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Kバレエ カルメン(2014/10/09)
ドン・ホセ:熊川哲也
カルメン:白石あゆ美
エスカミーリョ:遅沢佑介
ミカエラ:神戸里奈
モラレス:伊坂文月
スニガ:スチュアート・キャシディ
Kバレエのカルメンでした。多分その説明が一番ふさわしいです。今まで見たことのない作品だけれど、特別斬新というわけでもない。古典とは違うけど、ベースがクラシックで踊りと演技、それから楽しそうなわき役たちがいる、いつものKバレエの作品。そんなわけで結論から言うと好きです。オペラを知らないので詳しいことを語れないのが残念です。
白石さんのカルメンが素晴らしく美しかった!多分Kでの主役は若手公演以外はこれが初めてだと思いますが(記憶にあるのが秋元さんとのキトリくらい)、堂々としていて不足を感じませんでした。妖艶に見えて可愛らしい、色っぽいのに子供っぽい。次になにをするか分からないのが刺激的で、自分一人のものにしたいと抱きしめてもするりと腕をすり抜ける。踊りも安定しているし、うっとりするほど美しいつま先。艶っぽく誘っても下品にならない。奔放で可愛らしい。とても魅力的でした。個人的に印象的だったのが2幕の山中でのシーン。自分を独占しようとするホセを「つまんない男」と若干見捨てたように見えました。けれどミカエラがやって来て母の病気を嘆くとき、「ああ、この人はここにふさわしくない」と思ったように見えました。なんでしょうか、その前のシーンでは見捨てたように見えたのに、この場面ではホセに対する最後の愛着のようなものがあった気がしました。身内の不幸を嘆くような人を自分は巻き込んでいけないと思ったように。でも最後は周りがそんなカルメンを見て驚いてるから、「せいせいしたわ!」とばかりに周りを盛り上げる。ああ、いい女だなあと思った瞬間でした。
ホセは終盤で火がついた気がしました。序盤の真面目さがちょっとしっくりきませんでし、踊りもそこまで派手ではないのでこちらも出方を探るような気分でした。物語が進むにつれて、ホセはどんどん変わっていく。ラストの、カルメンに執着し周りが見えなくなった様はさすがの迫力。世界が変わってしまったのがはっきりと分かった。
神戸さんのミカエラは本当にかわいかった!神戸さんなのでもちろん華はあるのですが、なんと言うかつまらない女。今は可愛らしいけど、結婚したら良妻賢母になる未来が見える女性。1年後どころか5年後10年後どうなるか想像の付く女性。きっと最初は良き妻でだんだんよき母になって、10年後くらいには3人の子供を育てながらも微笑みや温かさを絶やさない女性になれると思うタイプ。それのどこが悪いのかという感じですが、隣に1秒先も予想のつかないカルメンがいると、一瞬ぐらつくのがわかる気がするんです。ミカエラの隣で予想通りの穏やかな人生を歩むか、それともカルメンと一緒に刺激的な人生を送るか。今まで堅実に生きてたからこそホセが一瞬迷ったのもわかる気はしました。それにしても神戸さんは最近踊りが安定指していて細やかで見ほれます。若くってかわいらしい外見は相変わらずなので、踊りの一つ一つが正確なのに、正確であるという重みを感じず軽やかなことに驚かされます。
エスカミーリョがなんとなく変な感じがするのは気のせいでしょうか…。1幕の衣装が妙でびっくりしましたが、チラシのときからそうでした、あれ。2幕もカルメンへの贈り物を入れていたのがビジネスバッグに見えて首を傾げました。振り付けもエスパーダとどこまで差が付けられていたか謎。同じ闘牛士だからこそもっと差違を感じたかったという部分はあります。かっこいいけど重みを感じない男性と言ったらいいでしょうか。一瞬一瞬ですべてを燃やし尽くしているというのかなあ。カルメンに贈り物を渡すためだけに山中のアジトに行っただけですが、それは情熱的だけど多分瞬時に燃え尽きると思った。闘牛場の前でカルメンに口づけるけど、遠くない破局がはっきり感じられた。かっこいいけど、刹那的というとちょっと違うけど、でも一瞬にすべての情熱を燃やすイメージでした。その時はそれが本気だけど、それが長続きしないだろうと思えるというか…なんというかうまく言葉で表せません。カルメンと並んでいると本当に華やかで見目麗しいし、一瞬の情熱であれホセと対峙する力もある。とても見ごたえのある役でしたので、この組み合わせでまた見たいと思えました。
