Elisabeth - Die Legende einer Heiligen
2009/07/10
Landestheater Eisenach

ElisabethfSabrina Weckerlin
Konrad von MarburgNorbert Conrads
LudwigArmin Kahl
Wolfram von EschenbachDietmar Ziegler
Walther von der VogelweideJesse Garon
Heinrich RaspeChristian Schöne
Landgräafin SophieMara Dorn


 えーと、当日のキャストの表示方法が大変わかりづらく、ついうっかりしてオリジナルキャスト以外のお名前がわかりません・・・。 帰国して、しみじみ後悔いたしました・・・。(ネットでキャストを調べてなんとなくこの人と思って掲載)

 ようやく、念願かなってElisabethを見ることができました。 はるばるアイゼナハまで行ってよかった、というか、行けてよかった・・・!

 この物語は、「Elisabeth von Türingen」と呼ばれているアイゼナハの聖女エリザベート(ハンガリーの皇帝の娘でもあるので、エリジャーベトとも)の物語です。 タイトルだけ見るとどこのハプスブルクの皇后の話かと思いますが、現地に行けばここで「エリザベート」と聞いてそちらを想像する人はいないだろうと思えました。 地元の人、及び観光客目当ての作品でそれこそ街中にポスターが貼ってあり、また、聖女エリザベートの物語はこの街にある世界遺産ヴァルトブルクでいくらでも聞ける、エリザベートの街でした(正確にはバッハとルターとヴァルトブルクとエリザベートの街)。 聖女様ですから当たり前のように昔っから愛されていた、これを感じてから観劇することができたのが一番の収穫かもしれません。

 CDを聞き込んでいた頃から薄々と感じていたのですが、この作品はアイゼナハで見ることに価値があり、それ以外ではあまり上演する価値がないのではないかと(実際にこの作品はアイゼナハと彼女が息を引き取ったマールブルク以外で上演されてない)。 実際に見て、改めてそれを感じました。 良くも悪くも聖女様の伝記の域を脱していないように思いましたが、でもやはりアイゼナハにおいては見る価値のあるものでした。
 ここまで来てよかったなと思えた理由の一つが、聖女エリザベートがどういう扱いを受けている女性かを肌で感じることができたこと。 本当にふつうに聖人扱いなんですよね、当たり前ですが。 子供を抱く姿はまるで聖母子のように描かれ、人々に奉仕する姿も城を追い出される姿も穏やかに美しく、若くして死にゆくその姿さえ美しい。 それを思うとミュージカルの方は革新的に現代的だとさえ思えました。 孤独を嘆き、愛する人と結ばれることを喜び、彼の死を嘆き、やつれてぼろぼろになって死んでいく。 聖女の物語としてでなく、ちゃんと一人の人間の物語に見えるようになっていました。 個人的にこの作品が優れていると思うのはそういう点もあり、なおかつエリザベートはやはり生まれながらに宿命を背負った聖女であると思えること、そしてそう思うことを否定しているように見えて実は肯定した形で幕が下りていること。 現代的に見えてちゃんと聖女物語として幕を下ろしているあたり、地元の人向け観光客向けの作品として大変優れていると思いました。
 予算のためかオケはなくってテープ演奏。 これはちょっとがっかりでした。 衣装は至極シンプル。 ポスターなんかで使われている華やかな衣装はありません(これは史実を模しただけだと思う)。 エリザベート、ルードヴィッヒ、コンラートといった主演キャストは布を一枚かぶってさらにその上に1枚羽織ってくらいのシンプルな出で立ちです。 ゾフィーやハインリッヒは若干華やかな布地かな? アンサンブルは貴族を示す漆黒の一枚衣装と平民を現す服(これは人によって違いがいろいろあってある意味華やか)、それから貧しい人を現す灰色の服の3パターンでほぼ網羅されます(あとエッケバートのシーンの銀ラメ衣装とかあるけど)。 セットも至ってシンプルで、背景は舞台を半円上に取り囲む12枚の板のみで、セットといえるのはふすま1枚サイズの7枚のついたてとあとはエリザベートとルードヴィッヒのベット、衝立に付いた椅子、コンラートが演説するための台、貧窮院のベットくらいです。 衣装もセットも大変シンプルだったのですが、小さい劇場ということもあり、物足りないことはありませんでした。 聖女様の物語なんだから、シンプルで別に問題はないと思います。
 そしてシンプルながらすごくうまくセットを使っていたと思います。 衝立の位置によってそれは城内となり街並みとなる。 劇場を取り囲む板の動きになってそこは閉鎖的な空間となったり開放的な空間となったりする。 これに幕前の演技が加わったおかげで、暗転がなくとてもスムーズに場面転換していました。 個人的に暗転はなければないほどいいと思っているので、工夫次第で盆も何もない、簡素な劇場でここまでできるのかとちょっと感動しました。 また、衝立にしろそのほかセットにしろほとんど人力で動かしていたのですが、動きがとてもなめらかでいい意味で機械的で、人力であることを忘れて見ることができました。 これについても、拍手!

