レディ・ベス(2014/05/10)
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レディ・ベス:平野綾 ロビン・ブレイク:加藤和樹 メアリー・チューダー:吉沢梨絵 フェリペ:平方元基 アン・ブーリン:和音美桜 シモン・ルナール:吉野圭吾 ガーディナー:石川禅 ロジャー・アスカム:石丸幹二 キャット・アシュリー:涼風真世
★★★☆ 帝国劇場
感想を一言でいってしまうと、「なにがやりたかったかわからない」になります。歴史物なのか恋愛物なのかまずそこからわからない。さらになぜ「エリザベス一世でなければならなかった」かがわからない。根本がわからないので、わからないなりに紐解いてみました。 ちょっと前置きですが、私はスポットライトミュージカルというドイツFulda発のミュージカルプロダクションが好きです。こちらは「ご当地歴史ミュージカル(聖人多し)」を作っているプロダクションで、現在5作のオリジナルミュージカルを作っています。私はそのうち2作目を再々演時に、3作目と5作目を初演時に、4作目は初演時の映像を見ています。そんなわけで「オリジナル歴史ミュージカルの初演」というものがどこまで行けるのかということをすでに経験しているので、結構ずけずけ言いたいことを言っておりますのでご了承ください。(こちらのプロダクションのほうが面白いとは言いませんが、地方都市の小規模カンパニーと勝負してもしょうがないでしょう)
この作品、ぱっと見た目そんなに悪い作品ではありません。音楽はそこまでは印象に残らないですがやはり耳なじみがよく美しいですし、歌い手の中で破綻している人は一人もいません。セットも衣装も豪華ですし、星座版のような回り舞台がとても面白い。豪華キャストは名前だけにおぼれずしっかり自分の役を演じています。でも見終わったとき、なんのカタルシスもないんです。 振り返ってみると問題点はまず序盤にありました。緞帳のない舞台上にあるきれいなセット、そして四季では聞くことのできない重厚なオーケストラの生演奏、リーヴァイさんの華やかな音楽。気持ちが盛り上がるのに、一番最初に「歴史の勉強」よろしくアスカムがそこまでの物語を説明し始めて驚きました。石丸さんは相変わらずの美声で聞き惚れましたが、しかしいくら節をつけているとはいえ説明台詞。面白くありませんでした。 一つ不思議なのは、この導入部は「エリザベス一世を知らない人向け」に作られたと考えることはできても、この後にそういう素人向けの説明がないんです。物語はベスが戴冠した場面で終わります。ベスがよき女王になるであろうということはずっと語られていますが、「どういう女王になったか」ということは語られてません。確かに人間として優しく寛容で知的であることは間違いなく美徳です。しかしその美徳を持っている人間が優れた王者になるわけではありません。この物語は少女ベスが様々な経験をしてよき女王エリザベスになるまでの物語だと思います。少女ベスがどういう生い立ちであったかは説明しているけど、女王エリザベスがどういうことを成し遂げたかが語られてないあたり、彼女を知っている人のための作品なのか知らない人の作品なのかわかりませんでした。 歴史ものとして面白くないと思ったのが史実が生かされていないこと。歴史ものというのは史実と虚構をうまく織り交ぜながら物語を盛り上げていくものだと思うのですが、その「史実」の部分が生かしきれてない。「歴史もの」の優位な点は、歴史に名前を残す人はそれが事実であれ伝説であれ、創作には及びもつかない印象的なエピソードがあるんですよね。男装してお忍びとかバルコニーとか「生まれて初めて幸せ」とかどっかで聞いたことのある話でなく、「彼女ならでは」のエピソードを物語にもっと印象的に盛り込んでほしかったです。
