしたか、ビルバントはコンラッドを改めて殺そうと、今度こそ殺せると確信しているように見えました。けれど弾は発射されない。この瞬間、本当の意味でビルバントから笑いが消える。この男はここで殺さなくてはいけないと思えるビルバントでしたし、悪人にふさわしい末路でした。
伊坂さんと杉野さんの組み合わせは演目によっては胃もたれおこしそうですが、こういう演目だと大変楽しいです。ランケデムをビルバントが解放するシーンも、ビルバントのなにをやるかわからない底知れなさと、なにをされるか承知の上でふてぶてしい態度を崩さないランケデムというのも大変緊張感があって面白いものでした。手を組むシーンもこれからよくないことが起こるという雰囲気にあふれてましたし、都合が悪くなるとビルバントを切り捨てるランケデムの蹴りも笑いもお見事。手を組んで裏切ってそして最後は両方とも殺されて。全ての成り行きに納得のいく二人でした。
話はビルバントに戻りますが、前日はなんだかよくわからない踊りになっていた鉄砲の踊り、ずいぶんとイメージする「鉄砲の踊り」に近づいていました。しっとりと色気のある…というのは石橋さんや篠宮さんだったのですが、昨日より隣で踊っている蘭さんとの雰囲気がよかった気がします。
3公演連続のニコライさんのパシャ。見ているとなんかかわいく思えてくるのが不思議です。奴隷市場を見ているときはそうでもないのですが、ハーレムのシーンを見てからまた次の公演で奴隷市場に戻ってくるとそのシーンすらかわいく見えてきてしまいます。パシャがきれいな娘たちをかき集めているのはかわいい女の子たちがにこにこ笑いながらふわふわ踊っている姿を見たいがため…と思えてしまうからかもしれません。酒池肉林の世界とは全く違う、まるで少年のふわふわした形のない夢のようなことをなんとかかなえようとしているのだと思うと、はた迷惑だと思いつつもその考え方がかわいく見えてしまうのが不思議です。また、金を使って無理やり女の子たちを集めても彼女たちは命令通りに踊ることはあっても夢の中のように笑顔を見せることはない…というあたりになにか教訓めいたものさえ感じてしまいます。(余談ではありますが、パシャのハーレムのシーンが地味なのは熊川さんらしいこだわりだなあと見るたびに思っています)
この演目は脇でたむろしてる人たちがいろいろ自由に動いてるのでちょっと見ようかなと思うと中心が見られなくってひどい目にあいます…。奴隷市場は皆さん好き勝手やってるので面白い面白い。お金持ちさん達は皆様個性派ぞろい。井澤さんはどこか小心者というか人の良さがにじみ出ているというか、コンラッドがこいつなら静かになんとかできると思えたのも納得の存在感でした(コンラッドに服を奪われる役です)。石橋さんはなんかぽわぽわしてました。ふわふわしてるというか…、不思議な存在感でした(そして手の位置も謎)。福田さんは大変楽しそうで、踊らされてるギリシャ娘さんたちを見ながら自分も軽く手が踊っていました。篠宮さん一人しっかり者だと感じました。サポートも一人難しい部分でしたし…視界も悪い、衣装も重そうな中、お疲れ様です。物乞いの湊さんも酒匂さんも大変楽しそうに舞台を駆け回っていました。酒匂さん、最近本当に調子よさそうで見ているこちらまで楽しくなります。市場の住人達も思い思いにその場にいるようでした。あまり今まで意識していませんでしたが、あの頭の被り物をしながらの側転は結構大変そうでした…。女奴隷さんたちもパシャにアピールしたり、お金持ちさん達と楽しそうに話していたり、つまらなそうにふてくされていたりと、本当にいろいろでした。
2幕の洞窟のシーンでの女性3人のパドトロワは意味がよくわからないと言いつつ、楽しく見ることができました。ちゃんと踊れる方だと気持ちよく見られます。井上さんは相変わらず軸のしっかりした踊りが見事ですし、春奈さんのピルエットの連続は驚くほど安定していました。佐々部さんの踊りも軽やかで細やかな足さばきだったのですが、アームスが乱暴なのが気になりました。よりによって井上さんと春奈さんがそういう細かいところしっかりしてるので、囲まれてしまうと目立つのですよ…。
ビルバントの手下は石橋さんと篠宮さん。ビルバントは兼城さんと杉野さんというタイプの違う二人でしたが、不思議とどちらと並んでもしっくりくる二人でした。石橋さんのほうが若干流されやすく気が弱い感じがしました。コンラッドとメドーラに襲い掛かるシーンの前、二人の抜き足差し足…は軽妙でありながらどこか不気味だけどやっぱり軽やかで、大変魅力的でした。
海賊の男たちは良く見知った名前が並んでいるというか全員見分けがつきました…。今日が最後だということで井澤さんを主に見ていましたが、相変わらずうっとりする美しいシェネでした。無精ひげを生やして足を広げて座る姿はいつもの貴族の三男坊という感じではなく(なんか彼って貴族の三男坊のイメージがあるんです…いい家の生まれだけど嫡男ぽくない)、アリはどんな感じになるかと楽しみになる雰囲気でした。
そんなわけでいろいろ見たいものが散らばっていて見たものそのままに感想も大変散漫ですが、楽しかったです。映像としてみるとどう感じるか、それはそれで楽しみです。
ゆず
2015/06/07(Sun) 23:11:05
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