 出演者は少ないわけではありませんが、アンサンブルさんがまーよく働く働く。 ほとんどの場面で貴族と貧民の両方を演じます。 Oliver Heimがアンサンブルにいたので両方とも演じていることがよくわかりました。 たとえば「Das Armenhaus」でエリザベートを小馬鹿にする貴族を演じていたと思ったら次の「Der erste Schritt」では彼女に助けを求める貧民になる。 例えば「Standesgemäss」で銀ラメ衣装で楽しそうに踊っていたと思ったら「Miserere」で鞭打たれる人の一人になっている。 1曲おきに異なる役をやってることに驚きました。 また、貴族と貧民の演じ分けがみなさま本当に見事。 衣装を変えるだけになってないあたりがさすがです(MAを見たときの最大の違和感がこれだったのよね・・・これだけ演じ分けられるのがふつうなのに、なんであの作品だけはだめだったんだろ)。 二つの役をきれいに演じ分けられているポイントとして分かりやすかったのが「姿勢」。 貧しい人は前かがみに、貴族は少し目線が上を向いているくらい背筋がしゃんとしてます。 これは実際問題として筋が通っていると思います。 仕事というのは前かがみでするものが多いから貧しい人が背中が曲がっているのはその過労によるものでしょうし、貴族であれば姿勢も教育の一つとして矯正されます。 また、誰かを見下そうとすると自然にそういう姿勢になるはずです。 もちろん表情や所作も違いますが、この姿勢の使い分けがあるから、遠くから見ても、写真で見ても「違い」が分かりやすくなっていると思います。
 また、平民や貧民はあくまで「個人」というところがありましたが、貴族はどちらかというと「上流階級」の象徴であり、個人ではないように思えました。 それを思うと、貴族の衣装がワンパターンであるのも問題はないと思います。 これがいい方向に働いていたのが主にエリザベートやルードヴィッヒのやり方を拒絶するシーン。 肩を一度下げてから持ち上げ、手は思い思いの形(組んでみたり片手を横に、片手をに上げてみたり)で顔はつんと上を向く。 「拒絶のポーズ」と呼んでいるのですが、その彫像のような美しさは黒と金のシックな衣装に合っていました。 これは華やかな衣装だったら全くおもしろくないと思います。

