Dracula
2005/10/08
Theater St.Gallen



 9月末に決めた10月頭の観劇旅行。 エッセンのThomasファントムが目当てでしたが、気になるのが10月8日のドラキュラ。 土曜日にドラキュラがあるのに、本当に木、金とファントムに出てくれるのか・・・・。 わざわざドイツまで行ってまたThomasに降られたらあほだなと思うことしばし。 「なんだ、ドラキュラも行っちゃえばいいんじゃん!」というわけで、骨の芯まであほな観劇プランが出来上がったのでした。
 この作品の作曲家はJ&Hと同じフランク・ワイルドホーン。 スイスでの開幕の前にBWでもやっていましたが、ありえないレベルの酷評の嵐を受け、 あっという間にクローズしていました。 なので作品としては全く期待していなかったのですが・・・期待しなくって正解と思えるようなものでした。 「三銃士」も結構だめだめでしたが、あれは音楽や衣装が良かったんで、まだましだと思えるほどだめでした。 脚本だめ、音楽だめ、演出だめ、振り付けだめ、オケさえもだめ、私この作品について何か褒めなきゃだめ? ドイツ語の聞き取りが出来ない人間が「脚本駄目」というのも変な話なんですが・・・一つ一つの台詞はともかく、 全体の流れがどうも悪いような気がしました。 曲は悪くは無いのですが、「どこかで聞いたことある」+「地味」+「同じような曲ばかり」だと、 ちょっと嫌になります。 ジキル&ハイドの曲に似てるのは気付いていたんですが、帰国してから聞いたスカーレットピンパーネルにもよく似ていて びっくりしました。 ワイルドホーンの新作はこのあとミツコ、マイヤーリンク、あと宝塚用の作品とありますが、 本気で大丈夫かと不安になってしまうほどバリエーションが少なかったです。
 上演時間は2時間15分とミュージカルとしてはどちらかと言えば短いほうなのですが、 悪い意味で長く感じました。 話が詰め込まれているような、無理やり引き延ばして薄くなっているような、そんな印象がありました。
 この作品をましにするにはどうしたらいいのかといらんことを考えていたのですが、結局 脚本から書き換えなきゃだめだという結論に達しました(笑)。 まずメインとなる人物とテーマを絞り、サブメインとなる部分を絞り、そのメイン部分にどんな彩を加えるか 考え直さなきゃ始まらない。 登場人物にも無駄が多いから、そこも絞らなきゃいけない。 そうして脚本を根っから書き換えた上で、音楽ももっとバリエーション豊かなものに書き換える。 そうしなきゃどうしようもないです、本当に。
 あ、念のため言っておきますが、役者の方々はそれはそれは素晴らしいものでした。 Thomasに限らず、さすがに芸達者な方がそろっていますから、そういう意味では見ごたえがありました。 作品としてはだめでも、いい役者がそろっていればそれなりに見れるものには仕上がるのだと、 しみじみと感じた作品でもありました。 はい、実はもう一度見に行きたいんです、無理だけど(笑)。

 あらすじを書こうにも詳細が分からないんで、とりあえずメインキャストのことでも。 キャストの説明は、ネットに転がっていたこの作品のあらすじ(複数)を参考にしてます。 ちゃんと原作(ブラム・ストーカー著)を読めばすむ話だとは思うんですけどね・・・。

Dracula - Thomas Borchert
 初めは老人だったが、途中で若返る吸血鬼。
Mina Murray - Ann Christin Elverum
 Draculaに思いを寄せられる女性。Draculaの昔の恋人にそっくり(らしい)。
Lucy Westenra - Nicole Sieger
 Minaの親友。
Jonathan Harker - Jesper Tyden
 Minaの婚約者。
Abraham van Helsing - Chris Murray
 吸血鬼退治で有名なあの方です。
Renfield - Stephan Vinzberg
 ドラキュラの手下(?)。
Arthur Holmwood - Martin Pasching
 ルーシーへの求婚者その1。
Quincey Morris - Frank Winkels
 ルーシーへの求婚者その2。
Jack Seward - Alen Hodzovic
 ルーシーへの求婚者その3。

