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ノートルダムの鐘感想その2

 まだ舞台版を1回しか見ておりませんが、1回目は1回目なりに思うところあってもいいかなあというメモ書き。

 原作、フランスミュージカル版(以下フランス版)、ディズニー映画版(以下映画版)、今回のディズニーミュージカル版(以下ミュージカル版)すべてのネタバレあり。

 一番引っかかったのはテーマの曖昧さ。上記の中で一番最後に作られたのに一番テーマが曖昧というのはどういうことか。私は映画版があまり好きではないのですが、そんな私でも映画版のレベルの高さを感じてしまうほど。
 「誰が化け物か」とか「他者の排除」という意味では原作がすでに強烈です。外見の醜さからカジモドが排除され、それを自分の内側に蓄え、心まで曲がってしまったという救いのなさを、原作は文字ではっきり表してますし、結末のフロロすら「一般群衆」が排除するあたりは本当にぞっとするものがありました。
 映画版はどちらかというと物語の構成が逆で、カジモドは外の世界を知らないからまっすぐな心根を持って育ち、外にあこがれ、一度外に出て醜さによって排除されそうになりつつも最後は受け入れられる・・・という物語で、それはそれで筋が通っています。
 それなのにミュージカル版は「外にあこがれるカジモド」を描いているのに結末を原作に近づけたために物語の流れが曖昧になっている。
 そもそもミュージカル版において「化け物」とはなにを指しているのか。原作は「一般的な社会にとけ込んでいる人々」の恐ろしさを描いていると思います。だから一般社会から排除されている人たちは全員死んでいるという救いのない結末になる。フランス版は完全に現代社会の風刺として「余所者」を排除する世間を描いている。だから「世間」に戻っていくフェビュスは生き延びるし、「余所者」であるクロパンは彼に殺される。映画版は逆で、フィーバスも人々もカジモドという「自分たちがモンスターだと思っていた相手」を受け入れる。そして一番の化け物は自分を正義だと信じていたフロロだった・・・としっかり描かれている。
 このあたりがミュージカル版だと曖昧です。フィーバスやクロパンのその後が曖昧であるが故に「余所者」がどうなるかという物語の結末まで曖昧になっている。「化け物」に値する人もいない。フロロはどちらかというと人間の弱さを描いている感じで、彼一人に「化け物」を背負わせるほどの強烈さはないし、「人々」がカジモドを排除しようとしたのは序盤だけで終盤にその強さはない。そんな物語で「誰が化け物か」と最後に言われても、とってつけたようにしか聞こえないというのが大変残念でした。
 あと、これは映画版から気になっているのですが、こういういろんな問題を扱ってる作品で、エスメラルダが「ジプシー」のステレオタイプに見えてしまうのがあまり好きではありません。一人で生きていけるような、自立して美しく魅力的な女性。その姿が「ジプシー」という言葉から想像するステレオタイプそのもののような気がしてしまうのです。原作やフランス版の、少女から大人の女性に成長していくときならではの危うさ、そしてそんな小さな少女を権力が全力で押しつぶしていく残酷さ・・・そのあたりが感じられなくなってしまって残念です。
 なんというか、ミュージカル版は元である映画版の「外にあこがれるカジモドの純粋さ」「魅力的な女性エスメラルダ」「真人間なフィーバス」を切り捨てることができず、それなのに結末を原作に近づけたせいで話がぼやけてしまっている気がします。

 と言いつつも観劇後にチケットを速攻で追加したのは、フロロが大変魅力的だったから。原作のフロロはかたくなな聖職者でありその側面をエスメラルダに崩されつつも最初から最後までジャンへの愛情を貫いています。いろんな舞台版をみましたが、たいていカットされているジャンへの愛情を持っているフロロを見ることができるのはとてもうれしかったです。原作のフロロとジャンの物語は全く違うものですが、これはこれでありだと思えました。
 ひとつおもしろいと思ったのが、フロロは作品の終盤でたとえ死ななかったとしてももう元には戻れない、そんな気配を漂わせていることが多かったのですが、ミュージカル版のフロロは元に戻ろうとしているように思えました。自分は魔女の誘惑に勝ったのだと、そう思っているかのように見えました。そして魔女の誘惑にあらがえなかった弟が残した子供を、その弟が残した罪を背負ったカジモドを、以前の通りに「正しく」育てようとしているように見えました。その閉じた世界、フロロが正しいと信じるものと、彼が愛するものと、それを閉じこめた世界。その世界に戻ろうとするフロロがなんとも魅力的で、もう一度見たいと思っています。
 あと、これは本当に反則だなあと思ったのが最後の結末をカジモドが原作の文章をそのまま物語ったところ。この最後の文章が本当に好きで、なにも残さないような余韻が本当に好きで、これを耳から聞いてしまったら、原作の魅力に引きずられて、ミュージカル版も魅力的に見えてしまっても仕方ないと思っております。たどってきた物語が違うのだからこの結末はたとえ文章が同じでも違うものだと頭で分かっていても、気持ち的にあらがえなかった・・・。

 と、1回目の不満と好きなところのメモ書きです。2回目を見たら変わるかもしれませんが、変わったらまたそのときにでも書きます。(と、今原作を見て思い出したのですが、原作はこの事象が起こったのかいつか明記してるのですが、ミュージカル版は明言してなかったかしら?ちょっとあいまい)

[3082] ゆず (2017/03/09(Thu) 18:22:44)



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