Rebecca
2011/10/30
Theater St.Gallen

≪Ich≫Lisa Antoni
Maxim de WinterThomas Borchert
Mrs. DanversMaya Hakvoort
Jack FavellAndreas Wolfram
Mrs. Van HopperIsabel Dörfler
BeatriceKerstin Ibald
Frank CrawleyAndre Bauer
BenOliver Heim
Oberst JulyanChristian Hettkamp
GilesFlorian Fetterle
FrithAndreas Kammerzelt
RobertIvo Giacomozzi
ClariceHeidy Suter
HorridgeTim Reichwein
Mrs.RutherfordSonja Schatz


 若干過労だったため(渡欧日翌日+前日23日まで観劇+当日6時間強の移動+マチソワ)損はしてると思いますが、おもしろかったです。 プレミアから数えて4回目と5回目の公演、ちゃんとまとまりがあってほっとしました。 Thomasがマキシムと聞いたときはどうなるかと思いましたが、ちゃんとThomasでしたし、ちゃんとマキシムでした。
 この公演について、私はウィーンでマキシム以外ほぼファーストキャスト(マキシムはTimさん、今日はホーリッジ役で出演)で見たきりです。 なぜかCDを聞いた回数も少なく(でも歌詞カードを見ながらなら歌えるくらいには耳になじんでる)、私にとってはちょっと縁遠い作品です。 台本については今回一応一通り読んでますし、重要なところは訳しました。 細かい勘違いがあることは否定しませんが、大まかな流れは理解していると思います。 というか、昨日に引き続いて全部ではないにしろ役者の言ってることが分かるのがとーっても嬉しかったです。
 ちょっとだけザンクトガレンの劇場について説明。 ザンクトガレンはチューリッヒから電車で1時間程度の都市です。 そこそこ主要な街らしいのですが、中心部は徒歩で回れてしまう程度の規模。 劇場は市民館だのなんだの陰口たたいてますが、市立劇場です。 オペラなんかもやってますし、基本的にレパートリー性。 この週末は2日連続3公演ありますが、基本的には1公演終わったら翌日は違う演目になります(ちなみに日曜の昼公演は明らかに老人団体が入っていました・・・)。 レベッカも来年の6月まで25公演程度しかありません。 ザンクトガレンのミュージカルでThomasが関わる作品はこれで3作目。 もともとミュージカルに力を入れていたらしいのですが、1作目ドラキュラはドイツ語圏初演、2作目モンテクリスト伯は世界初演がこの劇場です。 そんなわけで若干この劇場では彼の扱いが別格かなあと思っています。
 演出家はウィーンと同じです。 舞台美術も同じだと思うのですが、残念ながらこの劇場はセリも盆もありません(だから「市民館」って呼んでる)。 吊りものとボートハウスとマンダレイの屋敷の階段がセットの中心です。 机や椅子は役者さんがさっさと持ってきて、さっさと片づけます。 それでも場面転換はスムーズで、やろうと思えばここまでできるんだと思いました。 若干難点はあるんですけどね、でもこの劇場で見た前2作の演出を思うとさすがすばらしいです。 指揮者はKoen Schoots。 ご存じの方はご存じのはず、ウィーン劇場協会の指揮者です。 オーケストラは結構人数がいたんじゃないかと思います。 千人規模の劇場でハープと木琴が並んでるオケボックスは久しぶりに見ました。 市立劇場なので自治体の援助が入ってる気はしますが、それにしてもこのクオリティの舞台を110スイスフランで見れてしまうというのが信じられません・・・(ちなみに劇場そばの2つ星の宿はシャワーオンリーシングルで90スイスフランくらいします。そういう物価です、スイスって)。 まあ、プログラム(7スイスフランだったかな?)がプログラムなんだかスポンサー紹介の冊子だか分からない状態になっていまし、市立劇場なので日本の民間のミュージカルとは違いますが、安くて質の高いものを上演するノウハウは日本にも欲しいと思います。