こうやって気になっている点を上げていくと、この作品はなにをやりたくて作られたかというそもそもの問題点にたどり着きます。歴史上にあまた存在する人物の中で彼女を、架空の物語で彼女をモデルにしたというものでなく、彼女自身を語る意味。それがわからなくなるんです。 問題点を洗っていくと、中心人物がベスとロビンであるということがそもそもの問題に思えてきます。ロビンはモデルはいるのかもしれませんが、架空の人物です。架空の人物はどうしても実在の人物に比べて存在が弱い。物語の構成を考えるとき、ベスとロビンのラブストーリーを中心とするなら史実があまり使えず、歴史物である意味が薄くなります。逆に歴史物と考えると、実際に存在しなかった人にスポットを当てすぎることができず、「ロビン」というメインキャラクターの存在そのものが曖昧になります。いったいどこを目指してエリザベス一世の若い時代を題材に選び、「ロビン」という架空のキャラクターを作ったのか。それがわからないのです。 これについては個人的にははっきりした答えがあります。「物語の構成がまるで宝塚のよう」。この一言です。宝塚であれば歴史として物語が浅いと文句を付けるのがそもそもナンセンスです。見に行く側も男役と娘役の二人のラブストーリーを見に行くのですから。二人のラブストーリーを描くのに選ばれた題材が日本人の大好きな中世のヨーロッパで、「バージンクイーンと呼ばれた女王の若き日の恋」という物語であれば全く不思議はありません。必然的に物語は恋愛に傾き、テーマは二人の愛になり、最後にベスは運命の恋でなく宿命を選ぶ・・・まあ、この結末が宝塚でできるかは知りませんが、恋愛中心に考えればこれで全く問題はないのと思うのです。でもこれが宝塚の作品でないとしたら、これでは物足りないのです。
色々歴史ミュージカルを思い出していって不思議になるのが、「エリザベート」や「モーツァルト!」は間違いなく良質なミュージカルだということ。両方とも「該当の人物を知っていること」を前提としてますが、それでもインパクトのある導入部、要所要所で歴史的事実の説明、歴史と虚構を交えながら物語を進め、最後はちゃんと一つの普遍的なテーマでまとめる。そういう手腕があったのに、この作品ではそれを感じない。だからどうしても作詞作曲家の手を放れた後でなにか手を加えられたのではと勘ぐってしまうのです。(そう言う意味で振り返ると、スポットライトミュージカルはそこまで到達してないなあと思うのですよ(苦笑)) 実際、部分部分はとてもおもしろいんです。予想より登場時間が少なくて残念だったのですが、メアリーは歴史的事実を交えながら彼女自身の物語が展開します。両親の残した禍根にとらわれ続けたメアリーとベス。メアリーは一方の宗教(理解度が浅いのであえてこの言い方にします)に厳しかった。最初は望まれていたのにやがてブラッディメアリーと呼ばれる。そしてその後に即位したベスは寛容さを持っている。彼女は「自由」の象徴である吟遊詩人ロビンと恋に落ちた。…なんというか、色々なモチーフがあるのですが、それがすべて投げっぱなしなんです。歴史物に架空の人物を混ぜるなら、その架空の人物によって実在の人物がなにか影響を受けてくれないとおもしろくありません。象徴だけはあるのに全部とっちらかっているので、演出が違ったらもっと違うものになるのではと思わずにはいられません。 フェリペと悪役二人がとても良かったのですが、それが私の中では物語を楽しめなかったことの象徴でした。物語の中心、つまりベスが女王になるまでの物語とベスとロビンの恋物語から離れた部分がおもしろかったということを語っている気がするのです。酔狂で歌舞伎者でどこか芯の通った道化者がおもしろくないわけありませんし、自分の正義のために誰が血を流してもかまわない悪役というのははっきりしていて間違いなくおもしろい。けれど三人ともベスが、ロビンが、二人の物語がどうであれあまり変わらなくてもいい存在なので、だからこそ楽しいのだと思ってしまいます フェリペは大変おもしろい役だとは思いますが、最初からベス派で驚きました。それでなくても、1幕から民衆もベスの味方ですし、教師二人はベスをほめちぎっています。「幾多の苦難を越えて…」というには最初から味方が多すぎるように感じました。むしろメアリーの周りにいる人々の方が彼女の権力に群がっているだけに見えて、メアリーの孤独や悲哀を感じます。 「おもしろくなかった」わけではないんです。「惜しかった」。