シェヘラザード(Bプロ)
2006/10/15
新宿文化センター

ゾベイダスヴェトラーナ・ザハロワ
金の奴隷ファルフ・ルジマトフ
シャリアール王ゲジミナス・タランダ
宦官長ヴィタウス・タランダ
シャザーマンジャニベク・カイール


 バレエについては全く男性に興味が湧かないのですが、 ルジマトフは珍しく「この人見たほうがいいかも・・・」と思ったので見に行ってきました。 新宿文化センターは行ったことがあるのかないのか位の記憶しかありませんでしたが、「地図を片手にしているそこそこおしゃれしたおねーさま(複数形)」の後を着いていったら無事につけました(笑)。

 割引チケットで行った身の上でこういう文句もなんなのですが・・・演奏がテープなのにS席14000円ってありなんでしょうか? テープ特有の音を聞きつつ、ちょっと首を傾げてしまいました。 劇場に入る時はバレエ鑑賞時のお楽しみ「チラシの束」も貰えなかったしで、ちょっと色々不満を抱えつつ鑑賞開始。
 なんですが、見始めてしばらくして思い出しました。 私は長いことバレエを見ても「すごい」と思っても「楽しい」と思うことはなかったんですよね・・・・。 鍛え抜かれた美しい体が織り成す踊りは確かに素晴らしいのですが・・・うーん、私は「バレエ」とか「ミュージカル」とかいう媒体じゃなくって、それによって出来上がった「作品」や「物語」が好きなんだなと改めて思ってしまいました。 皆様きれいで本当にすごいんですが、受信アンテナ壊れまくって、どの演目も眠気と戦っておりました。 ダンサーの方々は本当に絵の中から抜け出したかのように美しいんですが、あまりにも頭が小さく、また手足が長く体全体が細いので微妙に違和感がありました(苦笑)。 やはり、人間ほどほどが一番かもしれませんね(←間違った感想)。
 「ダッタン人の踊り」、むかーし歌ったことのある好きな曲だったので、久々に聞けて嬉しくなりました。 踊りについては、もう少し力強さがあったほうが面白かったかなあと。 特に男性陣がそろえる気があるのかないのかといった感じだったので、ちょっと不満。 でも個々で見るとそこそこ踊れる人が多数いたので、日本の現状を振り返りちょっとうらやましくなったりしました。 作品の雰囲気自体は好きだったので、ちょっともったいなかった。 「瀕死の白鳥」は白鳥が元気なまま曲が終わりました。 それにしても短い曲だったんですね。 「プレリュード」も「アダージェット」も「ワルプギスの夜」も一応記憶には引っかかってるのですが、何せ普段ミュージカルとおんなじのりで感想を書いているので、こういう作品はどう感想を書いていいか分かりません。 やっぱり私はバレエ初心者だなあとか、やっぱりバレエって駄目かもと思いつつ休憩時間を過ごしておりました。