 全体的な感想として2つ感じました。 まずやっぱりこれは「私」の成長物語であること。 もう一つは、前日に見たせいで強く感じたのかもしれませんが、「エリザベート」という作品とある意味対になるのではないかということ。 一つ目は分かりやすいですが、二つ目。 「あなたが私を愛してるなら私は自由になる」という歌詞が「エリザベート」と逆に思えました。 規律のある世界になにも知らず男の事情によって放り込まれたのはエリザベートも「私」も同じ。 エリザベートは明確に自由を求めています、一人で。 この作品では「私」とマキシムが手を取って過去の呪縛から自由になろうとしているように思えました。 「愛だけでは十分ではない」という作品と「愛によって自由になる」という作品。 すごくクンツェさんらしいと思いましたし、正反対の物語だと感じました。
 「私」はウィーンの「ルドルフ」のマリーです。 めちゃくちゃ気が強くて、Uweのターフェと対等に渡り合えちゃう。 そんな「私」だったらダンヴァース夫人と最初から戦えるんじゃないかと思っていました。 マキシムはThomas。 昨年まではクロロック伯爵としてドイツでウィーンで俺様やってました。 とにかくマキシムというイメージでなかったのでどうなるかそわそわ。 Mayaさんはご存じエリザベート。 お母さんなせいか、優しくキュートなイメージが強いです。 あのダンヴァース夫人の冷たさを出せるかと不安に思っていました。
 結論から言うと全員役者個人のイメージ通りで、でも役のイメージを壊すことはありませんでした。 ちゃんとそれぞれ役者の個性を分かった上でその役になじませている器用さはさすが。

 初見に近いので場面ごとの感想になります。 台詞のドイツ語は台本から、日本語訳は私作です(間違ってたらごめんなさい)。

 オープニングはウィーンと同じ雰囲気。 廃墟となったマンダレイに人々の姿が現れ、「私」が歌っています。 不気味というよりは幻想的。 影の中にダンヴァース夫人の姿があったと思います。
 場面は変わってモンテカルロのホテル。 これもウィーンと同じかな、陽気な雰囲気です。 「私」は小生意気で鼻っ柱が強い、あか抜けないどこにでも良そうな女の子でした。 ヴァン・ホッパー夫人は押しつけがましい、どちらかというと成り上がり貴族という感じ。 このあたりは感覚的になんとも言いがたいのですが、一代で成り上がったのか、それとも数百年単位で続く良家ではないという意味で成り上がりものという感じなのかはうまく説明できないのですが、どちらにしろ身分は高く財産もあるけど、何代も続くヨーロッパの貴族という雰囲気ではありませんでした。 きつい感じのする人ですが、彼女が舞台にいるとライトが当たったように明るくなる。 生まれ持った資質(身分)の差を盾にヴァン・ホッパー夫人は「私」に「私はあなたを雇っている」「あなたはレディーにはなれない」と言い聞かせているのですが、そんな夫人のことを「私」は明らかに睨んでいてその目線が結構きつい。 いつか彼女を後ろから刺しそうで怖い。 マキシムはちゃんと有閑貴族という感じに見えて一安心。 伯爵様とは違った感じの品格でした、もう少し肩の力の抜けた、親しみやすい感じ。 ヴァン・ホッパー夫人より後ろにいる「私」の方に惹かれたというのはわかったのですが、出会い頭で一目惚れ・・・というのがちょっと露骨すぎるように感じました。 この場面、ボーイのTimさんが上機嫌でかわいいとか、エレベーターボーイのOliver Heimがちょこまかしてかわいいとか、地味に視線が泳ぐ(笑)。
