くるみ割り人形
2006/12/23
府中の森芸術劇場

ドロッセルマイヤースチュアート・キャシディ
マリー姫吉田都
王子熊川哲也
クララ小林絹恵
人形王国の王様ギャビン・フッツパトリック
人形王国の王妃天野裕子
ねずみの王様宮尾俊太郎
フリッツアレクサンドル・ブーベル
雪の女王松岡梨絵
雪の王輪島拓也
粉雪長田佳世
東野泰子
神戸里奈
副智美
花のワルツ長田佳世
東野泰子
輪島拓也
芳賀望
アラビア人形松岡梨絵
ドゥ・ハイ
スティーブン・ウィンザー
スペイン人形鶴谷美穂
浅川紫織
リッキー・ベルトーニ
橋本直樹
中国人形白石あゆ美
アレクサンドル・ブーベル
ロシア人形田中一也
ピョートル・コプカ
フランス人形荒井祐子
副智美
神戸里奈


 とにかく楽しかった! そうとしか言いようがない舞台でした。

 初めに言ってしまうと、私はK版の「くるみ」がとても好きです。 このバレエ団の皆様方もこの1年のうちにファンになりましたから、贔屓目も十分にあります。 それを差っ引いて面白かったと言えるほど器用でもありません。 そんなわけで、客観性ゼロの、一ファンの感想です。

 今シーズンはこれで3回目(というか2日前に昼夜観劇した)のですが、「この作品ってこんなに面白かった?」 と、見ている最中何度も思ってしまいました。 確かに演出は二日前と変わっていないので突っ込みどころは満載なのですが、 物語を引っ張る引力が、何か違う。 見ている最中はすっかりお伽噺の中の世界に引き込まれましたし、カーテンコールでも素直に スタンディングをすることが出来ました。 見ている最中も見終わってからも本当に幸せいっぱいでした。 こういう舞台に出会えたということは、本当に幸せです。
 他の人と比べて私が一際感動した理由を探すのなら、ドロッセルマイヤーとクララかなと思います。 私がこのバレエ団のファンになった一番のきっかけがキャシディさんのドロッセルマイヤーですから。 ドロッセルマイヤーというキャラクター、作品内での位置、そしてキャシディさんの演じ方。 この上もないほどど真ん中直球の好みなんです。 彼が舞台にいてくれるだけで、半分以上満足してしまう困った自分がおります。 クララもとても好きです。 昨年の公演を見たときは、数ヵ月後に振り返った時にぱっと思い出せたのがこの二人でした。 喜怒哀楽がはっきりしていて、かわいらしいクララ。 ドロッセルマイヤーと楽しそうにおしゃべりしているクララ。 21日の公演はどうもいまいちおしゃべりが楽しそうではなかったのですが、 今日は何が起こったのかと驚くほど良くしゃべっていました。 見ていて「会話が弾んでいる」という状態だということがはっきり分かるんです。 求めていたものがようやく見れたというだけで、幸せでした。
 というわけで、このクララとドロッセルマイヤーの組み合わせを見ているだけで結構満足だったのです。 その上周りがしっかり固まっているのだから、文句ありません。 ソロパートのキャストについてはほぼ見たいと思っていたキャストを見ることができました。 これで康村さんのアラビアだったら完璧だったんですが、さすがにそこまでの豪華キャストにはならないようです(苦笑)。 そして何よりも本日のお目当てマリー姫。 体一杯で表現される「嬉しい」という感情に、ただただ酔いしれました。 技術的な面で言うなら、正に「鉄壁」。 小鳥のように軽やかなのに、不安定さが全くない。 難しいことをやっているのは分かるのに、揺らぎが感じられない。 このバレエ団の振り付けはとても独特で、ダンサーさんたちをぐるりと見回しても似合ってる人、似合ってない人、 慣れている人、慣れていない人といます。 都さんもその独特の振り付けに馴染んでない(もしくは、振り付けが彼女の魅力を生かしきれていない)と感じるところは ありましたが、それでもやっぱりうっとりとできる美しさでした。 哲也のくりみ割り王子も、輪島さんを見たあとだと格の違いを感じずにはいられません。 ただ、この作品のDVDは飽きるほど見ている上に、数日前にコッペリアのDVDをみたので、 彼の今の踊りを見ているとちょっと年月の残酷さを感じてしまうのですけどね・・・。

