ロミオとジュリエット
2009/11/04
東京文化会館

ロミオ熊川哲也
ジュリエット東野泰子
マキューシオ浅田良和
ティボルト遅沢佑介
ロザライン浅川紫織
ベンヴォーリオ伊坂文月
パリスニコライ・ヴィユウジャーニン
キャピレット卿スチュアート・キャシディ
キャピレット夫人ニコラ・ターナ
乳母樋口ゆかり
僧ロレンスブレンデン・ブラトーリック
僧ジョン小林由明
モンタギュー家の若者たちビャンバ・バットボルト
西野隼人
奥山真之介
キャピュレット家の娘たち浅野真由香
木島彩矢花
松根花子
岩渕もも
三井英里佳
キャピュレット家の若者たち内村和真
福田昴平
合屋辰美
浜崎恵二朗
高島康平
ヴェローナの娘たち白石あゆ美
中島郁美
副智美
井上とも美
中村春奈
松岡恵美
ジュリエットの友人たち日向智子
渡部萌子
梶川莉絵
中谷友香
山口愛
マンドリンカップル神戸里奈
湊まり恵
荒井英之
長島裕輔


 4回目の観劇となりました。 とりあえず、まだ飽きません。
 今日は休憩時間中にソファーでぼーっとしていたら「分かりやすい」といいながら歩いていく男の人が二人もいました。 ボリショイを見て以来「分かりやすい」が絶対の正しさではないのが分かりましたが、やはりそれは特徴であり売りともなり、またKバレエはその道にまっすぐ進むべきものだと思います。

 だんだん欠点が分かってきました・・・。 若干暗転の時間が長いですね。 場面転換自体はスムーズだと思うのですが、もう少し幕前で芝居が続くといいかなと思います。 あと、今回は悪ガキ3人組(ミュージカル版の癖でロミオマキューシオベンヴォーリオをこう呼んでしまう・・・そしてK版はそう呼んでも全く違和感がない)がみんな似たタイプに見えてしまった・・・。 2枚目のようでいて飄々としてどこかひょうきんなお調子者。 違いを言うならマキューシオが若干それが秀でてて、ベンヴォーリオが野暮ったく、ロミオは一番かっこいいという感じかなあ。 でも、スマートさは浅田マキューシオが一番上でした。 だからこんがらがる・・・。 細かい点ですが、舞踏会の前のシーンのロミオとロザラインの踊りがいまいち・・・。 二人が同じふりを踊っているはずなのに、ロミオだけがちゃんと音通りに踊れていて微妙。 今回はロザラインが一息早くそのふりに入ったのに、徐々にロミオから遅れていくのが見て取れていまいちでした。 あと、ラストの墓場でのシーンですが、ロミオがジュリエットを抱き抱えるあたりがどうも地味かなと。 振り付けっぽく踊っているようにも見えるんですが、いまいち張り合いが足りない。 演技でもなく踊りにも見えず、どっちつかずに見えました(そして残念なことに、東野さんはこのシーンがいまいちであった・・・)。 それとよく言われているようにジュリエットの嘆きの動きがいささかオーバーアクション。 あそこだけ「振り付け」っぽくて、演技のうまい方でもそれが「振り付け」にしか見えず、もったいなかった。

 それにしても、全国のツアーから帰ってきて、ずいぶん皆さんまとまってきたなという感じがしました。 舞台って面白いですね、ちょっと見ないとすぐ成長する。 あとこれはオーチャードの時から感じていたのですが、男性ダンサーがとてもうまくなりましたね。 昨年は名前を挙げるのもイヤになるくらいたくさんのダンサーの入れ替わりがあったために「コッペリア」なんて結構素人っぽくてひどかったのですが、それがようやく落ち着いた感じです。 ソリストだけじゃなくって周りもちゃんとKバレエっぽく踊ってくれて、安心しました。