 翌朝のシーンは基本的に好き。 彼はマンダレイにいることができずここまで逃げてきたのだろうけど、噂話は彼を逃してはくれず、モンテカルロでもつきまとう。 気にしていないような顔をして新聞を読んでいるけど、その噂話が彼の耳に届いて、それを不快に思っているのがよくわかる。 逃げる、ということで噂話が耳に入ってることを認めたくないけど、でも居心地がよくないまま新聞を読み続けている感じ。 マンダレイの城主と知って言い寄ってくる人、レベッカの噂話を続ける人。 そんな中でマキシムが「私」に惹かれたのは当然だと思うのです。 いわゆる「他の人と違う」というありがちなパターンではあるのですが、金持ちにつきまとうわけでもなく、噂話をするわけでもなく、過去のことを聞くわけでもない。 とても気軽におしゃべりすることができる。 「私」がテーブルクロスをひっかけちゃって自分の席に招くあたり、なんとなく楽しそうだったのが印象的。 だから外に連れ出すのも、ここまでくると理解できます。 「私」にとってマキシムは対等に扱ってくれる初めての人だったのではないかなと思います。 ヴァン・ホッパー夫人はあんな感じですし、他の人は「私」を夫人の付属物としか扱ってはいなかったでしょう。 きれいな景色を見せるために連れ出してくれて、寒いと言えば上着を貸してくれて、友達と扱ってくれる。 マキシムが「私」と似ていると思ったというのも何となく分かる。 互いの感じている「孤独」に似通ったものがあるように思えたのでしょう。 金持ちの道楽に甘えるわけでもなく、自分のできる精一杯としてマキシムに贈り物をする「私」が本当に大切に思えたのは当然で・・・だから新曲すごい邪魔。 長いしあまり良い曲じゃないしマキシムのソロがここにくるの主役がぶれるレベルで変だし音域が他の曲と違うし(珍しく歌いづらそう)。 「私」の自然さと自由なところに惹かれてるのは分かるんですが、ここでそれ解説しちゃだめでしょ〜〜! 聞かなくても分かりますもの。 歌は好きではないんですが、このときの二人の雰囲気は好きです。 本当に気持ちよさそうに、ピクニックを楽しんでる。 「私」を見守るマキシムの優しい眼差しとか、ワイングラスを渡すマキシム、受け取る「私」の楽しそうなところとか。 ちょっと場面戻りますが、女の子崖の上に連れ出しておいて、来たら来たで明らかに飛び降りたがっているだめ男マキシム。 まさに「Nur ein Schritt」という感じで、追いつめられている表情がかなり怖かった。 そして「私」が寒いというとごく自然に上着を貸す姿がとても自然なあたり、さすがヨーロッパ人だなあと思わされました。 「私」が絵を渡した後、マキシムが思わずキスをするのはすごくわかるのですが、「私」の表情に驚きがなかったのがちょっと意外。
 さて、次の場面ですが台本にはヴァン・ホッパー夫人の部屋とあるのですが、どう見てもエントランス・ロビーです。 場面転換をするための吊りものがもう用意できなかったのかなあと勝手に推測しています。 レセプションとのやりとりは「ガラスの仮面」のような発想の転換。 電話をしたわけでなくフロントに話しかけてるんですが、確かにフロントでも違和感はないです。 しかし、ソロを「私」が歌い出すまではともかく、プロポーズまでここでしてしまうとは・・・! テーブルの上にあった花を持って「Kleiner Dummkopf(うまく訳せなかったんですが、「かわいいおばかさん」くらいのイメージ)」と、若い子をからかう感じのマキシムのスマートさにくらくら。 「私」が断り文句を言ってると思ってがっくり来ていたかと思ったら「私」の「Ich liebe dich」で一気に大喜び。 ああ、かわいいなあ、このおっさん。 エレベーターからヴァン・ホッパー夫人が降りてきます。 いつも変わらず騒々しい感じのおばさん。 周りにいたら絶対つきあいたくありませんが、舞台の上では良いアクセントになってとても好き。 二人が結婚すると知って倒れるのも自然だし、マキシムが支えるのもとても自然(笑)。 「ウィンター夫人ですって!」とちょっと鼻で笑う感じで肩をすくめて退場。 言葉にするときつくなるんですが、なんとなくにくめない。