 話の筋なんですが・・・ええと・・・。 ルーシーとAlive歌って、リザとデンジャラスゲームを歌う、人間として優しさを持ったハイドの物語のような、 人間世界で幸福をつかみつつあるエリザベートを永遠の世界にいざなうトートの物語のような、 本気で二人の男性に惹かれてしまったザラを本当に愛してしまったクロロックの物語のような、 クリスティーヌに自分のところに戻ってくるように訴え続けるファントムの物語のような・・・・。 とにかくそんな話でした。
(まじめに言うなら、土地の売買の話でジョナサンがドラキュラの元を訪ねる→ジョナサンが持ってきた、彼の恋人ミナの写真がドラキュラの昔の恋人そっくりでびっくり→ドラキュラがミナを求めて活動を始める・・・という感じみたいです)

 曲はどこかで聞いたことがあると書きましたが、それでも気に入った曲はあります。 1幕ラストのドラキュラとルーシーの曲は派手で気に入ってます(原題は「Life after life」というらしい)。 1幕中ごろの「Blut(血)」がどうのという曲もかっこよくて好きです。 両方ともJ&HのAliveに似てることは似てますが、この曲自体もすきなんで当然似てる曲も気に入りました。 ミナとドラキュラが出会うシーンはジョナサンもそこにいるので素敵な三重唱になっていました。 問題はなんとなく雰囲気が「Wenn ich tanzen will」の曲で同作品1幕ラストを歌っているよう感じになってる上に、 ドラキュラが「Tanz mit mir」なんて言ってしまうことでしょうか。 あれ、想像するなっていうほうが無理です。 レンフィールドの曲は不安定な音符の並びがなんとも心地よくって好きでした。 2幕はドラキュラの静かなソロがなかなか印象的でした。 他には・・・ミナとドラキュラの二重唱が迫力満点でよかったんですけど・・・ あれ「The point of no return」じゃないの? (というわけで、いい曲、いいシーンはあったんですが、上記のようなつっこみばかり入れてたんで疲れました(笑))
 以下、感想を書いてる最中に思い浮かんだ突っ込みです。 というか、この作品の感想は自然に突っ込みになってしまう・・・・。 基本的にネタばれしてるんで、気にならない方だけどうぞ。