 ちょこっと、ゆっくり本編について語らせてください。 物語や演出についての突っ込みどころは21日のソワレ公演(現在鋭意製作中)を参照ということでお願いします(笑)。 たまには素直に褒めるだけの感想も、許されるでしょう。

 都さんのマリー姫は登場した時からお姫様でした。 特に松岡さん、荒井さんもちょっと「やんちゃなお姫様」という感じがしたのですが、そんな気配は全くなし。 どこかやんちゃでマイペースなのがマリー姫だと思ったのですが、ちゃんと頭のてっぺんからつま先まで お姫様に見えるマリー姫も、実際に見てしまうと抗いようのない魅力を感じます。 本当に上品でエレガントで素敵・・・。
 絹恵さんのクララは全くイメージできなくって、本当のことを言ってしまうと見るまでは不安でした。 気が強くって色っぽい美女というのが彼女には一番似合っていると思うので (「二羽の鳩」の時の野営地で踊ってるジプシーなんかが、私の中では一番イメージにぴったりです)。 もっとも、DVDを見ればパーティーのシーンではちゃんと女の子を演じていて、 クララと楽しそうにふざけあっているのは分かるんですけどね。 絹恵さんのクララは、今回見たほかの二人のクララに比べると、一番年上のように見えました。 そして1幕は副さんと同じように、ちょっと大人しめの女の子。 登場したあたりはまだ「かわいらしい女の子を演じている」という感じがして、 「予想よりはずっといい」としか感じられませんでした。 でもパーティーのシーンが始まるあたりから徐々に彼女のクララを見るのが楽しくなってきました。 いつ目を移しても、そこが舞台の中央であれ端であれ、常に楽しそうにしているんですよね。 そんな彼女を見ているうちに、徐々に彼女のクララが魅力的に見えてきました。 ちょっと物静かなところが、また魅力的なんです。
 今回の観劇はさすがに今シーズン最後ということで、ちゃんと全体を見渡すように気をつけました。 まあ、一部オペラグラスがありえないシーンで舞台下手に向かったりもしましたが(笑)。 3回目にしてようやく気付いたのは、天使&マリー姫が出てくる前にちゃんとツリーに 天使の飾りをくっつけてるんですね。 よく見なきゃ分からないというようなものでは無く、ちゃんと舞台の中心を見てれば分かるというレベルのものでした。 すいません、主に舞台下手ばっかり見てて。 天使像を飾ったとたんに天使とマリー姫が出てくる。 まあ、そこそこ筋は通ってるかなと思います。 また、このときのマリー姫の哀願する姿がいじらしく美しく、すっかり見とれてしまいました。 ありうるはずのない光景に驚いて母親に報告するクララもかわいらしいんですよね♪ マリー姫と天使を追いかけて時計のところまで行くと、入れ替わりにドロッセルマイヤーと鉢合わせるという演出も、 ありがちではあるんですが気に入っています。
 フリッツやクララを含めた子供たちの踊り。 男の子たちの足音はどうにかならんものでしょうか。 本当の子供でなくちゃんと大人がやっているのでそこそこ見ごたえはありますが。 しかし、背の低い男の人がこれだけいるということは喜ぶべきなのか何というか・・・。 あ、相変わらずブーベルさんのフリッツは別格によいです。 フリッツとクララの踊りを見ているだけで結構満たされました。 とか何とか言いつつ、半分くらいは舞台の下手側を見ていたのですが(笑)。 踊りの中に加わるまでのドロッセルマイヤーの動きがいまいちつかめていなかったのですが、 最後にシュタールバウム夫人に「踊りませんか?」と声をかけた後で舞台中央に出てくることに気付きました。 子供たちの真ん中で金色の棒を放り投げる時、これがどこからやってくるかもようやく見えました。 なんでもないことですが、ちょっと一安心(笑)。 人形を配るシーン、DVDでは舞台上手に控えていたドロッセルマイヤーですが、 今回は人形の王国を出してくる係に。 このシーンはやっぱりよく分かりません。 人形を配った後のドロッセルマイヤーさんは相変わらず保父さん状態(笑)。 男の子たちが敬礼しあってるのを笑いながら見ていたり、人形をかわいがる女の子たちに声をかけていたりしました。 クララはおじいさんのそばの床の上に座って人形をかわいがっていました。 考えてみれば、クララが普通の人形をかわいがってるシーンってめったに見れないかも。 クララだけ人形を二つもらっちゃっていいのか、位のことは思いますけどね(笑)。 (クララがかわいがっていた人形は確か、この後下手の椅子の上にしばらく置かれたままになっていたと思います)
