Kバレエ ラ・バヤデール(2016/11/19)ソワレ
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ニキヤ:中村祥子 ソロル:遅沢佑介 ガムザッディ:浅川紫織 ブロンズ・アイドル:井澤諒
★★★★ オーチャードホール
華やかで分かりやすい、魅力的な公演でした。 祥子さんも遅沢さんもマチネとは打って変わって年齢を感じる組み合わせ。登場したソロルを見て「早く身を固めなさい」と思うくらいはある一定の年齢。ニキヤはさらにソロルより少し年上という感じでしたが、それがとてもしっくりくる。ずっとずっと昔から、幼い時から2人は知り合いで、その頃からソロルはニキヤに憧れを抱いていたみたい。それこそ、どこか田舎の村で生まれた2人、ニキヤはその美しさが評判になり巫女として寺院に引き取られる(ニュアンスとしては「売られる」に近い感じ)ことになる、ソロルは彼女に少しでも近づくために村を出て戦士になった…なんていう物語を感じてしまう。ソロルにとって幸せとはニキヤとの短い逢瀬なんだろうとすんなり納得いく雰囲気でした。ニキヤは望んだ人生ではなかったけど、ずっと自分を忘れず会いに来てくれるソロルの存在に救いを見出しているようでした。2人が長い時間を重ねてきたということがよくわかり、これがストーリーのひとつの軸に感じられました。 ガムザッティもそこそこの年齢に感じました。この辺りはラジャが絶妙で彼女の伴侶には自分の跡を継ぐにふさわしい人物でなければならないと思いつつも、娘にふさわしく、また彼女の望む相手を選ばなくてはならないと難儀し、なかなか相手が見つからなかったように思えました。ガムザッティは肖像画(前回と同じ、熊川さんと宮尾さんを足して二で割って遅沢さんを数滴足した感じ)を見て運命の相手にようやく出会えたというような雰囲気になります。それでようやくラジャも決心をした様子。 ソロルとガムザッティが出会った時、それこそ一目会って恋に落ちるという感じでした。2人で見つめ合い、ソロルがガムザッティの手を取る仕草になんとも言えない色気を感じました。しかしまあ、ちゃんとソロルへの愛情が感じられるニキヤとガムザッティだったのですが、女の戦いは完全にソロルそっちのけでプライドのぶつかり合いなのがすごかった。ガムザッティの俗世の欲にまみれたとも言える豪奢な衣装と存在感、俗世から切り離されたようなニキヤの美しさ。見事でした。 3幕はとても華やかに。初演の浅川さんのガムザッティは年下の宮尾ソロルを包み込む感じがありましたが、今回はなんとなく力づくでソロルの気持ちを引き寄せようとしてるみたい。ソロルはどちらかといえばニキヤと別れる方向に傾いていてると感じました。まあ、俗世から切り離されたニキヤの世界に一生付き合うのは辛いだろうなあと思うところもあり、この辺りは納得。でもソロルはニキヤを思い出す、忘れられない。2人の間にあったものって積み重ねた時間だったのかと思いました。ソロルはニキヤを忘れられない。子供の頃から積み重ねたものが彼女を忘れさせてくれない。この辺りはニキヤからもそれを強く感じました。その踊りの中で、ソロルと会うことが喜びなのではなく、ずっと思っていてくれるからそれを信じていて生きてきた、それを失うかもしれないという深い悲しみを感じました。この2人の関係は切ることができない。だからガムザッティがニキヤを殺さなくてはと思ったことにも納得。ガムザッティは自分の伴侶としてソロルを閉じ込めることはできても、結局心は奪うことができない、そんなことを感じたニキヤとソロルの思いの深さでした。
そして納得のできない形でニキヤを見捨ててしまったソロルが深い苦しみの中に陥るのは当然で。阿片に手を出してしまうあたりはすごく納得。 影の王国で出てきたニキヤは燦然と輝く、女神のようでした。美しく、気高く、どちらかといえば手の届かない存在。触れるのをためらうような、本当に美しいその姿。それは長い時間をかけてソロルの胸のうちに描かれるようになったニキヤへの憧れの結晶に思えました。今までのニキヤより、ずっと美しく見えました。ニキヤの姿がソロルの憧れの結晶のように見えたから、影の王国にいたコールドたちが皆ニキヤの姿だったことが腑に落ちました。憧れ続けていたから、ニキヤの形をした幻影をたくさん思い浮かべ、その中で彷徨っているような雰囲気。物語としてはソロルの物語で、憧れ続けたニキヤをずっと追いかけているように思えるシーンでいた。ニキヤの幻の中でさまよって、ずっと長いことかけて積み重ねた思いをよみがえらせ、ニキヤの元へいってしまう。