オペラ座の怪人
2006/10/12
四季劇場(海)

オペラ座の怪人佐野正幸
クリスティーヌ・ダーエ沼尾みゆき
ラウル・シャニュイ子爵北澤裕輔
カルロッタ・ジュディチェルリ種子島美樹
メグ・ジリー宮内麻衣
マダム・ジリー秋山知子
ムッシュー・アンドレ林和男
ムッシュー・フィルマン青木朗
ウバルド・ピアンジ半場俊一郎
ムッシュー・レイエ田代隆秀
ムッシュー・ルフェーブル岡本隆生
ジョセフ・ブケー塚本伸彦


 久しぶりの新ファントム、佐野さんを見に行ってきました。 前日予約、R席で行ってきたのですが、ここって本当にシャンデリアがかけらも見えないんですねえ。 個人的には、シャンデリアは前回2階席でたっぷり見たのでいいのですが、 確かに、これは初めて見る人なら3000円分くらい損している感じがします。 でも、そこそこ見やすい席が前日まで残っているのは、まあいいかなと思えました。

 本題に入る前に、すごく今さらなことかもしれませんが、近頃四季の舞台、見るたびにパワーダウンしてる気がします・・・。 某東宝さんのように「音楽とオケはいいのにあなたが全部ぶち壊してるから、お願い、黙って!」ということもありませんし、そちらより演出は(四季オリジナルのも含めて)いいので見れないことはないんですが、見るたびに小粒になってるような気がするんですよね。 最初は手を抜いてるのかなと思ってしまったんですが、そういうわけでもない感じですし・・・。 何か決められた範囲があって、そこから少しもはみ出さないように気を使ってる・・・そんな感じがしました。 手を抜いているというよりも、舞台上にある感情の全てが遠慮がちに思えて、舞台からはみ出して迫ってくるようなものが感じられませんでした。 歌とか踊りについては安定感が増していたのに、本当にもったいない。

 佐野さんのファントムはそんな中にあっても結構健闘していたと思います。 歌についてはあまりいい話を聞いていなかったのでそんなに期待していませんでしたが、なかなかどうして、よく延びるいい声でした。 立ち姿も美しかったし、手の動きもきれいだった。 特に「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」はその動きが世界の全てを支配しているみたいで、印象的でした。 ただ、根が真面目というか、優しいというか・・・どうも「普通の人」っぽいファントムでした。 「人間だけど、人間じゃない」、ファントムってそういうところがあると思うのですが、どうもそれを感じることが出来ませんでした。 そこに狂気の芽を見つけられることはありませんでしたし、色気の面でもいまいち。 なんか大人しくまとまってしまっている気がしました。 母親から愛されなかったゆえに捻じ曲がってしまった、そんな感じがしました。 そして自分の受け取れなかった愛情をクリスティーヌに注いでいる気がしました。 彼女との関係は明らかに「師匠と弟子」もしくは「父親と娘」。 「男と女」としての側面はほとんど感じませんでした。 最後は正に「過保護な親の元から巣立っていった娘」でした。 ヴェールを抱えているところなんて、赤ん坊を抱えているようにしか見えなかったですし。 ずっと庇護されていた小鳥が自分の力で飛び立った・・・という感じがしました。 そのシーンだけならそこそこ納得いくのですが、できればもうちょっと色気があるところを見せていただきたいです。 「ポイント・オブ・ノー・リターン」なんか、もうちょっと工夫してもらえたら、嬉しいです。 あと、怒ったときの演技がなかなか控えめだったので、もうちょっと激昂していただけたら嬉しいなと(何というか・・・優しさがにじみ出てしまっているというか・・・)。 なんだかんだ言ってしまいましたが、あの声量でちゃんと「言葉を届けるために歌う」人は珍しいと思うのでがんばっていただきたいです。 背が高かったらクロロックとか見てみたいなとか、ふっと思ってしまいました。
 佐野さんは長いこと見てきている役者さんですが、今まで見てきた中で一番かっこよかったと思います。 タキシード姿がかっこよかった・・・というのもありますが、仮面を取った姿がなぜかかっこ良かったんです。 あの顔が素直に「かっこいい」と思えたのは初めてです。 不思議なんですが・・・ちょっと見惚れてしまいました。

 もう一人「ああ、いいかも」と思えたのがラウルの北澤さん。 若くて笑顔が素敵でハンサムな子爵様はもう、それだけで眼福です。 ああがんばってるなあと思えるところもあったのですが、この役はそのがんばりもほほえましく見えてしまうこともあるので問題なし(笑)。 本当に力いっぱい愛してくれて守ってくれるだろうと思える魅力的なラウルでした。 無意識のうちに目が行ってしまうのよね、うーん、目の保養。 アンドレとフィルマンはベテランでさすがの安定感があり、この3人がそろっているシーンは見ていて安心しました。 ちゃんとこことは違う別世界に生きているように見えるんですよね。
 沼尾さんのクリスティーヌは悪いわけじゃないけどいいわけでもないなーと思うシーンから、 何か天使の一種であるかのような純粋な美しさを見せてはっとさせてくれるシーンまで色とりどりでした。 もう少し彼女の性格がはっきり見えたほうが面白かったかな? でも最後の方でファントムに哀願する姿が聖女のように美しくって、それでなんだか色々満足してしまいました。 ただ一点気になったのが台詞回し。 野村玲子さんにそっくり。 彼女のクリスティーヌは見たことがないのですが、それなのに「きっと彼女ならこう演じるだろう」と思ってしまうような口調でした。 彼女の台詞回しはこの作品にあっているとはちょっと思えないので、これは問題かも。

 役者さん個人個人の実力を思えば本当にうまくなったと思えるものがあったのですが、 感情の起伏が緩やかすぎて、本物に見えてこなかったのがやはり心残り。 やっぱりこの作品は「これを毎日やってるの?」と思えるような燃え尽きるような感覚があって欲しいなと思うのです。 そこそこ見所があっただけに、もったいなくて仕方ありませんでした。



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