二羽の鳩/三人姉妹
2006/11/18
オーチャードホール

二羽の鳩
少女康村和恵
青年芳賀望
ジプシーの少女荒井祐子
愛人ドウ・ハイ
ジプシーの少年アレクサンドル・ブーベル
友人長田佳世
神戸里奈
小林絹恵
東野泰子
副智美
柴田有紀
中島郁美
中谷友香
三人姉妹
オリガ松岡梨絵
マーシャヴィヴィアナ・デュランテ
イリーナ荒井祐子
ヴェルシーニン中佐熊川哲也
クールギンスチュアート・キャシディ
トゥーゼンバッハ輪島拓也
ソリョーヌイ芳賀望
アンドレイ・プローゾフドウ・ハイ
ナターシャ長田佳世
軍医チェブトイキンイアン・ウエッブ
アンフィーサ高橋佳子
メイド中島郁美
兵士橋本直樹
田中一也
リッキー・ベルトーニ
ピョートル・コプカ


 前回この劇場に行ったのは「ジゼル」鑑賞の時。 そのときあまりの1階席の見えなさに切れ掛かったので、今回は2階席に。 2階席で前の人の頭がここまで邪魔だったのは生まれて初めてです・・・・。 頭の位置を左右どっちかにずらさないと舞台の3分の1くらいが見えないって何事でしょうか? 2階席って、前の人の頭がそこそこ邪魔にならないのがいいところだと思ったのに・・・。 2階席なら平気かと思っていましたが、1列目以外はパスした方がいいかも。 3階席にいたっては1列目もだめだったと思うし・・・。 改めてこの劇場の使えなさにめまいが起きました。

 というわけで、名古屋からお付き合いを始めたこの作品もこれで最後になりました。 席は最前列上手→1階後方下手→2階中央と、満遍なく見られたかな? (これでもう少しオーチャードがまともな造りだったら完璧だったのに・・・) 今年は観劇回数を絞っていたので立て続けに見たのはこの作品だけなのですが、とっても楽しかったです。 見すぎた・・・・なんて感じは全くなくて、むしろ1公演だけあった副さん&輪島さんの「二羽の鳩」が見れなかったことを 後悔しているくらい。 お金と時間に余裕があったらもっと見たい作品でした。 「二羽の鳩」は技術的に、「三人姉妹」は演技の深み的にまだ「残課題あり」という感じはするのですが、 それでもこの作品を見れてよかったと思います。 というか、両作品とも気に入ったので、他のバレエ団でもやってくれないかなあ。 (「二羽の鳩」は小林紀子バレエシアターのレパートリーにはあるみたいなので、期待してみます)

 「二羽の鳩」は前回と全く違うキャスト。 前回のキャストが気に入ってたんでちょっと残念に思うところもあったのですが、こちらも気に入りました。 同じ振り付け同じバレエ団なのにこんなに雰囲気が違うものかとびっくりしました。 康村さんはやっぱりコケティッシュ。 予想よりはずいぶん優しくってかわいらしい女の子でしたけどね。 とにかく手足の動きが軽くってやわらかくって人間じゃないみたい。 私がイメージする「バレエ」にぴったり合致する動きでした (多少足捌きがいまいちと思えるところはありましたが)。 1幕のコメディチックなところは都さんのほうが好きですが、2幕のしっとりとした動きは康村さんのほうが好き。 ちょっと気丈な感じがある分、青年が出て行ってしまったときの寂しさややるせなさが強いように見えました。 か弱そうに見えて芯が強いのが都さん、すごくしっかりしてるように見えるのにちょっとしたきっかけでぽきりと 折れてしまうように思えるのが康村さん・・・という感じかな。 青年のジプシーの少女に対する態度を怒っているあたりは都さんはその姿がいじらしくってかわいかったのですが、 康村さんの場合は「ああ、その気持ち分かるなあ」という感じでした。 御伽噺の主人公というより、普通の女の子といった感じがしました。 真っ白いワンピースなんて着ると普通に御伽噺チックになってしまうと思うのに、 普通の女の子に見えたのは不思議です。 芳賀さんはさすがに輪島さんより多少踊りはうまいですね、リフトもまだ安心して見ることが出来ました。 まだ手足ばたばた肩上がりすぎっていうところもありましたが、まだ踊れているように見えました。 輪島さんは現実が見えていないちょっと夢見がちな部分がありましたが、芳賀さんはもっと現実が見えてるかな? 現実が見えていそうな分、1幕最後で青年が出て行ってしまうところはもしかしたら本当に戻ってこないんじゃないかと 思えるところがありました。 だから少女が嘆いているのがすごく胸に迫ってくる。 2幕での少女の心配で心配で仕方ないという表情にも繋がってくる。 落ち着きなく室内で青年を待つ少女は本当にいじらしいものがありました。 帰ってきた時の喜びも、胸にぐっと来るものがありました。 輪島さん&都さんが「悔悟」と「許し」であるなら、芳賀さん&康村さんは「恐怖」と「癒し」であったように思えます。 ジプシーの野営地での出来事を思い出して震えている青年を包み込むようなやわらかさがありました。 もう、青年がジプシーの少女を追っていってしまったことなんて、少女にとってはどうでもいいんでしょうね。 ただいま彼がそこにいて、自分の知らないときに起きた出来事で震えてる。 だから「大丈夫?」と気遣うように青年に接している。 この温もりにしびれました。 写真を見る感じだと康村さんはちょっときついかなと思ったのですが、こんなに優しい、暖かい空気も出せるのですね。
 真の主役(?)鳩さんは今日は完璧! というか、ここまで完璧になるなんてことがあるとは思いも寄りませんでした。 青年に抱えられていた時の鳩さんはすごく飛び立ちたそうでしたからね。 一羽目の鳩はちゃんと椅子の背もたれに待機したまま。 もう一羽が舞台に飛び込んできたとき、ちゃんと背もたれに着地した時は目を疑いました。 写真のようにきれいに並びでは無くどちらかといえば向かい合わせといった感じではありましたが、 それでもこれは奇跡に近いのではないかと思ってしまいました。 会場はそこで拍手喝采。 演技を続けているお二人には申し訳ないかと思ったのですが、それでもこれは拍手せずにはいられませんよ! いやー、千秋楽って鳥も張り切っちゃうものなんですかね(笑)。

