【ニューヨーク=松尾理也】映画「戦場のピアニスト」などで知られるロマン・ポランスキー監督(76)が、米国での約30年前の淫行(いんこう)事件でスイス当局に拘束された問題で、欧州のみならず米国からも「やり過ぎだ」との声が上がっている。こうした世論を背景に、監督側は身柄引き渡しに徹底抗戦する構えだ。 ポランスキー監督は1977年、当時13歳の少女に対する淫行の罪で逮捕され、有罪を認めた。しかし量刑言い渡し直前の78年にパリに逃亡。以来、欧州で暮らしていた。2003年には「戦場のピアニスト」で米アカデミー賞監督賞を受賞した。 今回は映画祭出席のためスイス入りした際、米ロス郡地検からの逮捕状をもとに拘束された。ポランスキー監督はこれまでスイスにたびたび出入りし、邸宅まで保有していることから、ロス郡地検がなぜ今回、突然捜査の手を伸ばしたのかが憶測の対象になった。 ロサンゼルス・タイムズ紙は捜査関係者の見方として現在、監督側がロサンゼルスの裁判所に行っている訴追取り消しの訴えが、地検を刺激した可能性があると指摘している。裁判で監督側代理人は「身柄確保の努力を行わないまま逮捕状を有効としているのは、当時の捜査の問題点を隠蔽(いんぺい)するため」などと述べたことが当局への挑発になってしまった、との見方だ。 パリからの報道によると、欧州の文化人ら約90人が28日、ポランスキー監督の釈放を求める嘆願書を連名で発表した。映画監督のビム・ベンダース、アンジェイ・ワイダ両氏や、女優のイザベル・アジャーニさんらが加わっている。 さらに、フランスのクシュネル外相とポーランドのシコルスキ外相は同日、両国の市民権をもつポランスキー監督の釈放を求める書簡をクリントン米国務長官に送ったという。 米国でも、ポランスキー監督に同情的な反応が目立つ。ロサンゼルス・タイムズ紙は「州財政危機で刑務所に収容しきれなくなった受刑者を釈放する議論が行われている中、こんな捜査に税金をつぎ込むとは奇妙な話だ」と批判した。 いわゆる「ロス疑惑」で三浦和義元社長(昨年10月にロス市警の留置場で死亡)を米領サイパンで拘束した際は、引き渡しまで半年以上かかった。外国からの移送となる今回はさらに複雑な手続きとなることが予想され、ロス郡地検の対応に注目が集まっている。