 人形劇、1回目は人形劇自体を見て、2回目は子供たちの反応を見て、3回目はドロッセルマイヤーさんを見ました。 それにしても子供は軽いから当然なのかもしれませんが、本当に人形のように軽々持ち運んじゃうのは 何度見ても驚かされます。 ドロッセルマイヤーさんはこの人形たちを魔法で操る役。 人形たちの動きにあわせて動いています。 指先の動きの美しさは保障つきなので、やっぱり楽しかった! 劇の終わった後の子供たちの反応に、「この人形、どうやって動いてるんだ?」というような感じのものもありました。 このときマリー姫人形を気にするクララは一番子供っぽいので絹恵さんだとどうかなと思ったのですが、 子供子供していないけど、素直にマリー姫人形を気にする様子はとても自然でした。 このあたりから徐々に彼女のクララが気に入ってきました。
 人形を取り上げるフリッツ、風のように身軽なんで、手に負えないのがよく分かります。 ちょこまかちょこまか動いてるんで、捕まえられないんですね。 むきになって追いかけるクララがまたかわいいので、からかってやりたいというかいたずらしてやりたいと思う フリッツの気持ちも分からなくないかも(笑)。 それにしてもブーベルさんの踊りは軽やかで見ていて気持ちがいいわ。 くるみ割り人形が壊れちゃって泣いているクララはちょっと不自然だったかも、残念。 何度見ても、治った人形を背中に隠しつつクララを慰めるドロッセルマイヤーさんがおもしろいなあと思います。
 最後に男性陣が二列になって踊っているシーン、 もう少しエレガントじゃないと物足りないとか、後ろや端のほうでよろけてる人いるよとか 突っ込みどころはあるのですが、シュタールバウム氏のマイムの通りぱーっと盛り上がるような感じが好きです。 そんな感じで、パーティーのシーンはあっという間に終わりました。 なんとなく以前より展開が速くなった気がします (初演の時はこのシーンも助長に感じたので)。

 真夜中のシーン、パーティーのシーンではラジコンの音が気にならなかったのでこれはいけるかと思ったのですが、 やっぱりオーケストラの音が静かになると気になりました。 2匹のねずみは誰がやってるのか分かりませんが、そのうち一匹がとても軽やかな跳躍を見せてくれました。 素敵。 相変わらず謎なドロッセルマイヤーさんが時計を呼応させるシーン、 音が12回なのは分かりましたが、結局それ以外のことは分からずじまいでした。 絹恵さんのクララは本当に怖がりながら逃げ回っているという感じでした。 くるみ割り人形を守らなきゃ、という決意はそんなに感じられず怖がりながら逃げ回っている感じ。 それでもちゃんとくるみ割り人形を守ってるあたりクララって偉いなーと思ってしまいます。 私ならあの人形を武器にして逃げ回るわ(笑)。 気がついたらねずみたちに人形を取られていたという演出は今回が一番分かりやすかったです。 だから、クララが戸惑っているのも、よく分かった。 クララが時計の向こうに飛び込もうかと迷っているあたりは、踊りが入っている部分より純粋に お芝居の部分が好きです。 階段を登って部屋に帰ってしまおうとしているのに、ちゃんと最後には決心をして 扉を開ける。 彼女が自分の意思で選択して、それによって別世界への扉が開く。 この物語の流れがとても好きです。 絹恵さんのクララはそこまでのシーンで本当に怖がっていたのが分かったから、 彼女が決意して飛び込んでいったことに心打たれました。 クリスマスツリーが大きくなっていく演出としては、もとあったツリーが大きくなっていくように見える演出の方が 好みなんですが、演出よりもクララの決意とそれによって広がっていく世界という物語に惹かれました。 ドロッセルマイヤーが「クララで間違いない」と思ったからもう一つの世界を作り上げていくような演出も好きです。 DVDで見るときはなんか恥ずかしくって好きじゃないこのシーンなのですが、実際に見てみると ドロッセルマイヤーの手で世界が変わっていくように見えて、素晴らしかった!