 さて、個人的お楽しみのジプシーさんたち。 今回も「お前はバレエを見に来たんだからもっとちゃんと踊りを見ろ!」と自分に突っ込みを入れたくなるくらい 楽しんでまいりました。 本当に、ジプシーさんたちの小芝居は面白いんですよ♪ 生き生きと、無理なく楽しんで演じてらっしゃるんで、見ていると幸せになります。 せめて目が三つ無いと見きれないとおもうくらい、あっちもこっちも楽しいものでした。 ジプシーの少女と愛人の組み合わせも雰囲気ががらりと変わっていました。 宮尾さん&松岡さんが「ジプシーの若頭とその恋人(同じ年くらい)」なら、ドゥさん&荒井さんは 「ジプシーの頭とその3人目の女房(年下)」といった感じでしょうか。 宮尾さん&松岡さんのらぶらぶぶりが気に入っていたので最初はドゥさん&荒井さんの間にある距離感が どうもつかめなかったのですが、2幕になるころにはすっかり気に入っていました。 なんか頭(今回はこう呼ばせていただきます!)のジプシーの少女に対するちょっと冷めたような目線が 「重ねてきた年齢からくるゆとり」に見えたあたりから俄然面白くなってきました。 一つの集団を纏め上げるだけの貫禄、ある一定の年齢に達している男だからこそかもし出せる色香とたくましさ。 ジプシーの少女以外にもお相手はいそうな魅力があって、 地面に座りながらジプシーの女の子の一人のスカートにちょっかいを出すなんてちょっとした仕草まで色っぽくて 男臭くって魅力的でした。 また、それを「全くこの人は仕方ないんだからぁん」って言う感じにかるーく かわしたジプシーの女性(多分絹恵さん)も素敵。 一体素顔をどうメイクしたらこうなるのか分からない濃い顔立ちに、しっかり割れてる(多分書いてるとは思いますが)腹筋、 ちょっと崩れた姿勢でジプシーの少年と共に火のそば(あくまで推測)に座ってるのを見るだけで幸せ〜。 ジプシーの少年との関係も宮尾さんと全く違いました。 最も信頼できる子分というか・・・うーん、「本人には言ってないけど実は親子」とかあっても不思議はないかも。 宮尾さんの時は「年若い二人の楽しそうな雰囲気」が魅力的でしたが、 今回は「影のある大人の空気」にすっかり魅了されて、またまたなんでもないシーンなのに見入ってしまいました。 だからお前は何を見に来たんだ!(笑) (いや、でも、本当に楽しかったんですよ、はい)
 ああ、こんなことを熱く語ってる場合ではありません。 荒井さんのジプシーの少女も大変魅力的でした。 ちょっと難点を言うなら、康村さんと踊りのタイプが違うだけで実力は同じくらいって所でしょうか。 並んだ時にどっちが主役かわからなくなっちゃうのよね。 なぜか私は荒井さんと松岡さんの踊りを比べることが多いのですが、今回もついうっかり比べてしまいました。 荒井さんのほうが動きが大きくって、魅力的かも。 松岡さんは蓮っ葉なジプシー娘、荒井さんは蠱惑的な高嶺の花。 松岡さんがみんなに愛されていた女性なら、荒井さんはみんなの憧れの的。 どちらも魅力的でしたが、肩を前後に振る扇情的なダンスは荒井さんの方が動きが大きくって迫力がありました。 彼女にはもっとお上品な優しいイメージがあったのですが、こういうインパクトのある役も似合うんですね。 うーん、彼女の黒鳥&康村さんの白鳥も見たくなってきた・・・。
 1幕のジプシー達のやり取りも、今回はちゃんと見ました (無論そのために踊り部分がおろそかに・・・いや、なんでもない)。 ジプシー数名がご婦人(役名書いてないから分かんない・・・)を口説こう(?)としているのが面白い。 3人くらいで、誰がご婦人とちゃんと口を利いてもらえるのか競ってる感じ。 楽しそうです。 青年を誘惑するジプシーの少女を引きとめようと、彼女のスカートを引っ張る友人たちがかわいい。 団子になってるところがかわいらしいし、いじらしいのです♪
 前回から見つけられるようになった田中さんは、ついに2階席からオペラグラスなしで 見分けられるようになりました(苦笑)。 彼の持っている雰囲気は優しくってやわらかくって、それでいてどこかやんちゃで、なんだか見ていると和みます。 今回どうしても見分けたかった橋本さんも発見。 彼はジプシー服を着ていても隠しようがないくらい上品な雰囲気を持っていますね。 別の作品の方が似合うかも。 オペラグラスでじーっとみていたら安西さんらしき人を発見。 思ったよりずっとかわいらしい人でした(って、男の人にこの言い方は失礼?)。
 踊りについては相変わらず言いたいことだらけなんですが・・・。 それなのに「面白かった!」と言い切っちゃう私もどうかと思いますが・・・・。 1幕のジプシーたちは名古屋に比べたらずいぶんましになりましたが、それでもばらばら動くのは勘弁して欲しい。 派手な色の服を着ているから、本当に目がちかちかするんです。 よーく見ていると明らかに振りが追いついてないからばらばらになっている感じだし・・・。 その他やっぱり全体的に勢いで踊ってるなと感じるところがありました。 この作品だから許せるけど、コッペリアも許せるけど、くるみも辛うじて目をつぶるけど、 白鳥でこれやったら許さんぞ、というのが正直なところです。