 さて、吸血鬼といえば「吸血鬼に血を吸われた人はその人も吸血鬼」というのが定番ですが、どうもこの話では そうではないみたいです。 何せ最初に血を吸われるのがジョナサンですから、1回血をすっただけで吸血鬼になるのでは 話が別の方向にすっ飛んでしまいます(笑)。 血を吸われるのはジョナサン→ルーシー→ミナの順番。 しかしどれもこれも「クロロックを見習え!」と言いたくなるような惨状でした・・・。 ジョナサンのときは、ジョナサンの血を吸う→ドラキュラ若返るという流れになってるんです。 そのため血を吸うのはThomasでは無くって、同じ格好をした別の役者さんだったんです。 老ドラキュラのメイクは結構厚いんで、気にしなければダミーだと気付かなかったんじゃないかなと思います。 あんな堂々と出てきたダミー、初めてよ(笑)。 それはいいとして・・・ドラキュラがジョナサンの血を吸ったあと、老ドラキュラがジョナサンの横たわっている台の後ろに隠れたの見えたんですけど、 若ドラキュラが台の後ろから出てきたの、見えたんですけど。 いくらでもやりようがありそうなシーンなのに、見事に台無しでした。 勘弁してー。 ルーシーのときは・・・いや、それ以前に彼女の場合、なぜ彼女が血を吸われたのかがよく分からないんですが・・・・ (ジョナサンのときは彼が髭剃り(?)で首の辺りを傷つけてしまい、その血をドラキュラがぬぐってなめるという 意味ありげなシーンがあった)。 血を吸うまでは特別なところは何もなかったんですが、そのあとの謎のリフトがいけない。 プログラムにも写真が載っているのですが、とにかくリフトするほうもされるほうも慣れていないのか、下手。 壁に張り付いた蛙のようになっていましたよ・・・・勘弁して・・・・。 最後はミナ。 やっと彼女もドラキュラを受け入れてくれて(でもこれってデンジャラスゲームだよね!)、 それっぽ過ぎるというか、なんとも言葉に困るようなピンク色のベッドにゴー!だったんですが・・・何あの新手の格闘技。 どう反応していいか分からず、客席で凍り付いておりました。 か、勘弁してくれ!
 さて、上で「吸血鬼が血を吸っただけでは吸われた人は吸血鬼にならない」と書きました。 ではどうすれば人間は吸血鬼になるのか? これは舞台を見てもいまいち謎でした。 多分そこだろうなという場面はあったのですが、それをどう言葉にしていいのか分からないし、一体何の意味があるのかも分からない。 帰ってきて、再度作品について調べていたらその場面に相応しい言葉が見つかりました。 「吸血鬼の胸から血を飲む」。 どういう状態になっていたかはご想像にお任せいたします。 いやー、本当に反応に困る演出には事欠かない作品でしたよ・・・。
 あと、今すぐ直して欲しい演出。 2幕の中ごろだったかな、ジョナサンの苦悩を歌ったソロがあります。 最初は舞台の中央で歌っていますが、途中から舞台前方に出てきます、それはいい。 歌の途中で舞台後方にあるセットが引っ込みつつ左右から幕が閉まっていく、それもよくあるシチュエーションだから それもいい。 問題は引っ込んでいくセットのひとつ、椅子。 これひとつだけ、他のセットの数倍の速さで引っ込んでいきます。 こんなに早く引っ込んでいくセット、見たことない・・・・。 ジョナサンは甘く伸びやかな声で熱唱中(多分一番の見せ場)、客席は椅子の摩訶不思議な動きに驚いてざわめき中。 演出家、出て来い!(涙)
 これは特定のシーンでは無く、脚本の問題だと思うんですが・・・ミナとルーシーが似ていることが 結構足を引っ張っている気がしました。 どっちもJ&Hのリザとルーシーの間みたいな雰囲気なんですよ。 ミナはリザ寄り、ルーシーはルーシー寄りなんですが、ヒロイン二人が似ていると、物語が平坦になってしまう気がします。 何かもっと特徴的な違いが欲しかったです。 ルーシーとアーサーのドラマは考えるほどに面白いんで、それももう少し深めてほしかった。 ミナは似たような苦悩のソロが多かったんで、整理して欲しかった。
 どうしようもなかったのがルーシーへの求婚者3人衆。 あんたら何がしたかったんだーー!! 吸血鬼3人娘は役柄的に3人で一組のような色のなさでも平気でしたが、求婚者3人も同じように なっちゃだめでしょう! さすがにアーサーはルーシーに選ばれるだけあって彼独自の物語はあります。 誠実、自信家、ワイルドと3者3様の魅力というか、キャラの違いはあります。 でも、やってることが同じじゃだめだって。 途中から何で3人もいなきゃいけないのかと疑問に思うようになってしまいました。
 これは言葉が分かれば解決する問題だったのかもしれませんが、ドラキュラに狙われてるルーシーをある夜、 十字架とにんにくだらけの部屋に一人残して他の人たちは去っていくシーンがあります。 いや、それやったら絶対襲いに来るだろ、って言うか、何で旦那と部屋が違うんだよ! と突っ込んでいたら、いきなりルーシーが豹変、にんにくと十字架を投げ捨てて、「さあ、来て!」という状態に。 そして案の定ドラキュラが現れてルーシーは吸血鬼になってしまうのです。 こういう物語の要部分に対する突っ込みは、突っ込んでてもなんとも力が抜けるものがあります。
 あと、最後にひとつだけ・・・。 若ドラキュラの鬘、あれどうにかして! 若さを出そうとして努力しているのは分かります、確かに、Thomasにしてはめちゃくちゃ若く見えます、 写真で見るより実際のほうがまだましでした、でも、あの「乗っけただけ」の黒髪は納得できない! せっかくなんですから、もっとかっこよく見えるように努力してください。 お願いします。

