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デスノート(2015/04/19)
一体どういう作品になるか分からなかったこの作品、蓋を開けてみたら結構評判がいい。見に行こうか迷っていましたが、なにせ相変わらずの繁忙期、行けるタイミングがほとんどなくどうしようかと思っていたら、唯一行ける日の公演についてツイッターでフォローさせていただいてる方からチケットを譲っていただけることになり、行ってまいりました。ちなみに原作は週刊誌のほうで全編読みましたが、コミックスでまとめて読んだわけではないので全く読み込んではおりません。
ちなみに今回の感想、どちらかといえば「ミュージカルとはどういうものか」ということが主軸になっておりますので、作品の感想をお求めの方は別のところを当たってください、ごめんなさい。
今回の作曲家、作詞家の新作というと、昨年11月に見た「アーサー王」を思い出します。同じ作曲家、作詞家でここまで雰囲気が違うのかと、驚かされました。「アーサー王」は「歌は素晴らしいけど話は別になかった」だったのに、今回は「歌はまあふつう、作品としてはしっかりまとまってる」という感じでした。歌については別に「デスノート」も悪くないです。鹿賀さん以外はしっかり歌えてました(これを書いてしばらくたつまで粧裕の存在をすっかり忘れてました。完全に記憶から抹消しておりました…)。ただ、ワイルドホーンの作品を聞いたときの「音楽が素晴らしい!」という感覚、他がダメでも歌がいいからすべて帳消しにできるという感覚はあまりありませんでした。このあたりなにが原因なのかは私自身引っかかっているところです。ひとつはキーが違うことかとは思います。欧州ではこれは教育メソッドの違いなのかもしれませんが、「甲高い」までに声の高い人が男女問わず結構います。皆様歌えてはいるのですが、あとちょっと声質の高い人の方が歌いやすかっただろうと思ってしまうことが多々ありました。もうひとつは音楽で遊んでないことと言ったらいいのか…。なんというか、楽譜通りには歌えているんです。正直、日本のミュージカルでそれが最近スタンダードになっているのはとてもうれしいです。でもあと一歩踏み込んでほしいというか、もっと自在に歌ってほしいなあと思ってしまいました。そして、ワイルドホーンの作品って欧州で見るとほぼ全編歌だと思うのですが、「デスノート」は芝居の間に歌が入っている印象でした。全部が…というわけではありませんが、印象的なシーンの間に歌が入ってる気はしました。
もう一点印象をあげると、違うメソッドで学んできた人たちが同じ板の上にいると行うこと。バレエなんかでもゲストありの公演だと、教育メソッドの根本が違うと感じることがまれにあります。そんな感じでした。もちろん四季のように劇団だとそろってて当たり前ですが、ドイツ語圏でミュージカルを見るときはあまりそれを感じないので不思議でした。
ただ、そういうことを全部ひっくるめて、これが日本のミュージカルなんだと納得した部分もありました。ミュージカルって、「これが正解」というものはないと思います。私が見たことがあるのはロンドンとドイツ語圏、それからフランス(来日)と韓国を少しくらいですが、歌に重きを置くか芝居を重きを置くか以前に「ミュージカル」の成り立ちそのものが違うように思えました。その話は長くなりますのでちょっとここは後回しにしまして、日本の場合は芝居の間に歌があるという形式で、キャストはミュージカル関係あるところないところからのかき集めで、いろんな才能を束ねて一つの作品にするという手法でミュージカルを作るという方法論が程度確立しているように感じました。たぶん以前から手法自体は確立していたとは思いますが、歌が下手すぎて気づかなかったのかもしれません。今回は歌に対するストレスが大変少なく、「いろいろな分野で活躍するいろいろな才能の持ち主が一つの舞台を作り上げる」ということをようやく感じることができた気がします。
「アーサー王」の自分の感想に「役者にあてがきされた役、役を魅力的に見せるためのシチュエーション、シチュエーションを生かすための歌、歌をつなぐためのストーリー」とありましたが、「デスノート」は原作があり、それに合うテーマを定め、いろんな都合で集まったキャストをうまく配置して物語を作ったように思えました。善し悪し含め、日本のミュージカルってそういうものなのかと思います。いろんな畑から出演者を集め、芝居を歌でつないでいく。それはそれで面白い作品ができるものだと感じました。
