Thomas Borchertってこんなひと(その1)
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まだまだ先のことだと思っていたThomas来日ですが、気が付いたら一ヶ月後に迫ってました。 Thomasについて記事を書いたと思っていたのですが、実はなにも書いてなかったので書いてみます。 ヨーロッパ一の名優とか言ってるけど、ファンの私ですらそこまで言わないよ!、まあ、私は世界一好きだけど・・・という、ひねくれてるんだか信者なかんだかわからない中途半端な目線ですがご容赦ください。 とりあえず10年以上ファンをしていて、ありがたいことに平均して1年に1回程度は観劇できています。
東宝系ミュージカルが好きで、日本のCDだけではなく外国語のCDにまで手を出している方は彼の声を聞いたことがあるのではないかと思っています。 一番可能性が高いのが「エリザベート」の10周年記念キャスト。 ルキーニとトートの両方の役で参加しています。 ルキーニも聞き分けようと思ったら聞き分けられるのですがのですが、わかりやすいのはトートのほう。 「最後のダンス」で「ランデブー」をやたら崩して色っぽく歌っているのが彼です。 こういう、音符通りに歌わず崩して歌うのも彼の魅力の一つ。 元の音符で歌えないのではなく、演技の流れで本来の音と違う音で歌うけど、伴奏との調和がとれているように聞こえるのが大変おもしろいと思うのです。
そんな彼らしいと追もう曲の一つが「モンテクリスト」の「Hölle auf Erden(地獄に堕ちろ!)」。 この曲は音がいきなり上がったり下がったりする大変くせのある曲になっています。 その不思議な音符の配置は「彼が歌いやすい」というよりむしろ「彼の歌い方を楽譜に起こした」ようにさえ思います。 ちなみにCDだとほぼ音符通りに歌ってると思いますが、実際に舞台を見るとさらにあちこちアレンジしていて、「元の音符どこ!?」と思うことがあります。 彼の声質に対して若干低めの音程なので、楽々と高い位置にアレンジしてのびのび歌っている姿を見ると、まさに「ワイルドホーンの曲は彼を自由に飛び立たせるもの」という言葉を実感します。 (英語版及びドイツ語版、双方ともに彼が歌っています) (某動画サイトで名前と曲のタイトルで検索すると初演の映像が出てくるような出てこないような)
アレンジがおもしろいのはTanz der Vampireでも感じられます。 「Die Unstillbare Gier(抑えがたい欲望)」も好きですが、「Tanzsaal(舞踏の間)」は結構好き勝手歌ってくださるので、「今回はどんな風に歌ってくれるだろう」と思えるのも楽しみの一つです。 10周年記念コンサートとウィーン再演キャストで違うアレンジを聞けるのが大変ありがたいです(公演数の少ないコンサート版の方がノリノリで楽しいです)。
というわけで人外役や俺様役が大変似合う方ではありますが、「Mozart!」初演キャストのレオポルトだったりします。 当時御年33歳。 ヴォルフガング役の方とそんなに年齢変わりません。 ルックスからなんとなく察していただけるとおり、若い頃から王子系とは接点がなく、渋い役を積み重ねてきてらっしゃいます。 再演もまた磨きがかかって素敵でしたが、初演CDで聞けるまだ年若いレオポルトもまた素敵だと思っています。
とりあえずざっと思い出せる範囲で。
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(2015/11/26(Thu) 00:42:30)
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F&Fファンパーティのお知らせ
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さて、まだまだ先だと思っていましたが、Thomas&Sabrina来日コンサート・・・もとい、F&Fコンサートもあと一月となってまいりました。 これに際して、ドイツ語圏ミュージカルでいろいろお世話になりましたみんさんがファンパーティを開いてくださるということです。
くわしくはみんさんのブログで。
私も以前参加したことがありますが、なかなかお目にかかれないドイツ語圏ミュージカルのファンの方と、コンサート終了後という絶妙のタイミングでお会いできるということもあり、大変楽しかったのを今でも覚えております。 年末でみなさまお忙しいと思いますが、是非ご参加ください!