 キャストについては、やはりオリジナルキャストのすごさを思い知ったというところはありました。 もともと音符の位置がそのキャストに合わせたのではないかと思うところがありましたから、オリジナルでないとやはりどこか足りなかったりするんですね。 それでも2回目にはヴォルフラウムの声に若干透明感があってもかっこいいと思えるようになりましたし、エッケバートの男前っぷりにうっとりしたりもしました。 しかし問題はハインリッヒ。 所見の時は頭が彼をハインリッヒだと思うことを拒絶してましたよ・・・。 絶対弟じゃない、あんな太ったおっさん、絶対ルードヴィッヒの弟じゃない! きっと父親違いの異母兄弟(笑)だとか思ってたのですが、ルックスはともかく、ルードヴィッヒとどちらが年上に見えるかはともかく、父親に性格はやっぱり似てる(苦笑)。 最後にそう思えたので、まあ、受け入れることができたのかもしれません。 ねっとりした悪人で、エリザベートを見る目もいやらしく、ルードヴィッヒへの絡み方もいやらしかったです。 ルードヴィッヒが死んだことを喜んでいるように見えなければ、妙な兄弟愛を抱いてそうに見えなくもありませんでした。 こういう役作りもありかもしれないけど、せめて歌は歌えて欲しかったなあ。
 主役3人は絶品。 この人たちのために来て良かったと思えました。 SabrinaのElisabethは間違いなくはまり役でしょう。 彼女のためにあつらえたであろう役は、もちろん彼女にぴったり。 笑う姿喜ぶ姿嘆く姿すべてが美しい。 目の下が隈で黒ずんでいて衰弱しきった顔をしていても、どこか美しく見える。 自分を醜くするメイクもちゃんとできて、その中でなお輝けるあたり、20代半ばなのにいい役者さんだと思います。 若いから現代っ子という風情はあるけど、要所要所でちゃんと「聖女」に見える。 主役が良くなくてはどうしようもない作品だと思いますが、彼女がいるからおもしろいと思える部分がありました。
 CDで聞いていたときは何とも思わなかったのですが、実際に見てみたらすっかり惚れ込んでしまったルードウィッヒ。 CDの時は歌が少ないと思ったのですがあまりそう思わず、また、お芝居の部分が大変魅力的でした。 方伯様なのにナイトガウンのような服を着てどこがかっこいいんだと思ったのですが、実際に見てみるとちゃんとお偉いさんに見えるのが不思議。 位は高く品格はあるけど物腰が柔らかく見ていて心地良い。 CDを聞いていたときはエリザベートがルードヴィッヒのことを好きなのは分かるけどルードヴィッヒはどう思ってるの?という感じだったのですが、実際に見てみるとルードヴィッヒの方がエリザベートを好きといった雰囲気でした。 ぶっちゃけこれは聖人物語で良いところは全部本物の聖女様であるエリザベートが持っていってるわけですが、変に主張せず、ある意味エリザベートの人間性を支え、陰から彼女を支えたという感じでした。 それがこの物語において、大変バランスよく映りました。 本当に魅力的な人で、CDではSabrinaとChrisの二本柱の話かと思ってたらどっこい、Chrisと同じくらいかそれ以上の拍手をもらってました(もちろんSaburinaがぶっちぎり一番)。
 Chris Murrayもやっぱりはまり役でした。 結局最終的にはエリザベートと道を違えてしまったけれど、彼は彼で神を信じていたと思えるコンラートでした。 良い意味で予想通りだったのですが、予想外に新曲というか、曲が変わっていた(「Weltvernichtung」と「Es gleitet ein Traum durch die Zeit」がなくなって、「abgrundtiefe Nacht」というエリザベートとコンラートの二重唱になっていた)ところがありまして、これがまーたすばらしい迫力で気圧されました。 あと、衣装が若干豪華になった(白い布一枚きりだったのが、その上にさらに一枚着せてもらえた)のも、何か安心した(笑)。(あ、この役だけセカンドキャストと両方見れました。渋い感じでなかなか押しの強い宗教家でした)
 ゾフィーも良かった。 貫禄と品があって、でものりのいい曲も無理せず歌えるほどの軽さがあって。 バランスがすごくいいのです。 黒い衣装がとても似合っていて素敵でした。
 CDではそこまで場面が多いわけではないのでオリジナルでもそんなすごくないかなと思っていましたが、やっぱりオリジナルは違うと思えたのがヴォルター。 いい意味で舞台に慣れています。 歌い方も軽やか、舞台の立ち位置も軽やか。 彼女はエリザベートを聖女として完全に信じている立場ですが、その信仰がちっとも重くない。 むしろ重くなりがちなこのストーリーを軽くしているある種の道化役で、その軽やかさがとても魅力的でした。 こういう軽い役ほど無理してやってると思えるとつらいので、彼で見られてよかったと思います。
 ラスペの次にどうかと思ってしまったのがグーダ。 大変きれいで存在感があり、声も愛らしく魅力的な子だったんですが、それが全面的に裏目にでているような・・・。 彼女はあくまでエリザベートに仕える身であるはずなんですが、それにしては若干存在感が大きいような気がしました。 押しつけがましいというのかなあ。 ルードヴィッヒが主役をエリザベートに譲って一歩後ろに控え、エリザベートとコンラートは神の前で一歩後ろに下がっているのに対し、ハインリッヒとグーダはどうも一歩も譲らず前面に出ている印象でした。 ハインリッヒはそういうキャラクターだからそれでいいと思うのですが、グーダはあくまでエリザベートに仕える身なんだから、もう一歩後ろに下がるのが筋なんじゃないかと思ってしまったのが残念。
 オリジナルではないけど結構見ているうちに愛着がわいたのがヴォルフラウム。 見た目はオリジナルとよく似ていて「これはもしかしてオリジナルの彼・・・!?」と最初は期待してしまいました(苦笑)。 残念ながらCDで聞き慣れた声ではありませんでしたが、貫禄のあるその存在感と若干ミュージカルははずれるように思えましたが澄んだ声は魅力的。 ヴォルターが完全に舞台の上でその役になりきっていることもあり若干分が悪いところもありましたが、素敵なおじさまでした。
 エッケバートもなかなか素敵でした。 びっくりするような8頭身で、むしろバランスが悪いまでの頭の小ささにびっくりしました。 ミュージカルっぽくはないですが、渋く深い声(結構外見と不釣り合いなのがおもしろい)はオリジナルと風情は違いましたが、このシーンはJCSのヘロデ王のように場面をひっかき回してくれればいいと思っているので、そういう意味でとても楽しませてくれたと思います。
 というわけでとりあえずキャスト中心の感想です。 値段が上がってもいいから、是非一度生オケで見てみたいというのはありますが、思った以上におもしろい作品で見に行けて良かったとうれしく思っております。 (新人のくせに部署内で一番最初に5日連続休暇取ったバカ)



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