スーパー歌舞伎II ワンピース(2018/04/22) マチネ
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松竹座
ルフィ/ハンコック:尾上右近 イワンコフ:下村青 サディちゃん:坂東新悟 マルコ:中村隼人 シャンクス:市川猿之助 ニューカマー・ケイ:市川右左次
★★★★
大阪までワンピース歌舞伎、見て参りました。もちろんお目当ては下村さんのイワンコフ。チケットを取ったときはそこまで乗り気でなくて、下村さんのイワンコフが見られたらそれでいいかなと思ってたので1回きりでしたが、現在大後悔中で御園座の日程表を眺めているところです。…5月になったら有休取れるんだよな…。
前書きとして。歌舞伎については数年に一度見る程度、見ても「面白かったー」で終わって何を見たか誰を見たか覚えてないレベル。「ワンピース」という作品については一応ジャンプに載ってるときに読んだかな程度、最近の展開は知りませんが、読み切り時代から読んでいるので、メインキャラの名前と顔くらいはわかります。でも、ストーリーはざっくりとしか覚えてないので、舞台化にあたってかなり削っているのはわかっていてもどこが削られたかはさっぱりわかってない、そんな感じです。好きなキャラクターはシャンクスです。この作品についてはシネマを1回見ています…ということで、話題作ですし、何度か公演が繰り返されてるので、自分の書きたいところだけざっくり書きます。
あちこちで公演を重ね、色々変わっているということを耳にした後、公式の動画を見ていて違和感があったのが猿之助さんのシャンクス。シネマで見たときは結構原作に近い「シャンクス」だったのに今回は歌舞伎風。猿之助さんが最後に出てくるという物語の流れも、歌舞伎風なのも、なんとなく興行的には理解できるのですが、ちょっと残念だと思いました。 で、実際に公演を見たらすんなりと納得できました。原作ファンらしく、「やっぱりシャンクスってかっこいいなあ」という素直な感想。でも考えてみたらしっくりするのは当然。シャンクスは原作ではラフな格好をしていますが、彼が背負っているもの、「四皇赤髪のシャンクス」を表現するには、あの混乱を一人で収めるにはまさにあの出で立ちはふさわしいように思えました。それが「誰」かわからなくても、見た瞬間にただ者ではないことが感じられる雰囲気。あのもろに歌舞伎風の衣装はシャンクスの特徴を捉えながらもそういう「ただ者でない」雰囲気を充分に表していると思いますし、登場時間が短いのにも関わらず、とううか時間が短いからこそか、「ただ者でない」気迫が感じられました。また、これは後になって気づいたのですが、原作でのシャンクスの船首は竜を模しているんですね。そんな意味でもその時点の彼の持っているものを歌舞伎の手法を使って表現したのがあの姿なのだと、その細やかさに感動しました。 まあ、それはそれとして、平さんの見た目そのまんまシャンクスもまた猿之助さんとは違った物語があるはずなんですよね。現に私はブロマイドに一目惚れして気づいたら買ってましたのに、見てもいないし見る予定もないのに。同じ作品でここまでアプローチが違うことは珍しく、これは舞台ファンとして見比べておいた方がいいのではという気分になっているところです。 そんなわけで、今さら私が言うまでもないのですが、見た目を原作に寄せてるキャラ、そんなに寄せてないキャラ、色々いるのにそれが一つの舞台にまとまっているのが本当に見事。白ひげは衣装は原作とは違う歌舞伎のものだと一目でわかりますが、中身はイメージする白ヒゲそのもの。登場シーンが死ぬほどかっこいいところから始まり、とにかく最後まで一部の隙もなくかっこよく、そしてこういうかっこいい生き様を表現するにふさわしいある程度年齢を重ねた人が演じられるあたり、なんかもう、本当にずるいなあと思うのです。 全体的に気に入っているのがジンベエ。見た目が完全に原作と同じ、でも中身はすごくわかりやすい、無骨な乱暴者だけど情に厚い男。突飛な格好をしているけど、時代物にぴったりの雰囲気のジンベエをきっちり血肉の通った人間として演じているので、すごくいい感じで2次元の世界と3次元の世界をつないでいると思うのです。 