おもしろそうな要素があるのにそれが生かし切れていない。それがもったいなかったので「どうすればいいだろう」と考えてしまいます。 この作品、悪い意味で新作で、悪い意味で輸入作品だと思いました。「悪い意味で新作」というのは言うまでもないですね、話の全体が散らかってる。なにがテーマでなにを伝えたいかがまとまってない。実際に板の上に上げてみないとわからないこともあるかと思いますが、とにかく全体が散らかってる。「悪い意味で輸入作品」というのはつまり「いい意味での新作」でないという意味でもあります。私もそんなに新作を数多く見たわけではありませんが、それでもドイツ語圏でありがたいことに見ることができた初演作品、もしくは初演キャストというのは、やはりその人たちを基準として作品を作っているのが感じられました。作品のテーマと曲とシナリオと出演者と。もちろんすべてがそろってから作られる作品ばかりではないですが、完成をした作品を見るとそれらを切り離すことが不可能に思えるんです。また、ミュージカルは「初演キャストにあわせた曲」というものが珍しくありません。それが感じられない。ダブルキャストという、ファーストセカンドキャスト制とは違う「どちらが優れているとは公式は明言しない」システムだから仕方ないと思うのですが、初演のおもしろさは「初演キャストにあわせられた曲」にいくらかあると思うので、もったいないと感じました。誰を中心とした物語にしろ、なにかテーマのはっきりした物語にしろ、キャストとスタッフが密に連携をとっていれば「なにをやりたいか」というのがもっとうまく表現できた気がするんです。「なにがやりたいか」ということがはっきりしない作品は、やはり脚本や音楽を外注した「輸入作品」でしかないのかと思ってしまいます。(上記スポットライトミュージカルは「なにをやりたいか」はすごく伝わってくるのです。その役者のために作られた曲も、そのキャストの魅力をうまく引き出しつつ物語に溶け込ませることができるので、初演の面白さを感じます)
キャストについては作品の不備があって語りにくいのですが少しだけ。今回、繁忙期のしっぽだったためにほとんどキャストは選んでません。というか、行ける日程の方が一握りだった・・・。
・平野ベス 全く期待していませんでしたが、子供っぽいお姫様が嫌味にならないかわいらしい人でした。誰に対しても寛容で愛情をもてるおおらかさがとても自然。歌についてもこれだけ詠えれば個人的には文句ないです。最初は本当に子供だったのでこのまま女王に成長するシナリオがちゃんと整備されてればなあと思わずにはいられませんでした。 ・加藤ロビン なかなか男前でかっこよかったのですが、いかんせんシナリオが悪かった。見ている間に彼に対する悪い印象はなかったのですが、振り返ってみるとなんのために存在したのかわからず、ほめ言葉が思い浮かばないのが残念です。 ・吉沢メアリー もっと掘り下げてほしかった人物。冷たさと頑なさを感じましたが、それなのにどこかかわいらしく、ある意味哀れに思える人。彼女に肩入れしてみていて、結構彼女のことが好きだったのですが、ベスとの和解が意味不明でがっくりきました。このあたりもう少し整理してほしかった・・・。彼女が救われたと思えたら、それが一番幸せだったのですが。 ・石丸アスカム 先生。悪くはなかったんですが、別にキャストを選んでいくほどでもなかったなあと。ベスの導き手であるという設定は分かるのですが、じゃあなんだったのかというと記憶に残ってません。占星術をモチーフとした全体の雰囲気にすごく合っていてすてきだったんですが、それとストーリーがかみ合ってくれないのです。 ・平方フェリペ 楽しかった!個人的にはもう少しイギリス王座に固執してくれたりベスに出会って、もしくは状況の変化を受けて変わってほしかったなあとは思いますが、こういうジョーカーみたいなキャラはとても楽しいです。登場シーンのインパクトの強さがうまい具合に作用していたと思います。 ・キャット 大変すてきな貴婦人だったのですが、テーマを堂々と歌われてびっくりしました。すてきなのに、むしろこの役は必要かという問いかけの方が先にきてしまうのがもったいないです・・・。 ・アン 雰囲気があってうまい人だと思ったのですが、存在意義を最後まで理解できず。 ・ガーディナー 禅さんに任せておけば問題ないですね、問題なかったです。コメディに傾きすぎず、重くなりすぎないバランスというのはさすがです。・シモン 問答無用で面白いですね。楽しげな雰囲気がありつつ、思った以上に曲者という雰囲気が好きでした。
