ロミオとジュリエット
2009/11/07
東京文化会館

ロミオ遅沢佑介
ジュリエットSHOKO
マキューシオ西野隼人
ティボルト清水健太
ロザライン浅川紫織
ベンヴォーリオビャンバ・バットボルト
パリスニコライ・ヴィユウジャーニン
キャピレット卿スチュアート・キャシディ
キャピレット夫人ニコラ・ターナ
乳母樋口ゆかり
僧ロレンスブレンデン・ブラトーリック
僧ジョン小林由明
モンタギュー家の若者たち浅田良和
伊坂文月
奥山真之介
キャピュレット家の娘たち浅野真由香
木島彩矢花
松根花子
岩渕もも
三井英里佳
キャピュレット家の若者たち内村和真
福田昴平
合屋辰美
浜崎恵二朗
高島康平
ヴェローナの娘たち白石あゆ美
中島郁美
副智美
井上とも美
中村春奈
松岡恵美
ジュリエットの友人たち日向智子
渡部萌子
梶川莉絵
中谷友香
山口愛
マンドリンカップル神戸里奈
湊まり恵
荒井英之
長島裕輔


 なかなかいい舞台でした。 荒井&清水ペアはスタンダードな、イメージ通りの「ロミオとジュリエット」でしたが、こちらはどこか一風変わった、けれどそれでいておもしろい方向にきれいにまとまっているいい公演でした。 カーテンコールで「やり遂げた」とどこか肩の荷を降ろすかのように、相手を称えるように微笑み合ったのがなんとも印象的でした。

