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  Sabrina Weckerlin(サブリナ・ヴェッカリン)とスポットライトミュージカル(その1)

 国外のミュージカル俳優を紹介するとき一番確実でわかりやすいのが「日本でも上演されているこの作品でこの役をやった」という紹介の仕方ですが、前も述べたようにSabrinaはこれがとても難しい。彼女が出演するガラコンサートなどを見ていると彼女は確かに評価されているのが分かるのですが、とにかく輸入作品への出演が少ない。ウィキッドに出演したのは2008年のことですし(ドイツ語圏初演キャストコンサートのサイトで言っていますが、ファーストキャスとではないです)、MAも同じくらい古い話です(2012年の公演の時も出演はしてましたが)。最近出演したものと言えばN2Nのドイツ語圏初演くらいでしょうか。

 彼女がよく出演するのは初演作品、そしてオリジナル作品がとても多いです。MAもN2Nもドイツ語圏では初演でした。ワイルドホーンのアーサー王、それから今ミュンヘンで出演しているBussiもオリジナル作品です。そして彼女が一番出演しているのは「スポットライトミュージカル」というドイツのFuldaという地方都市のプロダクションの公演です。スポットライトミュージカルはこれまで6作品を作っていますが、そのうち5作品に出演し、うち2作が初演のタイトルロールです。来年上演予定の「メディクス」にも出演すると、先日発表がありました。私はスポットライトミュージカルはとても好きで何度も見に行ってるのですが、曲はワンパターンだし脚本も詰めが甘く、極めつけがテープ演奏と、なにがSabrinaを引きつけるのかよく分かっていません。ただ、観客としては、詰めの甘い脚本も彼女が血肉の通った人間にしてくれるので、大変うれしく思っています。

 少し長くなりますが、個人的趣味としてスポットライトミュージカルに出演していたSabrinaの魅力について語ります。ちなみに、このプロダクションの旗揚げ公演は「ボニファティウス」という作品で、Sabrinaも何度目かの再演で出演していてCDも数曲ですがあることにはあります。ただ、個人的にこの実在の宣教師「ボニファティウス」さんの樅を切り倒したエピソードが嫌いで嫌いでどうしようもないので、この作品についてはスルーさせていただきます。

 話はさかのぼりますが、私が彼女を初めて見たのは2005年、「三銃士」のベルリン公演でした。ただ、どんな感じだったかはPatrick Stankeのダルタニアンともども、きれいさっぱり忘れています。このときはエリザベート初演コンビPia&Uweのミレディとリシリューに魅了されていて、若いカップルのこととかわりとどうでもよかったです。次に見たのが2007年、ドイツのミュージカルプロダクション、ステージエンターテイメントのミュージカルガラ公演。Thomas BorchertとPia Douwes目当てに見に行きました。このときのSabrina正直、声が大きいことは分かったのですが、力一杯ぶん投げているだけで情緒もへったくれもない、たしかにすごい迫力だけど、声が大きけりゃいいってもんじゃないという感想で、あまりいいイメージはありませんでした。

 私の中での評価が変わったのが「聖女エリザベート」。実在の聖女の物語です。そのころドイツ語圏のCDをかなり片っ端から集めていたのですが、あまり派手ではないけど地味に堅実におもしろい演技をするChris Murrayが出演しているということにひかれてCDを買いました。物語は少しも聞き取れませんでしたが、聞いているうちになにか引きつけられるものがありました。そんなわけで物語を日本語で調べられる範囲で調べて、2009年、実際に見に行きました。「聖女物語」と言いますが、修道女の黒い服をまとった女性が愛を唱える作品、とは全く違います。あらすじはだいたい史実通りなのですが、Sabrinaのちゃきちゃきした現代っ子らしさが生きた作品だと思います。政略結婚であっても夫婦仲のよかった夫ルードヴィッヒとのラブストーリー、そして現代だったらNPO法人でも立ち上げてたんじゃないかと思うような働きっぷりが大変魅力的でした。Sabrinaってどちらかというと頭が良くって、強いかっこいい女性に見えることが多いです。しかしエリザベートはそんなに計算高くなく、不器用で、真っ直ぐだからこそいろいろなことを成し遂げられる反面、自分がどうすれば幸せになれるかを知らず、そして意図しないところで敵を作っていくタイプだと感じました。信仰の側面は言葉で語られたのかもしれませんが聞き取れるはずもなく、けれど彼女が「私はこれをやらなくてはならない」と真っ直ぐな目で語りかける姿には説得力がありました。宗教にはなんとなく懐疑的な私にとってはむしろ変に慈愛深き人に愛を語られるより「これが私のやるべきこと」と真っ直ぐな瞳で訴えかけてくれる方が理解しやすかったです。エリザベートは最期衰弱死なのですが、完全に弱り切ってぼろぼろで、それでも最期に迎えにきてくれた死別した夫の幻を見て、「自分は戦い抜いた」と誇らしげに笑う姿が大変大変愛らしく、ころっと彼女の魅力に落ちました。
 Sabrinaの声は相変わらずパワフルでした。でもパワフルなだけでなく、孤独や悲しさ、愛(夫への愛を含む)を伸び伸びと歌う姿にかつて感じていた「声は大きいけど情緒もへったくれもない」頃の面影はなくなっていました。パワフルだからこそ強さと弱さがコントロールできて、弱いシーンでも弱くなりすぎない。力強くかっこいいけど、かわいらしい側面もちゃんと見せてくれる。そんなところが彼女の魅力なのだと、そのとき感じました。