なんかもう少しどうにかならなかったのかなあと思ってしまいました。
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(2014/08/14(Thu) 00:36:11)
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ダディロングレッグズ(2014/03/09)
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★★★★ シアタークリエ
評判がいい作品、ようやく見ることができました。当たり前ですが、日本語で見る新作はいいですねえ、分かりやすくて(笑)。そして、最後まで楽しさと好奇心を失うことなく見ることができて、とても楽しかったです。日本語もほぼすべて聞き取れるけど作りものめいた言い方じゃないのがすてき。 なにはなくとも真綾ちゃんのジルーシャのかわいかったこと!下手側に座っていたこともあり、とても近い距離で彼女のくるくる変わる表情を見ることができたのが楽しかったです。なんて生き生きとしているんでしょう!とにかく彼女がかわいくってかわいくって仕方なくって、それだけで幸せな時間でした。「孤児院で育った」という湿っぽさはないけれど、なにか特別な物を持っているとは思えなかった女の子が、だんだんと変わっていく姿がとても魅力的でした。服装もとても分かりやすかった。最初の孤児院の服はやはり子供っぽかったけど、スカートになるだけで雰囲気ががらりと変わる。でも、あのジャケットは幕開きの頃の彼女に着せても似合わなかったと思う。背筋がしゃんと伸びて足取り軽やかで、ニューヨークもそりゃ颯爽と歩けると思う。牧場でのエプロン姿も大変かわいらしかったです。ゆっくりとだけど、確実に大人になっていく。それを確かに感じることができました。 そして脚本と、なにより演出が素敵でした!こういう、少ない物を使って場面を想像させる作品って好きです。堂々とセット(小道具)を動かしているのだけど、それが全く不自然に感じないのがおもしろかった。席の関係で窓の外の景色は見えませんでしたが、照明で季節が分かるし、牧場の開放感は伝わってくる。そして同じ空間に見えてちゃんとジャービスの部屋が別の空間に見える。想像力の大切さを口にするジルーシャを象徴するようにこちらの想像力を試されるような作品ともとれますが、過剰にならず、けれど不足することもなく描かれている情景を伝えてくれました。個人的には二人で過ごした牧場のエピソードが好きです。ちょうど私の目の前が小川だったらしく、やたらはしゃぐジャービスがかわいかったですし、荷物を大きく動かすので何事かと思ったらきれいに山の形になるのが素晴らしかった。そしてジルーシャがやりたいと行っていたけどできなかったこと、乗馬にしろ射撃にしろカヌーにしろ、それを一緒にやったというのが相変わらず大人げない(笑)。そして山に登って雨に降られての雨宿りのシーン。幻想的と言ってもいいほどきれいなシーンで、だからこそこのとき見上げた月がジルーシャの心に残り、後々サリーと同じ場所を訪れたときにジャービスがいないことを寂しく思ったことも当然に思えました。 女性の立場についても深くつっこみすぎず、でも「学力を手に入れるために女の子らしさを捨ててはいけない」(曖昧)という言葉や参政権がないことをちらりと入れていて、時代の違いを感じさせる程度には女性の身分の低さを感じさせてくれてよかったです。 個人的に一番印象に残ったのが「チャリティ」のあと、ジルーシャが1000ドルの小切手を送ったこと。これで3000ドルすべてを返してしまったら、ジャービスがジルーシャに与えた物はなくなってしまう。