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Kバレエ カルメン(2015/10/10 マチネ)
カルメン:白石あゆ美
ドン・ホセ:熊川哲也
エスカミーリョ:宮尾俊太郎
ミカエラ:神戸里奈
モラレス:伊坂文月
ス二ガ:スチュアート・キャシディ
★★★★
新シーズン開幕しました。カルメン、好きなので上演はうれしいのですが、DVDを待っていたら再演になったという寂しさはあります。好きな作品の再演&熊川さんの復帰公演。楽しんでまいりました。
白石カルメンは自分が何者かを知っていた、奔放で縛られない女に思えました。自分の魅力を分かっていて、分かったうえで「みんなのカルメン」であろうとする。ホセに対しても同じ。「みんなのカルメン」として誘惑して、からかうようにして彼を魅了して、そして仲間に引き込んだ、それだけのこと。ホセがどういう人間なのか知らずに。結局、カルメンとホセは最初から最後まで別の世界に生きているように見えました。絶対交わらない別世界に生きている。そのことを、カルメンは山中でのホセとミカエラとのやりとりを見てようやく学んだように思えました。自分の生きている世界のほかにも、世界があるということ。カルメンがホセを通じて学んだのって、そういうことだと思います。
でもホセはそれを理解できなかった。多分、ミカエラは広い世界なんて知らないけれど、自分が何者であるかは悟っていたと思います。自分にふさわしい世界で生きていくことを知っていたミカエラは、けれどホセを引き戻すことはできなかったし、ホセは最後までカルメンが何者かも、自分が何者かも、気付くことなく終わったように思えます。だから最後の悲劇につながったのかなあと思いました。
この公演のキャスティングでひそかに楽しみにしていたのがエスカミーリョ。宮尾エスカミーリョなら、白石カルメンの「運命の相手」になれるかと思ったのです。その予想は大当たり。カルメンにとってエスカミーリョは特別な存在になるだろうなと思える雰囲気でした。もちろんこの二人ですから、一生あなただけ思い続けて添い遂げますという雰囲気ではない。でも、いたずらに心を動かして遊んでいるのとも違う。昨年の白石カルメン&遅沢エスカミーリョのように「どちらかが飽きたらそれですっきり別れましょう」という関係ともまた違う。お互い浮気性でいろんな浮名を流しながら、それでもなんだかんだとつかず離れず不思議な距離感でお互いの関係が続くんじゃないかと思えました。私がこの二人の踊りが好きだからかもしれませんが…なんというか、二人が踊ってるとかちりと何かがはまったかのように空気が変わる様子を見ていると、どうしてもカルメンとエスカミーリョはお互いにとって相手が特別な存在だと思えてならないのです。だからなんであのタイミングでホセに会っちゃったのかなあとちょっと思わなくもなかったのでした。
踊りについては再演のせいか全体的にまとまりと勢いがあって魅力的でした。白石さんも昨年の不慣れな主演とは違い、抜群の安定感と魅力でした。出てきた瞬間から、周りの視線を一身に集めるのが当然という自信が感じられるし、それにふさわしい魅力がある。コケティッシュで、頭が悪いということはないでしょうが、考えてやっているというより本能でそれをやっているような雰囲気。とても色っぽいのに、かわいさを感じました。
熊川ホセはブランクを感じさせないあたりがさすが。もちろん、30代の若々しい踊りとは全く違いますが、きれいにまとまっていました。終盤に向けて焦燥していく様子も、相変わらず見事でした。
神戸ミカエラはほんっとうにかわいい!天使と例える方がいらっしゃるの、分かります。かわいらしい!軽やかで愛らしく、踊りは軸がしっかりしてるのに羽が生えてるみたいに軽い。本当に本当に素晴らしいんですが、去年のカルメン見てると物足りない部分があるのも事実なんですよね…。彼女ならこれくらいできるの、分かってますから。
