Thomas Borchert-Besinnlich 2009
2009/12/19
Theater Akzent



 さて、ヴェルヴェデーレ宮殿の隣の道を、真っ暗になってから一人降りしきる雪に悪態をつきつつプリントアウトしたグーグルマップの地図を握りしめ、クリスマスマーケットの明るい明かりを片目に時計を気にしつつ、行ったことのない劇場へ本当に行き着けるか半分の不安を抱えつつ歩いていたらなんだか住宅地っぽいところにでちゃって大丈夫かと思っていたところに小さい劇場の明かりが見えてほっとして、中を覗いてみればTdVのロゴの入った鞄を持ったお客さんがいて「ああ、ここだ・・・」と安心して劇場には行ってみると、そこにはサンタ帽子をかぶって手にチョコレート菓子を持ったお兄さんがにっこりと笑って笑って観客の到着を出迎えてくれていたのでした。 黒のビキニパンツ一丁で。

 と、なかなか忘れがたいスタートを切ったこの作品ですが、とても楽しいコンサートでした。 ゲストのはずだったCaroline Vasicekがお休みで(最初の方で「良いニュースと悪いニュースがあるんだけどどっちを先に聞きたい?」みたいなことを言っていたんで、たぶんそこで言ってたと思うんだけど、子細は聞き取れず)完全ソロのコンサートでしたが、十分満足です。 いたらどんな歌が歌われたのかなあというのは若干気がかりですが。
 ミュージカル以外の弾き語りとトークが3対ミュージカルの曲(ピアノ伴奏付き)が2といった感じでしょうか。 言葉が分からない人間にはちょっとつらかったのですが、満足でした。 私はピアノを聞き分ける耳は持っていませんが、なんとなく聞いていて心地いい音だったと思います。 まあでもそんなことは結局どうでもよくて、楽しそうに弾いて歌ってるのをみれたのが一番の収穫かな? あと、客席いじりが楽しかった!とにかく客席を楽しませる楽しませる。 まず全席に鈴付きサンタ帽子が配られていたのですが、まずそれをかぶらせ、歌にあわせて観客にふらせる。 最初はこの曲のこのタイミングで、といった感じだったのに、だんだんピアノほっぽりだして「最初は上手側、次に下手側、みんな一緒に、2階席も!」と身振りで指示してくる。 それに併せてアカペラマイクなしで歌ってみて、最後には「素晴らしい!」と拍手してこちらにお辞儀。 別に帽子をかぶらずに手で持って振ればいいのですが、何となく楽しくて頭をふるふる振ってました。 「音がでるのはいいけど、頭を振るから首を振ってるみたいだ」とか何とか言っていました(多分)。 後半は鈴じゃなくて1階席と2階席でパート分けして歌わせたりしてました。 だんだん難しくなってくるとうまくいったりいかなかったりで、そういうときも何度もいろいろ試して結局彼が歌いたいように歌えてしまう。 そうやって客席を巻き込んでいくのがとても自然で楽しそうで、そしてこちらも楽しくって、これはちょっと虜になりそうでした。 Best of Musicalsを見たときにもなんとなく感じてたけど、この人は観客を巻き込むのがうまいですね。 とても自然にやっているように見えて、あっという間にその世界に飲み込まれてしまう。 このあたりが「Thomasの魅力再発見」という感じで楽しかったです。 うーん、一度だけで良いから見てみたいと思っていたThomasのコンサート、案の定もう一回見たいと思っています・・・。
 ソロの曲は生で聞いたりCDで聞いたものでしたが、どれも聞けてよかった。 特に「彼を帰して」と「心を鉄に閉じこめて」がすーばーらーしく、良かった! CDを聞いたときから良いとは思ったんですが、実際に聞いてみて、さらに本編が見たくなりました。 「彼を帰して」の清涼感が本当に素晴らしい。 透明感にあふれるその祈りの声に、ただただ聞きほれました。 「心を鉄に閉じこめて」は解釈がおもしろくて、実際に聞けて感動でした。 某動画サイトで見たときびっくりしたのですが、彼のレオポルトは優しいんですよね。 ヴォルフガングへの愛情が本当にあふれていて、今でも赤ん坊の頃と同じように、それこそ目の中に入れても痛くないほどに愛してる。 その腕の中に抱き上げた赤ん坊の姿が見えるよう。 レオポルトはどちらかと言えば頑ななイメージがあるのですが、彼のレオポルトはどちらかと言えば優しいというか、傷つきやすいもろさを感じさせます。 優しいからこそ、傷つきやすいからこそ、傷つかないように頑なになる。 息子を愛しているからこそ、彼は自分のように傷ついてほしくないから頑なになるよう強く言う。 優しい人がゆっくりと頑なな人に変わっていくのがこの曲の中に込められていて・・・。 本当にドラマティックで、この解釈で全編見たいと思えました。 Thomasはどちらかと言えば俺様な役が多いのですが、実はこの2役のような静かな役の方が似合うんですよね。 J&Hであればジキルの方が似合ってますし。 クロロックも嫌いじゃないけど、そんな感じの役もまたやってほしいとちょっと思ってしまいました。
 アンコールには「Gier」。 アンコールにはふさわしくない曲だと思うんですけどね(笑)。 ほとんど毎日舞台で歌ってるのにたまのコンサートでも歌うなんて本当に好きなんですね。 なにを歌うとも言わずとも、前奏が流れた段階で大盛り上がり。 Thomasのファンって、本当にこの歌好きよね(含む私)。 このコンサートの始まりの時、でてきたときの歩き方がすごくクロロックぽかったのですが、歌ってみるとやはり半分くらいはThomasだなあと思いました。 なんというか、人間っぽい。 翌日の本公演ではまた雰囲気ががらりと変わっていましたので、その辺のバランスがおもしろかったです。

 とても盛りだくさんで、楽しいコンサートでした。 Caroがいたらどうなっていたかというのは若干気になりますが、ソロコンサートで十分楽しめました。 席が離れてたのが若干残念でしたが、彼のトークに反応できないのでこのくらいでよかったかなと(苦笑)。 分かったのって、Thomasが大皿にチョコレート菓子を持って降りてきて通路側の観客に配ろうとしたとき、一人目の時の女の子がお皿ごと取ろうとしたので、一歩引いてちょっと冗談目かしく「Die Unstillbare Gier」とわざとらしく言ったことくらいです (あ、遠くから見た感じですが、彼女はお皿ごともらって隣に回そうとしていたのかなと)。 十分すぎるほど楽しめましたが、次はミュージカルのみのコンサートも行きたいなあとちょっと欲がでてきました。 そうなるとおそらく弾き語りはないか激減だと思うので、それも残念・・・などと思っております。

ミュージカル曲
1幕
・Je länger ich lebe
・Bring ihn heim
・The Impossible Dream

2幕
・Die Musik der Nacht
・Schliess Dein Herz in Eisen ein
・Dies ist die Stunde

アンコール
・Die Unstillbare Gier





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