二羽の鳩/三人姉妹
2006/11/09
神戸国際会館こくさいホール

二羽の鳩
少女吉田都
青年輪島拓也
ジプシーの少女松岡梨絵
愛人宮尾俊太郎
ジプシーの少年アレクサンドル・ブーベル
友人長田佳世
神戸里奈
小林絹恵
副智美
浅野真由香
中島郁美
白石あゆ美
米澤真弓
三人姉妹
オリガ柴田有紀
マーシャヴィヴィアナ・デュランテ
イリーナ東野泰子
ヴェルシーニン中佐熊川哲也
クールギンスチュアート・キャシディ
トゥーゼンバッハドゥ・ハイ
ソリョーヌイ芳賀望
アンドレイ・プローゾフピョートル・コプカ
ナターシャ長田佳世
軍医チェブトイキンイアン・ウエッブ
アンフィーサ高橋佳子
メイド中島郁美
兵士橋本直樹
田中一也
リッキー・ベルトーニ
スティーブン・ウィンザー


 「GWも夏休みもずっと仕事だったし! 今年は5年連続で行っていた欧州旅行も諦めたし!このくらい楽しいことやってもいいよね?」

 と自分をだましつつ、神戸まで行ってまいりました。 ひとつの作品は一公演まで、どうしても行く場合はメインキャストの変更があった場合だけ・・・なんていう 自分との約束をしっかり破っております(笑)。 神戸は市内の電車の使い勝手がつかめないところを除けばいい街でした。 劇場は2階席がちょっと高いように思いましたが、特別よくもなく悪くもなくという感じでした。 バレエだったら1階後方が一番見やすいかしら?

 「二羽の鳩」については前回からのメインキャストの変更は無し。 その分、本当にわずかな違いだとは思うのですが、面白くなっていました。 ミュージカルを見るときの私の持論「歌のうまさは評価基準を設けられるけど、お芝居については好みに拠るところが大きい」、 「歌」の部分を「踊り」に変えるとそのままバレエに当てはまる・・・かな? (まあ、バレエはあまり回数見てないので偉そうなことは言えませんが) このバレエ団、踊りについては文句のふたつやみっつや(以下略)あるのですが、 演技については好きだと改めて思えました。 うーんと、都さんについてはちょっと別口なのでちょっと後に回します。 2幕のジプシーの野営地でのお芝居が本当に面白かった。 メインの三人の気持ちが本当にわかりやすい。 「君こそ僕のミューズだ」とでも言いたそうな青年。 「この子かわいいし、なんか私の子と気に入ってくれるから、ちょっと遊んでみようかしら」という感じのジプシーの少女。 「まったくこいつは、また悪い癖が出た」という感じでジプシーの少女を見ている愛人。 この三角関係が面白いくらいはっきりしていて、見ていて飽きませんでした。 踊りについては輪島さんも宮尾さんも多少不安定だったんですけどね。 お芝居が面白かったので、ついうっかり多少のことは目をつぶってしまいます。 全体的にも「ジプシーの一団」としてのまとまりがあったと思います。 宮尾さんはまさに「若頭」という感じがして、頭ひとつ分出ている気がしました。 男性陣については、特にこの「若頭」を尊重するような風合いが強く出ていたように思えます。 たてようとしているというか、ちょっとは敬っているというか。 面白かったのはジプシーの少女の踊りをはやし立てるときで、愛人は彼女のことを「自分の女」として見ていて、 その他の面々は「若頭の女」としてみているように思えました。 この違いがささやかなんですが、面白かったです。 ジプシーの一座にあって一番目を引いたのはジプシーの少年のアレクサンドル・ブーペル。 背は低い(都さんと同じくらい)のですが、とにかく踊りが端正で丁寧。 えびぞりジャンプをすれば描かれた弧がいずれ円になるのではないかと思えるくらい見事なのに、 荒っぽさが全く無いんです。 うーん、このあたりK生粋の方々にも見習ってほしいです。 アクロバティックに見えても、ちゃんとジプシーのような存在感を放っていても踊り方がきれいに型にはまっている。 演技の面でも「若頭の弟分」といった雰囲気が面白くって、踊っているときも、 「やれやれ」といった表情で恋人を見ている愛人とどこか楽しそうにしゃべっているときも、思わず目が行ってしまいました。 踊れる役については限られてきてしまうと思いますが、純粋に踊りのうまさだけで言ったら輪島さんよりうまかったと思います。 彼についてはこの先どんな役をやってくれるか楽しみです。 その他ジプシーたち。 男性陣は前回あまりのそろっていなさに切れかかったんですが、ずいぶんとまとまってきていると思いました。 踊りはあと一息、でも雰囲気はまとまってきてると思います。 はやし立てるときの勢いが、気持ちよかった! ずいぶんと楽しくなってきたので、あとはもうちょっとそろって、 もうちょっと丁寧になってくれればなと思っています。
 踊りについて。 松岡さんは名古屋のときより少し安定感が増して、少し肩の力が抜けてきた気がします。 もちろん都さんと比べてしまったら技術雰囲気ともに負けてはいるのですが、それでも前回より自信を持って、 楽しそうに踊っていたと思います。 輪島さんはやっぱりまだ「演技はいいけど・・・」という感じです。 2幕のソロは本当にどうにかしてください。 音楽に合わせて手足を動かせば踊りになるわけじゃないのよ、まったく・・・・。 雰囲気はいいんですけどね、あの「まったく子のはばかなことばっかりして・・・」と思いつつ、 見捨てられないだめな坊やの雰囲気。 気に入っています。 宮尾さんもまだ荒っぽいですが、役が役なのと、リフトがうまいのと、そこまでソロの見せ場がないということで 目をつぶっております(笑)。 でも存在感があって、迫力があって、この役にぴったりだと思いました。 来期には経歴がプログラムに載るところまで昇格してるといいなあ。 前回見つけられず、今回見つけられたのは田中一也さん。 大変かわいらしい顔で(失礼!)踊ってらっしゃいました。 さすが元ロシア人形、結構派手な動きでした。
 最後に都さんなのですが・・・、今日も素晴らしかったとしか言いようがありません。 技術は安定して高レベルだし、感情はがんがん伝わってくるし、喜怒哀楽すべての流れが自然で、かつかわいらしいし。 鳥の動きを真似る姿も、前回は手の動きにばかり見とれていましたが、首を前後させる動きが絶品だと今回気づきました。 リアルなのに品はなくさず、踊りとして完成している。 完璧です。 何度見てもいいものはいいのだと改めて感じました。 よく日本に戻ってきてくれました&よくこの演目をやってくれました! 2度も見られた私は果報者です。