 とりあえず、一通り突っ込んだんですっきりしました。 本当に突っ込みどころ満載で、別の意味で面白い作品でした。 突っ込みどころありすぎて辛かったけど・・・・。
 劇場が小さいこともあったのでしょうか、カーテンコールはなんだかアットホームな感じがしました。 途中、最前列に座っていた人が東宝のレミゼで投げられるお花と同じくらいかもう少し小さいくらいの お花を投げていました。 拾って「Danke」の代わりに笑いながらひざそろえて足を曲げたThomasがすっごくかわいかったです(笑)。 いえ、彼にこんなかわいさがあるとは知らなかったので。 作品ファンなのか、それとも役者ファンなのかは知りませんが、最前列は当然のように なかなか熱いファンに占拠されていました。 こういう光景は好きなので、ほのぼのしながら拍手をしていました。

 と、えらく辛口の感想を書いてしまいましたが、チケット代(約1万円)分楽しんだのはもちろん、 「はるばる行ってよかった!」と思うくらいには楽しむことができました。 私は気に入らない作品だと、遠慮なく拍手しないタイプの観客です。 曲の終了後はもちろん、カーテンコールのご挨拶、ひどいときにはみんな勢ぞろいでご挨拶のところでも拍手しません。 特に最後の部分については「作品として気に入らない」時には頑として拍手をしません。 役者は好きでも、演出がどうしても気に食わないときとか。 「面白くなかった」って感想を観客が表現できる手段って、それだけですから。
 で、この作品、上記のようにこてんぱんに言ってるんで拍手しなかったかといいますと、 拍手してました。 ものすごく気持ちよく、素直に拍手してました。 Thomasが主演だったからっていう部分が無かったとは言いませんが、でも、 本当に素敵な役者さんたちばかりだったんで、気持ちよく拍手できました。 「面白かった」を観客が表現する手段も、これだけですから。
 というわけで、特に気に入った役者さんたちです。

Dracula - Thomas Borchert
 幕が開いて5分たったかたたなかったころのことだと思います。 「ああ、この人ってこんなにうまかったんだ」と、しみじみと感じていました。 前日に見たファントムと比べて格段よかったわけでもありませんし・・・何故こう感じたかは謎です。 歌わせてよし、しゃべらせてよし、あ、でも躍らせちゃ駄目です。 リフトといい、ジャズっぽいステップといい、壊滅的でした。 別に無くても困らないんだから、無くしちゃえばいいのにと、ついうっかり思ってしまいました。
 ドラキュラというのはハイドやら、クロロックやら、ファントムやらとかぶる役柄だと思うのですが、 ちゃんと別物として演じられてるあたりはさすが。 違う役を違うように演じられることについては驚きませんが、 これだけ同じような役なのに、よく違えられるなと驚きました。
 老ドラキュラは厳かな物腰と確かに今しゃべっているのにそこにいることが信じられなくなるような、 霧のような存在感がありました。 動きのテンポがいちいち緩やかで、まるで幽霊のようなんです。 Jesperとの身長差もいい感じで、同じ場所にいるのに別の世界にいる感じがしました。 一方、若ドラキュラは動きにも話し方にも若さと勢いがありました。 尊大な態度と自信に満ちた眼差し。 老ドラキュラの対極にあるような「強さ」が魅力的でした・・・鬘除く。
 とにかく若ドラキュラについては、全てのかっこよさを鬘が台無しにしてる気がしました。 写真で見るよりかっこよかったですけどね、でもね、やっぱりあれ、なんか違う。 というわけで、見た目的には老ドラキュラの方が好きなのでした。 あの白髪の長髪、なかなか似合っていて、素敵でした。 「似合ってて」という言葉が褒め言葉になるのかならないのか、ちょっと判断に苦しむところですが・・・。
 しかしまあ・・・牙つけて歌うことに慣れてたり、口元に血糊がついてる様が決まってたり、 人間には出来ないことが出来てしまうというのが理解できたり、ちゃんと100年以上生きてるように見えたり。 別に「うまい」だけならなんともないんですが、あまりにも板についていたため、ついうっかり 「次のお仕事は人間の役でありますように」なんて思ってしまいました(笑)。 ここしばらく、人外の役(クロロック、トート、ファントム、ハイドもかな?)しかやってませんから。
 ファントムのときは微妙に役と自分の距離を埋めるのに苦労しているように見受けられたのですが、 ドラキュラについては若い方も年食ってるほうも、そんなことは全く感じることがありませんでした。 まさに水を得た魚という感じがしました。 楽しかったです。