そんな物語に思えました。 照明も薄暗いのではっきりしないのですが、ガムザッティにかみついた蛇は白蛇ですよね?「白蛇」は「神の使い」とも言われていることをなんとなく思い出しました。影の王国のニキヤがあまりにも女神のように美しかったから、そこにいたのが「神の使い」であるほうがつじつまが合う気がしました。 ブロンズアイドルは井澤さん。無私というか無我というか、穢れを全く感じない踊り。一点の雑味もなく、すべてを洗い流すような美しい踊り。動き一つ一つもすばやく丁寧ですし、なにより、その澄んだ雰囲気が物語に、祥子さんと遅沢さんの雰囲気にピタリとはまっていたと思います。 最後に出てきたニキヤは本物のニキヤ…と言ったらいでしょうか。ソロルの中で神格化したニキヤではなく、本物のニキヤ。彷徨って彷徨って、ソロルはようやく本物のニキヤに再会する。幼いころからの思いがようやく成就する、ようやく幸せになれる、そんな風に感じるラストシーンでした。なにかだまされてた気がしますが、「ハッピーエンド」というような幸せな気持ちになるのがK版のラバヤデールだと思っています。そういうところが好きです。
キャストは若干の変更あり。マグダヴェヤは酒匂さん。表情も見えず顔立ちも分からないのに、兼城さんと明確に雰囲気が違うのが分かるのがおもしろい。飛んで跳ねるのは確かなのですが、どちらかといえば重厚感を感じ、物語を重くしているような感じです。おびえる姿からも、普段どんな扱いをされているかなんとなく想像ができる。 太鼓の踊りは初演から引き続き杉野さんオンリー。杉野さんがいなかったらK版のラバヤデールには太鼓の踊りがなかったのではと思っているのですが、ますますその思いが強まります。初演は気力で押し切ってる感じでしたが、迫力はさらに増しつつも、なんというか、ちゃんとコントロールが利いているような安心感があり、見事でした。ちなみに太鼓メンバー男性は本田さん以外よく分かってませんでしたが、とりあえず苦行僧にいなかった兼城さんがいたことだけは分かりました。 影の王国のメンバーも細々替わっておりました。ソリストはさすがファーストキャストは美しいなあといった感じです。春奈さんのふんわり空気を含むようなアームスに見ほれました。 踊りについて、祥子さんは大変美しく、浅川さんも堅調、遅沢さんお疲れ・・・といった感じでした。 とても楽しい公演でした。
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(2016/11/30(Wed) 01:04:40)
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Kバレエ ラ・バヤデール(2016/11/18)マチネ
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ニキヤ:矢内千夏 ソロル:山本雅也 ガムザッディ:中村春奈 ブロンズ・アイドル:篠宮佑一
東京文化会館 ★★★☆
踊り的には破綻がないけれど、淡々と進んでいく、Kバレエとしては珍しいバランスでした。
矢内さんも山本さんも踊りはとても丁寧。ただ、どうしても感情表現が淡泊で物足りない。特にソロルは踊りは本当にサポートも含めきれいにまとまっていたのですが、結局彼はなにを考えていたか分かりづらく、そのために物語が薄く感じました。ちょっともったいなかったです。 矢内さんは相変わらずすらりと長い手足で、特に足を前後に開くジャンプは足がきれいに伸びていて大変好きです。最初はもう少し華やかさがほしいかと思いましたが、楚々とした感じがまだ年若いせかんから隔絶された世界にいる巫女という雰囲気を感じさせ、だんだん魅力的に思えました。ソロルとの若々しい…子供っぽいと言ってしまってもいい恋、ガムザッティとのやり取りで自分の中にあるソロルへの強い思いに気づき、そしてその攻撃性におそれを抱く。印象的だったのは3場での花籠の踊り。ソロルの愛を信じ、その愛を抱いてそのまま寺院で巫女として生きていくように見えました。ソロルからの愛は疑っていないと思いますが、その悲しげな表情が、どこか彼の婚約を祝っているように見えました。彼は私を愛してくれている、でも私は巫女であるから結ばれることはない運命、仕方がないと、愛されている幸福と、ソロルとの別れの悲しさの狭間にいるような感じで、とても魅力的でした。だからこそ、蛇の毒で死の際にいるとき、大僧正の申し出を断る…というよりそんなこと聞こえてもいない、全く関係ないという悲しさを感じました。 