 まだぜんぜん語ってないのでとりあえず一区切りしてまた改めて語ります。

欧州大陸側来日
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(2015/12/12(Sat) 01:24:14)





  Thomas Borchert(トーマス・ボルヒャート)ってこんなひと(その2)

「Thomasとワイルドホーンの作品」という側面で考えたとき、真っ先にあげたい作品が「モンテクリスト伯」かと思います。
これはThomas自身が何度も言ってることですので私もファンとしてしつこくしつこく言いますが、この作品は彼のために作られた作品です。
スイスのザンクトガレンという都市で初演されました
彼ありきの作品らしく、CDは上演前に発売された英語版も上演後に初演キャストで収録されたドイツ語版も、タイトルロールは彼が演じています。
とても好きな曲が二つ。
一幕最後の「Hölle auf Erden(地獄へ落ちろ)」。
これは先の記事でも書きましたが、彼の歌い方をそのまま楽譜に起こしたような曲だと思っています。
怒りをたたきつける歌、とにかく派手ですし、彼が歌いたいようにのびのび歌える曲だと思うので、大好きです。
最後の「アーメン」の叫びまでノンストップ、アレンジも多く、聞いているだけでテンションがあがります。
もうひとつが物語のクライマックスで歌われる「Der Mann, der ich einst war(あの日の私)」。
ネタバレなしに語ることは難しいのですが、憎しみを忘れ許すことによって自分自身が救われると感じる曲。
彼の温かみのある声で語られる祈りにも似た歌。
「Hölle auf Erden」とは全く逆の、ジャン・バルジャンを当たり役とした彼のもうひとつの魅力を引き出す曲だと思います。
この曲は公演で見たあとウィーンのF&FのCDで聞いたのですが、さらに深みが増していて驚きました。
それまでとどまっていた世界がなにもない閉じた世界に思え、だんだんとそこから解き放たれ、広い世界に飛び立ち、生まれ変わる。
新しい世界は光で満ちあふれている。
たった一曲、作品でなくコンサートの中の一曲でそれを感じさせてくれる曲だと思うので、「今」彼がどこまで表現できるかという意味で一番聞いてみたい曲です。

それはそれとして、この作品は主演俳優の喜びと絶望、怒り、憎しみ、そしてそれらからの解放と、感情の振り幅が大きく、好きな俳優で見てみたい作品の一つと言えると思っています(縁あってThomas主演以外でも見ていますが、作品としてとても好きです)。

彼がオリジナルキャストをつとめたのはもうひとつ、「アーサー王」です。
こちらも初演はザンクトガレン。
Thomasはもちろん主演ではなく、魔道士マーリンです。
正直、最初のシーンで岩に剣を突き刺すことくらいしか派手なことはやっていません。
それなのになんか偉そうで不思議な力を秘めてそうで、ただ立っているだけでなにか風情があるあたりがさすがベテラン。
曲としては今回来日するモルガナ役のSabrinaと歌う「Begehren(欲望)」が本当に好き!
今回の来日コンサートで是が非でも歌ってほしい曲の一つです。
男女の二重唱ですが、もちろんラブソングではありません。
基本的には歌で殴り合うみたいな曲で、大変迫力があります。
コンサートでは歌ってくれないだろうなと思いつつ、「Die Ruhmreiche Schlacht(栄誉ある戦い)」はアーサーが運命を受け入れることを決めた直後の歌で、アーサー、ランスロット、マーリンと男性三人の重唱で大変かっこよい歌でとても好きです。
声の重なり方が本当に美しいんです。

