ロミオとジュリエット
2009/10/20
神奈川県民ホール

ロミオ熊川哲也
ジュリエットロベルタ・マルケス
マキューシオ橋本直樹
ティボルト清水健太
ロザライン浅川紫織
ベンヴォーリオ伊坂文月
パリス宮尾俊太郎
キャピレット卿スチュアート・キャシディ
キャピレット夫人ニコラ・ターナ
乳母樋口ゆかり
僧ロレンスブレンデン・ブラトーリック
僧ジョン小林由明
モンタギュー家の若者たち浅田良和
ビャンバ・バットボルト
西野隼人
キャピュレット家の娘たち浅野真由香
木島彩矢花
松根花子
岩渕もも
三井英里佳
キャピュレット家の若者たちニコライ・ヴィユウジャーニン
内村和真
合屋辰美
浜崎恵二朗
高島康平
ヴェローナの娘たち白石あゆ美
中島郁美
副智美
井上とも美
中村春奈
松岡恵美
ジュリエットの友人たち日向智子
渡部萌子
梶川莉絵
中谷友香
山口愛
マンドリンカップル神戸里奈
湊まり恵
荒井英之
長島裕輔


 どんな作品になっているかなと思っていたのですが、いかにもKバレエらしい作品で安心しました。 ちょっと雰囲気がドンキホーテのような気もしました。 街の雑多で楽しそうな感じが、ちょっと見覚えがありました。 ロミオは王子様というよりは悪ガキその一(笑)。 私自身に「ロミオ」に確立したイメージがあるわけではないからかもしれないですが、友人たちと笑いあい遊びあいふざけあうその姿はごく自然に思え、哲也がその役であることに不自然さを感じませんでした。 マキューシオ、ベンヴォーリオと楽しそうにさいころ遊びをしているところは、自然に悪ガキで見ていてとても楽しかった。 さすがに宮尾パリスよりアップで見ても年下に見えたときは腰を抜かしましたが(笑)。 原作の脚本をきっちりやるのではなく、要素を抜粋してやるのだから新しくいろいろイメージを作ってもいいのかと、ちょっと思えました。
 反面、ジュリエットはイメージ通りの「ジュリエット」。 ただ、私はロミオよりはジュリエットにこだわりがあると思うので、これはこれで安心しました。 ちょっとおてんばな感じのする女の子。 両親の愛に包まれて育った、女の子。 まっすぐな瞳がとても愛らしく、乳母のかわいがる姿になんだか自分を重ねてしまう(笑)。 うん、うん、目に入れても痛くないよね! そんなジュリエットがゆっくりと成長していく。 薄桃色の少女は、どこか透明感のある娘に成長していく。 まさしくジュリエット、ですねえ。
 二人について残念なのはやっぱり「この二人だからこその特別な何か」がなかったことかな。 個々ではいいです。 ただ、荒井&清水の時の方がときめいたというか、物語にのめり込めたところはあります。 リフトの軽やかさよりも、やはり物語性の方が重要だと感じてしまいました。
 私はどうもロミオとジュリエットという作品は好きなのですが主役より脇に肩入れをしてしまうみたいです。 そしてこの作品は間違いなく脇もおもしろかった。 まず、街のにぎわい・・・というのがとても楽しそうだった。 この騒々しさには見覚えがあるというか、いい意味でおなじみといった感じで、とても安心しました。 無理せずにこのバレエ団らしくR&Jをやってくれて、それが一番嬉しかったし楽しかった。 Kバレエの良いところ悪いところ両方入った、このバレエ団らしい、ここでしかできないR&Jだと思います。 ヴェローナの街のにぎわいにしろ、舞踏会の重厚と無骨が合わさった感じにしろ、Kバレエらしくて、とても好きです。