追記: ThomasとSabrinaの参加が決定したとのことです! プレゼントのみの参加も可能ということです。
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(2015/11/15(Sun) 21:51:21)
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Kバレエ 白鳥の湖(2015/11/03)
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オデット/オディール:白石あゆ美 ジークフリード:宮尾俊太郎 ロットバルト:杉野慧
オーチャードホール ★★★★★
4幕の最後の音が消えて、音の余韻も消えて、会場は拍手に切り替わってるのにどうしてもその音が消える余韻を味わって、心を落ち着ける時間が欲しかった。それからようやく拍手をする。そんな気分になる公演でした。楽しかったです。
白石さんと宮尾さんの公演はくるみ割り人形、海賊に続いて3度目。不思議と雰囲気の合う二人だと思っています。一人で踊るときでなく、二人で踊るときに一番輝く。その片鱗は先日の「カルメン」でも感じていたので、とても楽しみにしていた公演でした。予想通り、予想以上のものを見せてくれました。 まず驚いたのが宮尾さんの王子ぶり。前回の白鳥の湖は見に行けなかった(これは純粋に国外遠征の予定が先に入っていたため)こともあり、本当に久しぶり。若干ソロで落としたところがあると思うのですが、そんなことが気にならない「王子」としてのたたずまい。表情とか所作とかそういうところでなく、舞台の中心でにこやかに立ってる姿がそもそも「王子」。白いタイツのに合うすらりとした長い足も美しく、細かい失敗なんて目に入らないほど。本当に不思議なことなんですが、彼が舞台の中心にいるということにものすごい安心感がありました。宮尾さんの王子は長いことあれこれ文句をいいながら見ていますが、花開いたなあと思いながら見ておりました、ソロはやっぱり若干怪しいけど(しつこい)。 対する白石さん、オデットは今回が初。オディールは確か前回の2013年に演じていたと思います。登場したときはなんとなくオデットっぽくないというか、ああ、オディールはやったことあるだろうなという感じ。雰囲気が艶っぽいこともありますが、腕の動きがオデットとしてはちょっと物足りないところがありました。 この二人のおもしろいところは、二人で踊ると一気に魅力が増すこと。ジークフリートがオデットに一目惚れして、物語は始まる。逃れるようなオデットに必死でジークフリートが追いすがることで物語は進む。そして二人の目が合ったとき、オデットの心も変わる。オデットになにかをしてあげたいというジークフリートの思いは彼女を救いたいという思いになり、心を閉ざしていたオデットも彼なら心を許しても大丈夫かもしれないと思う。 白石さんのソロはやはりまだ物足りないところがありました。踊りも小さいし、安定感にも欠けている。それが、物語が進んで行くに従ってどんどんよくなる。まるでジークフリートがオデットをオデットにしているみたいに物語が進むほどにオデットが白く美しくなっていく。アダージョの部分の終わり…でいいのかな、最後のゆったりとしたピルエットの連続が美しいこと美しいこと。二人の心の震えが伝わるみたいに、音楽と細やかな動きが胸の底にしみこんでくる。自然に涙がこぼれるような、不思議な透明感のある美しさでした。 杉野さんのロットバルトも堅調。この人鳥類飼ってたっけと思うほど、見事な鳥ぶりでした。
という感じで大変おもしろく終わった1幕と2幕。きっとおもしろいと思っていた3幕は予想外に、とんでもなく爆発力のあるおもしろさでした。明らかに見ていて体温が上がる公演ってあると思うのですが、まさにそれでした。 素晴らしかったのがなんといっても白石さんのオディール!まさに水を得た魚、妖艶に、愛らしく、生き生きと、軽やかに飛び回る。登場した瞬間から、その美しさと勢いですべてを飲み込んでいく。そして宮尾さんのジークフリートは「僕に会いに来てくれたんだね、うれしいよ!」と全身で喜びを表現しておりました。オデットの面影を持つ女性、もう細かいところなんてどうでもよくって、彼女が妖艶に笑っても今の彼は喜びすぎて、些末なことはどうでもよくなる盲目状態。喜びの勢いに押され、去っていくオディールを追います。その後に残ったスペイン軍団と、その中央でまるで彼らを操るようにたたずむロットバルト。