 で、お目当ての「シェヘラザード」なのですが、これは面白かった。 やっぱりストーリーのある作品はいいですね。 王妃様とその愛人の奴隷を中心とした物語。 ここでようやく本日のお目当てその2、ザハロワの登場。 噂にたがわぬ美しさでした、いやー、眼福眼福。 色気とか妖艶さという部分については「無いことはない」レベルなのですが、その女王然とした存在感がまず素晴らしい。 ほんのちょっとした仕草で他人を指図することが出来る、そしてそのことに慣れておりそれをするのが当然と思ってる。 ちょっとした仕草だけでもいかにも貴人であるといった部分があり、惹きつけられました。 そして腕の動きの細やかさの素晴らしいこと! 本当に人間かと疑いたくなるくらい細やかに動くんですね。 ちょっと悪女的な面ものぞかせていましたし・・・うーん、彼女の白鳥は何を推しても見るべきなのかも・・・。 何をしても魅力的で、意図せずにも目がそちらに行ってしまう存在感がありました。 で、お目当てその1のルジマトフですが、さすがおもしろいダンサーだと思わされました。 本当に高い技術を持っていると感じさせられるし、存在感もすごい。 アラベスクをした時の体の張りの美しさと安定感は正に「完璧」という言葉を使いたくなるようなものでした。 でも何より、それなのにゾベイダに跪く姿が、ひれ伏し足に口づけする姿が様になってるのがすごい。 本当に存在感ばっちりで主役のオーラを放っているのに上記の動きが様にあるのが本当に面白い。 ザハロアと並んでお互い他のダンサーとは違った異質なオーラを放っているのが面白かったし、 ゾベイダのほうが明らかに「主人」ではあったけど、それでも金の奴隷を慕っているというバランスが良かった。 二人の踊りは解説文にあったように「官能的」ではなかったけれど、刹那的で物悲しい中に激しさがあって、 目が離せませんでした。 ちょっとしたやり取りも面白かったんですが、下手側にあったカーテンが邪魔でよく見えなかったのが残念。 階段というセットがあるのに、それを隠すようなカーテンを何故置かなくてはならないかがよく分からないわ。
 しかし、一番印象に残っているのは最初と最後にだけ出てきたシャリアール王だったりする(笑)。 髭面のいい男がターバン姿というだけでもう気になってしかたなかったのですが、ラストが本当に良かった。 王者ゆえの威厳と存在感、しかしその裏に潜む孤独と猜疑心。 それゆえに王妃を試すような真似をし、裏切りを知ると共謀者たちを皆殺しにする。 プログラムに書いてあるあらすじとちょっと違いますが、彼はゾベイダまで殺すつもりは無かったように見えました。 彼女の取り繕い方一つで、彼女だけは救われるように思いました。 彼女が戻ってくると確信していたからこそ途中までどこか悠然とした顔をしていた (安堵していたというか、王としての威厳を取り戻したというか)。 しかし、彼女が絶望(多分、金の奴隷を失った失意)故に自ら命を絶ったとき、思いもかけぬ狼狽振りを見せた。 彼女が再び自分一人の物になると信じていたからこそ、最後の失意があるように思えました。 序盤の狩りに出かける前、ゾベイダに口付けたあとに周囲に睨みを利かせてから出かけて行ったりする所もそうでしたが、強さと弱さのバランスが素晴らしくて、確かに彼ならこうするだろうという説得力がありました。 何もかも欲するものは全て手に入れられる者が、人の心さえもそうであると信じ、最も求めているものを失った物語。 最初と最後にちょろっとだけ出てくるのにしっかり物語をまとめてくれて、ちょっと感動しました。 いい役者さん見つけたわー、と思ってプログラムを見てみてようやく、彼が元ボリショイバレエの名ダンサーかつこのバレエ団の芸術監督であったことを知りました。 良かった、私のアンテナもまだまだ捨てたもんじゃないわ(笑)。 写真を見る限りスポーツ選手のようにがっちりしたがたいの人になっちゃってるのでこの先どんな舞台に出るかは分かりませんが、もう一度まじめに彼のお芝居を見てみたくなりました。
 ザハロアは今度はクラシックチュチュの作品で、ルジマトフは手っ取り早く海賊のアリ辺りで見てみたいです。 シェヘラザードという作品自体も面白かったですし、最終的には見に行ってよかったと思えました。
 ゲストお二方や芸術監督はさておき、他のダンサーの方々のイメージからーは「白」という感じがしたのですが、「ダッタン人」にしても「ワルプギス」にしても「シェヘラザード」にしても作品のカラーは極彩色。 最初から最後まで違和感が付きまとったのですが、その原因はこの辺にあった気がします。 1部にもっと「白っぽい」作品があれば、全体の印象も変わったかもしれないなとちょっと思っています。
 カーテンコールでは、ルジマトフやザハロワに花束を渡す人が続出でびっくり。 最初はザハロワが花束をひとつもらったくらいで、このときは花束の中から薔薇を一輪取り出してルジマトフに渡す→ルジマトフは跪いてザハロワの手に口付けというなかなか素敵なシーンも見られたのですが、その後十数人もずらりと並ばれるとちょっと複雑な気分になりますね。 なんとも、珍しい経験ができた舞台でした。



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