 ジュリエットはお目当ての東野さん。 演目が決まったときから楽しみにしていましたが、もー本当にかわいかった! 若干「かわいいお嬢様」というよりはお姫様の雰囲気があったかもしれませんが、それにしても初々しくってかわいいかわいい。 跳ね回る姿がとてもかわいい。 舞踏会のシーンも最初は慣れない場を楽しんでいるようにさえ感じました。 パリスと踊るシーンは戸惑っているように見えて、困っているように見えて、でもそれがどこか恥じらっているようにも見えて、あれは「拒絶」だけどパリスにしてみれば「かわいい」ですんじゃうだろうなという感じでした。 そしてとても素敵だったのがロミオとの出会い! 舞踏会の重厚な音が鳴っていてほかの人たちがそれに合わせて踊っているのに、ロミオとジュリエットだけ別世界。 見つめあっている二人だけが現実にいるような不思議な感覚があり、音楽がとても遠くに聞こえました。 そして少しずつジュリエットが、ロミオが、互いに惹かれていくのが手に取るように分かりました ほんのちょっとした首の動きだったり、見つめている時間だったり、そんなのが積み重なってとても不思議な空気になっていました。 そしてロザラインがロミオに気づいてそっと声をかけたとき、パリスがジュリエットの肩に手を置いたとき、こちらも夢から覚めたような、不思議な感覚に陥りました。 これまたミュージカル版の癖でどうしてもディボルトとジュリエットが並んでいるとしみじみ眺めてしまうのですが(ミュージカル版ではティボルとはジュリエットのことが好きだったから)、このバレエではただ突き飛ばされるだけですね(苦笑)。遅沢さんのティボルとがやたら大きいですから、東野さんのジュリエットは本当に折れそうに可憐で、それぞれの「ティボルとらしさ」「ジュリエットらしさ」が際立ち、それはそれで面白い構図でした。 1幕最後のシーンも東野さんは本当に可憐。 ロミオに対する恋心の高ぶりも本当に「初恋」という感じで、甘いように見えてやはり清らか。 若干リフトが引っかかるかなと思うところもありましたが、おとぎ話の中の妖精のように重さがなく、それが月明かりの中にあってとても美しかった。 2幕の別れのシーンのあたりからは少し大人びた感じがして、ドキリとさせられました。 もしかしたら東野さんは女の子女の子しているより、このくらいの女性の方がきれいに見えるのかもしれません。 ロミオと別れるシーンはどこか狂気を含んでいるようで、喜びと悲しみが交錯しすぎて自分でも感情がコントロールできなくなってきているという感じで、物語が悲劇に向かっていくのを感じました。 パリスを拒む姿は強くなく、けれどそれでいてしなやかに強い。 荒井さんの女神のような美しさではなく、大人になったばかりの少女の芯の確かな強さ。 最後の姿は美しいとも悲しいとも違うけど、たぶんそんな感じだと思います。 あまりにも悲しくって「美しい」と言ってはいけない気がするけど、でもその姿はやはり美しかった。 勇気を振り絞る必要すらなく、とても自然にロミオの手に剣を握らせ、自害する。 この状況下にあったら彼女はそうするしかないだろうというのがはっきり分かりました。 とても可憐でかわいらしいジュリエットでしたが、相変わらず彼女はあとひと味、存在感が足りない気がします。 あとメイクのせいか、たまに年より老けて見えるのがちょっと・・・。 妖精と普通の女のこの間のような彼女の雰囲気はバレエの主演にぴったりだと思うので、もう一つ、階段を上ってくれるのを待ちたいです。
 パリスはニコライさん。 こちらもお初です。 待ってましたという感じです。 予想通り絵本から抜け出してきた王子様みたい!! 小さな顔に整った顔立ち、音楽を奏でるような優雅な指先に軽やかな足取り。 やっぱりバレエは見た目も大切だとうっとりしてました。 1幕は若干感情が見えませんでしたが、2幕でジュリエットと踊るとき、静かだけれども確かに彼女への愛情が感じられました。 パリスは確かにジュリエットのことが好きで、けれどジュリエットはロミオを思い、心を閉ざしている。 その二人の踊りの色気・・・ともちがう、冷たさ・・・なのかな、その独特の雰囲気が、とても魅力的でした。 ジュリエットの葬儀もその後も、彼女への愛情が感じられ、切なくなりました。 このキャストもとても楽しみにしていたのですが、予想通り素敵で、そして今日を逃してしまうと見られないかもしれないので(次に見に行くときはティボルトで再会確定なので)、見られて一安心でした。