 今日も組み合わせの方がKバレエらしい舞台に思えました。 都さんも康村さんも外からの移籍組ですが、都さんはまだロイヤルの人、康村さんはKバレエの人と感じられました。 踊りの雰囲気でいったら康村さんのほうがよっぽど他の人と違っているのですが・・・・。 ちょっと不思議な感じがしました。 どちらの組み合わせも、面白かったです。 両方見られて、よかった。


 「三人姉妹」、面白かった順番を並べるなら今日>名古屋>神戸かな (マーシャだけは神戸の時の方が痛かったけど)。 感情の流れがきれいになったというのもあるけど、やっぱりこのキャストがベストなんでしょうね。 「二羽の鳩」とキャストがかぶりまくりなんで、ちょっと言いたいことはあるのですが・・・ (でも、演じきったダンサーさんたちは見事)。 相変わらず浅いところはあるけど、淡々としてるけどおもしろいと思えた。
 登場人物のほとんどが紗幕の前に出てきてダンスを踊っているシーン、2階から全体をなんとなくぼんやり見ていたら 姉妹たちがモスクワ(というかもっと華やかな都会)に戻りたがっているのが分かりました。 上品で落ち着いた雰囲気はさすが上流の暮らしを知っているという感じでしたが、 空気が重苦しくって、こんな田舎にはいたくないと思ってしまいました。
 今回は紗幕の向こうの宴席はほとんど見ないように気をつけました。 でも、一箇所見たところの雰囲気がすごくよくって、他のシーンも見てみたくなってしまうから困る・・・。 最初はマーシャとクールギンがそこそこ普通に話していたんですが、そこにヴェルシーニンが加わります。 そのまま三人で会話が続くと思いきや、だんだんとヴェルシーニンとマーシャとの会話が盛り上がり、 クールギンが疎外されて一人居所がなさそうにしている・・・というなんでもないシーンなのですが、 いかにもこの三人らしいと思えました。