 宮尾さんのねずみの王様はおもしろいなとずっと思っているのですが、 首の動きが秀逸なのだと今回感じました。 肌で気配を感じるようにして辺りを見回す様子が人間っぽくなくって面白いし、なかなかキュートです。 人形対ねずみのシーン、個々のシーンを切り出して見ると面白いんですが、 全体的には流れが悪いというか、もうちょっと整理して欲しいと思う部分が残ります。 最後にくるみ割り人形とねずみの王様だけが残るのも、部分部分を見ていれば物語の流れも分かるのですが、 例えばクララだけ見ていたりするといきなり二人っきりになって見たいに見えて不自然かも。 ただでさえ暗いのにごちゃごちゃと色々やってるのが分かり辛くなっている原因かなと思います。 キャンディーで攻撃!も面白いのに、うまく生かせていないのがもったいない。 いやいや、今回は文句をなるべく書かない予定でした。 哲也のくるみ割り人形は、やっぱり存在感が違うと改めて思いました。 伸びやかさもそうですし、ちゃんと止まって欲しいところで止まるのが嬉しい。 舞台全体がきっちりしまった感じがするのがさすが。 しかし何度見ても、やられたくるみ割り人形がふらふら倒れるのは泣き所なのか笑い所なのか分かりません・・・。
 倒れたくるみ割り人形を見て泣いているクララ、そこにやってくるドロッセルマイヤーさん。 駆け寄ってきたクララを笑顔で抱きしめる部分、これでいいのかとたまに首をひねります(笑)。 一時くるみ割り人形の呪いが解けるシーン、クララが時計を見上げて 祈る仕草をしているのはかわいらしかったです。 オペラグラスを使わずに全体を見るとドロッセルマイヤーさんのコートの使い方あたりがなんとも いたたまれなかったりしましたが・・・・。 呪いが解けて真っ白い光に照らされたくるみ割り人形の戸惑いと喜び、 この感情はすごく素直にこちらに届きました。 助けを請いに来るマリー姫(個人的にここで拍手は欲しくないです・・・)。 その存在はまるで幻のように儚くって弱々しくって。 結局呪いが解けたわけでは無く一時元に戻れただけのくるみ割り人形。 その二つの姿に胸が打たれて駆け寄っていくクララの姿に、こちらが心打たれました。 何でこんな子供向けお伽噺に泣かされてるのよ!と、自分でも思ってしまいました。
 その後の踊りは本当に伸びやか! 多少音に追われる感じはありましたが、やっぱりこのシーンは好きだとようやく確信を持って思うことが出来ました (でもやっぱり、このばたばた感がも少し減ってくれると個人的には嬉しい・・・)。 絹恵さんの踊りは、やっぱり哲也の振り付けに合っています。 ぱきぱきとした感じの振り付けに違和感なく馴染んでいて、見ていて気持ちよかった。
 雪の王国への場面転換は、今回が一番感動しました。 場面転換ごときで感動してるなんて自分でも本当に単純だとは思うのですが、 気分が高揚しているところに色合い豊かな新しい世界を見せられるとやはり嬉しくってたまりません。 雪の王と女王は21日の主演コンビ。 21日は緊張しているせいか、それとも技術的に高度なものを求められていたせいか、 顔がこわばっていたり、何度かひやりとさせられた二人ですが、さすがにこの役はお手の物といった風情でした。 松岡さんの冷たくって気位の高い、でもどこか優しい雪の女王はやっぱり好きです。 テンポの速いこの振り付けにも合っていると思います。 輪島さんも、彼にしては珍しく安心して見ることが出来ました。 相変わらず多少荒いところはあるのですが、DVDで見たときのように「お付の人」になってるのでは無くって ちゃんと自分の存在を主張できていて一安心。 リフトも今回は結構安心して見ることが出来ました。 最後に出てくるクララは雪と戯れるようにしていて本当にかわいらしい。 ソリは改めて、前に出てきてはだめだと感じました。 勢いよく前に出てきて、そのあとはゆっくりというのがなんとなく流れ的に妙に感じてしまいました。
