ロミオとジュリエット
2011/06/03
オーチャードホール

ロミオ橋本直樹
ジュリエット神戸里奈
マキューシオ秋元康臣
ティボルトビャンバ・バットボルト
ベンヴォーリオ伊坂文月
ロザライン松根花子
パリスニコライ・ヴィユウジャーニン
キャピレット卿スチュアート・キャシディ
キャピレット夫人浅川紫織
乳母並河会里
僧ロレンスブレンデン・ブラトーリック
僧ジョン小林由明
キャピュレット家の娘たち浅野真由香
井上とも美
別府佑紀
金雪華
國友千永
キャピュレット家の若者たち内村和真
福田昴平
合屋辰美
浜崎恵二朗
高島康平
ヴェローナの娘たち白石あゆ美
中村春奈
副智美
岩渕もも
松岡恵美
柳原麻子
ジュリエットの友人たち日向智子
渡部萌子
梶川莉絵
和田紗永子
山口愛
マンドリンダンス浅田良和
西野隼人
内村和真
北爪弘史


 神戸さんと橋本さんのロミオとジュリエットは意外なキャスティングですが、とってもおもしろかったです。 バランスが良いという言葉が真っ先に浮かびましたが、まさにその通り、たとえば別のバレエ団にゲストとして出演する二人を見たいとは思わない、けれどKバレエで見るには本当に素晴らしい舞台でした。 そして、二人はその立役者だったと思います。