物語として少し不思議に思ったのが2幕2場の闘牛場前のシーン。カルメンが花嫁に見えました。なにものにもとらわれない自由の象徴が花嫁・・・と思ったのですが、明らかに相手はエスカミーリョではない。このふたり、半年たたずにどちらかが飽きるか別の相手を見つけるかそんな形でごく自然に終わるのが目に見えています。じゃあカルメンはなぜ「花嫁」に見えたかというと、彼女は「そこ」を自分の生きる場所と定めたからかなと思います。「そこ」というのはエスカミーリョの隣、つまり、一瞬の情熱に命を懸けて命を燃やす選ぶ人間がいるところ。おもしろい話ですが、「なにものにもとらわれない、自由である」という生き方にとらわれている。そんな風に感じました。ホセはどうだったのかなあと思います。ホセは言うまでもなくカルメンと別の世界に住んでいる人間です。カルメンはその線を越えられないことを知ったけど、ホセはその線があることに気付かなかったのか、それともその線があったことに気付いたうえで越えようとしたのか。なんとなくカルメンを殺して手に入れようとしたよりも、自分と異なる世界に住んでいる女性がいることを理解できず、その世界を壊すために消したようにも見えたんです。(ホセはカルメンに自分一人のものになることを求めたけど、それはカルメンが生きている限り絶対かなわない)そのあたりがいまいちつかみ切れませんでしたが、何となくこの公演のイメージはそんな感じです。
舞台としては序盤、ちょっと客席に戸惑いがあった気がしました。なんとなく盛り上がるべきところで盛り上がらない不思議な空気。哲也の踊りもそんな空気を吹き飛ばすほどの華やかさがあったわけでもなく。2場の酒場のシーンで空気があったまってきて、徐々に華やかなシーン以外も話に引き込まれるようになった気がしました。このあたり、客席が慣れていったらもうちょっと違った雰囲気になるかなあと思います。
時間切れなのでとりあえずここまで。今のKバレエらしい作品で、この後キャストが変わってどうなっていくか、楽しみです。
モラレスは伊坂さんの踊りの個性がそのまま役の個性になってなっている気がしました。彼の踊りの個性は善し悪しがあるのでそれがそのまま個性になっているというのは若干それでいいのかと思わないこともないのですが、楽しかったです。女好きで若干遊び人めいたところはあるけど兵士としてしっかりやるべきところはやっているというか。ホセと違ってしっかりやるところはやる、息を抜くところは抜くとちゃんと使い分けて自分を保っているタイプに見えました。それにしてもいつの間に女好きの色気がありつつ品はなくさないタイプの演技をするようになったのかしら・・・。
キャシディさんはやっぱり出てくるだけで場がしまるなあと思っていたら、酒場のシーンでえらくからかわれ、しまいにはあられもない姿にされちゃってびっくりしました。いやー・・・なんかいろいろすごかった。酒場のシーンは意外性があるということもあってものすごく印象的でした。重厚感のあるキャシディさんの生真面目なスニガが、こてんぱんと言いたくなるレベルでからかわれ、思いっきりこけにされている。重みがあるからこそなんかすごいもの見てしまった気分です。
密売人の兼城さんとニコライさん。それぞれもよかったのですが、なんとなくこの二人の組み合わせは良いような気がしました。ニコライさんの兄貴分、兼城さんの弟分という感じで、ニコライさんがしっかり密売人として暗い空気をまとっているのに兼城さんはどこかおどけた感じがして空気も軽やか。バランスがとてもよかったですし、兼城さんが結構踊ってくれるのが個人的にうれしかったです。相変わらず重さがないんじゃないかという軽い踊りで、暗いシーンでもなんとなく華やかな気分になりました。
女性でまず目がいったのが娼婦の湊さん。もう本当にかわいい!ちょっと落ちぶれた雰囲気がありつつも、踊りも存在感もとても華やかでした。蘭さんの女性もとても魅力的。喧嘩の原因は分かりませんが、カルメンと対等にぶつかり合える強さを感じました。
[2431] ゆず (2014/10/11(Sat) 02:21:32)
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