 幕前の新婚の二人。 マキシムはしゃぎすぎ(笑)。 花売り娘から白い花を買って「私」に投げ渡したり、写真屋さんの前で「私」をお姫様だっこしてみたり(伯爵様で気絶した女の子ばかり相手にしてたせいかちょっと「私」の姿勢が不自然(苦笑))。 なんだろう、このかわいいおっさん(笑)。 書き忘れてましたが、二人の年齢としては「私」が二十歳前後でマキシムが40代前半といった風情。 親子ほど年が離れている感じはしましたが、親子に見えることはありませんでした。
 屋敷のセットは舞台機構的にはセリに沈まなくなった分シンプルなのかもしれませんが、 螺旋階段のような形の階段が中心にあり、ウィーン版によく似た重厚な色合いのお屋敷でした。 アンサンブルさんは若干ウィーンに比べたら弱いかなあという気がしましたが、それについては比較対照が悪いかな。 もうちょっとメイドさんたちの衣装がかわいいとよかった。 そしてのっぽのTimさんはすぐに見つかったのですが、どうしようこの人まだヘルベルト抜けてない・・・。 ちょっとした手の動きがキュートだったのですが、たまーにあの長身ふりふりひらひらのヘルベルトが思い起こされてしまいます・・・つまりかまっぽい。 そしてロベルトのIvoさんもTimさん並の身長&顔の小ささだったため、Thomasがそんなに背が高く見えない不思議な世界。 Mayaさんのダンヴァース夫人はそんなに怖くありません。 Andreさんのフランクは相変わらず堅実。 マキシムは家に帰ってきてとてもうれしそう、楽しそうですが、「私」は居所がなさそう。 マキシムと離れて部屋に案内されていくところを見て、彼女はなにも知らず貴族の世界に放り込まれたのだと感じました。 召使いたちが興味深く思うのも当然、「私」は本当にふつうの女の子でした。 鼻っ柱の強そうな「私」が不安そうな顔をして後ろを振り返りつつ階段を登っていったのが印象的。 このあたりがなにも知らず王族の世界に放り込まれたエリザベートと重なると、ちょっと思いました。 前日に見ましたからね。
 ダンヴァース夫人はどちらかというと少し厳しく神経質なところがあるくらいのふつうの家政婦に思えました。 ただ、レベッカを失ったことでどこか壊れてしまった。 この壊れ方というのは「子供を失った母親」というのが一番しっくりくる。 小さい頃からずっとその成長を見守ってきた大切な存在が急になくなってしまってその気持ちをどこに持っていったらいいかわからない。 花を、机の上を、椅子の位置を、彼女がいた頃と同じように整えればそのうち彼女が帰ってくるのではないかと思っているように思えました。 そんなに冷たくなかったので、「私」が彼女と友達になりたいと言ったのも不自然とは思いませんでした。 ちょっと神経質なところはあるけど、それを乗り越えて分かりあえそうに思っても仕方なく感じました。 手紙を描く相手などあるはずもなくレベッカの机を見る「私」がなんとなく心細そう。
 「私」を訪ねてくるベアトリス夫妻(変な日本語・・・)。 ベアトリスについては文句があろうはずがありません。 「ハロー!」の高音がきれいに響くところがとても好き。 ちゃきちゃきした感じのお姉さま。 ジャイルスのちょっとさえない、ベアトリスに振り回されている感じもすてき。 この二人って「エマ」のモニカ夫妻にちょっと似ています。 ベアトリスが夫そっちのけで妹ができたと喜んでいるあたりが特に。 つきあいの長い親しさという感じではないんですが、確かにベアトリスが「私」をかわいがっているのが本当に興味深いです。 この時点では分かりませんが、彼女はレベッカのことが嫌いだったんでしょうね。 ちなみにジャイルズのFlorian Fetterleはマキシムのアンダーでこちらも元ヘルベルトですが、彼はヘルベルトも抜けすっかり冴えないおじさんでした。