 橋本ロミオは、間違いなく私の見た中で一番のやんちゃ坊主(笑)。 貴公子然としたロミオ、王子様っぽい動きをするロミオばかりのなか、彼はそういう面を完全に捨てたやんちゃ坊主。 バレエとしてそれで良いかは分からないけど、私はとても好き。 なにより悪ガキ三人組が本当に子犬が三匹じゃれあってるみたいでかわいいし、ロザラインに対して恋してると言うよりは美しいものにただあこがれてるという感じもいいし、人のうちの舞踏会に忍び込むというところもぴったりでした。 神戸さんのジュリエットの幼さは「おてんば」からくるものかな。 パリスとの結婚を迫られて神父様のところに行くのは、絶対窓から飛び出して木を伝い降りて行ってるタイプ(笑)。 そんな「子供」の二人がまるで魂の片割れを見つけるみたいに互いを見いだし、惹かれあう。 バルコニーのシーンが本当によかった! 二人とも外見が子供っぽいことがあり、子供が大人への階段を一歩ずつ上って行くのがよく分かった。 それは恋をすることであり、ぶっちゃけてしまえば性への目覚めであるんだけど、その辺りはさすがルックスが幼い二人、あくまで子供から大人への成長の一歩目というかわいらしい色気というのかなあ。 愛というのは、結局心だけではないのだ。 ほんの一瞬のふれあいが少しずつ二人を成長させ、目覚めさせていく。 そのバランスがとってもよかったです。 手が触れるかふれないかの距離で歩くだけで、ジュリエットのスカートにロミオが口付けするだけで、色香が漂い、それがとてもかわいらしく甘酸っぱいのです! 実年齢も外見年齢も同じくらいの二人だからできる、二人が互いの手によって同じように成長していくロミオとジュリエットでした。 ジュリエットは本当にこのシーンが一番よかったかもしれません。 月の光の下で白いつぼみが花開いていくような、そんな瞬間に立ち会ったと思っています。 (ただ、橋本さんはリフト頑張れ、一カ所本気で落ちないか冷や冷やした)
 バランスの良さとしてもう一つあったのがマキューシオの存在。 ロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオは哲也ロミオの時と比べて良くも悪くも三人ひとかたまりでした。 個性が薄くなったという悪い点はあるけど、三人が本当にこの三人組で仲がいいことがよく分かってとっても楽しかった! 三人が一緒に踊ってるのを見るだけでわくわくする。 ジャンプの高さとか回転の速さとかちょっとしたところまで似ていて、本当に三人ひとかたまり (同じ服着てシャッフルしたら見分けつかない)。 それだけ仲がいいから、マキューシオが殺されたことでロミオがおかしくなってしまったことが分かる。 自分の腕の中で、しかも自分に原因の一端がある状態で親友が殺されて、正気を保ってられる人間なんていない。 特に橋本さんは「血が流れている」演技がうまいのです。 マキューシオが倒れるようにロミオに抱きついたとき、きっと彼の体にもマキューシオから流れる血が付いたのだ。 それがはっきり分かる演技で、とても痛々しく、つらかった。 親友を失い、平和主義者であるのに関わらず我を失い人を殺した。 そんなロミオが、自分の体の一部を失い自分の考えを自分で否定したロミオが、それまでの彼と一緒であるわけがないんです。
 私の中で一つ消化しきれなかったシーンがこのあとのジュリエットの寝室。 私の中に悲しくも美しいシーンであること、また、この二人のロミオとジュリエットは子供っぽくかわいらしいという先入観があったからだと思うのですが・・・なにか予想と違ったというような違和感がありました。 ロミオの、ジュリエットに対する愛情が、何か違った気がするのです。 愛する女性を抱いた幸福より、マキューシオが死んだこと、ティボルトを殺したことにとらわれていた気がするんです。 ジュリエットに対しては、自分は彼女を幸せにする価値はない、彼女には幸せになってほしい、そんな距離を置いている気がしました。 ある意味死んだロミオに対して、ジュリエットはまだ生きていました。 というより、生きて行かなくてはいけないから、必死だった。 ここに留まっていればパリスと結婚させられるのは間違いない、けれどロミオはジュリエットを連れ去ってくれるような状態じゃない。 寝室でのロミオの迷いは「ここに留まりたいけれど行かなくてはならない」ものの迷いでなく、「ジュリエットは愛しいけれど自分は彼女のそばにいる資格はない」と思っているものの迷いだったと思うのです。 マキューシオが死んだこと、ティボルトを殺したことを記憶にとどめたまま目覚めたロミオ。 彼と過ごした一夜はジュリエットにとって幸せだったのか、そして誰かに命じられたからでなく自分に意志で出ていったロミオをジュリエットはどんな気持ちで見送ったか。 神戸さんのジュリエットは大きな目が本当にかわいく愛らしいのでよりいっそう痛々しかった。
 毒薬を飲む前、ジュリエットはロミオとの楽しかった時間を思い出します。 でも、そのとき彼女は気づいていたと思うんです。 あのときの明るく朗らかなロミオは戻ってこないことに。 それでも幸せだったひとときを思い出して薬を飲むジュリエットが、本当に痛々しい。 こんな無邪気でかわいい子がなんでこんな思いをしなくちゃならないのよと思いつつ、けれどその原因がロミオにあるかといったら、確かにロミオが原因だけど、彼が悪いわけではない。 なんとなく、そんななんともやるせない物語だったと思うのです。
 ロミオにとって、自分は死んだ存在で、遠くでジュリエットが生きていることが彼にとっての生きてる意味でした。 だからジュリエットが死んだと知って取り乱す。 パリスが自分をジュリエットに触れさせようとしないことにいらだち、彼を殺してしまうのすら、とても自然に思えました。 今までの彼なら決してしなかったと思うのですが、このときのロミオだったらやってしまう恐ろしさがあった。 死んだ(仮死の)ジュリエットを抱き抱えたとき、またマキューシオのことが頭をよぎりました。 これが私が橋本さんがマキューシオ役者だと知っていたからなのか実際そうだったのか分からないのですが・・・。 ジュリエットも死んでしまった、マキューシオと同じようにと思えました。 彼にとって死というのは遠いイメージでなく、マキューシオを通して身近になったもので、そのときを思い出させるようにロミオにジュリエットの死を教えているように思えました。 打ちひしがれ方が「死んでしまうのも当然」と言った感じで、橋本ロミオのような明るい人物がそんな状態になってしまうのが、つらかった。 もちろんジュリエットのこともあったけど、マキューシオのことを引きずっているように見えました、うん、当然だよね。
 そしてジュリエットも、ロミオが生きていないならもう生きている意味がないと感じました。 ジュリエット自身もここに来るまでずいぶん追いつめられて、死ぬかもしれないけどロミオを取り戻せるかもしれないから薬を飲んだのですから。 彼女は血に塗れたナイフとパリスの亡骸を見て「死」を理解し、そしてロミオが死んだと理解したように見えました。 なんでこんなかわいい子たちがこんなつらい運命にあわなきゃいけないの、それが一番の感想でした。
 大人でも子供なでもない二人の一瞬の疾走。 もう少し二人が若ければ、大人ならこんなことにはならなかったかもしれない。 そう思える組み合わせでした。 踊りの面では山ほど課題がありましたが、とてもおもしろかったのであまり気になっていません。 とても楽しかったし、いろんな面で納得のいく演技を見せてくれた二人でした。 是非また見たいです。

