ドン・キホーテ
2007/07/21
オペラパレス

キトリ中村祥子
バジル宮尾俊太郎
ドン・キホーテルーク・ヘイドン
ガマーシュサー・アンソニー・ダウエル
サンチョ・パンサピエトロ・ペリッチア
メルセデス樋口ゆり
エスパーダニコライ・ヴィユウジャーニン
ロレンツォディヴィッド・スケルトン
花売り娘浅川紫織
鶴谷美穂
ドルシネア天野裕子
闘牛士杜海
ビャンバ・バットボルト
ピョートル・コプカ
田中一也
リッキー・ベルトーニ
スティーブン・ウィンザー
妖精の女王樋口ゆり
キューピッド白石あゆ美
闘牛士ピョートル・コプカ
田中一也
リッキー・ベルトーニ
スティーブン・ウィンザー
石黒善大
内村和真
アントレ浅川紫織
鶴谷美穂
神戸里奈
小林絹恵
副智美
日向智子
中谷友香
渡部萌子
杜海
ビャンバ・バットボルト
第1ヴァリエーション浅川紫織
第4ヴァリエーション鶴谷美穂


 さて、気持ちの良い昼公演を見て「S席にすればよかった!」と叫んだ矢先。 夜もまた「S席にすればよかった!」と心から思える素敵な舞台でした。 いやー、いいものを見た。

 この公演の立役者はなんと行っても中村祥子さん。 ゲスト一人でここまで作品のレベルを上げられるものかと、びっくりしました。 個人的にゲストの公演はあまり好きではないのですが、ゲストとしての違和感は無く、 けれどレベルの高い踊りで舞台自体の満足度を上げてくれました。 世の中に主役のみがゲストの公演は数多ありますが、何故そんな事態が起こるのようやく分かりました。 たった一人だけで、ここまで違うのね・・・。

 祥子さん、登場して数分の間はメルセデスのようでした。 勝気で大人びていて色気があって、うん、メルセデスです。 でも徐々に、そんなことを忘れてキトリのように見えてきました。 彼女は正に高嶺の花。 派手な美女でこれなら玉の輿の一つや二つ狙えそう・・・と思って、ようやく金持ちの婿を求めていた ロレンツォの気持ちが分かりました(笑)。 とにかく誰が見ても明らかな町一番の美しい娘で、彼女もそのことを良く知ってる。 それなのに、彼女は床屋の放蕩息子に夢中というのが、なんとも可笑しかった。 「あの人私がいないとだめなんだから」と言いつつ、完全に惚れ込んでるのが本当にかわいらしい。 すごく強気なのにそんな恋心が見え隠れしていて、かわいかったです。 宮尾さんのバジルは上で言ったようにどうしようもない放蕩息子。 頭にボケの花を五つ六つと咲かせているような、どーしようもない奴です。 こりゃ思いつきでいきなり駆け落ちしてみたり、狂言自殺してみたりするよねといった馬鹿っぷり。 宮尾さんの馬鹿っぷりを思うと、キャシディさんや輪島さんは真面目で、そんなにすっとんきょうなことを やりそうになかったなといまさらのように思ってしまいます。 思いつきだけで行動する上に、思い込んだら一直線で、絶対に引かない感じがしました。 うーん、正にストーリーにぴったりのバジルだ。 垢抜けて無いくせに、自分はかっこいいと思ってそうなところとか、なんかぴったり。 高嶺の花が、ボケボケ男に惚れ込んでいるという構図が、なんとも可笑しかったです。 お友達の花売り娘たちもそんなことを心得た上でこの二人の恋を応援してるように見えました。
 さて、背の高いこのカップルはやはり見栄えがとてもよかった。 何をするにも一々派手でした。 今回が初の組み合わせのはずなのに、雰囲気もぴったり。 多分・・・いえ、ほぼ間違いなく祥子さんが引っ張っているんでしょうが、二人の存在感はとても大きくって、 舞台の隅っこまで余すことなく使っているという感じがしました。 祥子さんの踊りはとにかく素晴らしかった。 都さんの踊りがピンで刺したような安定感を誇るのなら、彼女は強靭な足で全てを支えているような感じ。 バランスの一つ一つが的確で、安定感がありました。 動きの一つ一つがとても大きくって、見ごたえがあります。 ドンキホーテの夢のシーンのジュッテだけで拍手が起こるなんて思いもよりませんでした。 バランスだけで拍手が起こったのも何度か。 ピルエットもきれいな軸でくるくる回るので、サポートする宮尾さんも楽だったろうなと思います。 だってあれ、何もしなくっても回ってた。 フェッテは最初に軸がぶれてしまってどうなるかと思いましたが、すぐ持ち直しました。 そしてほとんど最後までダブルの連続! ちょっと情緒に欠ける迫力のあるフェッテでしたが、ここまでのものを見せてもらうとなんだか納得してしまいます。 すごかった! ドンキホーテの夢のシーンは全体的に華やかで気に入っています。 2回とも飽き気味だったシーンなのに、全く飽きることなく食い入るように見てしまいました。
 対する宮尾さんは・・・まあ、個々の踊りでいったらかなうはずはありませんね。 でも、予想したよりはずっと良かった。 彼はターンが苦手なのかな、ピルエットがあまりきれいではありませんでした。 跳躍は高いけど、足があまり開いてない感じがしました。 高さだけは皆をあっと言わせるものを持っているのですから、もうちょっと柔軟性があるととても嬉しいです。 リフトは・・・残念ながら「もっとがんばりましょう」でした。 空中投げはあらららでしたし、片手リフトは1回目失敗。 2回目は何とか成功しましたが、やはりはらはらしました。 でも、抱えあげられていた祥子さんはとてもきれいだった。 とにかく二人とも大柄で派手なので、そういう意味では見事でした。 宮尾さんのバジルは能天気で見せ場もそこそこあって楽しかったのですが、一つ大きな不安がありました。 明らかに基礎が出来てないのに、かっこよく見えてしまう、そして髪型やら見得の切り方、ちょっとした仕草や 手のニュアンスが哲也そっくり・・・。 見せ方を知ってると言うか、哲也を真似してるというか・・・。 そしてそれがそこそこ形になってしまっており、客席を沸かせるものになってるように見えてしまいました。 舞台の使い方も上手くって、舞台度胸もある。 相変わらず舞台にいることをとても楽しんでいるし、それがあってみているこちらもとても楽しい。 でも、基礎がいまいちなので、見ていて予想外のところで「そりゃないだろう」というところがありました。 着地とか、本当に簡単な振りとか。 このあたりがどうにかなると嬉しいなと思ってしまったのです。 しかし、本当にバジルを演じることを楽しんでいたところは見ていて気持ちよかった。 ソロを踊る前のあの瞬間、あの手の動き。 ようやくこのソロを、全幕通しの演技の上で踊ることが出来る喜び。 殻を内側からぶち破るようなその動きが、なんだか印象的でした。 ある意味勢いだけだったので、次も同じでは困りますが、今回ばかりはそれでも良いかなと思ってしまいました。 それくらい、清々しく、魅力的でした。
 祥子さんが明らかに引っ張って行ってくれただろうから彼女は大変だったかもしれませんが、 なかなか面白いペアでした。 各々のことももちろん好きですが、それ以上に「もう一度この二人で見たい」と思えるものがありました。 また是非このペアで見たいのですが・・・祥子さんはいろんな役で見たいけど、宮尾さんはしばらく バジル以外で見たくない・・・。