 ようやく1幕も終わり、舞台を見ているときはあっという間だったんですけどね(笑)。 結局突っ込みを入れつつ書いてしまいましたが、幕間に書いたメモには「文句なしに面白い、 この作品ってこんなに面白かったっけ?」と書いているので、ちゃんと気に入ってはいるんです。

 2幕の冒頭で出てくる青い布をかぶった人々。 金のくるみを抱えているのはアラビアの女性なんですね。 腕飾りを見てようやく気付きました。 松岡さんは好きなのでくるみを手放した後も見ていたのですが、 「こののろいを解いて欲しい、くるみを割って欲しい」というような動きをしていました。 全体的にも、よく見てみると「くるみを割ろうとする」動きが多かったですし。 うーん、なるほど。
 国王夫妻に事態を報告に行くくるみ割り人形を見てちょっと苦笑。 やっぱり哲也が一番良かった時期って過ぎてしまったかもしれないと、この時思いました。 21日のグランパドドゥでも思ったんですが、この時ちょっと確信してしまいました。 ねずみたちに襲撃をくらった場面、ちゃんとネズミたちが来る前に兵士が報告に来てるんですね、なるほど。 ドロッセルマイヤーはクララを庇ってはいるものの、二人そろってねずみに突き飛ばされたりと見事な 役立たず振りを発揮していました(笑)。 くるみ割り人形が活躍し始めたころは、クララはドロッセルマイヤーの背中に隠れ、腰の上辺りから ひょっこり顔を出して様子を伺っていました。 うーん、かわいい。 王様が捕まった後も、嬉しそうにドロッセルマイヤーと抱き合いながら喜んでいて、本当にかわいいです。
 くるみを割るシーン、ぱぱぱんという効果音はないよなーと思ったんですが、 今日はさらにあの編曲もいまいちだと思ってしまいました。 「花のワルツ」の最初の繊細な音の響きがかき消されていたような・・・・。 そして、マリー姫の登場シーンは今回も見えませんでした。 前回は天井桟敷席で、しかも袖に隠れて見えないってことで諦めはついたのですが、今回はA席。 しかもくるみの置かれていた謎の塔に隠れて見えなかったんで、微妙に納得がいきません。
 都さんのマリー姫は改めて見ても、何度みても本当にきれいなお姫様。 マリー姫の衣装と鬘はなかなか微妙で、「似合ってる」と思えることはなかなかありません。 都さんの場合も最初は「似合ってる」なんてとても思えなかったのですが、徐々にどうでもよくなってきました。 やっぱりお姫様は何を着てもお姫様。 マリー姫とクララが踊るシーンはいつもとちょっと雰囲気が違いました。 いつもよりクララがちょっと大人びていて、マリー姫は本当に完璧なお姫様で、いつものように姉妹のよう (もしくはいずれクララがマリー姫のように美しく成長するのではという予感)に見えることはありませんでした。 でも、ちゃんとそれぞれ自分を主張しているような感じの二人の姿は、見ていて心地いいものがありました。 クララとドロッセルマイヤーの間にあった空気は暖かくって、マリー姫とくるみ王子の間にある空気は優しくって、 とても気持ちよく見れたシーンでした。