脚本はあの長い話をすっきりうまくまとめたと思います。ただ、1幕はおもしろかったのですが、2幕の序盤、月と海砂が出会うあたりのシーンは脚本家変わったのかと思うほどグダグダでした。海砂が歌でキラに思いを伝えようとするのは「なるほど、ミュージカルという媒体をここで生かすか!」と思ったのですが、そのあとのテレビ局へ送ったメッセージが蛇足だしやっつけで書いたのではないかと思える脚本で、どうなるのかと別の意味ではらはらしました。原作では月も海砂もあれこれ考えていると感じさせられましたが、全く何も考えていないように見えてしまい、「心理戦」の影も形もなくなってしまったのは残念でした。その後も2幕は海砂とレムのシーンで持ち直しましたが、終盤の月とLシーンがなんとなく緊張感なく終わってしまったのが残念でした。クライマックスは面白かっただけに、そこに至る過程をもう少し見せてほしと思いました。
心理戦についてはミュージカルだから表現できなかったというより、ミュージカルというのはそういう内面の表現に適しているのに最大限生かしていないと感じました。これは言葉がわかった故のストレスといえばその通りではあります。例えば大学の入学式で月とLスピーチをする際、実際に話している方ではなく、後ろで控えている方の心の声が観客に聞こえるというのはとても分かりやすいシーンでしたし、噂のテニスのシーンもそれぞれの内面を語るのにちょうどいい場面だと感じました。逆に原作にあったちょっとしたやりとり、例えばLがキラは関東にいると思ったのは音原田の事件がきっかけだったとか、海砂が第2のキラだという証拠は送ったビデオの指紋や消印からは検出されず、付着物等でわかった…という「色々考えて行動している」と分かる部分がカットされていたのが残念でした。こういう細かいギミックがむしろ助長になると感じたのかもしれませんが、特にフォローなくカットされていたので、「なにも考えてない」と感じられてしま部分がありました。これが歌中心のミュージカルだったら仕方ないと思えるのですが、どちらかといえば台詞に重きを置かれた作品だったので、もう少し何とかなったのではと思ってしまいます(いろいろ考えてたけどばれた、が原作で、なにも考えてないからやっぱりばれた、がミュージカル)。
物語として、一カ所違和感があったのが、月が秀才という設定。月は秀才で若干それを鼻にかけていうということは「自分が選ばれた」と思っていることでも明らかだと思うのですが、そこに違和感がありました。ただ、その点を除くと、「普通の青年が神に等しき力を手に入れやがて滅んでいく話」として大変すっきりしていました。その結末が見えているとやっぱり月の秀才設定が邪魔になるというジレンマがありますが、普通の青年が変わっていく…という流れは好きでした。
キャストは上記の通り大変よかったと思います。
月の柿澤さんは確かに月のイメージとは違いましたが、このストーリーの中で徐々に変わっていく様は見事でした。変わっていく…というか、ふと気づいたときそこに全く違う人間がいる…という感覚が近いかもしれません。終盤への流れが好きでした。ただ、曲の音域と声が合ってなかったのが少し残念。歌えてはいたのですが、それ以上を感じられませんでした。
Lはかなり原作そのままのイメージ。基本的に原作を知っている作品の映像化は苦手なのでほかは見ていないのですが、イメージに合ってる猫背なのに、ちゃんと歌えてることに驚きました。どちらかといえば台詞に節を付けている歌い方でしたが、結構心地よく聞いていました。
予想外によかったのが海砂。彼女の極端な主張が不思議なくらい自然なものに見えました。盲目的なひたむきさがとてもしっくりきました。正しいとか間違ってるとかそういうものは彼女にとって無意味で、ただ一途に心を捧げるというのがぴったりで、それが物語にもミュージカルという形式にもぴったりはまっていました。
死神二人はなんとも対照的。ミュージカルという音楽のある世界に生きていたのは濱田さんの方だと思います。相変わらずの聞かせる歌声と芝居が自然になじんでいました。世界観になじんでいて、この世ならざるものとしてちゃんとそこに「いる」。歌はもちろん見事だったのですが、佇まいがとても好きでした。芝居寄りで、確かに歌を聴かせる感じではなかった吉田さんも、ここまで歌えるなら十分と思えました。ただ、彼は歌を歌うことによって演技を制限されているように見えて、彼がミュージカルに出演する意味を考えなくもなかったのですが、ラストシーンが本当に見事なんですよね。ラストの台詞の一つ一つの重さ、言葉によって劇場の雰囲気が変わっていく感覚、それが「ミュージカル」かというと違うのですが、芝居として大変見事で、それを見られただけでも劇場に足を運んだ価値があったと思えたので、よかったとは思うのですがいろいろ悩ましい存在でした。
