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ノートルダムの鐘(劇団四季)
カジモド:海宝直人
フロロー:芝清道
エスメラルダ:岡村美南
フィーバス:清水大星
クロパン:阿部よしつぐ
四季劇場(秋)
★★★★
運よくチケットが当たったので、ノートルダムの鐘、初日、見てまいりました。
私のこの作品についての前知識は、原作は10年以上前に読んでる、フランスミュージカル版は覚えるほどDVDを見た、バレエ版はよく覚えてないが何種類か見た、ディズニーの映画版は四季の吹き替えだったのでもちろん見てる、ベルリン版のCDは一時期はまっていた…という感じです。まあ、初日幕あいたばかりでなんなのですが、いろいろ思うところがあって語ります。結末まで語ってるのでご注意ください。ノートルダムって原作がしっかりとあるのに、舞台になると誰が死んで誰が生き残るかわからないのが本当に不思議。
ざっくりと舞台の印象を言ってしまうと、ミュージカルにしては曲がちょっと弱い。もちろんメインテーマの曲なんてコーラス隊も入ってることでかなりの厚みなのですが、それ以外がちょっとぼやけてる。映画版の曲が若干明るめなこともあり、それがなんとなく全体の雰囲気にそぐわない。だからといってたぶん新規に追加された曲がいいかというとそうでもないというアンバランスさ。せっかくのミュージカルなのにいまいち「いい曲を聞いた!」という気持ちになりません。1幕終わりの「エスメラルダを探せ」という曲も展開のシリアスさに比べると雰囲気がちょっと明るすぎる。フランスミュージカル版の「ファタリテ(運命)」を全員で大合唱の華やかさと比べてしまうとちょっと物足りない。耳に残った曲…というとどうしてもメインテーマくらいになってしまって、ちょっと物足りない部分もあります。
演出は好きな部分もありいまいちな部分もあり。全体的にシンプルなセットをうまく使って表現するところはとても好き。ただ、想像力に任せるというより、言葉で表現している感じのところが若干あって、そのあたりが少し引っかかりました。今回はC席からだったので、1階席から見たらまた感想も違うかもしれませんが。全体的に劇中劇のような感じで、灰色の服をまとった状態の人たちがそれを脱ぎ捨てて「個」になっていくのは面白かったです。映画版では石像が動いてしゃべっていましたが、その名残のように灰色の服をまとった人たちが語り掛けるのは折衷案としてよかったと思います。それはカジモドの想像であり、ひとり言でもあると素直に思えたので。
ストーリーは映画版を原作に近づけた感じで、今まで見たどれとも異なっていました。こういうことがあるからノートルダムって本当に不思議です。弟のジャンが出てきたのにまず驚きました。私が見た中でジャンが出てきたのは初めてです(おこもりさんは見たことある)。フロロの愛情を受けたばか弟はジプシーにたぶらかされて早々に退場。驚いたのがカジモドがジャンの弟だということ。映画版では判事だったフロロはしっかり聖職者になってましたし、これで彼の行動が映画版と同じであっても行動原理が全く異なるので、どういう方向に物語が進むのかばかりが気になってみていました。ちなみに若干群像劇的に感じるところがあって、もう少し個々のドラマを見せてほしいところはありました。主役はカジモドともフロロとも言い難い感じで、でもそのあたりは公演が続くと変わっていくかなというところがありましたので、またいずれ見てみたいです。
以下、ネタばれ考慮しません、すみません。
なんでネタバレ考慮しないかというと、映画版をベースにしながら映画版と全く違う結末なので、テーマが変わってるように思えるんです。だから結末を書かずには前に進めない。
カジモドはひねたところがないまっすぐさを持っていました。海宝さんののびやかな優しい声がとても素敵。その伸びやかさというか、瑞々しさはある意味外の世界を知らないからと思えました。閉じ込められていて、負の感情に触れていない。フロロもそこまで厳しさを感じないフロロでした。しっかり教育を施し、ちょっと歪んだところもありつつもある程度の愛情はあるのでないかと思える雰囲気。そんなカジモドが外の世界に出ていって、負の感情を受け止め、けれどエスメラルダと出会う物語。カジモドはエスメラルダからの愛情を求めるけど、エスメラルダの心はフィーバスに向いている。愛されることはなかったけど、愛することはできる。そういう物語という側面もあると思います。