Mina Murray - Ann Christin Elverum
 名前は以前から聴いたことがあったのですが、今回初めて見ることがかないました。 知的でしっかり者といった感じの魅力的な女性でした。 脚本的に明らかに損な役回りというか、かなりややこしい立場にいるのに 書き込みが足りない気もしましたが・・・・。 ドラキュラのことをどう思ってたのかということを今になって考えるとはっきりと言葉にできないんですが、 見ているときはジョナサンがいるのにドラキュラのことを思ってしまう彼女の気持ちも分かりました。
 かなり強い、しっかりした感じの押しの強い女性ですから、柔和な感じのジョナサンと いい感じで釣り合っていました。 普段はミナの方がジョナサンを引っ張っていそうなところとか、そんな彼女がジョナサンに そっと弱さを見せて寄りかかるところとか、素敵です。 また、ドラキュラと対等に張り合えるところも良かったです。 主張が強いもの同士なので、ものすごい迫力になっていました。
 そうそう、この作品の写真を見たいのなら、彼女のHPがいい感じです。 ちょっとびっくりするような数の写真がありました。 うれしいことはうれしいんですが・・・なんでドラキュラがDrewなんだろうか・・・。 彼のことも好きなのは好きなんですが・・・うーん・・・。

Lucy Westenra - Nicole Sieger
 この役はCaroline Vasicekがやっていました。 彼女は秋以降出演しないということなので誰になっているのかと思ったら彼女でした。 ケルンで見たLisaちゃんかと思ったら、彼女はNicole Seegerでした。 覚えてないよ、そんなファミリーネームのスペルまで(苦笑)。 (どうでもいいんですが、Caroの方はいつまでこの役をやっていたのか、妙に気になりました・・・・。 6月までやってたってことは無いよね!?っていう感じの役柄でした)
 登場当初はちょっとコケティッシュで、その軽やかさが魅力的な女性でした。 たまに、ミナにとっては放っとけない妹みたいな存在なのかなと思えるところがありました。 ごくごく普通の幸せを手にしそうな、そんな感じがしました。
 ところがドラキュラの血を飲んだ後は一変。 Tanz der Vampireを見た方には説明しやすいんですが、あの作品に出てくるヴァンパイアのようになっていました。 牙見せて威嚇するときの恐ろしさなんて、ほんと、そっくり。 力強い、迫力のある姉御と化してまして、「Leb noch einmal」なんかはもう、ドラキュラと一緒に 世界征服の一つや二つ、軽く出来てしまいそうな勢いでした。 豹変後のルーシーを見てると、それまでのかわいい彼女が思い出せませんでした、本当に別人。 こういうところのうまさは、さすがです。

Jonathan Harker - Jesper Tyden
 はたと気付けば、彼はルドルフで見て、コンサート(Leading men)で見て、今回も見て、 1年に1回ずつコンスタントに見てるんです。 このペースはなかなか理想的かも。
 彼、今までそんなにかっこいいと思ったことはなかったんですが、すっごく素敵でした! 写真で見る限りそんなにかっこいい服を着ているわけではないんですが、彼がきてるとものすごく素敵に見えてしまうあたり、 さすがです。 顔はきれいだし、優しくって包容力ありそうだし、声は甘いし、いやー、こんな旦那さん欲しいですねー。
 ドラキュラの対極にある役柄なんですが、もー、よくこのキャスティングにしてくれた!と手をたたいちゃいそうなほど ぴったりでした。 身長差といい、顔立ちから声色に至るまで、お互い全く違い、かつ二人ともうまいんで、 「住む世界の違い」をひしひしと感じました。 特に冒頭のジョナサンがドラキュラの屋敷を訪れるシーンは物語的にもまだまとまりがあって、 派手な歌があるわけではないのに見ごたえがありました。 本当に贅沢だったなと、今更のように思っています。
 あと、ジョナサン、あなた襲われすぎ(笑)。 ほんと、いろんな意味で弱かったです。 精神的には結構強いと思うんですが、とにかく弱いよー。 それが似合ってしまうあなたがまた素敵(笑)。 そして冒頭の、一人でディナーを食しているところもまた素敵。

