ライオンキング
2007/08/11
四季劇場(春)

ラフィキ光川愛
ムファサ深水彰彦
ザズ雲田隆弘
スカー下村尊則
ヤングシンバ岡田勇太
ヤングナラ片山由里恵
シェンジ原田真理
バンザイ太田浩人
エド小原哲夫
ティモン藤川和彦
プンバァ川辺将大
シンバ瀧川響
ナラ熊本亜記
サラビ宮崎都
男性アンサンブル南晶人
那俄性哲
羽根博司
山田真吾
遠藤剛
横山大介
布施陽由
奈良坂紀
郭森
高木英樹
田中宣宗
キンマング
平田郁夫
岸本功喜
女性アンサンブルオヘボ
森崎みずき
小林英恵
朴琴淑
ベジンファ
黒田あきつ
黒木ますみ
朴哉垠
キムユジョン
井藤奏香
小松陽子
イムヒョンビン


 久しぶりの下村スカーの登場ということで、私も久しぶりに見に行ってきました、ライオンキング。 もう間もなく9周年ですか・・・。 開幕から見続けてる身の上としては、色々人生について悩まないことも無くも無かったり(笑)。

 一時底辺を舐めたなと思ったこの作品、久しぶりに行ったら持ち直してました、おやー? 初演時に比べたらそりゃ一体感や迫力に欠けるところはありましたが、それぞれがちゃんと 自分の見せ場で見せるべきことを見せてくれるので、面白い。 ストーリーはやっぱりあまり好きではないんですが、個々の役者さんの魅力で結構持って行かれた気がします。 この間見たJCSのジャポネスク版よりも完成度は高いんじゃないかと思いました。 作品自体で行ったらJCSは1番で、LKはランキング外なんで比べるべくも無いんですが、 舞台を見たときの満足度は今日のほうが高い。 やっぱりキャスティングは大事です。

 お目当ての下村スカーはやっぱり良かった。 彼のスカーは本当に外れが無いです。 まあ、開幕のころから見るとちょっと太ってるようには見えますけどね・・・。 あの流麗な美しさはやっぱり他にない。 ここ数年は目立ちすぎるほど目立たず、ある程度は脇に徹しつつもそれでも見せ場はしっかり見せてくれるんで面白い。 一時「スカー物語」だったころもあったからねえ。 それはそれで面白いことは面白かったけど。 「スカーの狂気」も、そのころのほうが良かったかなとも思うけど。 ここしばらく脂がのってるのはやっぱり「覚悟しろ」。 象の墓場でもリプライズでも、悪役っぷりに磨きがかかっていて本当に素晴らしい。 「かわいそうなおじさん」だったころもあったけど、今のほうが私は好き。 ナルシズムを感じるあのいやらしさは、ちょっと他では味わえない。 ファンの贔屓目もあると思うが、彼のスカーは今の四季の中で「見ておくべき」役の一つだと思っています。
 ちょっと気になったのは腰。 後ろに反るときは相変わらず美しい線を描いてるんだけど、前にかがんだときの屈み具合が何か物足りないというか、 なんか引っかかるというか。 スカーには常に美しくあってほしいので(下村スカーしか見てない証拠(笑))、これはちょっと気になりました。 まあ、気になったといってもこのくらい。 彼のスカーの場合、もう演じてませんから。 本当にそのものなので、安心して見ることができます。 今日気がついたのは手の美しさ。 誰かを指差すとき、その動きが妙に美しい。 手首の部分が山になっていて、そこから長い爪にいたるまでのラインがとても美しい。 杖の使い方も相変わらず美しい。 「覚悟しろ」で杖を無駄にくるくる回して最後にシェンジ(?)のあごの下に突きつけてぴたりと止めるところも、 どうでもいいシーンなのに無駄に美しくって素晴らしい。 ハイエナのダンスのシーンの小芝居は相変わらず素晴らしく、あのナルシズムにあふれた表情と ハイエナを卑下し見下した厳しい顔、そしてどこか神経質な佇まいを見るだけで「ああ、来てよかったなあ」と思います。 特に今日は2階下手側最前列という素敵な席だったので、もうこのシーンが目の前。 舞台のほかの部分は何箇所か見切れてたので「これS席ってうそだろ、おい」と感じなくもありませんでしたが、 この1シーンで元を取った感じ。 あの地獄の果てまで追いかけて生きそうな高笑いを間近で目にできて、本当に幸せでした。 相変わらず全身を使って笑ってくださるので(背中のラインが美しいんだって♪)、見ごたえがありました。 峡谷でムファサを突き落とすときの黒い目の煌きは、なんとも言い知れない迫力があった。 「スカーの狂気」のときのいっちゃった感じもよかったし、人の話を全く聞いていない独壇場の演説も面白かった。 プライドロックで「サーラービー!」と叫ぶシーンの迫力も相変わらず。 しっぽの使い方が大変美しいのです。
 見た目のよさばかり語ってしまったけど、やっぱりキャラクターの芯の通し方も素晴らしいと思う。 彼は結局自分しか見えていないのだ。 行き当たりばったりに見えても、そのことだけは常にしっかり考えている。 だから最後にシンバに追い詰められて「全ての元凶はハイエナだ」ということもその後ハイエナたちに 「私の友達」と言うことも、両方納得がいく。 他者のことを省みず、自分があがめられることにしがみつく、悪役。 その辺りが徹底されていて、あの末路はとても納得がいくもののように見えました。 自分のしたことの、報いを受けたように見えたのですよ。 悪役がしっかり悪役をやっててくれて、しかもそいつが自分のしてきたことの報いを受けて滅びるという結末は ありきたりではありますが、やっぱり面白いものだと思います。