 さて、外れ続きのエスパーダ。 ようやくそこそこいいかなと思えました。 メルセデスとの恋人度は昼の方が上でしたが、闘牛士達と一緒にいるときの立ち姿はニコライさんが一番! あくまで立ち姿だけで、踊り始めちゃうと着地の時の汚さに目が行っちゃうという欠点はありますが・・・ ああ、レベルの低い戦いだ・・・。 闘牛士達の前に立って見栄を切る様はとてもかっこよかった。 他の闘牛士達と彼は格が違うのだと、はっきり分かりました。 メルセデス、メルセデスの時はいいのですが、妖精の女王になると途端に地味になるのが残念でした。 イタリアンフェッテでも空間に隙間があって寂しい。 次の公演の時は、是非実力の拮抗した華やかな、主役を踊れる二人をキトリとメルセデスに配役して欲しいです。 「海賊」のメドーラとグルナーラのように、二人とも主役だと思うんですけどね、この演出の場合。 あ、メルセデスの方はそこそこ色気があってよかったです。 ただ、闘牛士約一名がナイフを上手く突き刺せてなかったので、踊りにくそうでかわいそうだった・・・。

 花売り娘は今までと違った感じでした。 今までは柔らかで優しい女の子たちといった風情でしたが、今回は勝気なキトリにつられるかのように勝気な 花売り娘さんたちでした。 踊りも演技も、線がくっきりしていて派手な感じがしました。 ちょっと大人びた感じもありました。 キトリとバジルの恋を、二人の気持ちを察した上で応援しているような感じ。 二人のことが好きという前提で二人を応援しているようなところが魅力的でした。 この二人とキトリの三人は、それぞれ気が強そうで、見ていてなかなか気持ちよかったです。 浅川さんは相変わらず姉御肌なかっこいい踊りをしてくれます。
 相変わらず暇さえあれば目で追ってるブーベルさん。 何度見ても彼は抜群にシャープで美しいですね・・・。 一幕のタンバリンの踊りは、足がきれいに直角に上がっていて胸がすっとします。 二幕のジプシー達の野営地では物語を牽引する位置にいるのがまた嬉しい。 キトリのショールを見つけたり、それを彼女からもらって娘さんにプレゼントしたり。 踊りもまたシャープで美しい。 軽やかでどこか小ざかしい感じのする彼の踊りは、影のある役に本当に似合います。 大きく反る跳躍も、さすが彼はお手の物という感じです。 足がきれいに上がっていて、見ていてとても気持ち良い。 シャープで柔軟性があって・・・ああ、彼のきちんとしたソロをもっと見たい! すっかり骨抜きになっています。
 キューピッドは、やっぱり華やかさにかけていて面白くなかったです。
 ドゥさんは意外とアントレが似合ってるような気がしました。 結構スマートに踊っている気がします。 彼は濃い色を着ているほうがかっこいいのかしら??

 相変わらずどこが楽しかったのかと聞かれそうなくらい文句ばっかりですが(苦笑)。 でも、見終わったときは本当に体がぽかぽかして幸せな気分でした。 ドンキホーテと言う作品そのものに、それだけの力があるのかもしれません。 あのばたばたとして、でも皆幸せそうに笑っているラストシーンは、それだけで何か魔力を持っている気がします。 あれを見てしまうと、全てが「ああ、楽しかった」の一言でまとまってしまうんです。
 もちろん、ガマーシュやドンキホーテ、サンチョの存在感も素晴らしい。 ガマーシュとドンキホーテはいつ見ても物語に良いアクセントとドラマ性を与えてくえていると思います。 サンチョは可笑しいくせにしっかり踊れていて、いつも驚かされます。

 楽しいだけじゃだめだけど、他に足りないことはいっぱいあるのは分かってるけど。 でも楽しくって楽しくって仕方がありませんでした。 幸せです。



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