 この日のティボルトは初めて見るビャンバさん。 髭面に何となく違和感がありましたが、しばらくしたら見慣れました。 難点をあげればちょっと悪人の面が強すぎるかなということ。 もともとKバレエでの初役がビルバントという人です。 悪人の個性の強さはお手のもの。 品格がないわけではないんです、本国では王子ばっかりやっていたというのもあって、生まれがいいことはすぐ分かる。 人の上に立つ風格はある。 でも悪人の面が強すぎてちょっとバランスが悪かったかなと。 もうちょっと貴族の風格があった方が好みです。 悪人とはいっても好色な面は全くなく、ロザラインと比較するまでもなく堅物(笑)。 仮面舞踏会の前、ロザラインがキャピュレット家の若者たちと楽しそうにしていることを不愉快に思ってそうなところや、ロザラインとちょっといい感じに抱き合うところ、キャピュレット家の若い娘さんたちと不器用に踊ってみせて全く楽しくなさそうな表情をするところ。 このあたりの一連の流れがとても好きです。 ビャンバさん、今までちょっと太めだと思っていたのですが、ものすごくやせた! 細い足をきれいに動かしつつ無骨な表情で女の子たちと踊っている姿にときめきました。 キャピュレット卿とのやりとりを見ていると跡取りかと感じさせる面があるのですが、それにしては短気で酒癖が悪い。 このあたりが演出を含め、まとまってくるともっとおもしろいかもしれません。 ちなみにさすがビルバント、チャンバラは素晴らしいです。 特に対ロミオの時はアリ役者とビルバント役者ということで迫力がすごかったです。 互いに慣れてるから、本気で殺しにかかってるのが分かった。 それにしても、くるみ割り人形の花のワルツなんかやると本当に春のわかみどりの似合う好青年なのに、これだけ濃い悪人も似合うあたり、役者って本当にすてき。 ちなみに今回は殺されたときに気づいたら胸に刺さってるはずの剣がどっかに行っておりました。 不自然さはありませんでしたが、ちょっとドキドキ。

 マキューシオは秋元さん。 橋本さんに見慣れてしまうとちょっと薄い感じがするのですが、今回は何となくそういう個性がたってるという感じより、三人がひとかたまりという気がしました。 彼自身は相変わらず踊りが端正で見ていて幸せでした。 演技とチャンバラはもうひと頑張り。 でもそのあたりはこのバレエ団にいると自然に延びてくる気がします。 海賊、またやらないかなあ。

 松根さんのロザライン、ソリストにしては魅力的な大きな動きするなあと思っていたら、ソリストですらありませんでした、忘れてた。 華やかなロザライン。 品格とか存在感とかティボルト死後の演技とかもっと求めるところはありましたが、特に悪ガキ3人との踊りが大変華やかで美しく、あこがれられるにふさわしい存在で、素敵でした。 そして舞踏会の前のキャピュレットの若者たちの踊りはTanz der VampireのStäker als wir sind並のリフトでした。