 花のワルツ、個人的には輪島さんのファンなのですが、やっぱり改めて一緒に見てしまうと、 芳賀さんのほうが動きに落ち着きがあって、丁寧だなと思ってしまいます。 ファンなんで応援してるけど、もうちょっと丁寧に踊ってくれると嬉しいわ、輪島さん。 佳世さんの花のワルツは、やっぱり見ていると心が落ち着きます。 彼女はこういう華やかな踊りが一番いいです。 とは言いつつも、このシーンはクララが本当によくおしゃべりをしていたのでそちらに気を取られてしまいました。 1幕では大人しい感じの女の子だったのですが、このあたり、特にティアラを嬉しそうにドロッセルマイヤーに見せる あたりなんて、本当にはつらつとした女の子でした。 今まで見たクララの中では一番大人なのに、子供っぽい仕草に違和感がないあたりは、本当に不思議です。 花のワルツの方々の衣装を興味深そうに触ったり見つめたり、それをドロッセルマイヤーに報告していたりいました。 花のワルツの踊りも、やっぱり彼女は安心してみていられます。 哲也の振り付けを踊ってる絹恵さん、好きです。
 アラビアの踊り、これはちょっと期待外れでした。 ドゥさんのアラビアは見てみたかったのですが、意外とさっぱりしたメイクと踊りで、ちょっと拍子抜け。 松岡さんは美しいには美しいのですが、迫力不足かしら。 彼女の体が硬く見えてしまうなんて、本当に意外でした。 これは康村さんの体の柔軟性があってこそ、全く無理なく踊れるのだと思ってしまいました。 絹恵さんのクララはこのときはおしゃべりほとんど無し。 煙がぼわぼわ出てくる様子も、大して気にならないようでした。
 スペイン、まず、ドロッセルマイヤーさんの肩の力が抜けたというか、こわばった顔が元に戻ったのが面白かった(笑)。 クララも雰囲気が明るくなって楽しくなったのか、表情が一気に輝きだしてみているこちらの気分も盛り上がってきました。 この振り付けはそんなに好きではないし、相変わらず荒っぽい踊りをしているなと思うんですが、 陽気な空気にだまされてすっかり気分よく見てしまいました(笑)。 やっぱり浅川さんの伸びやかでありながら歯切れの良い踊りと、橋本さんのはみ出しそうに勢いがありながらも 端正な踊りは魅力的! 音楽の明るさと踊りの勢いの良さにぐいぐいと引っ張られる感じでした。 小気味よい踊りで、突っ込みいれる間もなく終了。 気持ち良かった!
 中国人形、やっぱりここに絹恵さんがいないのは残念です(笑)。 クララは人形たちの指を立てたポーズが気になるのか、なにやら真似事をしておりましたが。 席が後ろになったせいか、21日よりちょっと足音が気になりました。 まあ、動きの割にはずっと軽い音だったんですけどね。 やっぱりこの踊りは短い中にぎっちりと踊りが詰め込まれていて面白いです。
 ロシアは、やっぱり何度見ても好きです。 足音がうるさかろうと、動きに端正さが欠けていようと、好きなものは好きなのよ! (それもどうかと自分でも思っているんですが、見ているとすっかり飲み込まれてしまうんです) この二人はずっと二人でシングルでやっているせいか、「二人で一組」という空気が一番強いような気がします。 コサックダンスなんかはやっぱりコプカさんのほうがうまいんですが、でもやっぱりこれはこの二人のものと感じます。 二人で並んでそこにいるだけで、なんか落ち着くんです。 ところで、この踊りが終わった後にクララとドロッセルマイヤーが向かい合ってロシアの決めポーズを真似した時、 この二人はすごく息が合ってるのだと確信できました。 全く作っている感じがしない、自然に打ち解けて楽しんでいるという雰囲気に、こちらの心も躍りました。
 フランス人形、DVDで見るときは突っ込みをいっぱいいれているんですが、実際に見るとなかなかかわいいなと 思ってしまいました。 さすがにこの3人だと踊りも安定していて、安心して見ることが出来ます。 なんですが、ごめんなさい、このシーンだけは何度見ても視線が舞台下手に行ってしまいます。 肩を小さくして、怖がっているクララが本当にかわいい。 答えが分かったあとは、「あ、そういうことね」と結構早いうちに気がついて敬礼しながらドロッセルマイヤーに報告。 その後は素直に楽しそうに見ていました。 で、私も目線を舞台中央に戻そうとするけど、間に合わず曲終了。 いつもいつも、真面目に見なくって本当にごめんなさい。