ガムザッティの春奈さんは登場時はまさに愛されて育ったお姫様。若々しくおおらかで朗らかで、幸福感にあふれている。すべてのものを持っていると理解しているからこそ、朗らかでいられる。そんなまさにお姫様。だから自分の夫となるべき人が自分の知らないところで情熱的な誓いをたてていたことに怒った…という感じでしょうか。ニキヤに対し、この世界のものはすべて自分が持っていると示すような迫力がありました。悪女に目覚めた…というか支配者階級の人間に目覚めたような雰囲気。最後にニキヤを殺すと決意をするシーンはかわいらしいお姫様ではなく、王者のような威厳すら感じました。そして、このシーンの華やかで美しいガムザッティと、どちらかといえば素朴だけど清楚な美しさを持ったニキヤ…という対比は大変美しかったです。 どちらかといえばソロルへの愛情というより、求めるものは全て手にいれないと気がすまない…というようなガムザッティだったと思います。グランパドドゥが若干バラバラに踊ってる雰囲気だったのが残念。ガムザッティのソロは本当に軽やかに華やかに踊ってくださって見ほれました。
細々としたこと。 演出はほぼ変更なしだと思いますが、最後が少し変わったかな。ブロンズアイドルは最後にセンターで踊り終わってましたが、舞台下手にはけました。その後のニキヤとソロルの踊りも若干違った気がします。この場面、以前は布を使った演出があり、坂はその白い布で覆われていたと思いましたが、それがなくなりスモークになっていました。ヴェールを持ったニキヤが最初に出てきてソロルが追いかけてくる。最後は坂の上のニキヤとソロル…とここは変わりませんでした。 篠宮さんのブロンズアイドルはやはり踊りのむずかしさを少し感じてしまった気がしました。でも、昂った感情を鎮める…と言うのか、凹凸のあるものを平らにならしていくような感じがして、ラストシーンにうまくつながった気がします。途中文句を言いつつもここでブロンズアイドルで一呼吸おいてラストの二人を見ると「良かったねえ」と思えてしまうあたりがずるいです。 マグダヴェヤは兼城さん。足が骨に飛ぶための筋肉をこすりつけたようで、なにひとつ無駄なもののない細さで、見ていてむしろ恐ろしい。空中で飛んでさらにまた上に飛ぶような、重力を感じさせない跳躍。ひょいひょいと軽やかに動く中に柔軟性も感じられて、いつものように見惚れました。マグダヴェヤはほとんど表情も見えず、演技もおびえてるようなものが中心です。それでも個性が伝わってくるのがなんとも不思議です。なんとなく地べたに座ってる時にちっちゃくまとまってる感じのマグダヴェヤで、それもあってかどちらかといえば物語を深く考えると暗い役割なのにどこか口当たりの軽さがありました。ソロルにアヘンを勧める時も持ち前の軽さでひょいひょい勧めている感じがあって、逆に修行が苦しいから苦行僧ってアヘン常用者だろうかだろうかとかなんとか考えてしまいましたよ、ええ。動きの激しい踊りですがバタバタ騒がしいことなく、ずいぶんまとまっていたと思います。1回しか見られなかったのが少し残念でした。 そのほかの苦行僧、本田さん、和田さん、坂元さんは見分けがつくものの、他は全く分からず。太鼓の踊りのメンバーもおそらく苦行僧と同じかと思いつつも、本田さん以外見分けがつかず。というかなぜわかる本田さん。
そのほか細々はソワレ以降の公演で。
さて、最終日終わりまして、昇格のお知らせがありました。順団員の宇多さんが昇格されたとのことで、一人喜んでいます。以前横浜のスクールパフォーマンスの順団員の公演で見た時に、なんとなく凛々しい踊りをする方でずっと気になっていたのです(顔の覚えが悪い私でもすぐ覚えられたきりっとした感じの美人さん)。この公演でも扇を持った人たちの中にいたり、影の王国でも最初の群舞の一列目にいらっしゃいました。エキゾチックな雰囲気の似合う方だったので扇を持った姿は踊りも含め予想通り大変魅力的だったのですが、影の王国の静かな白い姿も美しかったです。いつか正団員になってほしいなあと思っていましたので、いきなりの昇格に驚きました。くるみ割り人形でも見られるものと期待しています(パーティーの時の夫人にいると私がうれしい)。
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(2016/11/20(Sun) 22:50:16)
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