海賊
2010/02/27
Kバレエカンパニー
オーチャードホール

メドーラ東野泰子
コンラッド遅沢佑介
アリ橋本直樹
グルナーラ荒井祐子
ランケデム浅田良和
ビルバントニコライ・ヴィユウジャーニン
サイード パシャルーク・ヘイドン
ギリシャの少女達樋口ゆり
神戸里奈
白石あゆ美
浅野真由香
井上とも美
中村春奈
岩渕もも
中谷友香
海賊の男達西野隼人
ビャンバ・バットボルト
伊坂文月
荒井英之
内村和真
合屋辰美
長島裕輔
奥山真之介
物乞い星野姫
酒匂麗
パ・ド・トロワ日向智子
松岡恵美
副智美
鉄砲の踊り中島郁美
並河会里
木島彩矢花
西野隼人
ビャンバ・バットボルト


 海賊、哲也のいないキャスティングの日です。 今回の公演は三度目の正直で哲也がすでにちゃんとアリをやっているので、すごく落ち着いた気分で見ることができました。

 元々Kバレエらしいいい作品だとは思っていたのですが、今回はさらに磨きがかかって面白くなっていた! 大きな変更は無いと思うのです。 あ、一曲踊りが追加されていましたが、あれは特に物語にいい影響を与えていたとは思えなかったので除外。 とにかく楽しくて楽しくて、完全に舞台の世界にのめりこんでしまいました。 踊りを楽しみながらもからどうなるのだろうと、わくわくはらはらしっぱなし。 初めて見たときのような新鮮な気持ちで楽しめました。 間違いなく、Kバレエで一番の傑作は「海賊」です。

 とにかく全体のバランスがいい、話の流れがスムーズ、人物の性格描写がはっきりしている、 このバレエ団に似合ってる・・・と、思わず褒めちぎってしまいます。 褒めてる最中申し訳ないのですが、実はこのバレエ団「女性ダンサー不足」という日本のバレエ団に あるまじきことを引き起こしています。 ファンの方ならなんとなく気付いていると思うのですが、プリンシパルへの昇格以外の昇格が、 ほとんどないんですよ。 ソリストが減るばっかりで、近年増えてないんですよね。 ファーストソリストと、ソリストを見てみると、男性に比べて女性の層が薄いことがはっきりしてしまいます。 この作品、特に今回のキャスティングだと女性のプリンシパル、男性のソリストが中心になって作られています。 だからこのバレエ団の弱点が見えず、長所がとても引き立つんです。 踊りが全体的にそろってなくても、なんとなく面白く見えてしまいますしね(苦笑)。