 グランパドドゥ。 ここまで十分楽しんできたのですが、やっぱりこのシーンは別格だと思えました。 初めてグランパドドゥが素直に楽しめたかもしれません (いつもは物語の流れが止まってたり、他のシーンと比べてレベルの高さや雰囲気が浮き上がってたりして あまり好きじゃなかった)。 最初のうちは雰囲気こそ優しいものの、都さんは本調子ではないのかなと思ってしまうところがありました。 一回だけアラベスクが伸びきってないうちに次のステップに移っていましたし。 でも、お互いばらばらに踊っているような感じはしなくって一安心。 でもやっぱり、もう少し愛情があると嬉しいなあ。 踊り自体はさすがに見事。 21日の松岡さんであれだけ不安定に見えた部分がありえないレベルで安定していました。 リフトも本当に軽々と、一瞬のことなのにぴったりときれいに、危なげなく決まる。 格の違いを感じます。 完全にクララと同じ視点になって「わあ、きれい」とうっとり見詰めていました。 振り付けをきちんと踊っているのはもちろんですが、それ以上に音符の一つ一つを救い上げるように丁寧に 踊っているのが印象的。 一箇所、本当に音符の最後の一つまで使って丁寧に腕を動かしているシーンがあって、しびれました。 とにかく美しいし、幸せいっぱいで華やかで、うっとりと酔いしれることが出来ました。
 王子のソロ、やっぱり哲也の振り付けは彼が踊ると一際光りますねえ。 それはそれで振付家としては問題ありだと思うのですが、やっぱり見ている最中はそんなこと忘れますね。 マリー姫のソロ、このときクララとドロッセルマイヤーに挨拶をする部分が好きなんです。 それにかわいらしく、紳士の見本のように挨拶を返す二人がとても素敵。 ドロッセルマイヤーはこの場面では立ち上がって踊りを見ています。 何でかなと思っていたんですが、ほぼ座りっぱなしなんで、足慣らしかなんかでしょうか? 21日はクララより舞台奥に、今日は舞台手前に立っていました。 この違いは何かしら? マリー姫のソロはもちろん好きなのですが、ソロに入る前の「呪いが解けて嬉しい」のマイムが好きです。 これがあるとそれだけで幸せいっぱいで踊りを見ることができます。 ここまで来ると彼女の踊りにも不安定さは無くなって、ほっと一安心でした。 彼女の踊りは軽やかなのにものすごく安定感があって、一体何者なのかと見るたびに思ってしまいます。
 そして「あなたたち二人も、どうぞ」とマリー姫に優しく言われてクララとドロッセルマイヤーのパドドゥ。 これがあるからK版は私にとって特別なのだと、見るたびに思ってしまいます。 曲のアレンジが変わったのも、ようやく慣れました。 やっぱり軽やかでかわいらしい初演版のほうが好きですが、このペアにはこのくらい大人びたアレンジも似合うかもしれません。 クララはドロッセルマイヤーのソロが始まるあたりから立ち上がってその姿を見ていました。 花のワルツと同じようにとても踊りたいように見えたので、その後でドロッセルマイヤーに誘われて踊りだす時も 戸惑いも無く素直に嬉しそうに見えました。 本当にかわいいです。 特に派手ではないシーンですが、二人とも楽しそうなのでやっぱりこちらも楽しく見てしまいます。
 そして王子とマリー姫が戻ってきてグランパドドゥ再開 (私は全く気にならないんですが、本当にバレエファンにしてみればこの曲の流れは顰蹙ものなのかしらと、 たまに思ってしまいます)。 ここまで来るとこちらも幸せいっぱいなので、もう勢いに飲まれるような感じで見てしまいます。 お二人とも、見事です(幸せに目がくらんで、細かい突っ込みは忘却の彼方です)。