勝利を確信するようなその姿は、彼がすべての黒幕だと語っているように思えました。 そんな感じでとにかく三人のバランスが素晴らしかった!オディールの勢いのある美しさとなんかもう細かいところどうでもよくなってる幸せ一色のジークフリート、それに存在感はあるけれど出すぎることのないロットバルト。白石さんの踊りは、バランスもグランフェッテもそれだけで威圧できるような圧倒的なものではなかったと思います、バランス長かったけどぐらついていたし。でもそれまでのシーンがとにかく面白かったので、さらに見事なものを見せてもらえたと思えて、見ている側としても大変テンションが上がりました。オディールはまるでロットバルトがジークフリートを惑わすために作った幻のよう。オデットに姿かたちは似ているのに、雰囲気はロットバルトに近いように思えました。杉野ロットバルトはそんなに大柄ではないもののマントのひるがえし方の素晴らしさもあり、場を支配するに十分な存在感がありました。 とても真っ直ぐなジークフリートで、ロットバルト、そしてオディールの策略にはまってしまったのも納得。なぜジークフリートはオデットとオディールを見誤ったかという疑問が浮かばないほど、最初からその場の支配者はオディールとロットバルトでしたし、ジークフリートは幸福に目がくらんでいた、だから迷いもせず真っ直ぐに誓うのもわかる。そしてそれがすべてをひっくり返し、彼を不幸のどん底に叩き落とす。この時のロットバルトの勢いも大変見事で、その流れに飲まれるように、ただひたすらオデットの元へ行かなければと駆け出すジークフリートに心打たれました。
4幕は3幕の流れもあって、白石さんが大変好調。面白いのがオディールを経たことによってさらに彼女がオデットらしく見えたことです。ちゃんと白が似合う、儚い雰囲気でした。もうちょっと存在感があるといいなあと思っていたのですが、ジークフリートが出てくるとちゃんと「主演」としての輝きを感じられたのがこの二人らしいと思います。 「呪い」というものがオデットを縛り付けているように思いました。実際にそれがどのようなものでどれくらいの強さを持っているかは分かりませんが、それに勝つ手段を失ったことを、オデットは嘆いているように思いました。ジークフリートの謝罪を受けても、オデットは彼を許したように思えませんでした。寄り添ってはいたけれど、彼の言葉を聞いてはいたけれど、ずっとそばにいたいと思っていたけれど、彼の行いによってそれがかなわなくなったことが頭から振り払えていないように思えました。怒っているというわけではもちろんないけれど、もう自分たちは引き離されてしまうのだと分かったうえで、それでもそばにいたくてジークフリートに寄り添っているような、悲しげな姿でした。そしてロットバルトが襲い掛かる。彼から感じたのはオデットへの執着、そしてジークフリートへの憎しみ…とは違うけれど、彼を滅ぼそうとする力。ジークフリートでは彼に勝つことはできない、そう感じる迫力がありました。なぜオデットは身を投げたのか。ロットバルトに、彼の「呪い」に勝つことができない無力な自分にできることはただ一つ、ジークフリートとロットバルトを結ぶ接点である自分を消すこと。そう思ったように思えました。ある意味直前のシーンですべてを分かり合えてなかったからこそ、オデットは自分が彼に対してなにができるかを考え、一人で決心して身を投げたと思えました。そして真っ直ぐなジークフリートがそのあとを追ったのは納得、だってそういうことに迷いそうなタイプではないですもの。「二人の愛の力で」ロットバルトは弱ったかもしれない。でも白鳥の群れの中であがくロットバルトの姿が見えたので、白鳥たちがロットバルトに勝利したのは最終的には彼女たちの意地のようにも思えました。 そして光の中で再会する二人。オデットを見つけた時、ジークフリートがまた全身で喜びを表現するんです。ああ、大丈夫だ、この二人は幸せになれる、そう思うラストでした。悪魔の「呪い」もない、すべてのしがらみも過去もない世界で光に包まれる。なにもかも消えた、ただお互いがそこにいるという幸せの中にいることがふさわしい二人だと思いました。 この公演がどういう物語だったのか…とまとめると、「オデットとジークフリートの物語」、それ以外にありません。二人が出会って、光に包まれるまでの物語。なんのわだかまりもなくジークフリートに寄り添うオデットと、光を受けながらさらに天を仰ぎ見るジークフリートを見ながら、ここに来るための物語だと、しみじみ思っていました。ずっとずっとその世界に浸っていたくって、なかなか拍手をすることができませんでした。