演出としてはすっきりしていて大変魅力的でした。シンプルなセットだったのですが、その無骨な作りがこの物語に合っているように思えました。特に空間の使い方がうまくて、リンド・エル・テイラーのシーンでは舞台上にある3つのシーンがうまく使い分けられてましたし、「L」というもう一人の主人公の登場にふさわしいインパクトもありました。全体的に照明も美しく、闇の中にぼんやりと光が浮かび上がる感じが、黒いノートをめくったときの感覚にも、闇の世界に光が射す光景にも思え、印象的でした。
ワイルドホーンの作品はどちらかと言えば作品のニュアンスだけをくんで、あとはオリジナル…というものが多い気がします。「モンテクリスト伯」も「アーサー王」もそんな感じでした。まあ、ネタバレになるのであまりどこがどう原作と違うかは言いませんが。例えば、今まで一番とんでも演出だった「ジキル&ハイド」では「ラストにジキルの作った薬を注射してリザ(日本版で言うところのエマ)を射殺するサイモン」というものでした。それに比べたらデスノートなんて原作そのままと言っていいほどです(笑)。2.5次元ミュージカルとそれ以外を分けるものはなにかと考えたとき、前者は原作を再現することを重視し、後者は原作の名前を冠しているけど原作と結構違う部分があるものではないかと思います。そう思うとデスノートは2.5次元ミュージカルよりは普通のミュージカル寄りですし、けれど日本の作品が原作だからかまだ原作から離れ切れてない気もします。別の国に行ってもっと原作から離れることもできるのではないかと感じさせられましたし、それはそれでおもしろい作品になると思います。韓国での上演予定はありますが、それ以外の国でも見てみたいと思えます。だからといって日本版がおもしろくなかったというわけではなく、細かい不満はありましたが、日本版も上演を重ねていってほしいと思えました。今の時点でちゃんと完成した作品でしたし、カンパニーが違っても見たいと思える作品でしたので、よい作品ができあがったと思います。
新作ミュージカルをいろいろ見ているうちに感じたことは、本当にオリジナルの作品を作ることの難しさです。もちろん成功した作品の中にそういうものがないわけではありませんが、それでも舞台の設定やキャラクター、物語の展開やエピソード、すべてがオリジナルである作品の方がまれだと思います。どの世界でも「原作」を求めていると感じます。「漫画」という原作は、今まで映画やドラマになることはあっても、ミュージカルは原作重視のいわゆる2.5次元ミュージカルが中心だったと思います。原作をそのまま再現するのではなく、その一部を抽出して新しい作品を作る、その流れがミュージカルに来たのは面白いのではないかと思っています。「デスノート」は素人目には成功したように見えるので、日本のミュージカル制作において新しい流れが来ないかと、少し期待しています。
楽しかったです。
以下、ちょっとドイツ語圏で見た新作を思い出しつつ。
若手男性二人が主役の新作というとスポットライトミュージカルの「コルピングの夢」を思い出します。作品のレベルとしては「デスノート」の方が高いのですが、キャストのバランスはコルピングの方がよかったなあと思っています。なんというか、若手が今持てる力を全力で演じているのに対し、ベテランのClaus DamやSabrina Weckerinが舞台全体のバランスを底支えしている気がしました。年齢のバランスとしてはデスノートも似た感じなのですが、ベテラン層に「バランス調整」を感じなかったのが不思議でした。そのせいで若干物語全体としての主張より、個々のキャストの主張の方を強く感じてしまったのです。うまいからといって主役を食ってしまうわき役は、本当にうまいのかなあとちょっと思ってしまいましたのも事実なのです。
あと、「モンテクリスト伯」は完全に初見(いろいろ巡り合わせが悪くてCDを聞かずに観劇)だったのですが、1回目で作品のテーマとなる曲とテーマが分かった…というか、作品として表現しきれてないけどこれがテーマ曲であると分かったのですが、「デスノート」はそれを感じませんでした。「アーサー王」はCDを聞き込んでいったのですが、CDを聞いたときには感じなかった「これがメインの曲」というのが舞台を見たらすぐに分かりました。「デスノート」はそういう曲がぱっと思い浮かばないのですが、別のプロダクションで見たら印象が一変するのではと、少し思っています。
[3027] ゆず (2015/05/08(Fri) 00:44:45)
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