ところで、この作品は原作を詳しく知らない私でも「これ絶対原作と違うだろう」というとんでもない展開の上、とんでもないところで終わります。
ワイルドホーンらしい派手で耳なじみのいい曲と日本人好みの題材だと思うので、是非日本で上演してほしい作品でもあります(そしてみんなで全力でストーリーにつっこみを入れてほしい)。

「ドラキュラ」は上記2作と異なり英語圏初演の作品ですが、ドイツ語圏初演は同じくザンクトガレンでした。
物語の流れ上、最初は初老でそのあと若返るのですが、私が見たザンクトガレン版はこの若返り後のビジュアルが余りに微妙すぎて、初老時代の方がよかったとか思ってしまった思い出があります・・・。
さて、初演キャストではありませんが、彼のために作られたと思える曲があります。
グラーツ公演でヘルシングを演じたUweと二重唱、「Zu Ende」。
「遊びは終わり」という感じで、こちらも歌で殴り合うみたいな曲です。
音域がかなり高めで、正直今のThomasとUweでは歌えるのか謎に思うほど、当時の二人のための曲でした。
同性の二重唱ってあまりありませんが、これは本当に迫力があり、ソロもいいけどとにかく二重唱部分の調和が見事で、耳が幸せで、ミュージカルが好きな人には是非一度聴いていただきたい曲の一つです。

最後になりましたが、ワイルドホーンの「ジキルとハイド」。
アンデアウィーン(エリザベート初演、再演が上演された劇場)で上演されたときに主演でした。
ウィーンで主演ファーストキャストはそれが初めてでした。
私はありがたいことにセカンドシーズンに見に行くことができました。
私にとってはドイツ語圏にこだわるようになったきっかけの作品です。
音楽(含むオーケストラ)も演技も演出も見事で、「ミュージカルってここまで求めていいんだ」と思ったことを今でも覚えています。
他の作品以上に曲だけで聞いた時と作品を見た時で印象が違う作品だと思います。
誠実でまっすぐで、まっすぐすぎて扱いづらい感じのきまじめなジキルとか、色気とは違うけどなにか獣じみた迫力のあるハイドとか、特にコンサートで求めるつもりはないです。
それでも何年も何年も歌い込まれた「時がきた」は楽しみではあります。
(「対決」好きなんですけど、さすがに難しいだろうなあと・・・)
「罪な遊戯」はSabrinaと歌ったらなんとなく殴り合う感じの曲になるだろうとイメージがわくので、ジャッキーと歌うとまた違う雰囲気になるのではないかと期待してます。

作品として携わったのは上記の通りです。
でも、ワイルドホーンのコンサートはフランク&フレンズやそのほかのもの、いろいろ歌っているので、きっと上記の作品以外もおもしろいだろうと信じています。


欧州大陸側来日
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(2015/12/06(Sun) 18:31:37)





  Thomas Borchertってこんなひと(その1)

まだまだ先のことだと思っていたThomas来日ですが、気が付いたら一ヶ月後に迫ってました。
Thomasについて記事を書いたと思っていたのですが、実はなにも書いてなかったので書いてみます。
ヨーロッパ一の名優とか言ってるけど、ファンの私ですらそこまで言わないよ!、まあ、私は世界一好きだけど・・・という、ひねくれてるんだか信者なかんだかわからない中途半端な目線ですがご容赦ください。
とりあえず10年以上ファンをしていて、ありがたいことに平均して1年に1回程度は観劇できています。

東宝系ミュージカルが好きで、日本のCDだけではなく外国語のCDにまで手を出している方は彼の声を聞いたことがあるのではないかと思っています。
一番可能性が高いのが「エリザベート」の10周年記念キャスト。
ルキーニとトートの両方の役で参加しています。
ルキーニも聞き分けようと思ったら聞き分けられるのですがのですが、わかりやすいのはトートのほう。
「最後のダンス」で「ランデブー」をやたら崩して色っぽく歌っているのが彼です。
こういう、音符通りに歌わず崩して歌うのも彼の魅力の一つ。
元の音符で歌えないのではなく、演技の流れで本来の音と違う音で歌うけど、伴奏との調和がとれているように聞こえるのが大変おもしろいと思うのです。