もちろん孤児院にいた頃のジルーシャにはそれだけのお金を稼ぐことはできませんでしたし、全部返したからといってジャービスがジルーシャに与えたことが消えるわけではない。けど、ジャービスがジルーシャから与えられた物に等しい物を自分は与えてないと思っているのに、せめてあげていたお金すら返されてしまったら、本当にジャービスは与えられるばかりの側になるように、彼は感じているような気がしました。ジルーシャはまっすぐに前を見て、理事となって「ミスタースミス」に会おうとしていることも含め、心に残ったシーンです。 井上君、演技はよかったです。品があるのにどこか子供っぽいところがしっくりくる。ミスタースミスの秘書としてタイプライター打ってるところとか大好きでした。もちろんコメディの間のとり方も絶品だったし歌もうまいのですが、どうしても声をわざと低く出そうとしているように聞こえたのが引っかかりました。カーテンコールでのご挨拶の時の声の高さは好きです。あと、スーツってああいう物なんでしょうか。なんとなく、「仕立てたときから大病して痩せた」人が着ているように見えました。半端にぶかぶかに思えたんですよねえ…。 「ダディロングレッグズ」というタイトルはしっくりこなかったのですが、ジルーシャが見つけた蜘蛛のエピソードでちょっと納得しました。あのシーンはなんとなく「あしながおじさん」よりも「ダディ」のほうがしっくりする気がしました。なんとなくの、感覚的な響きなんですが。
派手な作品ではありませんが、クリエという劇場にぴったりの良作でした。珍しく誰に勧めても好きになってもらえるだろうと思える作品です。作品の作りもとても丁寧で、初見では見逃してしまった細かいこだわりも確かめたいと思っています。毎日見たい作品ではないけど、また再演があったら行きたいです。
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(2014/05/28(Wed) 00:27:55)
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UTA・IMA・SHOW(2013/09/26)
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ヤマハホール ★★★★★☆ 出演:林アキラ、岡幸二郎 ゲスト:光枝明彦、木村花代 演奏:柏木玲子(エレクトーン)、江尻憲和(ドラム)
少なくとも、昨年から今年にかけて見た日本語ミュージカルの中で文句なく一番おもしろかったです。正直、セットリストが迷走していたWMC2と比較しても遜色ないというか、こちらの方が上回るのではないかと思う瞬間があるほど。至福の時間を過ごすことができました。
全体を通して感じたのは、日本語でミュージカルを聞ける幸せ。確かに翻訳の問題がないわけではありませんが、それでも「物語」であるミュージカルにおいて、歌詞と意味と音が、一気に耳に入ってきて、すぐに理解できるのは快感でした。言葉を理解するために一音も漏らすまいと耳をそばだてることなく意味を理解できるってなんて幸せなんでしょう!「よいミュージカルは音と意味が一致しているから、翻訳をするとどうしても魅力が減る」というのが持論ですが、理屈ではそうだとわかっていても、日本語で聞くことのできるミュージカルの魅力にはあらがえないと思いました。また、そう思えるほど、みなさまちゃんと言葉が音をとらえていて、西洋の音階と相性の悪いはずの日本語がとてもきれいに響いているのです。二人だけれども躍動感のある演奏、コンサートとしてでなく「物語」として歌ってくれる出演者たち、音におぼれるような気分になるほどの声量、そしてそれでも消えることなく耳に届く歌詞。日本語ミュージカルに感じていた不満がすべて解消されている、極上のコンサートでした。