Abraham van Helsing - Chris Murray
 今回の遠征でひそかに楽しみにしていた人です。 前回はベルリンでジャベールを見ています。 派手に歌うシーンが無かったのが残念なことは残念ですが、お芝居が素敵だったんで、十分満足です。 CDで聞いたときより低い声でちょっとびっくり。 でもその声の低さがよくって、彼が口を開くと場が引き締まる感じがしました。 じっと何かを見つめる様がまたかっこいいんです♪ ただ役柄的には、この役が本当にこの作品に必要だったのか迷ってしまうあたりが微妙なんですが・・・・。

Renfield - Stephan Vinzberg
 今回の大穴(笑)。 本当に全く知らない人だったんですが、気に入りました。 正気なのか、いかれてるのか分からないところが面白かった。 「Meisters Lied」、ちょっと長すぎるんで演出にもう一工夫欲しいところですが、フラットが大量についていそうな 雰囲気といい、不協和音になりそうでいて聞いていて気持ちのいいところといい、とにかく面白かったです。

Arthur Holmwood - Martin Pasching
 地味ーに良かったです。 地味な役なんで、一応これでも褒め言葉(笑)。 ルーシーが彼を選んでくれるんですが、 気が弱くって、引っ込み思案で、でも優しくって誠実で幸せにしてくれそうな人。 自信がなさそうな彼の態度と、自信がその魅力を際立たせるルーシーとの違いがなかなか面白かったです。  昨年ベルリンに行ったときのアンジョルラスだと知ったのは帰国してから。 おお、あの地味なアンジョルラスか! (それ以外のことはすでに忘却の彼方) 今回は地味な役でしたが本当にかっこよかったです。 と言いますか、ルーシーとアーサーの物語はそれはそれで色々なドラマがあって面白いんで、 もっと掘り下げて欲しかったなと、脚本家に注文つけてみたくなるのでした。

 最後に、上記の感想には全て「歌がばかみたいにうまかった」という言葉がつきます(笑)。 このあたりは、もう、本当にさすがとしか言いようがありません。 ヘルシングとアーサーには歌い上げる系の曲が無かったため、そこまで凄いとは感じませんでしたが、 堅実にうまかったです。 ドラキュラとミナとジョナサンに至ってはもう・・・格が違うってこういうことかとしみじみ感じさせる ものがありました。 音を外さない、声量があるまでは基本、それに加えて丁寧に言葉に気持ちを乗せていっているのですから、 たまらないです。
 そしてキャスティングがまた「良くぞ!」言いたくなるほど良かったんです。 個人個人が役にぴったり当てはまってるのはもちろん、バランスがいいんですよ。 ミナはジョナサンと並んでもドラキュラと並んでもぴったり来るし、ルーシーはアーサーともドラキュラとも似合ってる。 ドラキュラとジョナサンの対比がまた面白く、ミナとルーシーは年頃や雰囲気的にしっかり「親友」に見える。 レンフィールドは一人声質や雰囲気が違っていたため異質感が際立ち、 ヘルシング教授は場を締めるのにもってこいの声と存在感を持ってる。 ルーシーの求婚者3人は笑っちゃうくらい個性がはっきりしてるし・・・。 それぞれ魅力的な役者さん達でしたが、このメンバーだからこそ面白かったのかなと思えるところがありました。
 「作品は駄目だけど、役者さんたちは本当に素晴らしかった」、結局、それ以上でもそれ以下でもなかったと思います。 でも、その役者さんたちの魅力が半端じゃなかったからこそ結構楽しめましたし、また、 色々もったいないなと思ったりもしました。


 追記:
 ちょっとあちこちあさっていたら、BW版の音源を少しだけ聞けるページを発見しました。 作曲者のワイルドホーン氏のページから行けます。 実際に聞いてないのに言うのもなんですが・・・多分St.Gallen版の方が音はいいです。 BW版はシンセサイザーを活用しているらしく、音が軽くっていまいちでした。 ワイルドホーンの曲は重厚なオーケストラとドイツ語に合うような気がします。 それはJ&Hでもスカーレットピンパーネルでも感じました。 そういう意味でドイツ語圏で見れてよかったと思っています。



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