そんな彼らしいと追もう曲の一つが「モンテクリスト」の「Hölle auf Erden(地獄に堕ちろ!)」。
この曲は音がいきなり上がったり下がったりする大変くせのある曲になっています。
その不思議な音符の配置は「彼が歌いやすい」というよりむしろ「彼の歌い方を楽譜に起こした」ようにさえ思います。
ちなみにCDだとほぼ音符通りに歌ってると思いますが、実際に舞台を見るとさらにあちこちアレンジしていて、「元の音符どこ!?」と思うことがあります。
彼の声質に対して若干低めの音程なので、楽々と高い位置にアレンジしてのびのび歌っている姿を見ると、まさに「ワイルドホーンの曲は彼を自由に飛び立たせるもの」という言葉を実感します。
(英語版及びドイツ語版、双方ともに彼が歌っています)
(某動画サイトで名前と曲のタイトルで検索すると初演の映像が出てくるような出てこないような)

アレンジがおもしろいのはTanz der Vampireでも感じられます。
「Die Unstillbare Gier(抑えがたい欲望)」も好きですが、「Tanzsaal(舞踏の間)」は結構好き勝手歌ってくださるので、「今回はどんな風に歌ってくれるだろう」と思えるのも楽しみの一つです。
10周年記念コンサートとウィーン再演キャストで違うアレンジを聞けるのが大変ありがたいです(公演数の少ないコンサート版の方がノリノリで楽しいです)。

というわけで人外役や俺様役が大変似合う方ではありますが、「Mozart!」初演キャストのレオポルトだったりします。
当時御年33歳。
ヴォルフガング役の方とそんなに年齢変わりません。
ルックスからなんとなく察していただけるとおり、若い頃から王子系とは接点がなく、渋い役を積み重ねてきてらっしゃいます。
再演もまた磨きがかかって素敵でしたが、初演CDで聞けるまだ年若いレオポルトもまた素敵だと思っています。

とりあえずざっと思い出せる範囲で。

欧州大陸側来日
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(2015/11/26(Thu) 00:42:30)





  F&Fファンパーティのお知らせ

さて、まだまだ先だと思っていましたが、Thomas&Sabrina来日コンサート・・・もとい、F&Fコンサートもあと一月となってまいりました。
これに際して、ドイツ語圏ミュージカルでいろいろお世話になりましたみんさんがファンパーティを開いてくださるということです。

くわしくはみんさんのブログで。

私も以前参加したことがありますが、なかなかお目にかかれないドイツ語圏ミュージカルのファンの方と、コンサート終了後という絶妙のタイミングでお会いできるということもあり、大変楽しかったのを今でも覚えております。
年末でみなさまお忙しいと思いますが、是非ご参加ください!

追記:
ThomasとSabrinaの参加が決定したとのことです!
プレゼントのみの参加も可能ということです。


Thomas Borchert
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(2015/11/15(Sun) 21:51:21)





  Kバレエ 白鳥の湖(2015/11/03)

オデット/オディール:白石あゆ美
ジークフリード:宮尾俊太郎
ロットバルト:杉野慧

オーチャードホール
★★★★★

 4幕の最後の音が消えて、音の余韻も消えて、会場は拍手に切り替わってるのにどうしてもその音が消える余韻を味わって、心を落ち着ける時間が欲しかった。それからようやく拍手をする。そんな気分になる公演でした。楽しかったです。