 えーと、結局褒めてるのかほめてないのか分からなくなってきましたが、とりあえず感想を。
 まず、遅沢さんのコンラッド。 彼はこれでこの作品のメインの男性キャストを制覇したわけですが(ランケデムはキャスティングされただけになりそうですが・・・・)、コンラッドが一番似合うかなと思いました。 元のキャストがキャシディさんですからもう少し貫禄、せめてがっしりした体格がほしいなと思ってしまうのですが、まあ、それは5年後にお預けとして、全体的にすごくバランスがよかった。 まず、最初の船のシーンで笑うシーンですでに彼の良さは発揮されていました。 もう、それだけで凶悪なんですよ(笑)。 バレエとはいえ「海賊」なんですから、ヒーローは王子様では無く、悪人なんです。 予想通りそれがぴったりは待って心地よく物語を見始めることが出来ました。 そしてR&Jのロミオでうすうす気付いたのですが、この人、恋愛部分の表現も上手い・・・。 難破した船を見上げ木片を拾い上げ嘆き悲しむ姿も良かったけど、そのあとメドーラを見ると一気に恋する男の世界。 てに頬を寄せるところとか若干「Too Much」かと思ったけど、元々粗野な感じだったからこのくらいでいいのかな。 すっかりメドーラに心を奪われ周りが見えなくなっているのが分かりました。 そのアンバランスさが、でもその直後にメドーラとグルナーラを連れ攫われたあとになんとしても奪い返すという コンラッドの意思と力強さにつながり、物語の流れがとても自然でした。 2幕も彼の魅力は満載でした。 なにより踊りがきれい! コンラッドは元々キャシディさんの役柄ですから、若干踊りが単純なんですよね。 アリに比べると、振り付けが簡単で、そこにいれば結構かっこよく見えてしまう。 しかしその辺りはさすが前回のアリ。 ちょっとした跳躍でもちゃんと高く飛んでくれるし、空中での姿勢も身軽でとてもきれい。 キャシディさんとは全く違う踊りに見えました。 そしてメドーラとのちょっとしたやり取りもなんとなくロマンティックというか一途にほれ込んでると分かって素敵。 暴力的なことをなるべくやろうとしないのは、彼女が怖がってるからとすぐ分かります。 彼女の頼みなら何でも聞いてしまうのも、惚れた弱みです(笑)。 そしていつもつまらないつまらないと言っていたメドーラとの寝室でのパドドゥも、短いながらロマンティック。 あれ、このシーンってこんなに楽しかったのかと首を傾げるほどでした。 短いには短かったのですが、短い分その時間を十分堪能した気がします。 そしてメドーラを奪還しに行くシーンでも、ビルバントを殺さないのも納得 (メドーラが見ていたから出来なかった)。 そしてメドーラと二人で去っていくのにも違和感がなく・・・驚いたことに私、この後アリが撃たれることをすっかり忘れていました。 コンラッドとメドーラが背中を向けた瞬間そのことを思い出し、あっと叫びそうになりました。 そのくらい、物語にのめりこんでいたんです。 ちなみに、暗転していた分からなかったのですが、このあとコンラッドはちゃんと引き金を引いているのですね。 音だけかと思っていましたが、このあたりの作りこみはさすがだと思いました。 最後の船出のシーンで嘆くようにアリの羽根を海に投げていたのも印象的。 そしてそのあとに帽子を取ったとき、プログラムにあったように彼は海賊を辞めたのかなと、少し思いました。 明るい船出、コンラッドとメドーラの物語。 いやー、楽しかったです。
 というわけで、物語の中心にいたためにコンラッドのことを語っているだけで話が終わってしまいそうになりましたが、 お相手のメドーラのことも。 やっぱりまだプリンシパルになったことに納得していない部分はありますが、メドーラとしてはかわいくって良かったと思います。 技術的にはずいぶん安定してきたと思います。 登場シーンのアラベスクアチチュードも決まっていてとてもきれい。 コンラッドの隣にいる姿もどこか場違いでそれが魅力的でした。 かわいかったんだけど、技術的にもある程度あるんだけど、やっぱり華がない。 彼女はもう少しファーストソリストであるべきだったと思います。 松岡さん、長田佳世さんがいた期間くらいは、せめて。 その方が逆に踊る機会が増えてうまくなったのではないかと思ってしまいました。 ファーストソリストでメドーラを踊ることはぜんぜん問題がないのだから、プリンシパルではあってほしくなかったなあ・・・。 ファンだからこそ、何とも納得行かない気分引き続き、といった具合です。
 さて、今回遅沢さんと並んで楽しみだったのが橋本アリ。 もちろん初演のときに沢山見ていますが、「今の」橋本さんで、代役じゃない橋本さんで、見たかったの♪ 怪我から復帰して、もちろん彼は上手いし跳躍も見事なんだけど、初演のランケデムで見た、あの 「何この人、すごい!」という感じがようやく戻ってきた気がします。 戻ってきたと言うのは、ちょっと失礼だな。 あの時はランケデムは良かったけど、アリはそこまで凄みを感じなかった。 でも今回はとてもよかった。 2年半前よりずっと男らしくなった体格も 勢いのある伸びやかな跳躍も魅力的だし、何よりも「アリ」としてそこにいるたたずまいがとてもちょうどいい。 出過ぎることなく引っ込みすぎることなく。 ちゃんとコンラッドの腹心としてそこに存在する。 冒頭の船が難破して嘆くあたりからメドーラたちにそのことを説明するまでの流れが分かりやすい。 物語が分かりやすいと感じた理由は、彼のちょっとした動きだったと思っています。 奴隷市場でのランケデムとの丁々発止も楽しそうだった。 