 この日のキャスティングはちょっと意外性のあるものでした。 顔立ちのせいか、ヒラリオンとかロットバルトとか、王子様をほとんどやっていなかった遅沢さんのロミオ。成熟した女性を感じさせる祥子さんのジュリエット。 そしてキャスト変更があり、ティボルトはどちらかといえばきまじめタイプの清水さん。 本来はニコライさんだったのですが彼がパリスをやることになったため、ティボルトにキャスティングされていたのは彼と遅沢さんと清水さんだったため、消去法で当たり前のように清水さんに。 この時点ではなぜ宮尾さんがパリスをやらないのか意味が分かりませんでしたから、私は単純に清水さんの登場に驚喜しておりました。 Kバレエでロミオとジュリエットをやると聞いたときから、清水ロミオ&遅沢ティボルトを見たいと思っていたんです。 キャスティングとしては理想と逆になってしまいましたが、とりあえず同じ舞台の上に二人がいることがうれしくてうれしくて仕方ありませんでした(その原因が宮尾さんの怪我だと分かってたらこんなに喜べなかったと思う・・・)。
 さて舞台の方ですが、ある意味「予想通り」、ほかの舞台と雰囲気が全く違いました。 一番違ったのがバルコニーのシーン。 艶めかしいとまで言うと少し違ってしまうのですが、他のロミオとジュリエットの清廉とした雰囲気に比べると、ロミオのちょっとした仕草が、ジュリエットのちょっとした表情が、月明かりに照らされてどこか色気を含んで浮かび上がっていました。 もちろんそれが二人の物語を阻害するわけではなく、こんな雰囲気もおもしろいと感じられました。 別れのシーンも他の組み合わせと比べて艶っぽく感じました。 互いの熱を知っているから離れがたいというか・・・。 生々しいというほどではないけれど、でもやっぱり妖精のように透明感があるわけでもなく・・・。 荒井&清水ペアを見たとき、朝を迎えた二人を見て「添い寝?」と首を傾げたのですがこの二人を見てしまうと、やっぱり前出の二人は添い寝だったんじゃないかと思ってしまいます(笑)。 それにしても、今度祥子さんがカルメンやるなら相手は遅沢さんでお願いしたいです・・・!
 東野さんとの時はちゃんと物語の中にいたニコライさんのパリスですが、今回はいまいち・・・。 すでに見た目の時点でアウト。 ジュリエットもパリスもかわいそうになってしまうほど、バランスが悪い。 ニコライさんの小柄さが、祥子さんの背の高さがいやがうえでも引き立ってしまう。 両方とも、「ジュリエットとパリスの物語」においては全く不要のものです。 パリスかっこよくないし、ジュリエットかわいくないし・・。 作品によっては女性の方が若干背が高くても問題はないかもしれませんが、可憐な少女の代名詞といえるジュリエットが年上の婚約者より背が高く見える瞬間が一瞬でもあったら、やっぱり雰囲気が壊れてしまうと感じてしまいました。 ここばかりは上背のある宮尾さんの存在が恋しくなりました。 そんなわけで二人がいるときは物語にのめり込めなかったので、前回以上に気合いの入っていないニコライさんの足さばきが気になって仕方ありませんでした。
 祥子さんはとてもかわいらしいジュリエットだったとは思うのですが、やはり日本でジュリエットをやるのは難しいかなと。 ジュリエットは設定では14歳、まだ成長途中というイメージがあります。 それなのに祥子さんだと周りの人と比べて頭が一つ高い身長だから、どんなに動きが、表情が軽やかでかわいらしくても少女っぽく見えないという残念なところがありました。 そんなわけで周りに人がいるときはなんだかちぐはぐな感じがしましたが、一人だったりそばにいるのがロミオ、もしくは両親や乳母だけというときは絶品。 踊りがうまいことは知っていましたが、演技もうまいですね〜。 仮死から目覚めたとき、その場の空気の冷たさに恐ろしさを感じておびえる、ロミオがいるのを見つけてほっと肩の力を抜く、しかし血に塗れた短剣を見つけ、ロミオの死に気づき嘆く、この流れがとても自然。 嘆く姿もとても自然でした。
 遅沢さんのロミオは予想通りだったり予想外だったりしておもしろかったです。 とても意外だったのは哲也に何となく似ていること。 ロミオの髪型が哲也の時の髪型に似ているからでしょうか。 不意に、体型は全く違うのに、哲也のことが頭をよぎりました。 コミカルな演技の時、そのちょっとした仕草が哲也そっくりだったのは予想通りだったんですけどね(笑)。 この辺はちょっと輪島さんを懐かしく思いだしてしまいました。 彼のフランツも、その軽やかさが哲也そっくりだったなあ・・・。 という話はさておき。 コミカルなところは哲也に似ていたということで、1幕は結構「遅沢さんらしさ」を感じることができませんでした。 あ、冒頭のロザラインとのやりとりだけは例外。 仕草の一つ一つがエレガントで、仮面を取られて顔を背ける所作も美しく、そのときの感じから何となくロザラインのことも本気で好きだったのではないかと思えました。 哲也だとあくまで「恋も一つの遊び」みたいな感じだったので(苦笑)。 だから1幕で女の子たちとじゃれているのも遅沢さんは遊びにも本気にも見えなくてちょっとどっちつかずだったのかもしれません。 バルコニーのシーン、祥子さんはかなり背が高い方ですが、遅沢さんも高いので何とかきれいにリフトも決まっていたと思います。 ただ、最後のシーンで手を伸ばしたら届いたんじゃないかというのが妙に印象に残ってしまってます(笑)。 細かいところですが、乳母から手紙を受け取る前は楽器を弾き語っています(哲也はさいころ遊び)。 この姿が何ともかっこ良く、絵になっていました。 シーンは飛びますが、ジュリエットと朝を迎えてロミオが一人目覚めて手を見たとき、その手はジュリエットを抱いた手でありティボルトを殺した手であると感じました。 こんなことを感じたのは、彼だけです。 そして意外といっては失礼かもしれませんが、別れのあたりでジュリエットにキスするあたりが、何とも色っぽかったです。 最後、ジュリエットの亡骸を抱えるシーンが圧巻でした。 一番狂気を感じたのが彼だったと思います。 狂気を感じ、でもとても悲しかった。 このあたりのバランスがとてもおもしろく、もう一度見たいと思っています。
 ロミオとティボルトとのやりとりは大変楽しかったです。 私は清水さんのファンでもあるので大きな声では言いづらいですが、誉め言葉としてティボルトの器の小ささが際立ったなと感じています。 悪人をうまく演じてるっていうのを誉めるのは難しいですね(苦笑)。 今まであまり気にしていませんでしたが、遅沢さんと比べてしまうと清水さんはやっぱり背が低い。 それだけにティボルトが弱く見え、無駄にプライドだけが高い彼が自分を強く大きく見せようと必死になっている意味が分かりました。 虚勢を張ってすぐ剣を振るうティボルトと、普段は剣を納め穏やかなのにいざというときにだけ剣を抜くロミオ。 ある種自分に自信がないから剣を持つティボルトと自信があるから剣を持たないロミオ。 ティボルトはロミオの引き立て役ではありませんが、大柄でありながら穏やかにティボルトに剣を納めるように言うロミオは大変素敵でした。 この組み合わせが、一番ロミオの穏やかさを表現できていたと思います。 そしてマキューシオが殺され、ロミオがティボルトに剣を向けるシーンもよかった。 押しの強さもあって、大変強く見え、迫力がありました。

 主要な感想はこんなところでしょうか。 後は細かいところを。 浅田さんがかっこいいです(いつものこと)。 神戸さんは本当にかわいい。 ひときわ輝いて見えます。 ただやっぱり主役をやるとなると何かひと味足りないような気がして、それがもったいないです。 西野さんのマキューシオもニュアンスがおもしろい。 ベンヴォーリオはマキューシオの死後ロミオをけしかけているように見えた、ロミオにジュリエットの死を伝えたあとは力なく崩れ落ちる。

 色々楽しかった公演なのですが、立て続けに夜の部を見てしまったため感想としてはこれくらいしか書けません。 正統派のロミオとジュリエットからは少しはずれた、他の組み合わせに比べて「生身」だと感じましたが、ちゃんと「ロミオとジュリエット」だと感じた、とても不思議な作品でした。 翌日も見たかったのですが所用があって行けなかったのが残念でした。 これを見るまで遅沢さんが王子様キャラを?と首を傾げていましたが、この公演のおかげで結構似合っているということが分かりました。 これからも色々な作品に挑戦していただきたいです。 喜んで見に行きます。



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