 白石さんと宮尾さんの公演はくるみ割り人形、海賊に続いて3度目。不思議と雰囲気の合う二人だと思っています。一人で踊るときでなく、二人で踊るときに一番輝く。その片鱗は先日の「カルメン」でも感じていたので、とても楽しみにしていた公演でした。予想通り、予想以上のものを見せてくれました。
 まず驚いたのが宮尾さんの王子ぶり。前回の白鳥の湖は見に行けなかった(これは純粋に国外遠征の予定が先に入っていたため)こともあり、本当に久しぶり。若干ソロで落としたところがあると思うのですが、そんなことが気にならない「王子」としてのたたずまい。表情とか所作とかそういうところでなく、舞台の中心でにこやかに立ってる姿がそもそも「王子」。白いタイツのに合うすらりとした長い足も美しく、細かい失敗なんて目に入らないほど。本当に不思議なことなんですが、彼が舞台の中心にいるということにものすごい安心感がありました。宮尾さんの王子は長いことあれこれ文句をいいながら見ていますが、花開いたなあと思いながら見ておりました、ソロはやっぱり若干怪しいけど(しつこい)。
 対する白石さん、オデットは今回が初。オディールは確か前回の2013年に演じていたと思います。登場したときはなんとなくオデットっぽくないというか、ああ、オディールはやったことあるだろうなという感じ。雰囲気が艶っぽいこともありますが、腕の動きがオデットとしてはちょっと物足りないところがありました。
 この二人のおもしろいところは、二人で踊ると一気に魅力が増すこと。ジークフリートがオデットに一目惚れして、物語は始まる。逃れるようなオデットに必死でジークフリートが追いすがることで物語は進む。そして二人の目が合ったとき、オデットの心も変わる。オデットになにかをしてあげたいというジークフリートの思いは彼女を救いたいという思いになり、心を閉ざしていたオデットも彼なら心を許しても大丈夫かもしれないと思う。
 白石さんのソロはやはりまだ物足りないところがありました。踊りも小さいし、安定感にも欠けている。それが、物語が進んで行くに従ってどんどんよくなる。まるでジークフリートがオデットをオデットにしているみたいに物語が進むほどにオデットが白く美しくなっていく。アダージョの部分の終わり…でいいのかな、最後のゆったりとしたピルエットの連続が美しいこと美しいこと。二人の心の震えが伝わるみたいに、音楽と細やかな動きが胸の底にしみこんでくる。自然に涙がこぼれるような、不思議な透明感のある美しさでした。
 杉野さんのロットバルトも堅調。この人鳥類飼ってたっけと思うほど、見事な鳥ぶりでした。

 という感じで大変おもしろく終わった1幕と2幕。きっとおもしろいと思っていた3幕は予想外に、とんでもなく爆発力のあるおもしろさでした。明らかに見ていて体温が上がる公演ってあると思うのですが、まさにそれでした。
 素晴らしかったのがなんといっても白石さんのオディール!まさに水を得た魚、妖艶に、愛らしく、生き生きと、軽やかに飛び回る。登場した瞬間から、その美しさと勢いですべてを飲み込んでいく。そして宮尾さんのジークフリートは「僕に会いに来てくれたんだね、うれしいよ!」と全身で喜びを表現しておりました。オデットの面影を持つ女性、もう細かいところなんてどうでもよくって、彼女が妖艶に笑っても今の彼は喜びすぎて、些末なことはどうでもよくなる盲目状態。喜びの勢いに押され、去っていくオディールを追います。その後に残ったスペイン軍団と、その中央でまるで彼らを操るようにたたずむロットバルト。勝利を確信するようなその姿は、彼がすべての黒幕だと語っているように思えました。
 そんな感じでとにかく三人のバランスが素晴らしかった!オディールの勢いのある美しさとなんかもう細かいところどうでもよくなってる幸せ一色のジークフリート、それに存在感はあるけれど出すぎることのないロットバルト。白石さんの踊りは、バランスもグランフェッテもそれだけで威圧できるような圧倒的なものではなかったと思います、バランス長かったけどぐらついていたし。でもそれまでのシーンがとにかく面白かったので、さらに見事なものを見せてもらえたと思えて、見ている側としても大変テンションが上がりました。オディールはまるでロットバルトがジークフリートを惑わすために作った幻のよう。オデットに姿かたちは似ているのに、雰囲気はロットバルトに近いように思えました。杉野ロットバルトはそんなに大柄ではないもののマントのひるがえし方の素晴らしさもあり、場を支配するに十分な存在感がありました。
 とても真っ直ぐなジークフリートで、ロットバルト、そしてオディールの策略にはまってしまったのも納得。なぜジークフリートはオデットとオディールを見誤ったかという疑問が浮かばないほど、最初からその場の支配者はオディールとロットバルトでしたし、ジークフリートは幸福に目がくらんでいた、だから迷いもせず真っ直ぐに誓うのもわかる。そしてそれがすべてをひっくり返し、彼を不幸のどん底に叩き落とす。この時のロットバルトの勢いも大変見事で、その流れに飲まれるように、ただひたすらオデットの元へ行かなければと駆け出すジークフリートに心打たれました。

