観劇+αの日々
■Kバレエ 白鳥の湖(2016/05/27 マチネ)
オデット/オディール:浅川紫織
ジークフリード:遅沢佑介
ロットバルト:杉野慧
ベンノ:篠宮佑一
パ・ド・トロワ:中村春奈、佐々部佳代、伊坂文月
Bunkamura オーチャードホール
★★★★★
なんと言葉にしたらいいかわかりません。浅川さん遅沢さんファン歴長いのでただの戯れ言と聞き流していただいていいですが、ファンとしていろんな期待をして、それを全部まとめて受け止めてもらってそれをさらに昇華してもらった気分です。ファンやっててよかったし、この組み合わせで上演してくださって感謝しかないし、見に来てよかったとしか言いようがありません。踊りについて細かいつっこみどころないわけじゃないのですが、ラストシーンまで行ったときのあの満たされた感覚、それがすべてを洗い流してくれた気がします。ジークフリートとオデットが出会って始まった物語。それ以上でもそれ以下でもなく、それ以外の何物でもない。素晴らしかったです。
1幕でなにに驚いたかって、遅沢王子がわりとぼんくら王子だったということ。もちろん少年というほど若くはないけど、「結婚はまだ早いと思っていた」という説明がしっくり来る王子。甘やかされて育った感じで、いい年して遊んでばかり、家庭教師の言葉にも耳を貸さない。だから王妃が「結婚を」と迫ったのも分かる、友達たちと遊びほうけてばかりの王子、いい年なのだからいい加減落ち着きなさいということで、そのきっかけとして「結婚」という手段を与えた感じがします(ちなみにこの「なんでもいいからいい加減落ち着くために結婚を」という王妃の考え方は3幕につながる)。うまく言えないのですが、どこかふわふわした感じの王子。
篠宮さんのベンノは秋公演から比べてずいぶん年齢を下げてきているように見えました。品の良さとどこか子供っぽいやんちゃさが同居している感じがしました。ジークフリートとの会話を見ていると多分二人とも頭がいいんだろうなあと思うけど、でもとても若い。これに長身のルークさんの家庭教師が加わり、全体的にジークフリートとベンノの年齢は下がりつつも浮ついた感じがせず、品のあるまとまった空気になっていました。まだ半人前という雰囲気だから1幕のラストで狩りに一緒に連れて行ってもらえることになった喜びがまっすぐ伝わってくる。
王子の友人たちで筆頭と呼んでいる、最後にジークフリートと会話をするのは堀内さん。相変わらず落ち着いた物腰で、ちょっと控えめに王子の悩みに口を挟むところが良いなあと思います。結婚を悩む王子に対してどちらかと言えば「結婚するのも良いものですよ」と年上からアドバイスする雰囲気だったのですが、それが押しつけがましく見えないのが堀内さんらしいと思いました(そして実年齢は仕事してない)。
1幕の終わりの頃からなんとなく思い、2幕の頭ではっきりと感じたのは、このジークフリートはまるで「誰か」に出会うことを待っているようでした。まだ出会うべき誰かに会っていない、出会っていないからまだ人間として未完成でふわふわした感じのまま、いつか出会う日を待っている。出会うべき誰かを待っているような、そういう出会うべき誰かがいるという雰囲気を1幕から感じたことってあまりなかったので、それが驚きでした。
言葉にしてしまうと陳腐になってしまうのですが、なにかの予感に導かれ森に行ったジークフリートはオデットに出会う、そして彼女がずっと求めていた「出会うべき誰か」であったことにすぐに気付く、というのがすごくしっくりくるふたりでした。ジークフリートは森の中でずっとその気配を感じていたから、彼女を見つけた瞬間、逃してはならないと必死に追いかける。オデットは最初それに気付かないけれど、目を見つめた瞬間、真摯なジークフリートに気付いた途端、彼女も「この人だ」と気付く。ずっと探していた「誰か」にようやく出会って物語が始まる。言葉にしてしまうとありきたりになってしまって申し訳ないのですが、それがすんなり受け入れられました。
とても好きだと思ったのは、ジークフリートはオデットと出会うべくして出会い、そして出会ってから彼女の力になりたいと思った。オデットはひとりで戦うことでなく、誰かに寄り添うことを知った。寄り添うオデットの、「この人に救われたい」という感覚というか、ほかの誰でもない、この人にこそ呪いを解いてほしいという感覚が好きでした。「呪い」と一言で言ってしまうと単純ですが、どこか戸惑いながらもジークフリートこそ「その人」であり、他にはいないというオデットの確信が、4幕の絶望につながると思えました。