 この作品は踊りとしてもお芝居としても見所盛りだくさんですが、今回特に印象に残っていることを。
 ポーズを取る少女のコケティッシュなこと! このかわいらしい表情を見るだけで幸せになります。 輪島さんの「絵を書く」という動きは流れるような感じが気に入っています。 明らかにスランプ真っ最中の様子。 この苛立つ気持ちはなんとなく分かるかも・・・。 椅子から崩れ落ちるように仰向けになって上半身を落としてるところもなんとなく分かるような。 少女は謝るように諭されるんですが、首を振っているんですよね。 確かに、青年の苛立ち方はどこか理不尽に見えました。 うん、だから分かるんです、この二人の気持ち。 友人の一人が椅子に座ってポーズを取っている部分、かわいくって気に入っています。 友人たちを見ていると、やはりコッペリアを思い出します。 青年のことを好き(これは恋愛云々まったく関係ない「好き」です)だけど、最後はやっぱり少女の味方という風情が 良く似ていると思います。 宮尾さんの若頭(もうこれで通します(笑))、黒い上着がよく似合っていて、かっこいいです。 ジプシーの少女に手を伸ばす青年の手を何とか自分の方に引き寄せる少女のシーン。 かわいらしくっていじらしくって泣けます。 少女とジプシーの少女の踊り対決、少女の友人たちもつたないながらも少女のことをはやし立てているんですね。 こちらもかわいかったです。 指を鳴らす音のあるなしで音楽がこれほど表情を変えるのかとちょっとびっくりしました。 このほかにもジプシー達がらみで面白いところがあったんですが、よく覚えてない・・・。 少女のアラベスクが若頭の顔に直撃!は強烈に覚えていますが(笑)。 最後に青年にリフトされる少女、腕を振り上げたまま怒っているのがまたかわいらしかったです。 追い出すときの必死さもかわいらしいし・・・。 本当にひたむきな少女です。 最後にキスまで投げて念入りなジプシーの少女、てだれですね。 青年は一時気まずそうにしていますが、完全に夢見る瞳。 「あの人を探しに行かなくちゃ」と完全に目があっちの世界に行っていました。 少女は本当にひたむきに青年を見てるんですよね、その面差しがせつなくって・・・・。 テラスに出る彼女の寂しそうな後姿、そして静かにそこにいる友人たち。 とても印象的なラストシーンでした。
 2幕冒頭、貴婦人たちの鳥を模した動きが印象的で気に入っています。 占いとスリ、差別だ偏見だと何とか言われるようなことかもしれませんが、 今でもよくガイドブックに注意書きとして書かれてることだなと思ってしまいました。 彼らの住まう世界の一端を暗示しているように思えました。 それにしても、ジプシーの少年は生き生きとしていて闊達で、魅力的です。 黒いマントはジプシー達の世界の闇の象徴、2幕冒頭のスリ行為に始まり腕相撲、リンチと、 うまく使ってると思います。 この辺の演出の物語性の高さは気に入っています。 こういう演出、好きです。 ジプシーの少女と、青年、若頭が踊るシーン(パ・ド・トロワでいいの?)。 恋の鞘当というほど本気ではありませんが、それぞれジプシーの少女は自分と踊るべきだというような 態度で入るのが素敵。 また、二人の男を虜にしているようなジプシーの少女の余裕に満ちた魅惑的な笑顔が素敵。 青年が上着を投げ捨てるところ、まるで「ここで男を見せてやる!」とでも言っているように見えました。 普段は明らかにインドア派なのに張り切っているところが妙にかわいく見えました。 女性ジプシーたちがゆったり踊るシーン、 扇情的ではありませんが、どこか色香が漂って気に入っています。 が・・・、ついうっかり見入ってしまった若頭と少年。 この二人の「兄貴と弟分」という雰囲気は気に入っています。 見た目的にもぴったりなんですよね・・・。 踊りを見よう、見ようと思っていてもオペラグラスが自然にそっちに行く・・・(だめだめ)。 青年はジプシーの野営地に何をやっても雰囲気が馴染まず浮き上がっていたのが面白かった。 見た目かっこいいので、ゴージャスな美女、ジプシーの少女と並ぶと絵的にもきれいなんですが、 正に違う世界に住まうもの同士。 このまとっている空気の違いは何度見ても面白いものがありました。 何度か繰り返された振り付けですが、地面に一度手をついてすぐ立ち上がる・・・というような振りが気に入っています。 青年が一度黒マントに包まれるシーン、ジプシーの少女が青年を抱きしめつつ若頭に合図を送っているのが面白い。 段々と本気でジプシーの少女は自分と踊るべきだと主張するようになってきているように見えた青年。 若頭が徐々に本気になってきているのに気付かず、踏み入れてはいけない部分にまで 足を踏み入れてしまったように見えました。 そしてその報いと言える腕相撲のシーン、 「どっちもがんばれ」とはやし立てるようなジプシーの少女の笑顔が蠱惑的で怖い・・・。 無責任さの中に、若頭の勝利を確信してるようなところが見えました。 前回もしやと思ったのですが、最後はナイフが出てきてるんですね、恐ろしい! しかし結局怪我をしたのは若頭の方。 「あんた、大丈夫?」「あのやろう、やってくれるな」という雰囲気の二人が気に入りました。 ジプシーの少女のことを本当に信じていて、裏切られた青年の痛々しさが印象的。 このシーンも青年の真摯さが印象的です。 幕前のジプシー達の小芝居はやっぱり好き。 そして打ち捨てられた青年も。 街角に潜む闇に触れて恐怖を知った瞳、静かに腕の中に抱えられた純白の鳩。 これがとても印象的でした。 最後、戻ってきた青年を迎える少女がしっとりとした色気を持っているように見えました。 ただじっと待っていることで、少し大人になったというか・・・。 小鳥のように付きまとって「好き好き好き」を繰り返すだけじゃない、ちょっと今までとは違った愛情が 芽生えたように思えました。 二人ともちょっと大人になったというか・・・。 包み込むような幸福感があったと思います。
 前回は鳩さんは大変おとなしくしてくれていて、最後はまさに「二羽が元の巣に戻った」という感じでした。 今回は残念なことに鳩さんは好き勝手散歩していました。 最後も鳩が飛び込んでくる・・・かと思いきや一度引っ込んでまた出てくるような具合でしたし。 やっぱり動物はうまくいきませんねえ(苦笑)。