 4幕は3幕の流れもあって、白石さんが大変好調。面白いのがオディールを経たことによってさらに彼女がオデットらしく見えたことです。ちゃんと白が似合う、儚い雰囲気でした。もうちょっと存在感があるといいなあと思っていたのですが、ジークフリートが出てくるとちゃんと「主演」としての輝きを感じられたのがこの二人らしいと思います。
 「呪い」というものがオデットを縛り付けているように思いました。実際にそれがどのようなものでどれくらいの強さを持っているかは分かりませんが、それに勝つ手段を失ったことを、オデットは嘆いているように思いました。ジークフリートの謝罪を受けても、オデットは彼を許したように思えませんでした。寄り添ってはいたけれど、彼の言葉を聞いてはいたけれど、ずっとそばにいたいと思っていたけれど、彼の行いによってそれがかなわなくなったことが頭から振り払えていないように思えました。怒っているというわけではもちろんないけれど、もう自分たちは引き離されてしまうのだと分かったうえで、それでもそばにいたくてジークフリートに寄り添っているような、悲しげな姿でした。そしてロットバルトが襲い掛かる。彼から感じたのはオデットへの執着、そしてジークフリートへの憎しみ…とは違うけれど、彼を滅ぼそうとする力。ジークフリートでは彼に勝つことはできない、そう感じる迫力がありました。なぜオデットは身を投げたのか。ロットバルトに、彼の「呪い」に勝つことができない無力な自分にできることはただ一つ、ジークフリートとロットバルトを結ぶ接点である自分を消すこと。そう思ったように思えました。ある意味直前のシーンですべてを分かり合えてなかったからこそ、オデットは自分が彼に対してなにができるかを考え、一人で決心して身を投げたと思えました。そして真っ直ぐなジークフリートがそのあとを追ったのは納得、だってそういうことに迷いそうなタイプではないですもの。「二人の愛の力で」ロットバルトは弱ったかもしれない。でも白鳥の群れの中であがくロットバルトの姿が見えたので、白鳥たちがロットバルトに勝利したのは最終的には彼女たちの意地のようにも思えました。
 そして光の中で再会する二人。オデットを見つけた時、ジークフリートがまた全身で喜びを表現するんです。ああ、大丈夫だ、この二人は幸せになれる、そう思うラストでした。悪魔の「呪い」もない、すべてのしがらみも過去もない世界で光に包まれる。なにもかも消えた、ただお互いがそこにいるという幸せの中にいることがふさわしい二人だと思いました。
 この公演がどういう物語だったのか…とまとめると、「オデットとジークフリートの物語」、それ以外にありません。二人が出会って、光に包まれるまでの物語。なんのわだかまりもなくジークフリートに寄り添うオデットと、光を受けながらさらに天を仰ぎ見るジークフリートを見ながら、ここに来るための物語だと、しみじみ思っていました。ずっとずっとその世界に浸っていたくって、なかなか拍手をすることができませんでした。

 大変素晴らしい公演でした。白石さんと宮尾さんは本当に面白いペアで、お互いに高めあって作品を作ってくるように思います。宮尾さんは個性としてとても優しく暖かく、けれどすごく人に流されやすい性格をしていると思います。さらに踊りまで相手に引っ張られると全体的に引っ張られるだけになるのですが、白石さんとだとサポートでリードしつつ、踊りは白石さん自身が安定しており、演技的には彼女は相手を引っ張るだけの力を持ってる…という感じで、すごく合っているんだと思います。長年宮尾さんを見続けていますが、彼がこうしてパートナーをさらに上へ引き上げることができるようになったと思うと大変感慨深いです。相変わらず踊りはうまくなりつつも相変わらずですし(しつこい)、白石さんもオディールはともかくオデットはまだもう一頑張りしてほしいところはあります。でも、こういう「見たことのない別世界に連れて行ってくれる」という公演ってなかなかないもので、細かいあれこれがありつつも本当に面白い公演でしたし、この公演自体満足しつつ、また見てみたいと思う組み合わせでした。
 ちょっとだけカーテンコールのことを。いい公演だと思ったのは私だけではないようで、1階席通路前席の真ん中あたりにいた私の視界の限りではほぼスタンディングしていました。何度目か幕が開いたとき、熊川さんが出てきました。普段はここで立つ方も多いのですが、もうほとんどの方が立っていたので客席の雰囲気もあまり変わりませんでした。「白鳥の湖」の主演という大役を終えた若いプリンシパルの労をねぎらう芸術監督…という姿が大変美しく、また、涙をこぼしているように見えた白石さんの姿も美しく、本当に最後の最後まで幸せな公演でした。