特に好きだった曲について。 ・ありのまま(岡&木村) 岡さんでJ&Hが見たいと言い続けておりますが、意外な曲で見ることができました。これがめちゃくちゃよかった!もー、ほんとケルン公演以来かもしれません、ルックスから歌声まで魅力的なジキルとエマ!年齢や雰囲気のバランスがいいし、温かだし、そしてあふれでる声量!きまじめでどこか神経質そうなジキルは魅力的だし、温かで聡明そうなエマの澄んだソプラノは天使の声だし、もうこのまま本公演やってください・・・。
・我こそはドン・キホーテ(光枝&林) 一曲だけで泣ける。光枝さんのキホーテは細身ながらも心に強さを秘めていて、自分の信じる道をまっすぐ進んでいるように見えた。わき目もふらず、まっすぐに、自分の信じるものを。その純粋なまでのまっすぐさが、悲しいくらい美しかった。林さんのサンチョは本当にかわいい!実際の体型以上にころころしているように見えて、マスコットのよう。なにより、セルバンテスが大好きであることがよく分かる。隣にいられることがとても幸せそう。二人のぶれない歌声としっかりした役作りが本当にすばらしかった。
以上、これでチケット代元取ったと思った二曲でした。以下はすべて「チケット代を越えたサービス」です。・・・コストパフォーマンスよすぎです・・・。
・クレイジーフォーユー序曲 曲のみ。そう、CFYはこの躍動感あふれる、幸せな音楽があってこそです!手が20本あると岡さんが言っていたように、エレクトーンが本当にすばらしかった。・・・四季、テープ演奏でもいいけど、こういう弾むような楽しさをちゃんと客席に与えてほしい。
・蜘蛛女のキス(蜘蛛女さん←林アキラさん談) いやすごかった。私はこの作品を知らないのでこの曲を本当の女として歌ったのか、女の姿をした男として歌ったのかは知りませんが、圧倒的でした。スパンコールきらめく衣装もすごかったが、なにより歌声とその蠱惑的で圧倒的な存在感!支配されるように魅せられる。高い声も低い声も自在に操り、わずかに露出した手をなまめかしく動かしてこちらの心を絡めとる。いや、ほんとすごかったです。・・・この指先を見ながら、クロロックやってくれないかなあと、相変わらずのことを思ったのでした。
・ナッシング(木村) どちらかと言えばソプラノ担当の木村さんでしたが、地声の曲をどれだけ生き生き歌えるかを示した曲。ころころ変わる表情がかわいいし、とても生き生きしている。どこで歌っているか分からないほど台詞なのに、ちゃんと音楽として聞こえる。すごいなあと今は思うけど、見ているときはただただ楽しいだけだった。
・アンダー・ザ・シー(光枝) 光枝さん、着ぐるみを着て登場(笑)。大井町のかにには負けないそうです(笑)。正直言ってしまうと、こういう曲は若干年が見えて、彼の最盛期はすぎてしまったかなあと思うのですが、今年で76歳とのこと、とてもそうは見えません。活動の場が狭まってしまうのは仕方ないですが、是非とも歌い続けていただきたいです。後ろにいるにぎやかしの林アキラさんと花代さんが歌のお兄さんとお姉さんのようでかわいかったです。
・ゲッセマネ(岡) 聞いたことのない訳でした。ほとんど四季版と意味は同じなのですが、何カ所か違うところがありました。覚えてないのが悔しいところですが。岡さんのジーザスが見たいかというとそんなことはないのですが、迫力のある熱唱には気押されました。舞台とコンサートと比べるわけにはいかないけど、それでもこの迫力はなかなか拝めないと思ったのは事実。最後にスタンドマイクを背負って退場というパフォーマンスあり(笑)。
・ガス〜劇場猫(光枝&木村) 猫と人間の間という不思議な雰囲気の二人でした。光枝ガスの前足で体を掻くしぐさが不自然でないのはさすが、普通の服を着てるのに(笑)。雰囲気がとても温かく、物悲しげでありながらなんだか幸せを感じる曲でした。最後に木村さんが光枝さんにそっと寄り添い、その姿が月明かりに照らされたゴミ捨て場で寄り添う猫二匹に見えました。