大変素晴らしい公演でした。白石さんと宮尾さんは本当に面白いペアで、お互いに高めあって作品を作ってくるように思います。宮尾さんは個性としてとても優しく暖かく、けれどすごく人に流されやすい性格をしていると思います。さらに踊りまで相手に引っ張られると全体的に引っ張られるだけになるのですが、白石さんとだとサポートでリードしつつ、踊りは白石さん自身が安定しており、演技的には彼女は相手を引っ張るだけの力を持ってる…という感じで、すごく合っているんだと思います。長年宮尾さんを見続けていますが、彼がこうしてパートナーをさらに上へ引き上げることができるようになったと思うと大変感慨深いです。相変わらず踊りはうまくなりつつも相変わらずですし(しつこい)、白石さんもオディールはともかくオデットはまだもう一頑張りしてほしいところはあります。でも、こういう「見たことのない別世界に連れて行ってくれる」という公演ってなかなかないもので、細かいあれこれがありつつも本当に面白い公演でしたし、この公演自体満足しつつ、また見てみたいと思う組み合わせでした。 ちょっとだけカーテンコールのことを。いい公演だと思ったのは私だけではないようで、1階席通路前席の真ん中あたりにいた私の視界の限りではほぼスタンディングしていました。何度目か幕が開いたとき、熊川さんが出てきました。普段はここで立つ方も多いのですが、もうほとんどの方が立っていたので客席の雰囲気もあまり変わりませんでした。「白鳥の湖」の主演という大役を終えた若いプリンシパルの労をねぎらう芸術監督…という姿が大変美しく、また、涙をこぼしているように見えた白石さんの姿も美しく、本当に最後の最後まで幸せな公演でした。
とにかく物語全体の流れが大変楽しかったので一息にメインストーリーを追いましたが、見ている間はいつも通りあっちこっち見て楽しんでいました。 ベンノの益子さんは井澤さんとの品のいい弟分とは全く異なるやんちゃな弟分。井澤さんがどちらかというと王子を憧れの目で見ていたのに対し、益子さんは王子の弟分であることがうれしくって仕方ないと言ったらいいのかなあ。ちょっと幼くはしゃいだ感じがするところが彼の個性にピタリと合っていて、大変かわいらしかったです。ムードメーカーという雰囲気ですし、物腰柔らかな宮尾王子との相性も大変良かった。踊り方もずいぶん丁寧になったと思います。井澤さんのようにさすが見事という感じではないですが、一瞬目を奪われる勢いを持ってる。 パドトロワはどうしてもファーストキャストより一回り小さな踊りになりますし、なにより春奈さんがいきなりお怪我で降板のため、見る側の気持ちとしても大変さみしいものになっていました。石橋さんは相変わらず年齢不詳で、宮尾王子とそんなに年が変わらないように見えます。踊りについては特に書くべきことはなく、相変わらず丁寧でサポートもそつなくこなしてるけど、池本さんと比べちゃうとやっぱりさみしいものがあるよねと(当たり前)。しかし、マネージュで明らかに体力がつきかけていたのに何事もなかったように最後をまとめるあたり、彼も宮尾さんのように動じないなあと思ったのでした。浅野さんはやはり美しいけどもうちょっとインパクトが欲しい。大井田さんは軽やかでかわいらしかったです。 王子の友人たちは福田さん、篠宮さん、堀内さん、栗山さん、山本さん。福田さんがちょっと個性のある役で、彼の持つ穏やかな物腰もあり、ジークフリートの気の置けない友人という雰囲気でした。 二羽の白鳥の蘭さんと美奈さんはもうちょっとアームスの優雅さが欲しいと思うのですが、さすが大柄な二人、見ごたえがありました。 各国の踊りはなんというか蛇足というかなんというか、ただ賑やかしだとは思ってしまうのですが、なんだかんだ言いつつ楽しんでおります。 ナポリは念願かなって兼城さん!細かな動きは相変わらずお手の物。あわただしい音楽と動きだと思うのですが、彼だとゆとりが見えるのが不思議です。リズムの取り方が大変好みなのか、タンバリンの音さえ心地よく聞いていました。あの笑顔と衣装がまた似合うのですよね。 チャルダッシュ、中心で踊っていた岩淵さんと福田さんの雰囲気が合っていて、なんかしゃれた感じで明るく、大変魅力的でした。特に岩淵さんのどこかしっとりしてるけど朗らかという雰囲気が気に入りました。 石橋さんのスペインが大変好きなのですが、見る暇がなくて大変残念でした…。 上の方で書き忘れてますが、杉野さんのロットバルトはさすがのはまり役。彼はキャシディさんにも物怖じしないので、宮尾王子に牙をむくあたりの迫力はさすがの一言でした。