逆に原作のマンガっぽいデフォルメでなく歌舞伎に寄せてる三大将はそれでも色がはっきり分かれているので絶対に見失わない。印象的な「正義」とかかれたコートをまとっていれば海軍の人間と分かるので、へたに原作に寄せず、歌舞伎よりの衣装がかっこいいと思いますし、また演出がそれぞれかっこいいなあと思うのです。 おつるさんはシネマでみた記憶があまりないのですが、写真ではしっくりこなかったものの実際に見たらとても素敵でした。そう、写真では一瞬男性か女性かすら分からなかったのに、実際に見たらすぐに分かる「女性」。原作の男前なおつるさんではないけれど、凛とした美しさと強さを持っていて、これはこれでかっこよく美しかったです。いやもうほんと、動いた瞬間「女性」だと分かるの、お見事でした。原作とどこが違うのかよく分からないセンゴク、登場時間が減ったとのことですが裏で糸引いてそうな存在感はとても好きです。またあの豪勢な衣装を自然に着こなしているのが素敵。 なんか話がずれてきましたが、そんな感じで軽い原作ファンとして「原作とおんなじー」「原作と違うけどこれはこれですてきー」と楽しんでおりました。
あ、さんざん言われておりますボンクレーについては本当に別枠。マンガという二次元の世界でもかなり特異な存在だったのに、なんで三次元になって普通に動いて普通に作品世界に馴染んでるんですか…。やりすぎなくらいやりすぎな演技なのにわざとらしさを感じない、シネマで見たときもすごいと思いましたが、生で見ても驚くようなテンションなのに息切れせず、しかもとても自然で魅力的で、とにかく驚かされるばかりでした。ちなみにシネマで見たときはなんの前知識もなかったので、ボンクレーが登場したときのゾロの声はゾロの役者さんがそこだけ当ててるのかと思ってました。本人だなんて分からないよ…。 さて、この日のルフィは右近さん。猿之助さんに慣れていたので(シネマとか写真とか程度の話ですが)最初はしっくりきませんでしたが、見ているうちに自然とルフィに見えてきました。そもそも猿之助さんのルフィも別に原作に似ているというわけではありませんでしたからね。右近さんのどちらかと言えばほっそりとした手足と瑞々しさ、若くて素直でどこか透明な感じがとても良かった。100回「エースを助けるのは無理」と言われても「俺は助けるから」と素直に返せるような雰囲気。若々しさとまっすぐな透明感、そんなところが大変魅力的でした。 若くて大変かわいらしいルフィでしたので、ハンコックはもちろん百合の花のような美人。シネマではほとんどカットされたシーンですので初めて見ましたが、ちょっと間延びする部分が多いかなあ。技術としてはすごいけど、なんとなく技術力の高さ、毎公演後との労力の大きさは察せられたけど、なんかそれ以上のものは感じられなかったのが少し残念でした(この辺の楽しみ方が分かってないのかなんというかうーん、うーん…)。ハンコックはハンコックで大変美しかったのでそれは見応えあって良かったのですがね。 麦わらの一味の中では今回、ナミさんがすごく素敵でした。コケティッシュでかっこよくてかわいい、すごくイメージ通りのナミさん。足が細い人たちは見慣れてるつもりだったのですが、なにあの足の細さ。びっくりしました。2幕はがらりと変わりましてこちら妖艶で迫力があってかわいいサディちゃん。歌舞伎沼に片足つっこんでる母親曰く、とても魅力的な女形だけど、少し背が高いとのこと。とすると、この2役はとてもぴったりな役ですね。すらりと細い足、並の男性よりも高い背、どちらも二つの役にぴったりです。 なんか今さら私がいうのもあれですが、大変再現度の高いゾロとサンジ。すごいなあ、本当に2次元が3次元になってるんだなあ。すごく細かいところですが、3幕のサニー号の上ですれ違うときの二人の若干の緊張感というか空気感というか、そこで「あ、こいつら仲悪いな」と感じられるところが好きなんです。分かってるなーという感じで。しかし、ゾロの衣装が馴染みがいいのはまあ分かるのですが、サンジの衣装がおもしろいと思いました。動いているときはスーツ姿でも問題ないのですが、決めポーズの時はなんか物足りないところに、どてらがあるとすごくしっくりくる。しみじみよく計算されています。 ロビンはなんか分からないけどすごくロビンっぽいのですよね。肌を出してないけど、何となく全体に漂うミステリアスな雰囲気がいいのかもしれません。鼻がそれなら確かにそう見えるとはいえ、ウソップも本当にそのまま。軽くてネガティブなウソップまんまです。フランキーはマンガよりかっこいいと思います!(笑)