・ペニース・ア・ムーンレス・スカイ(岡&木村) 私このキャストで本公演見たかった・・・(涙)。 ほんっとうによかった!日本語の歌詞がしっかり聞き取れて、聞きながらオペラ座の怪人台無しだなあと思いましたが、とにかく音が、音がすばらしい!!ミステリアスであり悩ましげなファントムの声がなんともいえない色気を含んでおり、天使のように澄んだクリスティーヌの声は晴れ渡った冬の空のようにどこまでも美しいように思えて、それでいて歌詞が歌詞なのでなんともいえない女の色香を含んでいる(どちらかというときまじめな感じのする声なので、それが歌詞のなまめかしさを中和していて、個人的にちょうどよかった)。歌詞はつっこみどころだらけでどうしようかと思いましたがとにかく二人の声の相性がすばらしく、また音楽が本当に素晴らしくて。これを聞くためだけにチケット買えます。LNDはストリーはつっこみどころだらけ、音楽を聴きにいくものと聞き及んでいましたが、納得しました。そして、こんな魅惑的な曲がいけるんなら行かずにはいられないと思いましたので、このキャストで公演お願いします・・・。
・私だけに(木村) 最初に岡さんが歌い始めて「いやよ」といったところまで来てお辞儀というパフォーマンスあり(笑)。いえ、でも、いつか歌って欲しいものです(とファンはみんな思ってるはず)。 「皇后」という言葉にとらわれているのか、ちょっと高慢な感じがしました。私はもっと子供っぽい、子供が「自我」に固執するような雰囲気の方が好きだなあと思いました。・・・歌声自身には文句がなかったのです、ええ・・・。いるんだ、この曲をこんなに美しく、ちゃんと言葉に心をこめて歌える女優さんが日本に、ちゃんといるんだ・・・。
・闇が広がる(岡&林) 消去法で行ったらこの組み合わせしかないよなあと思っていましたが、コンサートのみのびっくりキャストきました。ビジュアル的には全然違うのですが(ルドルフが)、声質としては全然ありでした。林アキラさん、こんなやわらかで若々しい声が出せるなんて!岡さんのトートについてはもう言うまでもありませんね、迫力のある、どちらかといえば威圧感のあるトートでした。トートでも見てみたいですが、やはりこの威圧感はクロロックで(以下略)。
・スターズ(岡) 私がレミゼに通っていた時期と微妙にかぶっているので、意外と聞いております。何度聞いても美しすぎるジャベールだと思いますが、さすがに年を重ねた分、美しさ以上に頑なさを感じ、ああ、これはこれでいいなあと思えるようになりました。というか、この迫力で歌われたら従うしかないわ、すごい・・・。
・サドンリー(林) ご本人が訳詞をつけたとのこと。温かな雰囲気と声が歌詞にぴったりでした。歌う前にトークで「いい歌」と言っておりましたが、本当にいい歌ですね。歌詞がダイレクトに伝わってくる分、映画以上によさを感じました。印象的だったのは、最後にマイクを外した歌ったとき。生声で響く声が闇の中に吸い込まれて、ふっと消えた次の瞬間、拍手が起こりました。なんでしょう、このタイミング。とても気持ちのいいタイミングの拍手で、美しい歌声がなおさら引き立つように感じました。舞台って観客がいてこそだと感じました。
・ピープルズソング(全員) もはや問答無用・・・。四人用にアレンジした曲でしたが、この四重唱が絶妙のバランスでとても聞き応えがありました。歌声の魅力ってこれだと思います、重なれば重なるほど、足し算ではない魅力がどんどん積み重なっていく。とても四重唱とは思えない、豪華なコンサートのラストを飾るにふさわしい、豪華な重唱でした。歌いはじめは岡さんでした。やっぱり、私にはこれが一番しっくりきます(苦笑)。この位置にいる岡さんの輝かしい姿、ご本人の実力、そして思い入れ、いろんなものを感じた圧倒的存在感でした。
正直、このレベルの「舞台」がコンスタントに見られたら、私ここまでドイツに通ってなかったと思います(苦笑)。いいコンサートでしたけど、やはりコンサートはコンサート、作品よりパワーが弱く、心に残りにくいです。欧州に引けを取らない役者さんたちはいる、ではなぜ欧州に引けを取らない舞台に巡り会えないのか。最後はいつもと同じ問いかけに戻ってきてしまいます。もったいないなあ。
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(2013/09/29(Sun) 22:45:49)
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