 見る場所が変わったからか、それともこちらの受け方が変わったからか、ずいぶん雰囲気が変わって見えました。 三人姉妹がちゃんと長女、次女、三女と見えたことには自分でもびっくり。 マーシャがちゃんと年若い女性に見えました。 それだけでなく・・・何というかそれぞれ全く違う個性のある三人であるのですが、寄り添って支えあってお互いのぬくもりを 自分のもののように感じて凍えないように生きてきたのではないかと感じられました。 三人で一人前というとそれはそれで言葉が違うのですが、三人でいることに安らぎを感じているような 感じがしました。 それが終幕のころになると、お互い自分の心が砕けるような傷を持っているのに それをなんとかささえあって、心が壊れないように気遣いあっているような、そんな感じがしました。 同じ抱き合う三人姉妹の姿でも最初は温かく、最後はなんともいえない辛さがあり、印象的でした。 オリガは名古屋公演の方が良かったかもしれません。 この辺ちょっと微妙なのですが、感情を伝えることに慣れてしまったのか、 クールギンへの愛情がちょっと強くなってしまったかなと。 もう少し控えめに、何があっても一線を越えないような密やかさがあると嬉しいかも。 包容力と落ち着きが増したのは嬉しかったんですけどね。 彼女については雰囲気とか気持ちの表現とか好きなので、もったいないなと思ってしまいます。 彼女に一番足りないのは「年齢」なんですよね。 年上を演じることの難しさをつくづく感じてしまいました。 何年か経ったらもう一度上演して欲しいと思う一番の理由はオリガだったりします。 雰囲気はとても好きなので、それに年輪が加わったらもっと魅力的になるだろうと思えて仕方ないのです。 今日のマーシャはクールギンとのやり取りが印象的でした。 夫のことを嫌いではないし、何か特別な不満があるわけではない。 でもそこにある壁を取り払うことは出来ない。 そのことに申し訳ないと思いつつも、自分の気持ちをどうすることも出来ない。 この二人のやるせなさが印象に残りました。 ヴェルシーニンとのパ・ド・ドゥはいつもより「残されるもの」「去っていくもの」という違いが 明白になっていたように思えました。 「行かないで」とか「置いていかないで」というような叫びが聞こえるようでした。 一方のヴェルシーニンはマーシャを愛しく思っていても、去らねばならない自分の運命を嘆くこともなく、 ただ別れを惜しんでいるだけのように思えました。 ヴィヴィアナさんの言うとおり、正に温度差のある別れです。 イリーナは今日も絶好調にかわいかったです♪ 最初のうちはジプシーの少女をちょっと引きずってるかもと思ってしまったのですが、 5分もすればそんなことは忘れてしまいました。 朗らかで瑞々しい、みんなに愛されている末娘。 原作ではトゥーゼンバッハを愛していないとありましたが、彼女を見ているとそこそこの好意はあったように思えます。 燃え上がるような愛・・・とまでは行きませんが、「好き」という気持ちは感じられました。 だから終幕での、大切なものを失った時の悲しみに胸打たれました。
 イリーナを巡る三角関係は今回が一番はっきりしていたような気がします。 トゥーゼンバッハが、もう笑ってしまうくらいイリーナにぞっこんなんですね。 彼女に好意を抱いているソリョーヌイのことなんて全く目に入っていません。 ただそこに彼女がいる、だから彼女を見詰める以外は何もしない、そんな感じがしました。 ひたむきとかそういう言葉より、もうちょっと回りに目を向けた方がいいよと声をかけたくなるくらい、イリーナ以外 目に入っていないように見えました。 ソリョーヌイのほうはトゥーゼンバッハとは異なり、自分以外にイリーナに恋心を抱いている男がいるということを 意識しているように思えました。 トゥーゼンバッハはイリーナがそこにさえいればあとのことは目に入らないし気にも留まらないという感じだったのに対し、 ソリョーヌイは絶えずイリーナの隣にいるもう一人の男を意識していました。 決闘を挑んだのがソリョーヌイだったということも納得。 イリーナが選んだのがトゥーゼンバッハだったから・・・というのもその理由ではあると思いますが、 もし逆だったら決闘騒動にならなかったでしょうね。 まあ、トゥーゼンバッハのあの性格では絶対にありえないでしょうが(笑)。 ソリョーヌイはオリガと同じように同じキャストで数年後に見てみたいと思っています。 明らかにトゥーゼンバッハと年恰好雰囲気が似ていて、演技力でどうこうできるレベルを超えていたんじゃないかと 思ってしまいました。 もう少し貫禄が出てくると、ちょっと気の強い強引な態度ももっと似合うのではないかと思います。