 ジプシーたちの踊りについてはある意味「ステレオタイプ」の役柄をそのまま演じているという感じでした。 うーん、うまく言えないのですが、悪い意味ではなくてね。 ありきたりのキャラクターかもしれないけど、その人物が本当にそこに存在するように、 皆さん根っからその役になって、その役として一瞬一瞬を楽しんでいるように見えました。 この雰囲気、やっぱり好きです。 ただ・・・書いていて気がついたんですが、1幕の友人たちの印象がちょっと薄い気がしました。 ジプシーたちに比べたら大人しめの役柄だからかもしれませんが。
 全体的に「上り坂を登っている途中」という気がしました。 メインの方々はキャラクターが合っているので、この先どんどん良くなっていくように思えました。 その他の方々についても、やっぱりこのバレエ団はこういう楽しい雰囲気の作品が似合ってると思いました。 一つにまとまるような高揚感がぴたっと決まるというか・・・・。 こなれて来ればもっと面白くなると思えました。


 「二羽の鳩」は素直に「面白くなった」と言えるのですが、 「三人姉妹」は面白くなったような、坂を下ったような・・・・。 「二羽の鳩」はこのバレエ団にぴったりのカラーだと思えたのですが、 「三人姉妹」はやっぱりまだまだかなと思えてしまいました。 やはりこういう重くて深い作品を面白くするのは難しいのですね・・・。 新キャストについてはいいような悪いような。 柴田さん、見た目およびソロの踊りは松岡さんより好きです。 「長女」「学校の先生」「オールドミス」すべてがしっくり来ました。 変に作っている感じがなくなったのも気に入りました。 品があって楚々としていて包容力があって・・・・いいお姉さまでした。 ただ、クールギンとの距離感は松岡さんのほうが好みでした。 もうちょっと「あなたを尊敬してます」と「好きです」の間という雰囲気がほしかったかな。 東野さんは、悪くないです。 初々しくって若々しくって、本当にかわいらしい! のですが、前回の荒井さんがすべての面において「完璧」といいたくなってしまうものがあったので、 ちょっと見劣りしました。 松岡さんがジプシーの少女&オリガを兼任しなくなったことは歓迎したいのですが、 荒井さんはイリーナで出ていただきたかったです。 ええ、東野さんも悪くないんですよ。 技術はしっかりしてるし、末娘というかわいらしさもありましたし。 喜怒哀楽もはっきりとわかりましたし・・・。 今を生きる喜び、そして未来への希望。 二人の男性に愛されていてもそれは周りを流れる風のようなもので、彼女自身は何も感じていないという風情。 ソリョーヌイではなくトゥーゼンバッハを選び、彼と踊ったときの喜び。 気持ちは伝わってきましたし、踊りもよかったんですが、やっぱり荒井さんの記憶が鮮明なうちに見てしまったので、 ちょっと印象が薄かったのが残念でした。 トゥーゼンバッハは前回の輪島さんがキャラにはまりすぎていたのでどうなるかと思っていましたが、 タイプは違ってもこちらもぴったりはまっていました。 輪島さんが今まで大事に育てられてきたようなぼんぼんなら、ドゥ・ハイさんは無駄なことまで難しく考えるような 哲学者タイプでしょうか。 軍人の格好をしているのに、小難しいことばかり考えていそうな感じがぴったりでした。 あえて良し悪しをつけるなら、決闘のシーンの情けなさは輪島さんの方がよかったです。 踊りのシーンはリフトも含めてドゥ・ハイさんのほうがよかったです。 ともあれ、これでトゥーゼンバッハも青年とかぶらなくなったので安心しました。 コプカさんのアンドレイは足取りが軽くってどこか放蕩息子風。 ジャンプするときの足捌きが結構きれいで、それが印象に残りました。 ドゥ・ハイさんのときより好きです。 ドゥ・ハイさん自身を見ても、アンドレイよりトゥーゼンバッハの方が似合っていたと思います。