さてお目当ての下村さんのブルックとイワンコフ。なんとも感想が難しいのですが…。特にブルックはメイクが濃く、どこに下村さんがいるかわからないのに、声はなじみのあるあの声で、スーパー歌舞伎を見ていたら下村さんの声がするというなんともいえない違和感というかなんというか。剣さばきというかバトン裁きは美しく、体型という意味でしっかりブルックではありましたが、声がイメージが違うようななんというか。なんともコメントに困ります。 イワンコフはイメージそのままというか。想像の範囲で収まっちゃってる気がしたのでなんかコメントに困るというか。好みに合わなかったのか勢いに飲まれて消化できなかったのか謎です。うん、これについては判断保留で。劇中の台詞「奇跡なめるんじゃない」というようなものがすごく印象に残っているんですが、たぶんこれ、下村さんがこの舞台の上にいること自体に思っているんだろうなあと後になって気づきました。歌舞伎というか、和物の世界にあこがれる下村さんの気持ちはファンなら十分知っていることだと思います。それがこういう形で実になるなんて、それこそご本人さえ、夢にも思わなかったと思うし、スーパー歌舞伎という和物ではあるけどある程度なんでもありの世界で、彼にぴったりの役があって出演するなんて、それこそ「奇跡」だよなあと思った次第です。
本水を使ったシーンは、シネマで見たときもアホじゃないかと思いましたが、実際に見てもこんなとんでもない演出を毎公演やると決めたのはどんなアホだと思いました。いやすごい。演じてる役者さんもすごいけどスタッフさんもすごい。滝のように降り注ぐ水というか、本当に掛け値なしにバケツをひっくり返したような水を浴びながら演技をするとか一体何者だ…。後ろの方におりましたが、はっきりと水(というか塩素ですね)のにおいがして、驚かされました。それにしても、ここで休憩にはいるのではなくそのまま物語は続いてファーファータイムです。テンションが下がるわけがない。演じきる役者さんもすごいしスタッフさんもすごい、おかげで本当に楽しい時間を過ごすことができると思っています。 この作品、歌舞伎をベースにしてるけど決して歌舞伎ではない、だからといってほかの別のジャンルの舞台であるわけではないけど、そんな風にどのジャンルに属してないことが悪いというわけでもない。そんな不思議な作品に感じられました。ただやっぱり歌舞伎は歌舞伎というか。マンガの世界にはマンガのルールがあり、それで物語をかっこよく表現することができるからマンガである必要がある。それをそのまま3次元に移すことはできない、というときに「歌舞伎」という一つのルールがあるから、2次元のものを3次元にする際に迷子にならず、原作に寄せてみる、歌舞伎に寄せてみると、場面ごとに使い分けてバランスを取っているように思えました。そのバランスが本当に絶妙で、よくこんな作品ができたものだと改めて驚かされました。
そんなわけでざっくりとした感想でした。 ちなみにちんたら感想書いてる間に大千秋楽も終わりましたが、私も無事に御園座まで行って参りました。色々感じることが変わって上記の感想に自分でもいろいろ突っ込みを入れてるのですが、あえてそんな突っ込みどころもそのままにしています。そんなわけで、初見の感想はこんな感じです。
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(2018/05/29(Tue) 01:35:17)
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