 続いてはおなじみの方々。 まずは立て続けの熊川さんのロミオ。 ロミオの振り付けは若干彼にしては飛んだり跳ねたり回った利が控えめかなと思います。 少し前にドンキのDVDを見たからかなそう感じるのかな・・・さすがにあのときのエネルギーはあるまい。 アリはもうそろそろどうだろうかと思ってしまう感じがしましたが、ロミオはあと5年後でも大切に踊ってそうなイメージがあります。 控えめとはいっても、よく回るんですけどね。 特に2幕でジュリエットから手紙を受け取ったあたりは圧巻。 喜びが体に収まってられないと言う感じであふれだし、風のように舞って去っていきました。 哲也らしくロミオらしく、なんかすごかったです。 「ロミオ」はある意味「王子様」の代名詞かもしれませんが、彼のロミオは普通の青年に思えました。 バジルやフランツに系列が近いのは異端かもしれないけど、舞台全体の作りがにぎにぎしい雰囲気だったので、彼がそんなお調子者の風情を漂わせてもあまり違和感はありませんでした。 マキューシオ、ベンヴォーリオと並んで踊っているときは本当に若々しく、生き生きしていました。 踊っている姿も楽しそうであり、舞台の端でちょっと話している姿も楽しそうでした。 ジュリエットとの結婚式のあとは若干大人びた感じ。 ティボルトに剣を納めるよう言う姿も、品よく、物腰上品な青年でした。 彼にしてはエレガントな所作が決まっていて、ちょっとびっくりしました。 ジュリエットとの別れのシーンも物憂げな雰囲気が似合っていて、これもびっくりでした。 ジュリエットの死の知らせを聞いたあとの悲しみにとりつかれたようなあたりの演技が印象的でした。 その悲しみとても深く、ジュリエットを抱き抱えるときの愛情が痛々しかった(ここの哲也の演技がと良かっただけに、振り付けがその迫力についてこれていないのがとても残念)。 パリスを殺すあたりに何か狂気めいたものを感じ、彼はもう死ぬしかないのだと、不思議なくらい自然に思えてしまいました。 哲也もいろんな意味で大人になったなーと思っていると、カーテンコールではいつもの俺様哲也でした。 東野さんともがっつり年齢差がありました(笑)。 ちょっと安心しました、不思議なもんですが(笑)。
 今日で最後になってしまう遅沢さんのティボルト。 いやー、今日も素敵でした、素敵でしたというのも変な感じですが(笑)。 清水さんの後に見てみると、しみじみ一挙手一投足が彼と解釈が違いますね。 本気で短気で、かっとなると考えなしにバカなことをしでかす。 剣だって清水ティボルトのように弱いのに威勢を張っているという感じはしませんでした。 ちゃんと強いけど、それ故力をひけらかすだめさを感じました。 あ、冒頭のベンヴォーリオとの喧嘩で明後日の方向を見るところについては清水さんの方が自然でした。 清水ティボルトはあれしきのことにだまされそうですから(苦笑)、遅沢ティボルトはそこまでバカでないように思えました。 ロザラインとの関係はあくまで「親戚」かな。 彼女の方が一方的に慕っている感じがしました。 これについてはそういう関係でも問題ないことに気づけてちょっと目から鱗でした。 舞踏会のシーンは少し誇らしげな顔をしている浅川さんのロザラインとセットで目の保養でした。 性格としては本当にどうしようもないのに、踊りはシャープだし何となく品格があってとても素敵。 細くて鋭い足の動きに、今日もうっとり見ほれていました。 マキューシオに喧嘩をふっかけるシーンは、彼を怒らせるためにわざとモンタギューの女の子を平手打ちしたのですね、彼女のことなんか全然気にかけていないようにずっとマキューシオを見ている感じでした。 マキューシオを殺すシーンは、剣を取られ足蹴にされて、そのことに頭にきて思わずといった感じです(遅沢さんだと「マキューシオが強い」、清水さんだと「ティボルトが弱い」と感じます)。 マキューシオが死んでいくところを冷たく笑いながら見ている姿が何とも恐ろしい。 殺される様も迫力があり・・・骨太で素敵なティボルトでした。 顔立ちのせいか骨太に見えるけど、実際は細いですよね。 そんなところもとても素敵。 ロミオをやる関係か、文化会館では今日一日きりなんですよね。 次は北海道で終わりかと思うと、寂しいです。 もう一回見たかったなあ。
 マキューシオは浅田さん。 2枚目なのにひょうひょうと3枚目を演じているのが楽しそうです。 足が細くて長く、その長い足でマキューシオの細やかな踊りをこなすのが、見ていてなかなか快感。 特に舞踏会での踊りは飛ぶときが多く、きれいに宙に浮かぶ細長い足にうっとり見ほれていました。 マキューシオ自体はいい役だと思うのですが、あの衣装はやっぱりどうにもこうにも・・・。 見慣れるほどにマキューシオでなく「道化」に見えてしまいます。
 ベンヴォーリオの井坂さん。 ここのところ立て続けにやっている気がしますが、どんどん板についていっている気がします。 あのちょっとぼさっとした感じの顔立ちがかわいい! ベンヴォーリオも身の軽い見せ場があってそれはそれで素敵なのですが、それがある故になおさらマキューシオと見分けがつかなくなっている気もします。(というか今日は本来はマキューシオだったはずなのだが・・・)

 見るほどに問題点は見えてきますが、とてもおもしろい作品だと思います。 まだ公演が残っているのに、DVDはどんな感じかとそわそわしています。



Web拍手