白鳥の湖
2018/03/21
オーチャードホール

オデット/オディール浅川紫織
ジークフリート宮尾俊太郎
ロットバルト石橋奨也
王妃山田蘭
ベンノ酒匂麗
家庭教師伊坂文月


 なんか気持ちの整理が追いついてませんが、とりあえず舞台の感想だけ。

 宮尾さんのジークフリーとはなんと言いますか育ちがいいというかおおらかというかなんも考えてないというか。 出てきた瞬間ぱっと周りが明るくなるような明るい印象、それからいつも変わらぬ真ん中に立つ人にふさわしい気品。 いい年してまだ遊び足らぬという感じの王子ですが、それが悪い意味に思えない。 本当に生来の気質としか思えないのですが、いつ見ても変わらぬ朗らかさと品格でした。 昨日のゲネプロの時の遅沢王子と全く雰囲気が違ってだから物語の方向性も違って、そういうところが楽しいのだと、改めて思いました。
 酒匂さんのベンノは小柄なところがしっくりくるかわいい弟分。 まだまだ子供だからと王子の友人たちに言われるかわいらしい雰囲気で、だからこそ少しでも王子に「大人」だと認めてもらえると素直に喜ぶし、その喜び方がまた子供っぽくてかわいらしかったです。 足さばきの細やかな踊りはさすがの一言です。
 蘭さんの王妃はやはり美しいですね。 凛として、とても知的で魅力的でした。

 浅川さんのオデットはとにかく美しかった。 繊細で、触れれば壊れてしまうのではないかと思うような儚さ。 そう、踊りは安定しているのに華やかで軽い。 本当に美しくて、夜の森に白く浮かぶ幻のようなオデットでした。 その儚いオデットをためらわず抱きしめられるのが宮尾さんのジークフリートだと思えました。 オデットの運命をすべて理解しているわけではないけど、それでもなにも見返りを求めず寄り添わせてくれるというか頼らせてくれるというか。 全部受け止めて包み込んでくれるようなジークフリート。 宮尾さんらしい、おおらかで朗らかなジークフリートで、だからこそオデットが彼なら運命を変えることができると信じられたのもわかりました。 2幕のアダージョが儚くも暖かに思えたのはそんなジークフリートの人柄とそしてそんな彼の人柄に触れたオデットの心が変わってきた証かと思いました。

 2幕はなんとなくぼやーっとした印象だった石橋さんのロットバルト、3幕でいきなり輪郭がはっきりしました。 明確にジークフリートに敵意を持っているというかジークフリートを滅ぼす気満々というか。 人を陥れることに喜びを感じるオディールとは同士のような関係。 ロットバルトはジークフリートを破滅させたくて、オディールは誰でもいいから惑わして突き落としたくて。 お互いに自分のやりたいことをやって肩を並べているような、そんな関係に見えました。 ロットバルトは確かにオディールに指示を出しているけど、それでも互いが独立して同じ目的のために手を組んだような関係は珍しいと思うのですが魅力的でした。
 しかし宮尾さんのジークフリート…ここまでだますとかだまされるとか、その手の言葉と縁遠い人は珍しいというか。 これ、だましてないでしょう。 というか、このジークフリート、「彼女がオデットです」と言ったら似てなくてもそれで信じたでしょう。 それが彼の育ちの良い朗らかさからくるものなのか、それとも恋に浮かれているからなのか…よくわかりませんが、ここまで素直にオディールをオデットと思ってることに不自然さを感じないジークフリートもむしろ珍しいと思うのです。
 オディールの喜び、まるで生きていることを喜んでいるというか。 決して黒くはないし妖艶とも違う。 ただ艶やかに笑って、すべてを見透かして、人の心を踏みにじることを生き甲斐としている見たいというか…。 とにかく鮮烈なまでに、今そこにいることを喜んでいるような、そんなオディールでした。 石橋さんはまた痩せたのか、足がまた鋭くなった気がしました。 不思議と品のある存在感も相変わらず。 なにか禍々しい空気があるのに、立ち姿に品があるので悪人でないと思えてしまう雰囲気がありました。

 そんなわけで全然だまされたわけでもなく本当に心からの善意でオディールに誓いをたてたジークフリートですが、まあそのまっすぐさがあるから許せるというかなんというか。 なにもかも受け止めてくれそうな彼に裏切られたオデットの張り裂けそうな嘆きというのはわかるけど、でもジークフリートを見たら許さずにはいられないというのもわかる、そういうジークフリートです。
 ロットバルトはオデットを独占したくて、それは彼が気づいてなくても「愛」と呼ぶことのできる感情だったのかと思いました。 ロットバルト自身が無自覚で、曖昧なものではありましたが。 それはそれとして、呪いがとかれることはなく、悪魔の呪いの中で生きていく、愛する人を追い込んでまで…。 ロットバルトとジークフリートの力関係がいい感じです。 決して勝つことのできない強さを感じたので、オデットが呪いから自分が逃れるため、そしいて悪魔からジークフリートを解放するため、身を投げたことがわかる強さというか。 ちょうどオデットとジークフリートが身を投げる崖の上に現れたロットバルトがなんとも印象的。 逃れることのできない闇というか…。 その存在感に自然と引きつけられました。 そのあとのロットバルトとジークフリートの対決は力関係がはっきりして良いなあと思いました。 なんというか、オデットが戦うでなく、自分にできる唯一の手段で運命から逃れ、ジークフリートを救おうとしたのがわかるというか。 そしてジークフリートも特に難しいことを考えず彼女を追いかける。 その流れがとても自然な二人でした。
 幸せになってほしいと素直に思える二人でしたし、最後までジークフリートのおおらかさは変わらず。 だから柔らかな光に包まれ、二人は幸せになった、そう感じられるラストシーンでした。

 浅川さん、どちらかというとオディールタイプだと思いますし、悪女悪女していないオディールは好きなのですが、やはり彼女の白さというか透明感のあるオデットはとても好きです。 相手役によって自分の色を変えられるダンサーさんだと思います。 これからももっともっといろんな役で見てみたい方なんですよね、本当に。



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