伊坂モラレス、エロオヤジの面も感じさせつつも、いい男だと思えるのが彼らしくって好きです。ひょうひょうとしてて不真面目そうで、でも真面目と言えるほどじゃないけどちゃんの芯の通った部分があるところとか、とても魅力的。軽い感じの踊りにもうまくまとまっていて、初演と同じ振付けだと思うのに、今回のほうが好きです。
ダンカイロはびっくり杉野さん。FBの動画で見ていたので予想はしていましたが、なんとなくイメージと違ったので。ニコライさんの時はもっと黒幕的な存在感を感じましたが、やはりまったく別のタイプ。もっとギラギラした感じの悪人でした。それが彼自身の若さと相まって、これはこれでありなんだと思える説得力がありました。レメンダートの酒匂さんはなんとなく前回より演技も踊りも一回り大きくなった気がします。杉野ダンカイロの弟分という感じがしました。
メルセデスとフラスキータは、相変わらずダンカイロレメンダードよりも個性わけがされていないのが残念。メルセデスのほうが姉御肌を感じたのですが、なんとなく井上さんの個性のような気がしますし。ふたりとも存在感のある踊りだっただけに残念です。
湊さんの娼婦はさすが彼女の役、かわいい。酒場のシーンでのおしりふりふりにモラレスと一緒につられます、かわいい。蘭さんのマヌエリータは相変わらずの迫力。演出のせいもあるのかもしれませんが、エスカミーリョの恋人だというのが分かりやすくなってました。こんな素敵な男性が自分のものだとひけらかすかのように思えました。まあ、最後はカルメンとエスカミーリョが意気投合するし、カルメンはマヌエリータなんて目に入ってないわけですが。
再演なのでちょこちょこ演出が変わったとは思うのですが、DVDがないので詳細は不明です。思い出したことだけ箇条書き。
・ロープのパドドゥの前にカルメンがホセの唇にキスする(前回は頬だったはず)。
・カルメンとホセが酒場で再会した時の振り付けが多分違う。
・山中で衛兵たちを殺すことをダンカイロが明言(前回は連れていかれるだけだった)。
・ミカエラがやってきたあたりも若干違和感がありましたが、詳細不明。ただ、ミカエラは泣き出さずに恐怖に震えて声も出ない感じになっていた。
・カルメンを殺した後、音楽が長かったのか、ホセはカルメンにすぐに駆け寄らす、しばらく途方に暮れて震えてた。
細々としたこと。
池本、井澤、益子の衛兵の役割は同じ。益子さんは相変わらず小生意気な感じ、池本さんは相変わらず…というかより一層気品のある雰囲気。井澤さんは3人の中ではやはり一番おっとりした感じですが、普通の青年に近づいた気がします。居眠り衛兵は石橋さん、なんかえらく早い段階で眠りこけていたので逆にびっくりです。労働者の本田さんは随分生き生きとしてきたなあと思いつつ、一番闊達だったのは相変わらず和田さんでした。大道芸人の3人は…兼城さんと和田さんが一発で分かりました。あのメイクをものともしない個性ってすごい…。兼城さんの見事なばねと柔軟性を堪能できて楽しかったです。相変わらずほっそくて、それでも飛ぶときは柔軟性が高いから足がとんでもない位置にある。軽やかでひとり重力が違う世界にいる感じ。踊り終わっての賑やかしも大変楽しかったです。
あ、最後に今回の大きなミス。山中のシーンでエスカミーリョはカルメンに髪飾りをプレゼントしに来るのですが、かばんを見たらそれがなかったという恐ろしいトラブル。宮尾エスカミーリョはうろたえず、カルメンの手を取ってキスをしていました。「ただお礼が言いたかった」とか「一目だけあなたに会いたかった」とでもいうかのように。これが、「たったそれだけのためにここまで来てくれた」という気障な感じがして、それはそれで魅力的でした。そのあと、本来ならカルメンは髪飾りを見せびらかす感じで踊るのですが、そこまで自分のためにしてくれる男に酔いしれている感じがしましたし、周りもそんな気障な男を羨んでいるようでした。正直、エスカミーリョがカバンの中を確認しさえしなければ演出が変わったかと思うくらいには自然な流れでした。
というわけで、短い公演期間ですが、大変楽しい1回目でした。
[3043] ゆず (2015/10/11(Sun) 01:57:11)
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