 ヴェルシーニンが一番名古屋と比べてよくなったかな? ジャンプの音は気になるし、せめて「好き」っていう感情くらいもっと強烈に表現して欲しいというのはありますが、 「踊りたくって仕方ない」という雰囲気は押えられたかも。 まだ抑えるべきところ、発散すべきところの感覚がつかめていないようにも思えましたが、 それでもずいぶん演技が自然になったと思います。 名古屋で見たときの「唯一踊りと芝居が離れてる人」という印象もずいぶん薄まりましたし。 純粋にお芝居といえる部分の感情表現がもう少し強く出てくるとよいと思います。 ただ、やっぱり渋みのある中年て無理がない?
 3回目にして、そろそろキャシディさんファンモード発動(笑)。 年上を演じることは難しい・・・というのは持論なのですが、何故この人はそれさえもやりのけてしまうのでしょうか? 実年齢から言ったらヴィヴィアナさんより年下のはずなのに、「年の離れたマーシャの夫」という 設定に全く無理を感じませんでした。 初老一歩手前の哀愁を無理なく漂わせておりました。 さえないのにちゃんと存在感があるのも不思議。 2階席からでもちゃんと感情を汲み取ることが出来るのに、雰囲気全体で言ったらぱっとしないことこの上なし。 相変わらずソロはいまいち面白いような面白くないようなといった感じもしましたが、演技の部分は本当に面白かった。 マーシャとのパ・ド・ドゥも一番そばにいるのにとても遠いという雰囲気があって面白かった。 抱き合っているのに、お互いの気持ちがすれ違っているのが分かる。 クールギンのマーシャへの愛情は確かなものであったけれど、 それを受け止めてもらえないことを分かっているように見えました。 マーシャはその気持ちに気付いているけど、受け入れられないことを申し訳ないと思っているように見えました。 うーん、うまく言葉に出来ないな・・・。 オリガとのパ・ド・ドゥも、思いは近いけれど遠くにいるという感じがしました。 ソロを除いて踊りと演技のつなぎ方がとても自然でしたし、登場シーンも多いしで、ミーハーファンとしては すっかり満足いたしました。 一番気に入ったのはラストシーン。 クールギンがマーシャの手を取るシーンがなぜか悲しくって仕方なかったのですが、その理由がようやく分かりました。 二人の間にあるわだかまりは何一つ解決していないんですよね。 マーシャは他に誰もいないからクールギンに対して手を差し出しただけで、彼に対する感情が変わったわけではない。 自分の伴侶はクールギンしかいないと知っただけ。 この地で、クールギンと生きていくしかない、諦めるしかないと知っただけなのだ。 理解したのでも、納得したのでもなく。 ヴェルシーニンがいなかったころに戻るように見えるけど、マーシャは自分が胸を焦がすような思いを抱けないのは自分の せいでなく相手のせいだと分かってしまったのだから、ある意味もとより悪い。 そんな状態で元の生活に戻ることはとても幸せだとは思えないのにクールギンが幸せそうにしているから、 悲しくって悲しくって仕方ありませんでした。
 アンドレイのドゥさん、化けすぎ。 「二羽の鳩」の時の面影ゼロ。 この人も一体何者なんでしょうか。 ちょっと軽妙な雰囲気があって、なんだか憎めない(ってことは、あまりいい人には見えなかったということですが(笑))。 イリーナと仲良くしているところがなんともほほえましかったです。 劇中の笑い声のうち女性のものが長田さんとのことですが(ブログ参照)、それについてはすごく自然に納得しました。 いかにも彼女らしい雰囲気ですね。 ぱっとしたシーンはありませんが、異質感のある見つめる視線が印象的でした。

 印象に残るべき部分がサラーっと流れてしまってるようにも思えるので、まだまだ残課題ありとは思えました。 でも、やっぱり好きな作品です。 何度も何度も言ってしまっていますが、ある程度年齢の厚みが出てきたころにもう一度やって欲しい作品です。 そのときは今回のような「冒険」とか「挑戦」という言葉がちらつかなくなっているといいなあ。 (ついでにピアニストはフィリップさんのままが嬉しいんですが、無理?)


 というわけで、さすがAプロ最終日、完成度が高かったです。 でも、初日でもこれくらい見せてよーと思うところもあったり。 とりあえずリストのお星様は「二羽の鳩」★★★★★、「三人姉妹」★★★★ということで。



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