 とにかく物語全体の流れが大変楽しかったので一息にメインストーリーを追いましたが、見ている間はいつも通りあっちこっち見て楽しんでいました。
 ベンノの益子さんは井澤さんとの品のいい弟分とは全く異なるやんちゃな弟分。井澤さんがどちらかというと王子を憧れの目で見ていたのに対し、益子さんは王子の弟分であることがうれしくって仕方ないと言ったらいいのかなあ。ちょっと幼くはしゃいだ感じがするところが彼の個性にピタリと合っていて、大変かわいらしかったです。ムードメーカーという雰囲気ですし、物腰柔らかな宮尾王子との相性も大変良かった。踊り方もずいぶん丁寧になったと思います。井澤さんのようにさすが見事という感じではないですが、一瞬目を奪われる勢いを持ってる。
 パドトロワはどうしてもファーストキャストより一回り小さな踊りになりますし、なにより春奈さんがいきなりお怪我で降板のため、見る側の気持ちとしても大変さみしいものになっていました。石橋さんは相変わらず年齢不詳で、宮尾王子とそんなに年が変わらないように見えます。踊りについては特に書くべきことはなく、相変わらず丁寧でサポートもそつなくこなしてるけど、池本さんと比べちゃうとやっぱりさみしいものがあるよねと(当たり前)。しかし、マネージュで明らかに体力がつきかけていたのに何事もなかったように最後をまとめるあたり、彼も宮尾さんのように動じないなあと思ったのでした。浅野さんはやはり美しいけどもうちょっとインパクトが欲しい。大井田さんは軽やかでかわいらしかったです。
 王子の友人たちは福田さん、篠宮さん、堀内さん、栗山さん、山本さん。福田さんがちょっと個性のある役で、彼の持つ穏やかな物腰もあり、ジークフリートの気の置けない友人という雰囲気でした。
 二羽の白鳥の蘭さんと美奈さんはもうちょっとアームスの優雅さが欲しいと思うのですが、さすが大柄な二人、見ごたえがありました。
 各国の踊りはなんというか蛇足というかなんというか、ただ賑やかしだとは思ってしまうのですが、なんだかんだ言いつつ楽しんでおります。
 ナポリは念願かなって兼城さん!細かな動きは相変わらずお手の物。あわただしい音楽と動きだと思うのですが、彼だとゆとりが見えるのが不思議です。リズムの取り方が大変好みなのか、タンバリンの音さえ心地よく聞いていました。あの笑顔と衣装がまた似合うのですよね。
 チャルダッシュ、中心で踊っていた岩淵さんと福田さんの雰囲気が合っていて、なんかしゃれた感じで明るく、大変魅力的でした。特に岩淵さんのどこかしっとりしてるけど朗らかという雰囲気が気に入りました。
 石橋さんのスペインが大変好きなのですが、見る暇がなくて大変残念でした…。
 上の方で書き忘れてますが、杉野さんのロットバルトはさすがのはまり役。彼はキャシディさんにも物怖じしないので、宮尾王子に牙をむくあたりの迫力はさすがの一言でした。

 とにもかくにも、幸せな公演でした。ちなみに、見終わった当日はあれこれ不満もあったのですが、翌日になったら悪いことすっかり忘れて、ただ美しかった、良かったという余韻だけが残っていました。頭の中で音楽がこだまして、意味なく涙がこぼれそうになるというレベルですので、お星さま半分上げてます。素晴らしかったです。

Kバレエ
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(2015/11/04(Wed) 22:50:51)




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このblogについて
とんぼのせなか管理人ゆずの 舞台にまつわるあれこれのことやらその他いろいろが書き散らしてあるブログです。 「役者殺すに刃物はいらぬ、うまいうまいと褒めればよい」という言葉を胸にあちこちの劇場を飛び回り中。
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