とにもかくにも、幸せな公演でした。ちなみに、見終わった当日はあれこれ不満もあったのですが、翌日になったら悪いことすっかり忘れて、ただ美しかった、良かったという余韻だけが残っていました。頭の中で音楽がこだまして、意味なく涙がこぼれそうになるというレベルですので、お星さま半分上げてます。素晴らしかったです。
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(2015/11/04(Wed) 22:50:51)
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Kバレエ カルメン(2015/10/11)
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カルメン:荒井祐子 ドン・ホセ:遅沢佑介 エスカミーリョ:杉野慧 ミカエラ:佐々部佳代 モラレス:石橋奨也 ス二ガ:スチュアート・キャシディ ★★★★☆
久しぶりの荒井さんの舞台でした。カルメンは明らかに彼女にぴったりだったので、昨年から見たいと思ってました。
彼女のカルメンは「愛して欲しいなら愛してあげる、私の気が向いたら」という感じ。いつも全ての選択権は彼女にあって、彼女は選ぶ立場。コケティッシュで軽やか。白石さんに比べると確かに悪女だけど、悪女であるのにかわいらしい。すれた感じがするのさえ魅力的。 遅沢さんのホセはまじめな男。踊りについては序盤であり得ないミスの連発で目を疑いましたが、途中から持ち直しましたし、酒場あたりからはすばらしかったですというか、序盤のあのミスは何だったんだろう…。雰囲気を語るより全体を語った方が楽なのでそうします。「理性」で押さえられた世界にいたホセ。ハメを外して遊ぶこともなく、慕ってくれるミカエラはあくまで「かわいい妹」。理性の内側で生きてきたホセがその外側に足を踏み出したとき、そこにはなにが待っているか…ホセの目線からみたとき、そんな物語があったように思います。 ロープのパドドゥの前にカルメンがホセにキスしますが、それが初演の頬から唇に、明確に変わりました。それも手伝ってか、カルメンとホセとの関係は愛とか恋とかそういうものより、もっと俗っぽいものになっていたと思います。そしてそんな振り付けの変更にふさわしいふたりの関係だったと思います。このパドドゥ大好きなのですが、今回は完全にホセが翻弄されるパターン。明らかに長身なホセが小柄なカルメンの手のひらの上でころころ転がされている感じが大変おもしろかった。そして酒場で再会しても、ある意味ふたりの関係性は変わらない。ホセにとってカルメンは彼自身が理性で封じてきた世界に足を踏み出させる存在でしかないし、カルメンにとってホセは気が向いたからたぶらかした相手の一人。 山中のミカエラをかばうホセを見ているときのカルメンを見たときになんか引っかかるものがあったのですが、そこではホセが今までで一番真剣に、なにかを省みることなく誰かをかばっている。カルメンを手に入れようとしたとき以上に必死で、ミカエラをかばっている。それは家族の愛情みたいなもので、カルメンに向けられるものと全く違ったのだけど、カルメンはそれに憧れたというか、結局自分はホセを手に入れたと思っていたけどそんなことはなかったとか、そんなことを悟ったのかなと思いました。自分はホセの心を手に入れ、ある程度言いなりにできていると思っていたのに、そんなことはなかったし、結局ホセにとって一番大切なものはカルメンの他にあった(ようにカルメンには思えた)。そして自分ではホセの心を手に入れることはできないと悟った…ホセの上着がカルメンの腕をすり抜けていったとき、彼女はそんなことを思っているように見えました。 最後の闘牛場の前で、ホセから逃れるためにカルメンは闘牛場に入ろうとする。このとき、ホセがなにかを叫び、カルメンは足を止める。ホセはなにを叫んだのか、カルメンはなぜ足を止めたのか。その問いに答えはありませんし、それがたぶんこの作品のおもしろさなのだと思います。その疑問に対する一つの答えとして、カルメンはホセになんらかの未練があったのではないかと感じました。カルメンはホセの持っているもの、彼がミカエラに与えられたものに未練があったとしても、それをカルメンに与えることはない。