 細々キャストのこと。
 マキューシオはKのR&Jなら絶対に来るだろうと思っていた橋本さん。 予想通り、大変魅力的なマキューシオでした。 ひょうひょうとした周りを巻き込むその明るさと軽やかな足取りがいかにも「橋本さんらしい」感じがして楽しかったです。 女の子とたわむれたり舞踏会で雰囲気を和ませたりするところが楽しげで好き。 ある種トラブルメーカーでもあるのですが、何となくにくめない雰囲気で、まあ仕方ないなあと思わせてくれる人でした。 最期のシーンも迫力があった。 浅田さんの時は若干長いかと思いましたが、あっという間にすべてが流れ去っていった感じです。 ロミオとベンヴォーリオにつれられて去っていくときその腕から滑り落ちるところ、よろけながら剣を取りティボルトに剣を向けるところ、圧巻でした。 娘たちに囲まれるところも飄々としている感じと悲壮な感じがうまく入り乱れていたと思います。 マキューシオの死語物語が加速的に悲劇に向かっていくのもありますが、それでなくとも彼が舞台にいないのはとても寂しいと思えました。
 ベンヴォーリオの伊坂さんは2.5枚目といった風情。 見た目2枚目なんですが動きが飄々としていてて若干3枚目。 若干マキューシオとベンヴォーリオのキャラがかぶっているのが残念と言えば残念。 マキューシオには大きなドラマがあるけどベンヴォーリオにはない分、服装以外にも大きな色分けがあった方がおもしろかった気がします。 ジュリエットが死んだということをロミオに伝えにきたとき、ビャンバさんは去っていくロミオを追いますが、彼はそのまま立ちすくんでいます。 ロミオより年下というか幼い感じがしたので、二人のこの違いはそれぞれに合っているものだと感じました。
 ティボルトは清水さん。 これについてはキャスティングされたときとても意外で驚きました。 清水さんってかなり優等生タイプで、王子様ならいけるけどコンラットとかフランツは苦手っぽかったし、バジルも優等生だった印象があるからです。 口ひげをつけたその姿は予想通り若干似合わなく、凛々しいけどいつもより一回り小さい感じがしました。 雰囲気としては実力はないのにプライドだけが高いといった感じかな。 例えば1幕でベンヴォーリオの剣が当たったといって喧嘩をふっかけるところ。 遅沢さんがベンヴォーリオのその態度に腹を立てて一瞬で頭に血が上ったとするなら清水さんは「え、今おれバカにされた?ここで喧嘩買っとかないと陰で笑われる?」と勝手に解釈している感じ。 実力が伴わないから、常に相手に見下されやしないかびくびくしている。 剣を持っていなければ虚勢すら張ることができない。 マキューシオと勝負に負けて、結局みっともない姿をさらして、(ニコライさんに)なだめられても聞かず、マキューシオを殺すために後ろから突き刺す。 自分に恥をかかせた罰だと言うように。 死にかけのマキューシオの剣を振り払う段になって、圧倒的に優位に立って気持ちよさそうに相手を見下す。 ああ、底が浅くて空っぽな男だなー、というタイプです。 最期のシーンも何ともいえない迫力があり・・・このリアリティというか恨みがましい雰囲気が恐ろしかった。 遅沢さんと全く違うのに、二人ともティボルトという若干無茶苦茶なキャラクターの物語にちゃんと筋が通っているのが大変おもしろかったです。 ただ、彼のティボルトは若干異端だと思うので、初めて見た方はどう感じたのかちょっと気になっています。
 ロザラインはこの演出ではとにかく登場場面が多いです。 よいなと思う面ありつつ、まだ若干何かひと味足りないなと思う面もありました。 浅川さんのロザラインは松岡さんと違って薄紅色といった風情。 燃え上がる赤というよりはもう少し雰囲気がおとなしい感じがしました。 以前から感じていたのですが、彼女は本当に「白」い。 白い役だとそれが映えるのですが、オディールのように色が濃い役は若干白さが足を引っ張っている気がします。 ロザラインはこれはこれで魅力的と感じました。 清水さんも遅沢さんに比べたら色が薄い感じだったので、この二人という意味ではお似合いだったと思います。 ほんのちょっとした仕草ややりとりが、ティボルトとは特別な関係だったのかなと思わせるところがおもしろい。 清水さんのティボルトは頭に血が上りやすいというよりは短絡的なタイプで、そんな彼の肩にちょっと手を置くだけで気持ちを静めることができてしまうというようなやりとりがなかなか素敵。 一方でモンタギューの悪ガキ三人組に羨望のまなざしを受けるのもまんざらでない様子。 年下をからかうような微笑みが何とも魅惑的でした。 ティボルトが殺された様子を一部始終見て、怒り狂うのが彼女の一番の見せ場だと思うのですが、若干良し悪しがあるかなと。 この曲と彼女の雰囲気、そして彼女が火がついたように怒り狂うのはすごく納得。 キャピュレット夫人は嘆く方が合ってるし、キャピュレット卿はどちらかというと内に込めた怒りと悲しみという感じ。 怒りだけ素直に全面に出すのは若い彼女にぴったり。 ティボルトの亡骸に剣を取らせるのも印象的で、これが最後のジュリエットと対になっていると聞いてなるほどとも思いました。 ちょっと引っかかっているのは、彼女の怒りは最終的にどこへ向かったのかが分からないということ。 キャピュレット夫妻はその後ジュリエットの死があってそれこそそれどころじゃなくなっているはずだけど、じゃあロザラインは、と思ってしまう。 ティボルトの死については誰もが口をつぐんでいるけれどロザラインは一部始終を目撃していたという雰囲気だったので、そのあたりに決着をつけてほしかったとも思います。
 予想外に素敵だったのが樋口さんの乳母。 ロミオに手紙を届けにきたときはモンタギュー家の皆様にからかわれていましたが、「若いもんには負けん!」という雰囲気で闊達に踊っていたのが印象的。 舞踏会の後もジュリエットが一人になれるよう気を使ってくれるし、キャピュレット卿からもかばってくれる。 マキューシオとは別の意味でムードメーカーでした。
 キャシディさんのキャピュレット卿。 存在感と風格があってとても素敵でした。 ターナさんの夫人と並んだときのその姿も美しい。 踊りが少なかったのがもったいない。 誰にでもできそうに見えて、物語の芯を通すこの役はやっぱり彼だからこそ魅力的なんだろうと思います。 ティボルトの死後、なにが起こったかを聞いて回るその悲痛さ、モンタギューの旗を引き裂くその怒り。 モンタギュー家の人間の方が舞台上に多いからこそ、キャピュレット側に的確に演技をしてくれる人がいると物語がより分かりやすくなっていると思います。
 パリスの宮尾さんは何となく物語から浮いている(悪い意味で)気がしたのですが、あれは何だったのでしょうか? 物語の中で生きている、という感じがあまりしませんでした。 踊りもなんかいまいちビミョー・・・。 ただ、Kバレエの中であれほど白いタイツが似合う人はいないと、若干見直しもしました(笑)。

 これは私の趣味のせいか、それとも舞台のせいかは分かりませんが、ロミオとジュリエットの別れの後は若干面白味が少なかったような気もしました。
 というわけで若干気になるところがないわけでもないのですが、大変楽しい公演でした。 思い立って当日劇場にいきなり降り立ってよかったです(笑)。



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