だからカジモドが生き残るか死ぬかで物語の方向性が全く異なってしまうわけですね。このままカジモドは外の世界の厳しさを知って生きていくのかと思ったら、原作のラストにつながったのでびっくりしました。この一文が大好きなのでうれしくはありましたが、この結末によって作品の方向性が全く変わってしまうと思うので、正直もう一度見たいです。なんというか、生き残ると思っていたので心構えができてなかった。
「元に戻ることはできない」、直前にカジモドがフロロと話していた時のこの言葉がすべてだったのだとは思います。なにも知らず、なにもなかったように、エスメラルダを知る前の世界には戻れない。それを踏まえたうえでカジモドはそのあとの人生を生きていくのかと思いきや死んでしまったのでいまいち消化できてない部分と、原作の大好きな部分が引用されて満足している部分とあって、気持ちの整理がついていません。彼を守った壁の中の世界と、その外の世界、そのどちらも失ったら死ぬしかないと分かりつつも、物語の流れ的にそれでよかったのかというのと、本当にあの小説のラスト好きなんだよという気持ちで完全に整理がついてません。そんなわけでどうしてももう一度見たいと思っています。
カジモドとフロロはエスメラルダを中心にしてうつし鏡だと思いました。救うという言葉で相手を力任せで手に入れようとしたフロロと、彼女の生きるままに任せたカジモドと。そして明確に、フロロはジャンを守るために嘘をつくことをせず、カジモドはエスメラルダを守るために嘘をついた。自分の正しさを信じて疑わないフロロと違ってカジモドの柔軟性が眩しかったです。
フロロの信じる正しさのバックにちゃんとキリスト教があってそれがうれしかった。キリスト教の中にいる人が異教徒に惑わされるのがいいのです。「救う」という傲慢さも感じられてよかった。ただ、このあたりはちょっとキリスト教がしっかりしてるお国で見たいかなあと思ってしまったので、ちょっとベルリン公演に心が動いています。
結末があいまいだったフィーバスどころかエスメラルダさえ、カジモドとフロロを描くためのパーツだったのかなと思うところも無きにしも非ず。エスメラルダで印象的だったのが彼女がフィーバスを選んだ理由。なにもかも捨ててついていくと言われたら気持ちも傾きますよ。そしてどんな世界であれ君がいればというような態度を示すことは、カジモドにはできない。そう思っていたら最後にカジモドがエスメラルダに「ここが君の家だ」という。根なし草で故郷を持たない彼女に初めて与えられた「帰るべき故郷」。本当にエスメラルダが求めていたのはどこにでもついてきてくれる人ではなく、心安げる「家」であったのかもしれないと思えて、このあたりの対比が印象的でした。
ラストでカジモドが普通の姿に戻り、まわりの人々が歪んでいくのが多分この物語のメインテーマにつながるんだろうなと思いつつ、いまいち消化できず。エスメラルダは強くかっこよくありつつも強くなりすぎず、かっこよくてとても素敵。フィーバスは爽やかいい男で、原作に「フィーバスはフルードリスの尻の下にいる以外は許さない」呪いをかけられている私でもなかなか魅力的と思える好青年。フロロはいい感じになに考えているかわからなくて、そして自分の信念は曲げそうになくってよかったです。クロパンも雑多だけど黒くなりすぎず、陰影のつけ方がとても魅力的でした。
なんというか、テーマがいまいちぼやけてんじゃないかという思いと、あのラストにごまかされていやしないかという思いと、それはそれとして大好きですという思いが交錯していまいち感想がまとまりません。もう少し個性がガンガン際立ってくるとまた違うかもしれません。勇気を振り絞ってエスメラルダを救おうとして救えなかったのならカジモドは生き延びてこそだと思うんですが、そこで生きることなく死んでしまうカジモドが好きなんで、なんかいろいろごまかされてる気がするのですが、好きな作品です。
原作を読んでまた見に行きたいです。とりあえずまとまりのない初回感想としての覚書でした。
[3079] ゆず (2016/12/11(Sun) 22:33:36)
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