 前回書き忘れていましたが、イアンさんの軍医はいいですね♪ いすがこけるところで笑いを誘っていました。 見るたびにうまくいくんだろうかと思うような椅子の動きなのですが、きれいに決まってしまう当たりさすがです。 冒頭のメイドのシーンは音楽が軽くって気に入っています。 あそこはリフトも軽くって、享楽的でいいですね。 あの明るさがかえってこの舞台の暗さを際立てているように見えて、面白いと思っています。
 ヴィヴィアナさんのマーシャは、当たり前ですがこの舞台で一番すばらしいですね。 当たり前によすぎて、ちょっと頭一つ出すぎちゃってるのが問題といえば問題ですが。 面白いなと思ったのが別れのパ・ド・ドゥ。 ヴェルシーニンは一人の女を抱きしめてるのに、マーシャは「未来」とか「可能性」とか「希望」と呼べるものを 抱きしめているように見えました。 その切実さに、胸を締め付けられました。 ヴェルシーニンのコートを抱きしめるシーンはまさに圧巻。 何もかも失ったような嘆きは、見ているこちらの心まで削いでいくような迫力がありました。 その後の軍人たちが去っていくシーンも含めて、夢の終わりをまざまざと見せ付けられる気分になります。
 哲也のヴェルシーニン、ジャンプのときもう少し力を抜いて、かつ、着地のときの音を 軽くしていただけるとありがたいです。 結構現実に引き戻されるものがあるんですよね、あれ・・・・。 マーシャを求める強さがとにかく抗いがたいほど強くって、マーシャが「彼なら」と思う気持ちもわかりました。 強く強くマーシャを求めつつも、結局彼女にとっては一陣の風に過ぎない。 そんなヴェルシーニンでした。
 キャシディさんのクールギン。 本当に、何度どう見ても間違えようのない「40代後半、さえない教師」そのものでした。 しみじみ化けるのがうまいです。 彼のことは「役者だ役者だ」言っていますが、それでもやっぱりダンサー。 指先の動きがきれいで、特に指先で語るシーンは泣かせられました。 特に気に入っているのがマーシャの手がクールギンの手から滑り落ちるところで、 「手が離れる」=「別れる」を暗示しているようで、胸に迫るものがありました。 最初の方でマーシャの手を引くシーンも、「愛してる」という小難しい言葉なんて使いたくない、 ただ「好き」という気持ちを未だに持ち続けているところが、どこかこっけいで物悲しいところがありました。 一度クールギンにすがり付いてきたマーシャをそっと引き離したようなシーンがあったと思うのですが、 そのときにかえって傷ついたように見えた背中が哀愁を誘っていました。 人が大勢舞台の手前にいるときはたまに居所がないように、どこにいても居心地が悪いようにしていたのも 面白かったです。 ソロのシーンも前回よりは面白くなったかな? ハンカチを取り出して涙をぬぐうなんていうなんでもないしぐさが、彼の悩みの現われのような気がしました。 マーシャをはさんでヴェルシーニンと向かい合うシーン、誰も邪魔のできないような緊迫感がありました。 ここでもう少しクールギンが強く出れれば、物語はまた違ったんでしょうね・・・(でもそれじゃクールギンじゃない)。 マーシャの思いを問いかけるような二人のシーンは美しいように見えて重苦しいものがありました。 リフトとかさすがにうまくいんですけどね、それに感動しつつ、二人の心の苦しみに打たれて沈んでいました。 最後は「お前が帰ってきてくれればそれでいいんだよ」というような、静かな安堵感がありました。 でも、明らかにこの二人の気持ちってすれ違っているんですよね・・・。 それを思うとなんとなくやるせない気持ちになります。 あー、ファンらしくいっぱいほめましたが最後に一言。 ターンする時軸がぶれるのは何でですか?