 さて、下村スカーとかろうじて深水ムファサくらいしかキャストチェックをせずに舞台を見たのですが、 1幕終了時に思わず名前をチェックしたのがシェンジとシンバ。 シェンジのど迫力ぶりにびっくりしました。 何なの、この無駄にかっこよくって迫力のあるシェンジは!! 低い声が頭の奥にすこーんと抜けていくような感じがして、彼女がしゃべってくれるだけで耳が幸せでした。 小悪党でありながら愛嬌があって、でもどすがきいた姉御で、とにかくこちらもバランスが素晴らしい。 脇役ですが、やっぱりしっかり声がでてくれると気持ちいいです。
 シンバは、2幕でちょっと評価を下げましたが、それでも素晴らしかった。 歌と芝居はいまいちなんですが、その佇まいがいかにも「シンバ」なので、彼が舞台にいるだけで胸が躍りました。 登場したときのあの爽快感と明るさと軽やかさ。 久方覚えの無い感覚でしたので、胸がときめきました。 異国の方なのでしゃべるとなまりが気になる、歌は感情表現が何か足りない。 でも身体的な表現力がずば抜けてるんで、結構気に入りました。 ここまで表現できるなら、歌も芝居もなくしていいんじゃないかと思ってしまったくらい(笑)。 動きの俊敏さがまさに野生の獣で、また体の中のエネルギーを発散したいけどどう扱っていいのかわからないという 感覚が、まさにシンバの台詞にぴたりと重なるような気がしました。 ティモンが川に流された辺り、ここまではっきり「昔の記憶がよみがえり、動くことができなかった」を 感じさせてくれたシンバはいませんでした。 プンバァに声をかけられて、ようやくわれに帰った辺りもはっきりしていて面白かった。 とにかく爽やかで軽やかで、こういうずば抜けたところがあれば、日本人キャストを差し置いてキャスティングされても 仕方ないかなあと思えました。 それが無いのに変な人キャスティングするから腹立つのよ、ぶつぶつぶつ・・・。

 意外な広いものがヤングナラ。 ヤングシンバとヤングナラは昔っから外れは少ないけど、ここまで「当たり」と思ったのは珍しいかも。 狩をしているときからしっかり全身を使って狩をしていたのが印象的だった。 声もすこーんと遠くまでよく抜けて、子供らしいきれいな高い声がとても魅力的だった。 熊本ナラもなかなか磐石な感じ。 藤川ティモンはやっぱり安心して見られる。
 深水ムファサは歌や台詞が微妙に引っかかるところがあったけど、それでもやっぱりいい! 何より深水ムファサと下村スカーが並ぶと、真っ直ぐ育った兄王とひねくれて育った王弟という設定に 無理がないのが素晴らしい! 兄弟並んでる姿が美しくって感動。 もちろん、シンバと一緒のシーンも温かくてよかった。

 そんなわけで、下村スカーがいればそれでいいやと思っていったはずなのに、予想以上に楽しかった。 やっぱりキャストは大事だと、改めて実感したのでした。



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