けれど未練があったからカルメンは足を一瞬止め、それが結局運命を分けることになった。何とも苦い後味の残る終幕でした。 ホセの目線で見たとき、「理性」の一線を越えた外の世界になにがあるか…という物語だったと思うのですが、その外の世界に待っていたのは、彼を導いた女の亡骸だった、という物語に思えました(彼が「理性」の外の世界で自分をコントロールできないことは山中のシーンでも示されている)。自分をコントロールできず、その現実を突きつけられて、ようやくなにが起こったのか、自分がどこにいるかを理解したように思えました。 お互いが持っていたものと与えられるものと求めるもの、それが食い違って最後まで行き着いたように思いました。
ミカエラとエスカミーリョは明確にカルメン、ホセより年下。それがうまく物語になじんでいた気がします。ミカエラは純真無垢な妹。とてもかわいく、愛らしく、子供っぽく、庇護対象ではあれど決して恋愛の対象ではないし、結婚なんてもってのほか。親としてはなじみの相手とそろそろ落ち着いてもいいんじゃないかと思ったとしても、当事者としてはちょっとさすがに無理だと感じました。大事だし幸せになってほしいけど、その相手は自分じゃない。そういう意味でホセより若干年上であり色艶のあるカルメンと対照的に感じました。神戸さんの場合は狭い世界しか知らなくてもいろいろわかってる感じがしましたが、わかってない子供っぽさを感じるミカエラ。山中の密輸業者のアジトまで行ってしまったのも、覚悟を決めてというよりは子供の無鉄砲さという感じがありました。だから密輸業者たちに取り囲まれて、途方に暮れて、結局最後は泣き出してしまったのも納得。そこまでの覚悟がなく、行動しているように思えました。でも、そんな子供だからこそホセも必死で守るべき相手と思っていたという側面もあると思います。 エスカミーリョは出てきた瞬間驚くほど、目もくらむほどの輝かしい若々しさがありました。昨日の薄暗い面影を持つ年齢不詳の悪党と全くの別人です。とにかく若くって勢いがあって怖いもの知らず。これが「選ぶ」カルメンとぴたりとはまる。自分が彼女に選ばれるだけの男か試すかのように彼女の前にひざまずく。駆け引きというかゲームのような感じで、ふたりどちらもマヌエリータなんて相手にしていないと感じました。本当に若々しい闘牛士だったのですが、終盤で再登場したときはちゃんと部下4人を引き連れていることに疑問のない貫禄を持っていたのが不思議でした。また、彼とキスするカルメンは自分の相手が彼であることに納得はしつつも物足りなさを感じていた…結局彼との関係はゲームのようなもので、ホセがミカエラに見せたような命がけのなにかを与えてくれる人間ではないと理解しているように思いました。そういうところもバランスのいいエスカミーリョでした。
モラレスの石橋さんは相変わらずの年齢不詳ぶり。遅沢ホセと同僚といっても全く違和感がありません。たばこを手に取る仕草や足を机に乗っけるところまで妙な色気があります。ホセと違って遊ぶときは遊ぶけど、ちゃんと芯はしっかりしていると感じるタイプ。酒場でホセが密輸業者に加わろうとするやりとりを見て一気に酔いが覚めるところとか、山中での密輸業者に対する抵抗を見ているとそんな風に感じます。今回はモラレス含む衛兵たちが密輸業者たちに殺されるのが確定したせいか、なんとなく衛兵三人が弱々しく感じられ、最後まであきらめない…自分たちのこともホセのことも…モラレスのあがきが印象に残りました。 荒薪さんの娼婦はとてもかわいらしいけど、どこか影を感じさせて、でもかわいい。酒場でダンカイロと親しくしている雰囲気があったので、そういうあたりから影を感じさせたのかと思いました。 石橋モラレスと荒薪娼婦の関係が、かわいらしくじゃれる娼婦がかわいらしく、モラレスに妙に色気があるし、でも完全に娼婦の方が上手な雰囲気もあり、そんな関係性が楽しくって気に入っております。