グランアダージョは本当にただただ美しいの一言。3年前から好きで好きで仕方なかったのですが、本当に美しい。この二人のアダージョ、見守る王子とそこに王子がいると見ることもなく気配で察して寄り添う姫というバランスが大好きなのですが、そこに「彼女のためになにかしたい」「この人こそ私たちを救ってくれるから寄り添える」という感情が付加されて、大変美しく、情緒あふれる光景でした。それが振付だと分かっているのですが、そっとオデットが力を抜いた瞬間、ジークフリートがその体を支えるという呼吸が、その張りつめた空気がなんとも魅力的でした。
ジークフリートはなんとしてもオデットを暗い夜の世界から連れ出そうとする、でもそれができない、そのことをオデットはわかっている、ジークフリートは知らない。そんな力のせめぎあいの後、オデットはロットバルトの力でジークフリートの手の届かぬ所へ消えていく。オデットの羽を手に持っているとき、ジークフリートはまるで夢を見ていたのかと自分に問いかけているように見えました。徐々に明るくなっていく空の下で、夜明けとともに消えていく幻を見ていたのかと、彼は自問しているように見えました。この「夜が明けていく」というのが、なんだかすべてが夜の見せた幻に思えて、不思議な感じでした。
3幕のジークフリートはずっと上の空でした。オデットの羽を見つめながら、誰かを待ってる、探してる。6人の姫たちを見ながらもオデットを探している。そこにオデットがいるわけがないと思ったのですが、意識せずとも、いないと分かっていてもオデットを探してしまうという雰囲気。そして胸元に隠してある白い羽を触れる姿を見ているだけでジークフリートの心の切ない痛みがこちらに伝わってくるのがさすが遅沢さん。
今回、家庭教師がルークさんだったため、王妃が結婚を迫っているというのが強く感じられてよかったです。王妃と家庭教師、両方に挟まれたジークフリートの戸惑いは分かりましたし、多分オデットに出会う前だったら、二人の強さに折れて六人の姫の中から適当な誰かをジークフリートは選んだだろうなと思えました。
探して探して探し続けて、だからオディールをオデットと見間違えたように思えました。最初にオディールが登場して、ロットバルトが「彼女はオデットだ」と言ったあと、オディールは去っていきます。そのときのタイミングというかなんというか、そこでオディールが去っていったからジークフリートは彼女をオデットと思ったのだと思えるタイミングでした。不思議なことに、オディールの指がジークフリートの手の中をすり抜けていく度、ジークフリートは彼女をオデットだと確信していってるように見えました。このときのロットバルトの場を支配する感覚、勝利を確信した妖艶な笑い、華やかでしたし迫力があり、素晴らしかったです。オディールはジークフリートがオデットを求める気持ちとロットバルトの魔術が生み出した幻影のようでした。オデットは背中でそこにジークフリートがいるのを感じていたのに対し、オディールは目でジークフリートを逃すまいと引きつけている、そんな二人の違いがなんとも魅力的でした。
余談ですが、オディールのふりが若干違うように思えました。小さなジャンプがちょこちょこと削られていた気がします。
さて、王妃は王子にふさわしい姫たちを選りすぐりで選んだのですが、オディールはどこの馬の骨とも知らない誰かです。けれど3幕のジークフリートは1幕のなんとなく流される彼と異なり、王妃の言葉をはねのけ、そして浮ついてない姿ではっきりと「この人こそ自分の結婚すべき相手」と告げます。その姿を見ていると、どこの誰かは分からないけれど、ジークフリートがこれで一人前になってくれるのならなにひとつ問題ないと王妃が思うのも仕方ないことに思えました。後ろの方で家庭教師がロットバルトの正体に気付きつつも追い払われるのもいいなあと思っております。
ロットバルトが正体を現したとき、ジークフリートは王妃を守ろうとしているようにも、母親にすがろうとしているようにも見えました。そのせいかオデットに会うために城を飛び出していく前のジークフリートが王妃の手に頬を寄せたとき、それが別れの挨拶に見えました。なにもかも捨ててもかまわない、オデットにもう一度会わなくては行けない、そんな悲しいまでの強さを感じたので、王妃が崩れ落ちたのもなにが起こったか分からないけど息子のただならぬ決意を感じたからではと思えました。