 花のワルツたちが再登場してドロッセルマイヤーがマリー姫の合図を受けて曲と踊りを始めるあたり、 本当に彼はストーリーテラーであり、ある意味物語を操っている存在だと思えます。 各国の人形たちに対するクララとドロッセルマイヤーの挨拶は21日と全く違ってびっくり。 スペインの時にはスペインの真似をしたのは初めて見ました。 アラビアの時はちゃんと両手を合わせてのご挨拶だったので一安心。 やっぱりこちらの方がいいです。 中国はやっぱり中国の真似をしてご挨拶。 後の二つは忘れてしまいました・・・残念。
 最後の各国の人形そろっての踊りは久しぶりに「そろってないよ!」と突っ込みを入れたくなるようなものでした。 やっぱりここはどうにかして欲しいわ。 でもここで一気に盛り上がって、急に波が引いてしまったかのように寂しくなるという流れは気に入っています。 不穏な空気を感じて、何が起こったのか、これから何が起きるのかと戸惑っているクララと、同じ気持ちになります。 マリー姫のキスが、とても優しくて好き。 穏やかに見守るようなそのキスは、「ありがとう」と「さようなら」を含んでいて、暖かいけど切ないものがありました。 王子が手にキスする時、別れを感じて「それは嫌だ」というな顔をするクララ。 ここに残りたい、まだあの人形たちと、王子とマリー姫と一緒にいたい。 私も彼女と同じようにそう感じていました。 だから透明な光に包まれて去っていく4人の姿がとても寂しかった。 そんな感じで完全にクララに同調していたので、いつもはばたばたしているように感じるこの後の展開も すごく自然な流れに感じました。 ドロッセルマイヤーの魔法でゆっくりと眠りに落ちて行き、自分の部屋のベッドに寝かされる。 二つの人形だけ残して、ドロッセルマイヤーは消えていく。 目が覚めるとそこはいつもの家のベッドで、傍らには王子とマリー姫の人形。 その二つの人形に嬉しそうにキスをして、抱きしめるクララ。 最後の最後まできれいに物語りに取り込まれてしまいました。 本当に幸せな時間を過ごすことが出来ました。 この作品がこんなに楽しくって泣ける作品だとは、知りませんでした。 (特にK版で泣けるのは、自分でもとても意外です)

 何でここまで感動をしたのか自分でも全く分からないんですが、驚くほど満たされました。 ウィンターツアーの千秋楽ということもあり、皆さん気合が入っていたのかなとも思います。 突っ込みどころは多々ありましたが、幸せいっぱいという気持ちを久しぶりに劇場の外まで 持っていけたような気がします。 カンパニーの皆さん、スタッフの皆さん、本当にありがとうございました!


 「二羽の鳩」を見たとき、都さんはまだロイヤルバレエからのゲストダンサーに見えました。 踊り方の雰囲気が違うとか、ダンサーとしてのレベルが違うとかそういうことでは無く、この人は「ゲスト」だと思いました。 でもこの公演はそれを感じませんでした。 Kバレエの方々の踊りのレベルはさして変わっていませんし、彼女のエレガントな踊りは やはり特別なものがあります。 それでもこの公演の彼女は「ゲスト」に見えませんでした。 この公演が特別に楽しかった理由の一つに、そのささやかな全体の雰囲気の違いがあるような気がしてなりません。 まだまだ若くって未完成なところの多いバレエ団ですが、これからもよろしくお願いします、都さん。



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