 「私」とマキシムがチェスをしているシーン。 螺旋階段のセットの裏側と言っていいのかな、基本的にウィーンと雰囲気は似ています。 ずらりと並んだ本がさすがお貴族様のお屋敷といった感じです。 二人のやり取りが些細なことではありますが、CDで聞き慣れた初演ペアと全く雰囲気が違っておもしろい。 勝ち誇った感じの「私」に対して一瞬なにが起こったか気づかなかったように「Nein」と哀れな感じで言うマキシムが何ともみっともかわいい(笑)。 幸せそうな雰囲気の二人。 この時点ではマキシムも「君はまだ若いから・・・」と言ってるんですよね。 マキシムが「私」を子猫のようにかわいがってるというか、本当に大切そうにしてるのがいいなあ。 二人に水を差すようにダンヴァース夫人がやってきます。 ちょっとヒステリックになっている感じ。 それこそ子供を失った母親が、その亡くした子供が大切にしていたものがなくなったときのような反応。 このシーンでマキシムが不機嫌になるのって子供のような反応をしたからと言うより、レベッカのことを思い起こさせるようなことをしたからかなと思っています。 意外と怒鳴りつける感じではなく、ちょっと不機嫌になったくらい(Thomasだからもっとぶちきれる感じになるかなと思っていた)。 それでも、いままでずーーーーーーーっと上機嫌で浮かれていた夫が不意に冷たくなり、鼻っ柱が強く、この屋敷に城主夫人としていることにも馴染んできた「私」の表情が曇ります。
 舞台の下手からベッドが出てきて、メイドさんたちがシーツを整えて、「Hilf mir durch die Nacht」。 このきょくはこの作品のテーマ曲なんだろうなと思います。 「Zeig mir, was Liebe ist(示してほしい、愛とは何かということを)」、この問いかけがテーマなのではないかなあと思っています。 ダブルベッドに一人で「いつもと違う」という感じで居所なく佇む「私」がかわいいとか、神に祈るThomasの透明感はほかにないくらいすてきとか、二人が似た声の厚みでしっかり歌いきる曲の終盤は圧巻とか、そんな感じ。
 ベアトリスのソロ。 この作品にちょい不満があるとすれば、ベアトリスがずっとマキシムを愛していたこと、マキシムが秘密を抱えて一人孤独に戦っていたときも彼女は確かにマキシムを思っていたことを、マキシムにも気づいてほしかったということ。 彼女の愛情が無償の愛になっちゃってちょっともったいない。 ちなみにこのマキシムの歌を気にかける歌も哀愁が漂いつつも力強くってとてもすてき。 彼女のダンヴァース夫人(ウィーンに引き続き、ザンクトガレンでもカバーに入ってます)も見てみたいなあ。
 レベッカの部屋。 レベッカのベッドが金ぴかで若干気に食わないです・・・。 ファベルもなあ・・・小悪党な感じがして悪くはないんですが、色気がない・・・いやあるのかもしれないがなんか違う・・・。 ファベルがどこまでレベッカを愛していたか見えなかったのと、レベッカの愛人の一人であるところまでは納得がいくけどもうちょっといい男がよかったなあという不満はありますが、物語に影響を与えるほどではありませんでした。 ダンヴァース夫人は彼のことが好きではないでしょう。 でも、レベッカのように魅惑的な女性は男を引き付けてやまないから仕方ないと感じてるみたい。 ダンヴァース夫人が仮装パーティーの衣装について教える場面。 言い方がとてもソフトで本当に親切で教えているように思えました。 友達になりたいと言った「私」の思いに答えるかのように。 「秘密にしてほしい」と言われてダンヴァース夫人は心の底では喜んだと思うのですが、そういった反応はなく、ぎこちないながらも二人の中が氷解していく・・・と「私」が勘違いしても仕方ないように思えました。 そしてテーマ曲「レベッカ」。 深い、深いダンヴァース夫人の愛情を感じました。 周りに寄る者をはじきとばすものではなく、ただ盲目的にレベッカを思っている。 髪をとかすシーンのゼスチャーがすばらしく、そこのレベッカがいるように思えました。 なんとなくレベッカのイメージは黒髪です。 エリザベートが黒髪だったからそう感じるのかもしれませんが・・・豊かで長い、緑の黒髪をイメージします。 小さい頃から大切に育てた子供が、いつの間にかいなくなってしまったその子が戻ってくることを願っているように思えました。
 ゴルフのシーンでなく使用人たちのシーン。 たぶん新曲。 なにを言ってるかさっぱりだったのでパス(台本ないとこの程度です、私のドイツ語能力・・・)。 「私」が壊してしまった置物をロベルトが若干不満気に直していました。 曲としてはコミカルで楽しい感じ。 服の仕立てをやっているのか巻き尺を首にかけてやってきたTimさんが相変わらずかわいい。