 感想を書きながらちょっと思ったのですが、この作品、ちょっと「表情に頼って演技する」部分が 多かったような気がします。 登場人物の感情をちゃんと汲み取りたくってオペラグラスを手に取ったことが何度かありました。 「細かい表情までたのしみたい」というより「何を考えてるか分からないからとりあえず表情を見てみた」という感じでした。 紗幕の後ろの宴席のシーンなんかを見るときはそれでいいとおもうのですが、普通に踊っている人たちが それじゃちょっとまずいんじゃないかなと思います。 ヴィヴィアナさん以外、例外なくオペラグラスで表情を確認した記憶があります・・・・。 やはりこういう作品の感情を劇場の隅々まで伝えるのは難しいんでしょうね。


 オーケストラは「二羽の鳩」の一部の音が沈んでいたのが気になりました。 かわいらしい作品なので、全体にわたって弾むような楽しさがあるとうれしいです。 「三人姉妹」はピアノの音はもちろん絶品、氷のように冷たい弦楽器の音も耳に残っています。

 前回の公演を見たとき、私はこのバレエ団のお芝居が好きだと思ったのですが、 その確信が強くなりました。 「二羽の鳩」は隅から隅まで見たいのに、中心が面白いので目が離せないという 辛さを味わいました(笑)。 こちらはこのまま順調に調子を上げていってほしいなと思います。 「三人姉妹」の方はやはり好きなことは好きなのですが、どこまで面白くできるのか?と一ファンの癖に 妙な自問自答をしております(苦笑)。 部分部分は面白いんですけどね。 全体としてみるとさらっと流れていってしまっている気がします。

 というわけで、お星様は★★★★★+★★★ということで。



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