本当に手に負えない感じで、すばしっこく場を乱してる。 挑発している感じも堂に入っていて、ランケデムが振り回されている感じがとてもおもしろい。 ちゃんばらシーンでも目立ってた。 2幕の冒頭の踊りの中心にいた辺りはコンラッドの部下であり、他のみなのまとめ役という雰囲気があって好き。 そしてパドトロワの素晴らしさは言うまでもなし。 頑張ってる感がなく、すごく当たり前に、すごいことをやっている。 回り方はもう少し速い方が理想かもしれないけど、高さは素晴らしかったと思います。 そしてラスト、ビルバントに撃たれるあたり、このあたりは特別全体的に物語の完成度が半端無く高かったのですが、 本当に物語の流れ出なく自然にコンラッドを庇ったことが見て取れて、涙。 撃たれながらも一歩一歩歩く姿に、アリの最後の意地を見ました。 ほんと、最初から最後まで、堪能させていただきました。
 お馴染みだけど楽しみにしていましたその2は荒井さんのグルナーラ♪ 彼女は妹をやってるときのほうが好きなのでメドーラかなとも思いましたが、やっぱりグルナーラも素敵。 1幕は奴隷市場でサポートされながら周ってる時に軸が大幅にずれて大丈夫かと思いましたが (これについての犯人は浅田さんだとは思いますが・・・)、やっぱり抜群の安定感と細やかな演技でした。 個人的に気に入ったのは奴隷市場でヴェールを取られたときの驚いたような脅えたような表情。 一瞬だけど彼女がその場をどう思っているか感じ取れて、どきりとさせられました。 2幕のパシャの屋敷での踊りも強く拒否してるのに強すぎず、嘆いている姿も愛らしく、とても好きです。 テクニックとしてはしっかりと力強いのに、力なく影のような踊りがもの悲しい。 そしてメドーラがやってきたとき、このときの妹への思いやり、ちょっと能天気な妹と 妹の身を案じる姉の雰囲気が絶妙でした。
 初めてだけど楽しみにしていた浅田さんのランケデム〜♪ 浅田さんはなかなかいい男だから輪島さんに似てるかなと思ったら、若干似ている気がしました。 何というか優男なのにこずるい感じがするところかな。 まだまだ演技の面では改善の余地があると思うのですが(特に鞭打ちは音がしないと怖くないよ)、踊りの面では サポートがひどかったので何とかしていただきたいのですが、踊りはとても楽しかった。 ちょっと体が硬いのか何か足りないのか、マネージュがなんとなく半端に見えてしまったのが残念ですが、 基本的にこれ見よがしに飛ぶ飛ぶ。 とにかく滞空時間が長く、長い足を生かしてるのか高く長く飛ぶ。 きれいかというと若干雑な気がしますが、小柄じゃでなくこれだけ踊れるのは面白い。 アリもいけるんじゃないかと思う見事さでした。 輪島さんとか思い出しちゃうとやっぱりまだ舞台に堂々といる感じではありませんでしたが、 もちろんそれは当たり前だと思うし、次はきっともっと良くなってると思います。 押しの弱さはあるものの、奴隷市場でのこずるい感じも良かったし、 2幕の洞窟でのふてぶてしさやは開放されてからの凶悪な笑みも素敵。 実は踊りの少ないランケデム、パシャの屋敷でのびのび躍るのが見れてよかった・・・。 最後のビルバントに殺されるあたりを見て、しみじみこの作品はキャラクターがはっきり描かれていて、それが 面白いのだと感じました。 彼も、きっちりその役目を果たしていたと思います。
 さて、直前にキャスト変更のあったニコライさんのビルバント。 彼も初役だろうに、何で急にキャスト変更があったかは謎です。 とはいえとてもはまってました。 今までもビルバントの手下はやっていましたが、やはりビルバントの扮装にはとても特徴があるので、 新鮮に見えました。 R&Jでは絵本の中から抜け出したような王子様だったのに、 今度は黒髪黒髭黒服の悪人と言うのがとても不思議。 ニコライさんってちょっと役の造り方が薄味かなと思うことがあるのですが、 その点、この役は濃すぎるほど濃いのでちょうどいい気がしました。 冒頭の船のシーンでの喜び方も好きだったし、コンラッドにたてつく辺りもよかった。 鉄砲の踊りもスマートで素敵でした。 いい感じに小物感があって、いかにもなビルバントでした。
 そして相変わらず素敵なのがパシャのルーク・ヘイドン。 何でしょう、何があんなにも魅力的なんでしょう。 グラマラスな女性を指すように、いやらしいおっさんぽく手で女性の体を書いてる姿を見ても、 「彼の屋敷だったらハーレムオッケー!」と思ってしまう素敵な魅力があります (己の容姿なら一瞬で追い出されます)。 あの存在感、さりげないサポート、コミカルだけど品を失わない動き。 相変わらず完璧です。 ところで、メドーラとグルナーラがそろったときパシャは今まで「お前たち似てるな」という動きをしていたと 思ったのですが、今回は「美女二人ようやく手に入ってハッピー!」という感じでした。 このほうが物語としてすっきりする気がします。 最後は海賊達に連れ攫われちゃったけど、大丈夫かしら・・・。
 メインキャストとしてはここまでですが、もう一人特筆したかったのが乞食の星野さん(普段は姫ちゃんと呼んでますが)。 くるみのクララですっかり気に入っていたので今回一日だけでも彼女で取れも嬉しかった。 そしてその乞食もなかなかかわいかった! コケティッシュな感じがして、特にアラベスクアティテュードのやわらかさが好きでした。 奴隷市場のシーンは同時多発的にいろいろなことが起こっていて目が足りなかったのが悔しいのですが、 ちょこまかあたりを動き回る姿も愛らしかったです。