 ボートハウス。 ベンがかわいい! 笑い方でちょっと知的な障害を持ってる感じがしたのですが、なおいっそうかわいく見えるから不思議。 にこにこ笑って楽しそうに貝殻を並べます。 「私」とのやりとりはレベッカの影を感じさせてちょっと不気味でありつつほほえましい。 ベンがはっきり「私」を気に入った感じがするのがいいなあ。
 そして神経質なマキシムが怒鳴って逃げ出す「私」。 Thomasが本気で怒鳴るとそんなもんじゃなかったと思うぞー(J&Hの話)。 ちょっと意外でしたが怒鳴りつける部分よりボートハウスをしきりに気にする神経質さの方がいっそう恐怖を感じました。 まくし立てるようなソロはさすがでした。
 フランクはとても紳士的でさすがでした。 このあたりで、すでにあの鼻っ柱の強かった「私」はヴァン・ホッパー夫人ですら懐かしくてすがりたいんだろうと思うほど弱っていました。 フランクは親しみやすい雰囲気を持っていますが「私」の持ってきたアドレスの書かれた紙を裏まで見て本当に一人しかいないことを確認したり さりげなく「私」に椅子に座るよう即したり、紳士的な態度が上流の人間を相手に生きてきたと感じさせます。 「私」が彼女の振れたレベッカの美点を口にして泣き崩れる気持ちがすごく分かった。 自分がなにももっていないと何度も思い知らされたんだろうと思う。 フランクの言っていることはもっともであり「私」を励ましたとは思うけど、ちょっとまだ二人の気持ちはすれ違ってるように思いました。
 仮面舞踏会。 Timさんが超ご機嫌で踊ってるのが楽しい(笑)。 今夜のホストマキシムはさすがパーティー慣れした様子で場の中心にいます。 そして久しぶりのヴァン・ホッパー夫人は明るいアクセントを与えてくれます。 彼女がでてくると舞台の中心が彼女になるのが楽しい、やりたい放題(笑)。
 舞踏会用に着替えている「私」。 なんとなく、彼女はマキシムに人の前で自分の存在を認めてほしかったんだろうなあと思います。 彼女は本当になにも持っていなくて、マキシムからの愛だけでそこに存在している。 だからそれを確かなものにしたかった。 楽しそうにクラリスと鏡を覗き合ってるけど、結末を知ってるから痛々しい・・・ (このクラリスも若くて他の召使たちに比べてちょっと野暮ったい感じ)。 2回目に観劇したとき気づいたのですが、クラリスは新人であるとさりげなくマンダレイに戻ってきた冒頭のシーンで言ってるのですねえ。
 そしてみなが待つ中「私」は降りて行きます。 待ちわびた人たちにざわめきが広がり、棒立ちになっていたマキシムの手からシャンパングラスが滑り落ちます。 このときヴァン・ホッパー夫人がベアトリスに訪ねることによってざわめきの理由が分かりますが、「私」の耳には届かず。 着替えるようにとマキシムが怒鳴りつけるも、「私」はうろたえるばかり。 怒りか、憤りかそれとも恐れか。 どこか震えるようなマキシムは階段を駆け上って去っていきます。 なにが起こったか分からずうろたえる「私」を尻目にダンヴァース夫人が「Rebecca」と歌いだす。 そのあと階段を降りてベアトリスに聞いて、はじめて「私」はなにが起こったかを知ります。 今まであまり感じさせなかったダンヴァース夫人のレベッカへの強い思いが憎しみとして「私」に向いていること、 これで幸せになれると思っていた「私」がまっさかさまにトラブルの真っただ中に行くこと、 そして逃げるように階段を駆け上がっていったマキシムのただならぬ様子。 この1幕ラストにふさわしい状況の変化は見事です。 今まで若干山谷はありつつそれでも幸せになりそうな雰囲気だったのが急転直下に落ちていく。 重厚なセットに薄暗い照明が映えて、息をのむようなシーンでした。
 2幕の感想に続きます(予定)。



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