ダンカイロとレメンダードは篠宮さんと兼城さん。兄貴分と弟分というか、実の兄弟では絶対ないけど、同じくらい長い時間を一緒に過ごし、簡単に切ることができない関係を築いているように思いました。篠宮さんのダンカイロはとても頭がよさそう…「密輸業者」というのが「悪事」ではなく「一儲けできる仕事」としっかり計算してその結論を導き出しているように思えました。兼城さんのレメンダードは去年(といっても初日一回きり見ただけですが)はもう少し子供っぽく感じましたが、年齢を上げてきたのか、レメンダードより年下ではあれど、子供に見えることはありませんでした。どこかうらぶれた感じもあって、確かにダンカイロと一緒に生きてきた感じがありました。でもかなり抜けたところがあって、手の掛かる弟分といった感じで、計算高そうなダンカイロがそんなレメンダードと一緒に商売しているというのがなんとなくほほえましく思えるような関係でした。エスカミーリョがやってきてカルメンにあわせて杯を掲げるあたりでレメンダードが手ぶらだったのでお酒の取り合いしてたり、カルメンに武器を見せたあたりで勝手にレメンダードが銃を持ち出して喜んで踊っているところをしかりつけて銃を取り上げるあたりなんて、ふたりの関係の象徴に思えました。 ダンカイロとレメンダードは杉野&酒匂、篠宮&兼城でちょうどいいバランスだったと思います。踊りや演技の雰囲気がしっくりくる。酒匂さんと兼城さんは去年と今年でファーストレメンダードと大道芸人が逆転した形ですが、演技を含めた全体的なまとまりは酒匂さんのレメンダードがよかったと思いつつ、大道芸人は兼城さんの方が軽やかでよかったと思います。そのあたりがなんとなくおもしろいなと。
細々としたこと。 衛兵の中にやったら若い人が混じってるけど山本さんじゃないしなあと思って眺めておりましたが、福田さんでした、実年齢どこいった。すごく若々しくかわいらしかったのですが、密輸業者は一転影のある雰囲気。こういうところが彼の魅力だと思うので、名前のある役で見たいなあと思ったのでした(脇にいると、眠ってる石橋モラレスの足いじって遊んでるとかそういうところに目がいくからよくない)。 衛兵3人組は当初の予想通り池本、伊沢、益子の固定。池本さんと益子さんは相変わらずの雰囲気。衛兵だけどなんとなく紳士の雰囲気が漂う池本さん、こういう小さな役ではもったいないほど生き生き踊ってました。益子さんもどこか小生意気な感じで、相変わらず元気。井澤さんはちょっと雰囲気が変わっていました。3人の中で弟分であることに変わりはないのですが、弱々しさはあまり感じられず、普通の青年という雰囲気になっていました。 メルセデスとフラスキータは魅力的ではありつつも個性がどちらかというと役者の個性に寄っており、ダンカイロとレメンダードのように物語に絡んでないのが相変わらず残念です。 居眠り衛兵は栗山さんでした。 マヌエリータはどちらかというとエスカミーリョにめろめろという印象が強かったです。だからエスカミーリョはあっさり彼女を捨ててカルメンにアピールし始めたんだろうなあと思える雰囲気。 酒場のシーンは見所が多くってな…目が足りない。いろいろ小ネタが仕込まれていて楽しいし、踊り自身も楽しい。最後の方で縛り上げたスニガにたばこくわえさせて火をつけようとする黒い感じのところとか、いろいろ仕込まれていておもしろい。 山中でのレメンダードがやたら寒がり。マフラー巻いて厚着してやたら寒がってたのだけど、2幕の彼はあまり踊らないからその場が「寒い」ことをきているもので表現できる数少ない存在だったのかなとなんとなく。 銃声が4回鳴り響いた後、すなわち衛兵たちが殺された(と思われる)あと、登場したホセは「寒い」→「上着がない」という感じで気持ちが移っていくのですが、どこか錯乱した感じがある上で上記の気持ちが乗っているのが興味深かったです、うまく表現できないのですが。 初演も同じでしたが、遅沢ホセと杉野エスカミーリョの組み合わせは好きです。年齢的にエスカミーリョの方が年下なのはわかるのですが、「なんだこのよれよれのおっさん」と軽んじている雰囲気がとても良い。
前日はエスカミーリョが山中のアジトに来るときに髪飾りを忘れるというとんでもないポカがありましたが、それはそれで演出の違いでよかったかなと思ってしまいました。宮尾エスカミーリョの「ただ会いたかったから」という雰囲気はある意味白石カルメンと対等であるエスカミーリョにふさわしかったですし、荒井カルメンに「選ばれる」ことを望んでいた杉野エスカミーリョはすてきな贈り物を持ってきた…という流れはなんとなくしっくりきます。
スタンダードな「カルメン」だったと思います、面白かったです。
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(2015/11/01(Sun) 18:59:48)
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