 ロザラインが松根さんだから誰になるかと思っていたキャピュレット夫人は浅川さんでした、まあ、豪華キャスト! これで浅川さんはジュリエット、ロザライン、キャピュレット夫人とこの作品のメインの女性役を演じたことになりますね、すごい。 雰囲気としては、なんとなくフランスミュージカル版のキャピュレット夫人に似ているように思えました。 なぜそう思うのかと考えてみましたが、黒い服を着ているのにキャピュレットらしい赤い燃えるような空気を感じたからかもしれません。 とても華やかで美しく、気品があり、キャシディさんの隣に並ぶと年の差のあるうっとりするほど美しいご夫婦でした。 とても好きです。 また、ジュリエットとのバランスが身長も雰囲気もぴったり。 額にキスをするのにちょうどいい身長差で、彼女と並ぶとその品格雰囲気含めてジュリエットの子供っぽさが際立った気がします。

 伊坂さんのベンヴォーリオについては言うことがありません。 いつものように、完璧にかわいい弟分でした。 2幕で恋のためにぼんやりしているロミオを揶揄するようにあきれ顔で左胸に両手を当てて恋するロミオを表現していたのがなんかおどけててかわいかった。

 パリスがちょっといまいちだったのが残念。 うーん、ドロッセルマイヤーもコッペリウスもよかったんですけどね・・・。 ルックスが素晴らしいだけに、いっそう残念。

 そのほかのキャストで目を引いたのはなにより白石さん! 今度の白鳥でびっくり抜擢キャストだったのですが、それにふさわしいかはともかく不思議と目がいく人になっていました。 ロザラインと対になる存在だと思うのですが、名前のない役なのが意外なほど、インパクトがありました。 街の中でみんなの姉御分よろしく楽しそうに踊ってたり、ロザラインと喧嘩をしていたり、ティボルトの死後、それをあざ笑ったり。 印象的な役でした。 お財布の都合上見に行きませんが、彼女のオデット・オディール、気になってはいるんですよ。
 浅田さんはもちろんチェックしてます。 小さな役で残念ですが、彼の美しい足さばきを見ると癒されます。 今年はオベロンもできずあと名前のある役は雪の王だけという悲惨な状態ですが、来年こそはまた主役をやってほしい! バレエって脇に回っちゃうと求められるものが全く違ってきちゃうんですよね。 浅田さんのお芝居が見たいです。
 日向さんは今日もかわいくって満足。 ジュリエットの友達のあの淡い色の衣装がぴったり。 踊るシーンが増えたのはうれしいですが、舞踏会の時もあの衣装というのはちょっと場違いな気が・・・。

 振り付けや演出で変わっていたところ、印象的だったところだけ追加。
 冒頭のモンタギュー対キャピュレットのシーン、今までは男性側が決闘しているだけだった気がするのですが、いつの間にか橋の上で女性たちも取っ組み合いの喧嘩。 当主夫妻が出てくるのも初演は橋の上からで下が、今回は橋の下から。 ロミオとティボルトがはっきりと前に並んでちゃんと次期当主を主張しているよう。
 舞踏会の前の三人組とロザラインの踊りは再演の方が好き。 若い男の子を振り回しているロザラインがとても魅力的。 額にキスされて、もうそれだけでくらくらきているロミオがかわいい。
 舞踏会のあと、酒を飲みに行こうと誘っておいいて消えたロミオを追いかける二人ですが、そのあと結局キャピュレットの婦人二人を見つけてそちらを追いかけることに。 さすが悪ガキ(笑)。
 全体的にキャピュレット卿がパリスに対してとても気を使っている感じ。 娘の結婚相手だから・・・というより領主の遠戚だからかな。 ジュリエットとパリスの結婚が「家のためのもの」という側面が強まった気がします。 ティボルトがあれだから仕方ない(苦笑)。
 見る側としても2回目だから、初演より楽しく再演を楽しみました。 Kバレエは若手キャストの方が好きだと言っておりますが、それにぴたりと当てはまる公演でした。 普段はティボルトとマキューシオが死んでしまうとそこで気持ちが一段落してしまうのですが、ちゃんと後半までテンションが高いままでした。 本当に、素敵なロミオとジュリエットでした。 ロミオがよかったからでなく、ジュリエットがよかったからでなく、二人がとてもかわいくて、運命に翻弄される姿が痛々しくて、物語にのめり込むことができたロミオとジュリエットでした。 この二人、是非また見たいです!



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