4幕のオデットの絶望は、最初「自分は相手を選び違えた」というものが根本にあるように思えました。信じて心を許したけれど、それは間違っていたと、それを嘆いていたように見えました。オデットはジークフリートを許すつもりはなかったというより、もう会うつもりもなく姿を隠していたのかと思えました。ジークフリートの贖罪の言葉すら聞こうとせず去ろうとしていたのに、その気配を感じ、声を聞いたら結局立ち去ることができず、振り返ったように思えました。そこからオデットの悲しみの質が変わったように思いました。「選んだ相手は間違ってなかった」「けれどこの人は私を救う人ではない」と言ったらいいのか…。寄り添いながらも、この人によって自分は救われることはない、けれど寄り添わずにはいられない、そんな悲しい空気がありました。自分が救われることはないとオデットは知ってるのに、「この人しかいない」という気持ちを、2幕より強くオデットから感じました。思い出しながら気づいたのですが、2幕より互いを見つめ合うことが多かった気がします、お互いがそこにいるのを確認するかのように。
最後のオデットとジークフリート、それからロットバルトの関係が今までとちょっと雰囲気が違い、なんとも言葉にできません。浅川さんと遅沢さんだとどちらかというと淡泊な感じになるのですが、そこに杉野さんが加わってなんとも濃い感じに仕上がってました。ただ手を取り合って静かに寄り添っていたいのに、それを力づくで引き離し服従させようとする力。オデットへの強い執着心はもちろんあったのですが、それ以上にジークフリートを破滅させることに対しても執着心を感じるロットバルトでした。殺すというよりも、破滅させる、という言葉が近かったと思います。その姿が力強いだけでなく、ぞっとするほど美しく、また、ある種の色気を持っていた、その空気感が、なんとも異質に感じたし、その空気に巻き込まれました。いつもと違う方向で、「このロットバルトには勝てない」、そう思えました。最後にロットバルトの前に立つオデットは凛と美しく、最後の力で身を投げたように思えました。3幕の終わりの時点でもうオデット以外のすべてを手放していたジークフリートがオデットの後を追ったのは至極当然に思えました、それ以外、彼はもう必要としていなかったのだから。見ているときは圧倒されてなにも考えられなかったのですが、こうしてまとめてみるとロットバルトはジークフリートを殺すことはできても、破滅させることはできなかったのかなあと思えました。二人の思いは決して滅びないと証明されたから、ロットバルトは力を失った。そう思えたラストシーンでした。
1幕を見たとき、ジークフリートがあまりにぼんくらで、王子の成長物語になるのかなと思いましたが、それはありませんでした。王子はぼんくら王子から成長したかというと、変化はしたけど、守るものを得たから大人になった…かというとそういう物語ではなかった。ハッピーエンドではないけど、バッドエンドとも言い難い。不思議と、必然的にそこにたどり着くべくしてたどり着いたと思える。光に包まれ、音楽とともに天に昇っていくような二人の姿を見ながら、ここにたどり着くべくしてたどり着いたんだと、そう思えました。なんのしがらみもなく光に包まれる二人を見て、こちらも心が満たされました。必然的にそこにたどり着いた物語でした。大変面白かったです。
ソワレも続けてみましたら結構キャストがかぶっていましたので、かぶっているキャストはソワレをご参照ください。マチネのみにいらっしゃった方で印象的なこと。
春奈さんがほんっとうに美しいです。第一ヴァリエーション、見惚れました。ひとつひとつの動きが細やかで軽やかで華やか。本当に花の咲いたような美しさがあるので大好きです。
蘭さんの二羽の白鳥、彼女はあまり白い踊りが似合う方ではないと思うのですが、背が高い方なのでやはり迫力があります。
兼城さんのナポリは本当にかわいいですねー。バタバタした動きのはずなのに細やかに動いてくれるのが素敵。柔軟性の高い方なので、前に上げた足がおでこにくっついてるんじゃないかと思えるのがさすが。
松岡さんのチャルダッシュはなんとも色気があって素敵でしたし、堀内さんも渋めで素敵。マズルカの池本、伊坂、井澤というファーストソリストそろい踏みの無駄遣いっぷりがすごかったです。うまいし華やかだけど、見たいのそれじゃない。戸田さんと西口さんの並びが結構好きだと気づきました。蘭さんと石橋さんとはちょっと違ったくせのある雰囲気が良いです。
本当にいいもの見ました。
ゆず
2016/05/28(Sat) 00:41:09
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