 キャストとしてはこのくらいにして、まずは変更点。 ・・・と言いたいのですが、分かったのが一番メインともいえる踊りの追加だけでした。 この踊り、導入部は良かったし、踊りとしても面白かったけど、元々男性に比重が行っていた作品に、 さらに男性っぽい踊りを入れるのはちょっといまいちかも・・・。 あと、終わり方もきれいだったし、女性陣のしたたかな感じもかわいかったけど、全体を通してみると若干 蛇足かなと思ってしまいました。 ビャンバさんが生き生き楽しそうに踊っていて、見ていて楽しかったけどね。 お酒を飲んで喉が焼けちゃったメドーラもかわいかったけどね。
 初日に見た母親から聞いてはいたのですが、とにかく男性陣の踊りは圧巻でした。 皆さん上手いし、この作品は多少そろってなくても面白いし、単純に迫力があって面白い。 船の難破シーンの後のアリが手下達を連れてくるあたりもわくわくしましたし、 そのあとの乞食の踊りの後ろの男性陣の踊りも楽しかった。 洞窟のシーンの楽しさは言うまでもなく、パシャの屋敷も迫力あり。 日本にもこれだけ男性のダンサーがいるのかと、ちょっと感動しました。
 今回珍しく前方席に座ってしみじみ思ったのですが、このバレエ団は本当に足音が静かですね。 アリや奴隷市場の娘さん達の衣装の飾りのちゃらちゃらした音はするのに、跳躍でもしない限り 足音がしない。 女性もパドブレなんかじゃ絶対に音がしない。 心地よく音楽を聴きながら作品を堪能することが出来ました。

 いかにもKバレエらしい作品。 ストーリーがはっきりしていて、踊りが男性的で、とにかく楽しい。 本当に楽しい時間を過ごすことが出来ました。 大阪公演のキャストも大変魅力的で、こちらも行きたい行きたいと叫んでます、というかそのキャストで 文化会館でやってほしいです。
 そろそろ哲也も舞台の中心にいられなくなる日が遠くなくなってきたなと思う今日この頃。 この作品はくるみ割り人形と同じように、彼がいなくても十分人にお勧めできる、いい作品です。



Web拍手